まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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ハナダシティ編 第8話です。
まだジム戦のジの字も出ていませんが、再び日常パート(デート)回になります。




Report5-8 [初めてのデート - 前編]

時刻は朝10時。

スゥのポケモン達とノン達はポケモンセンターで朝食を済ませ、

ロビーに勢揃いしていた。

そして全員が、『面白い物』を見る目つきで

スゥとファルナに小さく手を振っている。

 

「わ、わざわざみんなで見送る必要なんて

 無いんじゃないか!?」

 

スゥは怒ったような、照れたような、

何とも言えない表情でノン達に文句を言う。

 

「う”~……アクアちゃんもメルちゃんも、

 恋人が出来たら覚えておいてよ…!」

 

ファルナも同じく頬を赤くし、異様にニコニコした表情の二人を

軽く唸りながら睨んでいる。

彼女はいつか逆の立場で仕返しをしてやろうと心に決めていた。

この恥ずかしさは、もちろんデートに出かける事を冷やかされている事もあるが、

彼女が着ている服がそれに拍車を掛けていることもあった。。

 

そう、先日スゥから買って貰った『休日用』の服である。

ファルナのリクエストで、露出を多少抑えたものの

やはり普段の服よりも胸元や脚など、肌が出ている面積が大きい。

 

朝食の後、スゥと出かける為に着替えたファルナは

メルティからはもちろん、アクアからも散々『褒め倒し』に遭わされていた。

冷やかすメルティに対し、ファルナは当然彼女も着替えるように抗議したが、

『ファルナちゃんと一緒の時じゃないと着ません。』と、

けんもほろろに一蹴されてしまっていた。

 

 

「くくっ、まあ楽しんでこいよ!」

 

肩で笑いながらノンはスゥに言う。

 

「あーありがとよ!

 それじゃあ、ピコ達は頼んだからな!」

 

「へいへい、任せとけって」

 

早くポケモンセンターから出たい…と言うより、ノン達から逃げたい、というように

スゥは必要な事だけ叫び、ファルナの手を掴んで外へと出て行った。

 

_____________________________________

 

 

「まったく、あんなに揃って冷やかさなくてもいいよな。」

 

ファルナの手を繋ぎながら、スゥはもう片方の手で頭の後ろを掻く。

しかしその表情はもう怒ってなく、笑顔であった。

彼も決してノン達を邪険にしている訳ではない。

むしろ、この機会を設けてくれた皆に感謝していたのだ。

 

「ほんとにみんな、仕方ないんだから。

 でも帰ったらお礼言わなきゃね、スゥ!

 夕方だけじゃなくって、一日中時間くれたんだし!」

 

機嫌良く、腕を大きく振りながら歩くファルナが言う。

旅に出てから久しぶりの『二人きり』の時間。

当時とは違う、恋人としてのその時間に、彼女は浮き立っている。

 

「そうだな、せっかく皆がくれた時間だし、

 心置きなく楽しもうか!」

 

「うん!

 えへへ♪」

 

人の往来の中、ファルナはスゥの腕に抱き着いて甘えている。

彼は当然、悪い気はしていないものの、

周囲の視線が少し気になっていた。

 

すれ違う人の表情は、特に彼らを煙たがるようなものではない。

それを見たスゥは赤くなった頬を指で掻きながら、

この程度なら周りに迷惑をかける程では無いか…?と思う。

 

「ま…まあ、『恋人』ならこれくらいはするのかな…?

 何だか、自分がされるとなると恥ずかしいなあ。」

 

「私も恥ずかしいけど、二人っきりの時間なんだもん。

 ガマンしたら勿体ないよ!」

 

腕に抱き着いたまま、スゥに笑顔で言うファルナ。

 

「勿体ないか、それもそうだな!」

 

ファルナの言葉に、明るく答えるスゥ。

…しかしその裏で、彼は今、非常に困っている。

 

(……それにしても、デートって何やればいいんだろう?

 『ショッピング』……は、この前やったし。

 『ご飯』……はさすがにまだ早いし……)

 

少しの時間、適当にハナダの街を散歩する二人。

口数が少ないスゥをファルナが不思議に思い、問いかける。

 

「スゥ、どうしたの?

