まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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ノンとのバトルを通じ、コイキングの『ベルノ』を育てる方針が固まったスゥ。
本話は二人のパーティメンバー同士の会話がメインとなります。

最近は話にまた弾みがついて来ましたので、今の内に更新ペースを上げられたらと思っています。




Report5-7 [近況報告という名の宴会]

スゥとノンはバトルの後、互いのポケモンを回復させるため

ポケモンセンターへと戻ってきた。

 

ポケモン達の怪我は、いずれも大したものではなく

あっという間に治療が完了した。

 

それからはスゥとノンだけじゃなく、彼らのポケモン全員が

楽しみにしていた『食事』と『近況報告』の時間。

 

総計10名が一堂に会するとなると、最早「団体」のレベル。

ノンは、レストランで全員が一斉に話し出すと周囲の客に迷惑になると考え、

少々高く付くが、個室の大部屋を借りるのが良いだろうとスゥに提案した。

 

スゥはハナダシティに着いてから、服を買う事で散財したが

ゴールデンボールブリッジの勝ち抜きバトルの賞金と、

ソラから貰い受けた『金の玉』を売却することで

一気に財政が安定していた。

金銭的にも気持ち的にも余裕の出来た彼は、ノンの提案を受けた。

 

そして彼らはポケモンセンターの宴会場を1室借り、現在に至る。

 

_______________________________

 

彼らが通された部屋は、30メートル四方ほど有りそうな大部屋。

その中央には大きなテーブルと、向かい合わせに5つずつ、

きっちり10人座れる椅子がそれを囲っていた。

 

スゥとノンは、互いのパーティで向かい合わせるように席に座る。

ファルナとアクア、

メルティとツムジ、

ピコとボルカ、

そしてベルノとサイが向き合う恰好。

 

料理が運ばれてくるまでの間、まずはスゥとノンが一足先に会話を始めていた。

 

「ノン。いつの間に俺たちより先にハナダに着いてたんだ?

 確かトキワシティでは俺たちの方が先に出て行ったはずだけど。」

 

「いや、お前がいつ何処に居たかが分からないから答えようが無いが…

 多分、お前達は『ニビシティ』で苦戦してたんじゃないか?

 …と言うか、勝てたのか?あの強いイワークに。」

 

スゥの質問に、ノンはスゥのパーティの面々を見ながら答える。

炎タイプのファルナ、メルティ、電気タイプのピコ、

水タイプではあるが攻撃手段の無いベルノ。

いずれも岩・地面タイプである『イワーク』を相手取るには

かなり厳しい面子であった。

 

ズバリな指摘に、スゥは当時の苦労を思い出して言う。

 

「ああ、本当に苦労したよ!

 だけど勝った!その時はファルナとピコしかまだ居なかったけどね。」

 

彼の言葉に、ノンは聞いておきながら驚きを隠せない様子。

 

「なっ…!勝ったのか!よく勝てたな…

 こっちは得意属性のアクアでも苦戦させられたってのに。」

 

スゥとノンの会話を聞いていたピコが、真っ先に得意気に椅子に立って言う。

 

「そうそう、聞いて聞いて!

 ボクも頑張ったんだよ!アイツが投げてくる岩を、こう…

 バリバリ―!ドカーン!って!」

 

ピコは全身を使ってジェスチャーをしているが、ノンには全く伝わっていない。

 

「チビ助、それじゃさっぱり分からん。」

 

「ち、チビ助ぇ!?」

 

ピコはノンのぞんざいな呼び方に硬直する。

 

『あ、合ってる…!』

 

一方、ファルナとメルティ、そしてアクアは思わず吹き出しそうになるのを

何とか堪えている様子だった。

 

硬直しているピコに代わって、スゥがノンに説明した。

それはイワークの弾き飛ばしてくる岩石が『鉄』を豊富に含んでいた事。

そして、電磁石の要領でピコの電撃を利用し、逆に押し返した事。

 

ノンは思いも寄らない戦い方に、珍しく感心した様子で

スゥの話を食い入るように聞いていた。

 

「それは…凄いな!

