まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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お久しぶりです!
私事が暫く忙しくて、お待たせしてしまいました。
いよいよハナダシティも終盤に差し掛かります。
楽しんで頂けたら嬉しいです!


Report5-10 [ハナダのおてんば人魚]

翌日、ハナダシティジムを前にするスゥ一行。

彼らに並び、ノンのパーティも行動を共にしている。

 

少し陰った表情のスゥを見ていたノンは、

彼に尋ねる。

 

「・・・どうした?スゥ。

 水タイプのジムだからって、ビビってるのか?」

 

ノンの言葉に、普段の調子なら言い返すスゥだが、

頬を掻きながら彼に答える。

 

「ビビッて無い!・・・って言うと、嘘になるなあ。

 何てったって、昨日の『あの剣幕』を見たら・・・

 なあ。ファルナ。」

 

ファルナは『恋人岬』での、カスミの一件を思い出ながら

ブルッと一回、体を震わせて言う。

 

「う、うん・・・。

 かなり怒ってたもんね、カスミさん。」

 

弱気な二人を見て、ノンは彼らに聞く。

 

「そんなに怖いヤツなのか?カスミは。

 ・・・何でも、『おてんば人魚』とか言われて

 ハナダシティではアイドル扱いされてるって聞いたんだが。」

 

ノンの発した『おてんば人魚』という言葉に、

スゥは渋い顔で答える。

 

「おてんば・・・ねぇ。

 どっちかというと、アレは・・・」

 

そう言いかけた所で、ノンはスゥに強く言う。

 

「まっ、水が苦手なファルナは気乗りしなくても仕方ないか。

 だが、トレーナーのお前が弱気じゃ勝負にならないだろ!

 シャキッとしろ!シャキッと!」

 

そしてノンは、スゥの背中を掌でドン!と叩いた。

 

「いたっ!!

 ・・・そうだな。気持ちで負けてちゃ話にならないね。

 ファルナだけじゃない。メルティもピコも、ベルノもいるんだ。

 行くぞ、みんな!」

 

『おーっ!!』

 

ファルナ達はスゥの号令に元気よく答え、

一行はジムの中へと入っていった。

 

_________________________________

 

ハナダシティジムの中を見渡すスゥ達。

ニビシティジムのように、入った途端にバトル場が広がっているのを

予想していた彼らだったが・・・

 

「こんにちは!

 本日はプールのご利用ですか?」

 

・・・と、受付の女性がスゥに尋ねる。

士気を高めて息巻いていた彼は、やや呆気に取られていた。

 

受付の女性は、返事の無いスゥに向かって

続けて言う。

 

「初めてのご利用ですかね?

 プールのご利用でしたら、奥の券売機でチケットを購入してください。

 それと、水着はこちらでレンタルしていますよ!

 えーと・・・男の子用が2着と、女性用が『3着』・・・

 はい、こちらをどうぞ!」

 

呆気に取られたまま、その水着を受け取るスゥ。

暫し手元のそれをボーッと見ていたが、我に返った途端、

何かがおかしい事に気付く。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!

 女性用が3着って・・・?」

 

受付の女性は、スゥが初めて言葉を発した事で

自分の間違いに気が付いたようだ。

 

「え、アレ・・・?

 あっ!!すみません!てっきり私・・・」

 

慌てて男性用の水着を1着用意する彼女。

その様子をずっと見ていたピコがケラケラと笑いながらスゥに言う。

 

「あはははっ!スゥにぃ、女の子に間違われてやんの~!」

 

「う、うるさいなピコ!

 ・・・はぁ、せっかく男らしく見える上着選んだのに・・・」

 

がっくりと肩を落とすスゥ。

ファルナもメルティも、笑っては可哀想だと思いつつも、

二人して肩を震わせていた。

 

「ほんっとに、大変失礼しました!

 えーと・・・そ、それではチケットの購入はあちらでお願いしますね!」

 

受付の女性は、気まずそうに促す。

ついついその言葉に釣られそうになるスゥだったが・・・

 

「あ、はい。それじゃあ・・・

 ・・・いや、そうじゃなくて!