 あんまり喋ってないけど、疲れてるの?」

 

心配そうな顔で彼を見るファルナ。

スゥはファルナの言葉でハッと気が付き、慌てて答える。

これ以上悩んでいても仕方が無いと思い、

彼女に正直に白状することにした。

 

「い、いや大丈夫だよ!

 ……

 うーん……

 実は、女の子とデートするのって初めてだから

 一体何をしてあげたらいいんだろう……って思ってて。

 あ!もちろん昨日の夜からずっと考えてたんだ!

 でもなかなか思いつかなくてさ……」

 

わたわたと狼狽えるスゥを見て、ファルナは顔を赤くしながら

明るく言う。

 

「……ふふっ、そんなに悩まないで!

 ありがとうね、夜からずっと考えてくれてたんだ。

 私も、こんなの初めてだから何したらいいのか全然分かんない!」

 

あっけらかんと、何も案が無い事を打ち明けるファルナ。

その言葉に、自分だけでは無いのだと少しホッとするスゥ。

彼女は繋ぐ手に少し力を入れ、続けて言った。

 

「スゥ。私は、何でもいいんだよ?

 ホントに何でも。木陰で一緒に話すのだっていいし、

 お昼寝するのだっていいし。

 スゥと一緒に居れるなら、何でも!」

 

顔を真っ赤にして言うファルナ。

スゥは朝っぱらから人の往来の中、彼女を抱きしめたい気持ちを自制しながら

改めて、同じ時間を過ごす事が大事なのだと、自身に言い聞かせた。

 

「ファルナ……ありがとうな。

 そうだよな、俺の方が難しく考えすぎてるのかも。

 じゃあ、まだハナダシティで行ってない場所をたくさん見よう!

 そのうち何か面白いものが見つかるかも。」

 

「うん!

 綺麗な街なんだもん、お喋りしながら歩いてるだけでも楽しいよ!」

 

デートのプラン……?が決まった二人は、再び街を散策し始める。

 

昨日までは『バトル』の視点で街を見回っていたスゥ達。

もちろん、ゴールデンボールブリッジについてはハナダ屈指の観光名所でもあるのだが、

この街に有る物はそれだけではない。

 

『楽しむ』という目線で街を散策してみれば、色々な物が見えてくる。

 

何気なく通り過ぎてしまっていた、水路のある小道。

別名が『水の都』ならではといった、ゴールデンボールブリッジが跨ぐ巨大な運河。

そして、『勝ち抜きファイブバトル』開催中は運航していなかった、運河を渡る船。

 

スゥとファルナは、改めてこれまで訪れた街とは違う景観を楽しんでいた。

 

______________________________________

 

しばらく歩いた後、彼らは噴水のある公園を訪れていた。

円形の敷地には、白色のレンガが綺麗に円を描く並びで敷き詰められている。

その中央には、複雑なアーチを描く噴水。

それを囲むようにしてベンチが並べられている。

 

スゥとファルナは、そのベンチに座り

刻々と形を変える噴水を眺めている。

 

一通りの噴水のパターンを楽しんだ後、

ファルナは隣に座るスゥに寄りかかり、体重を預けた。

 

「スゥ、人間さんって凄いね。

 ピコくんも言ってたけど、どうしてこんな不思議な物を作れるんだろう…?」

 

スゥは彼女の言葉を聞き、ニビシティの科学館で、

確かピコがそんな事を言っていたな…と思い出していた。

 

「『どうして』か。

 多分、人間ってポケモンみたいに大きな力が使えないからじゃないかな。」

 

「んぅ?

 大きな力…?」

 

「うん。

 俺たち人間って、『火』も『水』も『電気』も…

 それに、ファルナみたいな腕力や、メルティみたいな脚力も使えないだろ?」

 

「も、もう!また言う!」

 

大人しくスゥの話を聞いていたファルナは、

彼の言った『腕力』に反応して

預けていた頭で、彼の肩を小突いた。

 

「ご、ごめんごめん。別にからかうつもりじゃないんだ。」

 

「…むぅ。」

 

頬を膨らませているファルナの頭を撫でながら、

スゥは自身に悪意が無い事を伝える。

彼女はまだ少しむくれてはいるが、真面目な話なのだろうと思い

それ以上は怒らずに、再びスゥの話の続きを待った。

 

「『何も出来ない』から、

『どうやったら出来るか』って考えるんだよ。

 だから人間は『科学』を作れたんだ。

 どうやったら強い力を生み出せるか、炎を出せるか、

 電気を作れるか…って考えてね。」

 

「『科学』…かあ。この噴水も『科学』なの?」

 

「そうだよ。

 『水を綺麗にする装置』や、『水を噴き出す装置』、

 『街中に水を送る装置』。

 そういうのも、『科学』が無いと作れないからね。」

 

「へぇ~…!