 そうか、そんな戦法も有るのか…」

 

感心しているノンを見て、ピコは硬直を解いて再び自慢気に話し始めた。

 

「そう!そうやってあの岩ヘビを攻撃したんだ!

 バリバリー、ドカーン!って!」

 

さっきと何も変わらないピコの説明。

しかし、ノンは今度は笑いながら彼に言った。

 

「アハハハッ!そうか、ばりばり、どかーんねぇ。

 確かにそうだな、ハハハッ!」

 

アクアは隣で上機嫌に笑うノンを見て嬉しそうな表情をしている。

 

「ふふ、珍しいですね。ノンさんがこんなに大笑いするなんて。」

 

ノンの反応が良かったピコは続けて言う。

 

「それだけじゃないんだよ!

 ボクも頑張ったけど、ファルねぇも進化して戦ったんだ!」

 

「そうか、イワークとの戦いで進化したんだな。

 色々納得した。それで勝てたのか。」

 

「ああ、本当にピコもファルナも頑張ってくれたよ!

 そういえば、ノンの方は…」

 

 

 

 

「失礼します。」

 

 

 

 

 

スゥが次はノンの話を聞こうとした時、部屋の扉が開き

料理が運ばれてきた。

その途端、ポケモン達の注目は全て料理に配られていた。

 

出てきた料理はサンドイッチ、フライドポテト、唐揚げ、エビチリといった

レストランではそれぞれ単品で注文する物のオードブル。

 

10人分という事で、大皿一杯に盛られた山のような量。

それが3皿に分けて出されていた。

 

 

『いただきまーす!!』

 

 

と、皆が待ちに待ったとばかりに自分の取り皿に料理を取り始める。

スゥとノンのポケモン達、特に男性陣が我先にと

料理にがっついていた。

 

 

「んにーっ!どれもおいしいーっ!」

 

「モゴモゴ、美味!美味であるぞ!

 家来よ、褒めて遣わす!」

 

「この辛い料理は初めてだ!

 うむ、旨い!!」

 

「…フォゥ!…フゥ!!」

 

隣で騒々しくしている男性陣を、少し呆れた表情で見ている女性陣。

 

「う~っ…なかなか取れない…!」

 

手づかみならぬ、翼掴みで物を食べる事に慣れているツムジは

取り箸やトングに苦戦していた。

そんな彼女の様子を見ていたアクアは、

既にツムジの分を確保していた様子で、彼女に皿を渡す。

 

「ほら、ツムジちゃんの分ですよ。

 翼だと取りにくいでしょ?ちゃんと取ってますから安心して。」

 

「わあ、ありがとうアクアお姉ちゃん!」

 

ツムジに続き、アクアはノンの分も皿によそっていた。

 

「ほら、ノンさんの分もです。」

 

「ああ、有難うなアクア。お前も好きに取ったらいいぜ。」

 

アクアの気遣いを見ていたメルティは、

彼女との話のきっかけを作ろうと、アクアの分を取って渡す。

 

「あ、それじゃあアクアさん!

 これをどうぞ。」

 

「あ、メルティさん!初めまして、アクアです!

 ありがとうございます。それならお返しに…」

 

「え、えぅ…みんな気遣い出来るんだ…」

 

ファルナは隣のアクアとメルティを見ながら、

真っ先に自分の料理を取った行動を、少し恥ずかしく思っていた。

そして、まだ料理を取っていないスゥを見て

思いついたように彼に言う。

 

「そうだスゥ!どれが欲しい?取ってあげる!」

 

スゥは彼女が何を思って、自分に配ってくれようとしたのか

理解している様子。

ファルナがわざわざ自分のために料理を取ってくれる事が嬉しい、

という気持ちも当然あるが、

彼女に恥をかかせない為にも、快く気遣いを受け取る。

 

「あはは、ありがとうなファルナ。

 じゃあ一通りお願い!」

 

しかし、スゥがふと彼女の皿を見ると…なかなかの量であった。

男性が一回に取る量としても、割と欲張っている位の量に思える。

それを見て、スゥは一言付け足す。

 

「あー…ファルナの半分くらいでいいよ?」

 

スゥがあからさまにファルナの皿を見て、言葉を付け足した事に

彼女は顔を赤くして抗議した。

 

「むーっ!!スゥ、それどういう意味!?」

 

 

 

一方、男性陣の方は早くも料理の種類が減ってきている様子。

 

「あーっ!ベルノ!それボクが取ろうとしてたヤツ!