 ここって、『ハナダシティジム』で合ってますよね!?」

 

「はい、その通りですよ?

 ・・・あっ!!もしかして挑戦ですか?」

 

とりあえず、来た場所が間違いではなかった事に安心するスゥ。

彼はジムリーダーのカスミに挑戦しに来た事を伝えた。

 

受付はそれを聞き、スゥに言う。

 

「ジムリーダーへの挑戦ということでしたら、

 トレーナーさん以外の水着は要らないので回収しますね!」

 

「トレーナー以外・・・って、俺のは持っておくんですか?」

 

「はい。このジムでは、

 『トレーナーは水着着用』がルールとなってますので。

 では、ジムリーダーには私から連絡致します。

 あちらの階段を上った所に更衣所があるので、着替えてから

 バトル場にお越しください!」

 

「は、はぁ・・・」

 

受付のマイペースさに翻弄され、何が何やらな気分で

スゥは言われるまま、バトル場に続く階段へと歩みを進める。

 

そんな彼に、ノンは付いて行かず

後ろから声をかける。

 

「スゥ。」

 

後ろからの声に気付き、スゥはノンに振り向く。

 

「ん?なんだ、ノン?」

 

 

「せいぜいカスミの戦法が明らかになる程度には粘れよ!

 あっという間にやられたら、俺の参考にならないだろ?」

 

悪戯な笑みでノンは言った。

 

 

「ぐっ・・・バカにするな!

 お前より先にカスミに勝って、先に進ませてもらうからな!」

 

ムッとした顔で、スゥはノンに

拳を突き出して答えた。

 

その様子は、ジムに入る前の気負いがすっかり消えていた。

ノンは顔を綻ばせ、改めてスゥに言う。

 

「ははは!その意気だ、頑張ってこい!」

 

 

「・・・ああ、ありがとう!」

 

 

スゥは、ノンから投げかけられたセリフの真意に気付き、

笑顔で感謝を告げてバトル場へと向かう。

 

 

 

____________________________

 

スゥは受付の言うように更衣所の前に来ていた。

 

何故泳ぐ訳でもないのに水着・・・?と、疑問を感じながらも

ルールなら仕方ないと、スゥははやる気持ちで部屋に入る。

 

「じゃあ、着替えるからファルナとメルティは少しの間

 外で待っててくれ。」

 

 

スゥにそう言われた二人は、大人しく部屋の外で待機する。

彼が更衣所に入っていった後、メルティはファルナに言う。

 

 

「・・・ファルナちゃん。」

 

更衣所の外で、メルティはファルナに呼びかけた。

いつものように、えぅ?と返事をする彼女。

 

ファルナが見たメルティの顔は、少し悪戯交じりの笑み。

そんなメルティが一言。

 

「ちょっと残念そうな顔してませんか?」

 

ファルナは髪の炎をボッ!!と燃やしながら

赤い顔でワタワタと答える。

 

「ええっ!?そ、そんな顔してた!?

 ・・・じゃなくて、してないよ!!

 メルちゃんは私を何だと思ってるの!もーっ!」

 

「ふふふ、冗談ですよ♪

 デートの後なので、ついからかいたくなっちゃって。」

 

メルティは普段のからかう時の癖で、

手を口元に当てて上品に笑う。

 

「う”~っ・・・!

 最近、メルちゃん私に容赦無いよね・・・!」

 

「ふふ、ごめんなさい。

 ついファルナちゃんの反応が楽しくて・・・」

 

そうメルティが言いかけた時。

 

 

 

「あははは!スゥにぃ、すっぽんぽん!!」

 

 

 

・・・と、無駄に大きな声でピコが笑う声が聞こえた。

 

「ちょっ、ピコ!

 わざわざ言わなくていいだろ!

 大体、笑うような事じゃないだろ!」

 

「えー?だって、何だか可笑しいもん!