 ねぇスゥ。私、最近思うんだけどね。

 人間さんって、何も出来ないんじゃなくて、

 『難しい事を考えられる』っていう力があるんじゃないかな…って。」

 

「確かにそういう考え方も出来るのかな…

 …あ、でも俺はそんなに難しい事は考えられないよ?

 さっきまで俺が話してた『科学』だって、

 本当は一部のすごく頭のいい人間が考えたんだ。」

 

スゥはこれまで語った『科学』について、思い返してみると

さも『自分も考えた』ような口調だったと思い、付け加えておいた。

しかし、ファルナは頭を横に振ってスゥに言う。

 

「…ううん。スゥにもきっと有るんだよ。そういう力。

 スゥだって、私たちが戦う時に、難しい事考えてくれるでしょ?

 私たちが思ってもみなかった戦い方とか。

 ピコくんも、メルちゃんも凄いなーって言ってたよ?」

 

「そ、そうなのかな…?

 ありがとうな、ファルナ。」

 

スゥは照れながらファルナに礼を言った。

彼は、これまで彼自身をそれほど高くは評価していなかった。

ノンのように難しい勉強が得意という訳でもなく、

体力や筋力が特段優れている訳でもない、『平凡』な人間だと。

 

トレーナーとして旅に出て、

彼は『生まれて初めて』自分の頭で真剣に考え、

答えを出す機会に遭ってきた。

 

真剣に考えてきた結果についてファルナに褒められ、

その事が彼にとっては嬉しかった。

 

「あ、スゥ照れてる?」

 

「う”っ…ま、まあね。

 やっぱり褒められると嬉しいし、照れるよ。」

 

顔を覗いてくるファルナから、スゥを目を逸らして答えた。

彼を照れさせることが出来たファルナは、上機嫌で彼に言う。

 

「ふふ。これからも頼りにしてるからね、スゥ!

 …ぁ。」

 

そんな時、ファルナのお腹から音が鳴った。

気が付けば、出かけてから時間が随分経っていた。

 

「ぇぅ…!」

 

ファルナは自分のお腹に手を当て、顔を真っ赤にしている。

その様子が可笑しかったスゥは、あまり笑うと可哀想だと思いながらも

堪え切れず、肩を震わせている。

 

「ぷっ…ははは!

 もうお昼だもんね、お腹空いたんだろ?ファルナ。

 リザードになってから一段と食べるようになったなあ。」

 

「も、もーっ!!

 そんなに食いしんぼじゃないもん!!

 …やっぱり今褒めたのはナシね!

 スゥのバカ!!」

 

「あはははは!

 さ、ご飯食べに行こうか!」

 

「がうーっ!!まだ笑ってる!

 ……い、行くけど…。」

 

ファルナは昨晩の宴会で、アクアとメルティに『食欲』について

からかわれたばかり。

今日はスゥにもからかわれ、少し不機嫌な顔をしながらも

結局食欲には勝てない様子でスゥに同意していた。

 

_______________________________

 

彼女が不機嫌だったのも束の間。

彼らがハナダシティのレストラン街に着いた時には

ファルナの機嫌は一転。

立ち並ぶ店のガラスに展示されているメニューに、

彼女は目を輝かせていた。

 

「わぁ…!スゥ、どこにしよう!?

 どのお店も美味しそう…!」

 

「うーん…やっぱりお腹が空くと迷うなあ。

 …ん?」

 

一緒になって店選びに迷っている二人。

ふと、周囲をぐるっと見回してみたスゥは

『面白そうな物』を見つけ、ファルナに気付かせる。

 

「ファルナ、あんなのはどう?」

 

「えぅ?

 …な、何あれ!すごーい!!」

 

ファルナの目に留まったのは、『巨大なパフェ』。

アイスクリームは食べた事がある彼女だったが、

それが大きなグラス一杯に盛られ、その上にクッキーや果物が乗せらせた

華やかなその食べ物については、食べた事はもちろん、見る事も初めてだった。

 

「スゥ…あれ食べたい!