 最後の一個!」

 

一足先に、ベルノに唐揚げを攫われたピコは

彼に食って掛かる。

そんなピコを挑発するように、ベルノは

箸で掴んだまま彼に見せびらかした。

 

「何じゃ家来よ。これが欲しいか?ほれほれ~」

 

「『家来』じゃない、ピコだよーっ!

 返せーっ!」

 

「イヤじゃ!」

 

ピコとベルノが取っ組み合いをしている最中、

ただ傍観していただけど思われたサイの目が、怪しく紫色に光った。

 

「…フォゥ!!」

 

その瞬間、ベルノの箸に掴まれていたはずの唐揚げが

何故かサイの皿の上に『瞬間移動』した。

 

「な、き…消えたじゃと!?

 あーっ!サイ、よくも我の物を!」

 

ベルノが、消えた唐揚げの在処を見つけた時には

既にそれはサイの口の中。

相変わらずの無表情だが、どことなく機嫌が良さそうに唐揚げを食べるサイ。

 

そんなやり取りが面白かったボルカは

大声で笑い、ベルノとピコに注意させた。

 

「ワハハハ!

 サイの前では食べ物も『テレポート』されるぞ!

 見せびらかす余裕は無い!」

 

「くっそー、やられたぁ…!」

 

「ぐぬぬ…やはりやるのう、お主…!」

 

「…フォゥ!」

 

 

 

それから暫く、皆のお腹が落ち着くまでは

まるで戦場のような騒々しさとなっていた。

 

スゥとノンはその有様を見ながら、やはり個室を選んで正解だったと

冷や汗を流していた。

 

「まあ、宴会場だし多少は騒いでも大丈夫かな。」

 

「そうだな、折角だから皆には楽しんでもらおう。

 …さてスゥ。話の続きだが…」

 

二人はトレーナー同士で、少々込み入った話をすることにした。

特にロケット団に関する情報共有は第一にしなければならない。

周りの騒がしさから逃げるため、彼らを少し席を離れた場所にずらしていた。

 

 

 

そんな真面目な話をしている彼らの傍らでは、

女性陣が何やら姦しくしている。

 

「ふぁ、ファルナちゃん相変わらずよく食べますねぇ…」

 

メルティは、何度もおかわりをするファルナを見て、

それが自分の2倍くらいの量だ…、と心の中で思う。

しかし流石に具体的な数字を言葉にするのは止めておくことにした。

 

「そ、そうかな?いつもメルちゃんが少ないんだよ!

 あ、でも…う”~…」

 

ふと、ファルナはメルティの『細身』の秘訣がそこにあると感じ取った。

しかし食べてしまったものはもう戻せない。

本当はまだ食べたりないくらいなのだが、

ファルナはまだ大皿の上に残っている料理を見ながら葛藤している。

 

「ふふ、ファルナちゃんは『ヒトカゲ』の時からよく食べてましたからねー。」

 

「がぅっ!?」

 

悪気無くアクアが言葉の暴力を放つ。

ファルナには効果抜群のようだ。

 

「あ、やっぱり昔からなんですか。」

 

アクアの言葉を受けて、あっさりと納得するメルティ。

 

「そうなんですよメルティさん。

 私とファルナちゃんが小さい頃の話なんですけど…」

 

アクアは更に具体的な話をしようとした所、

ファルナが血相を変えて彼女を止める。

 

「がうーっ!アクアちゃん、それは話しちゃダメ!!」

 

「えーっ、聞かせてくださいアクアさん!」

 

「わたしも聞きたい!ファルナお姉ちゃんの子供の時の話!」

 

「つ、ツムジちゃんまでー!」

 

メルティだけでなく、ツムジも興味津々にアクアの話を引き出そうとする。

 

「あ、メルティさん。私も『アクアちゃん』とかで良いですよ。

 私もメルちゃん、って呼ばせて下さい!」

 

「あ、はい!喜んで!