 お風呂じゃないのにすっぽんぽんって!!」

 

「何度も言わなくていい!!」

 

スゥはピコを叱るが、ベルノもまた大きな声で言う。

 

「ほーっ、家来よ!

 中々鍛えられた身体ではないか!

 女顔だからみすぼらしい体かと思いきや、意外じゃの!」

 

「ベルノまで、全く・・・!

 まあ、旅に出てから毎日走り回ったりしてるからね。

 確かに結構筋肉が付いてきたかも。」

 

 

・・・そんな声が更衣所の中から聞こえてきた。

否応なしに状況を想像させられる言葉に、

外で待っている二人は顔を赤くしていた。

 

「えーと・・・

 ファルナちゃん?」

 

メルティはファルナがどんな顔をしているのか

気になる様子で、彼女の様子を伺う。

 

「み、見ないでメルちゃん!

 私、今ぜったい変な顔してるから!」

 

メルティから絶対に顔を見られまいと、

壁に頭を押し当てているファルナの姿がそこにあった。

 

________________________________

 

 

「・・・ここがハナダジムのバトル場か!

 水タイプを使うって言ってたけど、フィールドまでプールになってるんだ。」

 

着替えを済ませ、バトル場に到着したスゥ。

そこは25メートル四方の広々としたプールが、そのまま戦闘エリアとなっていた。

プールの所々に軽石のようなもので出来ている、大きな足場がゆらゆらと浮かんでいた。

 

「あの足場、乗ったらすごく揺れそうだね・・・!」

 

ファルナはボールの中から、不安気に言う。

ニビシティジムでも同様であったが、ジムのバトル場は

ジムリーダーが扱う属性にとって有利な造りになっている。

 

(これじゃあファルナとメルティは戦うのは厳しいな・・・

 思った通り、有利属性のピコが頼みの綱になるな。

 それと、ベルノ・・・何とかベルノにも戦力になって貰わないと

 ピコだけじゃあ・・・)

 

 

バタン!!

 

 

スゥが考えを巡らせていると、唐突に照明が落とされた。

 

「な、何だ!?

 急に真っ暗に・・・!」

 

突然の事に驚き、スゥは見えない暗闇の中から

周囲をキョロキョロと見回す。

 

そして、甲高い声が響く。

 

 

「ほーっほっほ!!

 逃げずによく来たわね、褒めてあげるわ!」

 

「そのキンキン声・・・!」

 

スゥは声が発せられた先を向く。

バタン!!と、照明のスイッチが切り替わる音が聞こえると同時に、

声の主がスポットライトに照らされた。

 

そこには、10メートル程の高さにあるジャンプ台で

仁王立ちするカスミの姿があった。

 

彼女はそのジャンプ台の上で小さく3回跳ね、

弾みをつけたままプールへと体を回転させて

衝撃をほとんど感じさせない、パシャ!と軽い音を立てて水中に飛び込んだ。

 

その綺麗な一連の動作に、思わず見惚れてしまうスゥ。

 

彼女がプールから上がると、全ての照明が再び灯る。

水に濡れた、艶っぽいカスミの水着姿を見て

スゥは目の遣り所に少し困っていた。

 

 

「ふっふーん、どうだったかしら?

 カスミ様お得意の『回転飛び込み』と、この肉体美は!」

 

ボーっとした表情で見惚れるスゥに、気を良くしたカスミは

ポーズを取りながら彼に尋ねた。

 

「ど、どうって言われても・・・」

 

タジタジと頬を赤らめながらスゥは言葉に詰まる。

そんな時、彼が腕に巻くモンスターボールのホルダーから一つ、

『う”~っ…!』という唸り声が聞こえた。

 

言わずもがな、ファルナの唸り声である。

 

「ああああ、やっぱり怒ってる!」

 

冷や汗を流すスゥに追い打ちをかけるように、カスミは

更に余計な事を言う。

 

「いいこと!

 ポケモントレーナーっていうのはね、ポケモンと同じように

 肉体も鍛えなきゃ一流じゃないわ!