 あのお店にしよ!」

 

「気に入ったみたいだね!

 いいよ。

 でも、あれだけ大きいとご飯食べられるかな…?」

 

「大丈夫だよ!

 ちゃんとご飯も全部食べるから!」

 

拳をぐっと握り、力強くスゥに答えるファルナ。

まるで戦闘前のような雰囲気の彼女に、無理して食べないようにと、

スゥは一言心配を伝えておいた。

 

「あはは、無理はしたらダメだからな。

 お腹壊したらいけないし。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…結果から言えば、その心配は全く無用であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄いな、ファルナ…」

 

目を点にしているスゥ。

彼の目の前には、うっとりして満足気なファルナがいた。

 

スゥはサンドイッチを注文したが、それは喫茶店によくある、

非常にボリューミーな物であった。

ファルナは、パフェの前に『トマト・バジル・クリーム』の

3色のソースに分かれたパスタを注文していたが、それも中々の量。

基本的にその店は、どのメニューも大盛りな料理を出しているようだった。

 

スゥはサンドイッチですら、食べきるのに若干苦労していたが、

ファルナに至ってはパスタをあっさりと完食。

余裕の表情で、デザートの巨大パフェまで食べきってしまっていた。

 

「えへへ、幸せ~♪」

 

【挿絵表示】

 

全く苦しそうな表情が見られないファルナ。

スゥは、彼女が無理して残さずに食べた訳では無い事は

見てはっきりと分かった。

 

「あはは!そんなに喜んで貰えると、ご馳走した甲斐があったよ!」

 

スゥは、ファルナの表情を見ながら嬉しそうにそう言う。

笑いながら言われたファルナは、少し頬を赤く染めながら

我に返ったように彼に言った。

 

「あ、あうぅ…またこんなに食べちゃった…!

 スゥ、嫌じゃない…?こんなにたくさん食べる女の子って…」

 

どうも彼女の食事量は、彼女自身で制御出来ていないようだった。

昨晩にアクア達と自分の食事量を比べた時の事も忘れ、

つい食欲のまま食べてしまっていた様子。

 

そんな彼女にスゥは答える。

 

「気にしなくていいんじゃないかな?

 たくさん食べれるってのは元気な証拠なんだし!」

 

その答えに少し安心したファルナは、表情を明るくした。

 

「ほんと!?

 その…気を使ってない?

 スゥが恥ずかしいなら、我慢するように頑張るから言ってね!」

 

「全然恥ずかしくなんか無いよ?

 まあ、体に悪いほど食べちゃ心配だけどね。

 それに…」

 

「えぅ?それに…?」

 

 

「美味しそうに食べてるファルナが可愛いからな。」

 

「~~~~っ!!」

 

 

ボンッ!と頭から湯気を出すファルナ。

思いも寄らない場所を『可愛い』と言われた事に、

完全に油断していた。

 

「もー!今のはズルいよスゥ!

 あうぅ…顔が熱い……」

 

「あははは!

 昨日はメルティやアクアに色々言われてたみたいだけど、

 そういう訳だから、気にせずに食べたらいいよ。」

 

「…うんっ!

 じゃあ、『パフェ』おかわり食べたいー!」

 

気を取り直したと思えば、衝撃的なファルナの発言が飛び出た。

 

「ちょっ…、まだ入るのか!?

 それはダメ!お腹壊したらいけないだろ!」

 

まだ彼女の胃袋には余裕がある事を聞いたスゥは、

流石に体に悪いだろう…と思い、彼女の要求を却下した。

 

「うー…私、炎タイプだから大丈夫だよ!」

 

そんな怪しい根拠を振りかざし、ファルナは食い下がる。

 

「だーめ!

 それに晩御飯が食べられなくなっちゃうよ?

 さ、そろそろ『マサキ』さんの所に行こうか!」

 

「えぅ…それじゃあ晩御飯も楽しみにしてるよ!

 それじゃあ行こっか!」

 

一応は満足する量を食べていたファルナは、

まだ晩御飯もご馳走して貰える事を聞いて、納得しておいた。

 

 

スゥとファルナの長い一日デートも、まだ前半。

二人はまだまだ一緒に居たい気持ちでいるが、

時間も頃合いになったので『マサキ』の家を訪ねる事にした。

 




…最近ファルナが少しアホの子になってる気がしますが、多分気のせいです。

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