まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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ハナダシティ編、いよいよジム戦パートに入ります。
初代GBでは、ここが初めての難所だった方も多いのではないでしょうか。

ニビジムでの戦闘のように、ジム戦では何かしら一捻りしたギミックを描きたいと思っています。
今回も楽しんで頂けたら幸いです。

【追記】
2018/4/15 挿絵追加しました。


Report5-11 [ハナダの性悪人魚]★

アナウンスの試合開始宣言により、

同時にバトル場へとポケモンを繰り出すスゥとカスミ。

 

「さーて、アタシの一人目はこの子よ!

 行っておいで、『アズマオウ』!!」

 

「頼むぞ・・・ピコ!」

 

カスミがプールの中に繰り出したのは、

錦柄の着物を纏った、美しい『アズマオウ』というポケモン。

その色白な肌に、真っ赤な髪がよく映える。

 

『挑戦者、一体目はピカチュウ!

 やはり用意していたか、電気属性!

 対するジムリーダーはいつもお馴染みアズマオウ!

 今日も美しく挑戦者を翻弄するのか!」

 

ニビシティジムでもそうであったが、テンションの高いアナウンスの実況。

そんなテンションに反して、カスミは深いため息を一つ。

 

「はーっ・・・はいはい、ピカチュウね。

 出たわね、『電気属性』。

 みーんな、ここが水タイプのジムだからって

 持ってくるのは電気ポケモンばっかり。アンタもそのクチね?

 この水ポケモンのエキスパートなアタシが、

 ハッキリ弱点って分かってる相手の対策をしてないとでも思ってるの?」

 

うんざり、といった顔でスゥを問い詰めるカスミ。

対するスゥは、バトルに意識を集中しており

カスミの相手をしようとしない。

 

「相変わらずよく喋るな。

 もう始まってるんだろ?遠慮なく行くよ!

 ピコ!プールの中に『電気ショック』だ!」

 

「んにぃっ!

 食らえ、電気ショーック!!」

 

 

『挑戦者、問答無用の電気ショック!

 プールの水は電気をよく通す!

 これは一撃ダウンを狙ってきたか!?』

 

ピコは足場の下に満たされている水に向かって放電する。

バリバリッ!!と激しい放電音を立てて

青白い電流がプールに届く瞬間・・・

 

「アズマオウ!

 『はねる』!!」

 

「はいな!!」

 

バシャッ!!と、アズマオウは水中から勢いよく跳び上がる。

ピコの電撃がプール全体に伝わるが、空中に飛び出たアズマオウには届いていない。

 

 

『いや、当たっていないー!!

 アズマオウ、見事な水中からのジャンプで電撃から逃れた!!

 錦の着物を纏っているとは思えないその跳躍力!』

 

 

「んにっ!?避けた!?」

 

「『はねる』にこんな使い方があるのか・・・!

 やっぱり簡単には食らってくれないな・・・」

 

カスミが言うように、数えきれない程の電気タイプと戦ってきたのであろう。

初手でプール全体に電流を流す、という手段は彼女にはお見通しだった様子。

 

「ウフフ、そう簡単にアテを倒せると思ったかえ?

 ナメたら痛い目見るで!!」

 

空中で袖を口元に当てながら、誇らしげにピコを挑発するアズマオウ。

再び水中に潜りこみ、衣装からは想像が付かない速さで

プールを泳ぎ回っている。

 

「ざーんねーんでーした!

 次はこっちの番よ!

 アズマオウ、『滝登り』!!」

 

「あいよ!!」

 

カスミの指示を受けたアズマオウは、

水中からピコの乗る足場に狙いを定める。

 

そして、渦を巻く水柱を纏い、アズマオウは高く体当たりをする。

強烈な衝撃でピコの足場を吹き飛ばした。

 

「うわっ!!」

 

「ピコ!!」

 

 

『出たァーっ!!これがアズマオウ!

 吹きあがる激流と共に、華麗に跳躍!