 挑戦者に水着を着させてるのも、それを確かめるためよ。

 

 ・・・ふふふ、見た所あなたも悪くないわ。

 そこそこ鍛えてるのね。中々いい身体をしてるじゃない!」

 

カスミがスゥの体をじろじろと見て言ったその言葉。

それがいよいよファルナの逆鱗に触れそうになっていた。

 

「う”ぅ”ぅ”~~~!!!

 スゥ!!!」

 

「お、怒るなファルナ!

 俺は何も言ってないだろ!」

 

「言ってなくても色々分かるよー!!

 それに、カスミさんも!

 がう”~!!」

 

心なしか、ファルナのボールの温度が上がっているのを感じるスゥ。

これ以上ファルナに余計な刺激を与えないよう、

焦りながらスゥはカスミに言う。

 

「そ、そんな事はどうでもいいから始めよう!

 カスミ、お前を倒してバッジを貰う!」

 

「あら、せっかちね。

 もしかしてリザードの彼女さんが怒っちゃったかしら?」

 

スゥが今置かれいる状況を分かっている上で、

カスミはすっとぼけた顔で宣う。

 

「こ、この・・・!

 これが『おてんば』って言われている理由か・・・

 頼むから、ファルナを挑発しないでくれ!

 もうボールが火傷しそうに熱いんだよ!」

 

スゥの必死な表情を見て、カスミは満足したように

話を改めて告げる。

 

「ほほほほ!

 ふー、ちょっとはスッキリしたわ!

 昨日の暴言、『半分くらい』は許してあげる。

 あとの残りはねぇ・・・

 ・・・

 バトルでアンタ達をコテンパンにしたらチャラよ!!」

 

 

カスミがそう言った途端、ジジッ!と、ジム天井のスピーカーから音声が鳴り響く。

 

 

 

『これよりハナダシティジム、バッジ認定試験を開始します!』

 

 

 

アナウンスが開始した途端、ガラス越しの観客席が湧く。

カスミが戦うと聞きつけたジム内の客が、所狭しと席にひしめいている。

特筆すべきは、そのほとんどが男性である事だ。

 

「ぐっ、痛たたた・・・!

 押すな、押すなよ!

 何だこの人の多さは!」

 

「むぎゅっ・・・!

 ノンさん、大丈夫ですか!?」

 

観客席ですし詰めになっているノン達。

アクアはノン達を守るように、小さな光の盾を発する。

 

そんな様子を、バトル場から見ていたスゥ。

カスミ目当てに来たのであろう、男たちの密集具合から

『ハナダのアイドル』は自称では無いのだと思い知った。

 

「・・・凄いな、観客席。」

 

スゥはカスミに向かって呟き、

彼女は事も無げに答える。

 

「いつもの事よ。

 ま、美女の宿命ってやつ?

 さてと、それじゃ始めましょ!

 アンタの出身と名前、それと、持っているバッジの数を答えなさい!」

 

指を突き立てて命令する彼女に、

スゥは堂々と答える。

 

「俺はマサラタウン出身のスゥ!

 持っているバッジはグレーバッジの一つだ!」

 

「知ってたわ。タケシから聞いたもの。」

 

スゥの自己紹介に、つれない返事のカスミ。

じゃあ聞くなよ・・・と、彼は心の中で思う。

 

「何でも、アンタの事を

 先が楽しみな奴だとか言ってたわね。

 どんな物か、見せて貰うわ!

 バッジ一個ね・・・

 アナウンス!『レベル1』のルールを適用するわ!」

 

ひと際高らかに声を発したカスミ。

その瞬間、再びバトル場にアナウンスの音声が響く。

 

 

『適用ルール、『レベル1』!

 挑戦者の使用可能ポケモンは手持ち全員!

 対するジムリーダーは2体まで!

 共にアイテムの使用は禁止です!

 以上、説明終了!

 両者、一体目のポケモンをフィールドへ!』

 

 

ハナダシティに到着して数日。

いよいよスゥにとって2回目のジムバトルが始まった。

 


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