 ピカチュウもろとも足場を・・・

 いや、避けた!!ピカチュウ、流石の身のこなしィ!』

 

 

間一髪で別の足場に飛び移り、事なきを得るピコ。

スゥもホッとしたのは束の間、水中に再び潜ったアズマオウは

更に畳み掛けるように『滝登り』を連発する。

 

 

 

『アズマオウ、熟練した動きで足場を破壊し続けているーっ!!

 激しい、激しい水しぶきがバトル場に降り注ぐ!!

 ピカチュウの頼みの足場が無くなっていくーっ!!」

 

 

バシュン!バシュン!!と、次々に足場を吹き飛ばすアズマオウ。

身軽なピコは、次の足場を見つけながら何とか攻撃をかわしていた。

そんな激しい水撃による水しぶきが、バトル場全体に飛び散る。

 

・・・当然、トレーナーであるスゥとカスミにも。

 

「くっ、何とかピコは避けてくれてるけど・・・

 激しいな、こっちまでビシャビシャだ・・・!」

 

スゥは水しぶきでベトベトになった自分の体を見て呟く。

成程、水着着用のルールはこういう事態を想定しての事か、と納得していた。

 

 

 

 

・・・しかし、カスミの言葉でそれは『浅い理解』だという事を知る。

 

 

 

 

カスミがアズマオウへの指示を止め、スゥに話しかける。

 

「あはは、お互い水浸しになっちゃったわね~。スゥ。」

 

バトル中にも関わらず、楽しげな表情で言う。

その緊張感の無さに、スゥは少し苛つきながら答える。

 

「またバトル中におしゃべりか!

 そこまでナメなくてもいいじゃないか・・・!

 というか、水浸しなのはそっちのせいだろ!」

 

「ふふっ、そうね。ごめんなさ~い♪

 ・・・で、分かってる?この状況。」

 

飄々とした口調から一転、カスミは鋭い目つきでスゥを見て言う。

 

「この状況・・・?」

 

「あら、分からない?

 トレーナーの大原則よ。

 それじゃあ実況さん、教えてあげなさい!」

 

 

『それでは念の為説明致します!

 皆さんご存知、トレーナー大原則!

 ”ポケモンの攻撃で故意に相手トレーナーに危害を加えてはならない”!!

 原則につき、バトル開始前の説明は割愛しました!』

 

 

そう説明するアナウンス。

少しの間、スゥは考えを巡らせた。

 

・・・そして、気付いた。

見る見るうちに、スゥの顔色は青くなっていく。

 

 

「・・・で、電撃が・・・撃てない!!」

 

 

彼の言葉を、腕を組みながら満足そうに聞くカスミ。

 

 

「あーっはっはっは!!!

 気付いたみたいね!

 そして、『認めちゃった』わね!!

 そうよ、今ピカチュウが電気ショックを撃ったら、

 アンタだけじゃない、アタシもどっちも

 プールの水を伝って感電しちゃうわ。

 

 ・・・『不測の事態』ならゴメンナサイ、で済むけど、

 アンタはもう認めちゃってるのよ。

 『この状況で電撃を撃つのは、相手トレーナーに危害を加える行為』だってね!」

 

 

スゥはこのやり取りで、『水着着用』の真意が分かった。

心底悔しそうな表情でカスミを睨みながら、絞り出すように声を出す。

 

 

「ぐっ・・・!!

 お前、まさか相手に水着を着せて、しかも自分も着てる理由って・・・!」

 

「・・・そうよ?

 やっと分かった?

 『電気封じ』の為よ。

 ほーんと、男ってのは鈍いんだから~♪」

 

悪びれずに答えるカスミ。

スゥは拳を握り締めたまま言葉が出ない。

 

会話を聞いていたピコが、我慢ならずにカスミに抗議する。

 

「に”ぃぃぃーーーっ!!

 卑怯だぞー!!

 正々堂々勝負しろー!!」

 

「卑怯でも何でもないわ。

 別にアタシはアンタ達の事を妨害なんてしてないんだから。

 大体、卑怯なのはそっちでしょ!

 こっちが水タイプしか使わないのを分かってて、

 電気属性を嬉し気に使ってくるんだからー!!

 ほんっと、どいつもこいつもバカの一つ覚えみたいに電気電気電気!

 いい加減にしなさいっての!!」

 

・・・カスミの方も、余程今まで鬱憤が溜まっていたのか、

心の叫びといった形相で反論する。

 

 

『これがトレーナーバトル!

 戦っているのはポケモン同士だけではない!

 ルールを逆手に取り、自分の味方とする事も駆け引きだーッ!!』

 

 

「ううう・・・スゥにぃ・・・」

 

カスミの形相に怯えたのか、あるいは電撃が撃てない悔しさからか、

ピコは涙目でスゥの名前を呼ぶ。

 

___________________________

 

観客席では、アクアが心配な様子でノンに尋ねている。

 

「ノンさん・・・スゥさん、勝てるんでしょうか・・・?

 正直、ピコくんが戦えないとなると・・・」

 

尋ねられたノンは、正面をじっと見たまま

呟くように答える。

 

「カスミ・・・成程、アイツが言ってた通り

 随分といい性格みたいだな。

 だが・・・」

 

「だが?」

 

隣で座るツムジがノンを見上げて問う。

 

「『電撃封じ』なんて、ウソとハッタリだ。

 アイツがその言葉に踊らされなければ、勝機はある。」

 

「ウソと、ハッタリ・・・?」

 

一体どういう事なのかと、アクアは考えを巡らせる。

そんなアクア達に、ノンはガラス越しのスゥを見ながら告げる。

 

「はは!

 アイツの顔見てみろよ。

 ・・・どうやら、まだ大丈夫そうだぞ。」

 

___________________________________

 

ピコの涙目の訴えに、スゥは落ち着いた声でピコに伝える。

 

「・・・ピコ、大丈夫。

 要はカスミに電撃が当たらなければいいんだ。

 一切使えなくなった訳じゃない。

 ・・・そうだろ!カスミ!!」

 

キッと睨んで言うスゥに、カスミは再び飄々と答える。

 

「ま、それはそうね。

 ・・・それが出来るなら、の話だけど?

 さーて、それじゃあせいぜい頑張りなさい!

 アズマオウ!!」

 

「話はついたようやね、主様。」

 

「ええ、さっさと倒しちゃいなさい!!

 『滝登り』!!」

 

 

『戸惑うピカチュウに容赦無く水柱が襲う!

 残る足場はもう数える程度!

 電撃を封じられた挑戦者、どう出るのか!?』

 

 

戸惑ったままのピコを意に介さず、アズマオウは彼の足場を奪うように

滝登りの連撃を繰り出す。

 

アズマオウの攻撃により、次々と崩れていく足場。

いよいよピコの逃げ場が無くなってきた、その時。

 

 

「ピコ!!

 アズマオウに掴まれ!!」

 

「なっ、アンタ何を!?」

 

 

スゥの出した指示。

それはアズマオウの滝登りを食らえ、とピコに言っているような物である。

驚くカスミだったが、対するピコに怖気づいた様子は見られない。

 

「へへっ、スゥにぃが言うんだ。

 ぜったい良い事が起きるんだ!

 分かったよ、スゥにぃ!

 ・・・来い、アズマオウ!!」

 

「ヤケクソかえ?

 ・・・それじゃあ、食らいなはれ!!」

 

 

『これは逃げ遅れたか!?

 とうとうアズマオウの攻撃を受けてしまったーっ!!

 ピカチュウ、アズマオウと共に宙へ打ち上げられた!!』

 

 

ドオン!!と、ピコを足場もろとも『滝登り』で吹き飛ばすアズマオウ。

激流を身に纏った体当たりの直撃を受けたピコ。

 

・・・しかし、攻撃を受けた瞬間、ピコは持ち前の反応速度で

アズマオウの着物の袖を掴み、それを手繰ってアズマオウにしがみついていた。

 

「くっ、ボウヤ!

 いくら子供と言ってもアテに抱き着くなんて許しまへんえ!!」

 

「ぐぅっ、痛ったぁ・・・!!

 絶対、絶対に離すもんか!!」

 

空中で振り解こうとするアズマオウと、それに食らいつくピコ。

滝登りによるジャンプが頂点に達した時、

彼女が身に纏う水柱が消えた。

 

その瞬間を待ってたように、スゥはピコに電撃を指示する。

 

 

 

「今だ、ピコ!!

 全力の『電気ショック』!!」

 

 

 

 

「んにぃぃぃぃっ!!!」

 

「あいやああああああっ!!!」

 

「アズマオウー!!」

 

 

 

 

 

『これは強烈ーーッ!!

 ピカチュウ、タダでは済まさないとばかりに

 激しい放電!!

 そして、ジムリーダーには電撃は当たっていない!

 これはセーフ、セーフだーっ!!』

 

 

空中でピコともつれ合っていたアズマオウに、一撃必殺の電撃が襲う。

そのままボチャン、と水中に落下する二人。

 

ピコは体に痛みを覚えながらも、何とか足場によじ登ってきた。

対するアズマオウは、気絶した状態で水面にプカプカと浮かんでいる。

 

 

『アズマオウ、戦闘不能!!』

 

 

アナウンスがそう告げる。

カスミは悔し気な顔で、水面に浮かぶ彼女をボールに戻した。

 

「っ・・・ありがとうね、アズマオウ。

 よく頑張って次に繋げてくれたわ。」

 

アズマオウが格納されたボールを見て、優しく労うカスミ。

その表情は一転。

 

バトル前の、スゥを小馬鹿にした表情は消え、

真剣な目で彼に言う。

 

「やるじゃない、アンタ。

 よく反則にならないタイミングを狙ってきたわね。

 属性有利だけで勝とうとしてるヘッポコ達とは違いそうね。

 ・・・タケシが言ってた通り、面白いじゃない!」

 

初めてカスミからまともな評価を受け、スゥは少し口元を上げて答える。

 

「実際に戦うのはこの子達だけど、

 どうやって戦わせるのかって考えるのが俺の役目だからね。

 強いポケモンが強い技を出すだけなら、俺なんて要らないんだ。」

 

その言葉は、彼がこの数日痛感している事。

強いポケモンを求める鈍月街道のトレーナー達、ロケット団のダイチ、

そして、攻撃手段の無いベルノ。

彼らと触れ合ってきた中で培われてきた考え方だった。

 

「へぇ?

 駆け出しのクセに、一丁前な事言ってるじゃない。

 アンタの考え方、アタシは凄く好きよ。」

 

スゥの言葉を聞いて、カスミは微笑みながら彼を誉める。

しかし、その表情は長くは続かなかった。

 

彼女はスゥの素養を認め、険しい口調で告げる。

 

「とてもいい考え方ね。

 だけど・・・良い事を教えてあげるわ。

 いくら考えても、いくら工夫しても・・・

 『どうしても埋められない実力差を持ったポケモン』

 が世の中に居るって事をね!!」

 

「な、何だって・・・!?」

 

少し怯むスゥを他所に、カスミは

2体目のポケモンが入ったモンスターボールを高く投げ上げた。

 

ボールが開き、赤い光がポケモンの姿に収束する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

その姿は、金色の髪とルビーのような赤い瞳。

ピコのように小柄な体に、ピッタリとした紫のスーツと、

腰に金の装飾を『五芒星』のように纏っていた。

 

 

「この子は『スターミー』。

 アタシが本気になった相手にだけ戦わせるの。

 嬉しく思いなさい。

 ・・・絶望を味わわせてあげるわ!!」


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