 アクアちゃん、ファルナちゃんの話聞かせてください!」

 

「ふふ、面白いから是非話したいんですけど…」

 

「がうううぅ~~…」

 

「ほら、怒られちゃいます。」

 

「もう怒ってるよーっ!!」

 

幼い頃の『よく食べた』エピソード。

ファルナは色々と自覚があるのか、怒りと恥ずかしさで

真っ赤になり吠えていた。

 

そんな彼女が、何を気にしているのか理解していたツムジが

助け船を出す。

 

「んー、でもファルナお姉ちゃん全然太ってないよ?

 『リザード』だっけ、進化したらもっと綺麗になったよね!」

 

「ツムジちゃーん!やっぱりツムジちゃんは良い子だね!」

 

ファルナはテーブルの向かいにいるツムジを、

今すぐにでも抱きしめたいという勢いで褒めていた。

 

「えへへ、ファルナお姉ちゃんだけじゃなくて

 アクアお姉ちゃんもメルお姉ちゃんも、みんな綺麗だよー。

 わたしも大人になったらみんなみたいになるのかなあ…」

 

「ツムジちゃんなら絶対綺麗になるよ!」

 

「ええ、今でも可愛いんですから!

 ツムジちゃん、妹みたいで本当に可愛いですねえ。」

 

「あ、ダメですよメルちゃん。

 ツムジちゃんは私の妹なんですから。」

 

ファルナはもとより、メルティもツムジを妹分のように可愛がっている。

三人のお姉さんに太鼓判を貰ったツムジは嬉しそうな表情。

ファルナとメルティに、ツムジを取られまいと

アクアは隣にいるツムジを抱え込んで二人に見せつける。

 

「アクアちゃん、そう言わずに私にもぎゅーっとさせて下さい!

 羽とかモフモフしてて気持ちよさそうです…!」

 

「そうだよアクアちゃん、1人占めはダメ!」

 

アクアはツムジの羽毛の感触を味わいながら、

ファルナ達の言葉に耳を貸そうとしない。

 

 

そんな中、彼女は唐突に話題を変える。

 

「あ、それはそれとしてですねファルナちゃん。」

 

「えぅ…?」

 

「スゥさんとは進展はどうなったんですか?

 トキワシティ以来なので、どうなってるのかずーっと気になってたんです!」

 

「わたしも気になるよー!」

 

「あ、アクアちゃん、ツムジちゃんにも話してるんだ…

 えーっとね…あ、あぅ…」

 

アクアの問いにファルナは口ごもる。

言える事は色々有るのだが、アクアとツムジの視線が集中する中で

報告するのは非常に恥ずかしく、ファルナは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

「あら…これはまさか…!?」

 

「あわわわ、何?なになに?」

 

ファルナの反応を見たアクアは、只事では無い雰囲気を感じ取った。

同じくツムジも、子供ながらに増せた所があるのか

翼で自分の両頬を押さえて顔を赤らめている。

 

中々言い出さないファルナに代わり、メルティが口を開こうとする。

 

「ふふ、ファルナちゃん。言いにくいなら私が言っちゃいましょうか?」

 

「ええっ!?」

 

急な提案に驚くファルナ。

 

「是非お願いします。」

 

「お願いします。」

 

「ええっ!?」

 

間髪入れず頼む二人に驚くファルナ。

 

メルティはこの時点で、渋々ながらもファルナから言い出すと思っていたようだが、

彼女が想像していた以上に、ファルナは自分の口から言う事が恥ずかしい様子。

 

「…えぅ、じゃあ、メルちゃんお願い…」

 

「ええっ!?

 …って、私もファルナちゃんに釣られて驚いちゃいました…

 ホントに私が話していいんですか?」

 

「う”~…だって、恥ずかしいし…」

 

ファルナは隣にいるメルティにしか聞こえない程の、蚊の鳴くような声で答えた。

 

「しょうがないですねえ…アクアちゃん、ツムジちゃん。

 小声で話すので、近くに来てください。」

 

メルティがそう言うと、二人はテーブルに身を乗り出して

彼女の口元に耳を近づけた。

 

「…」

 

そしてメルティは二人にだけ聞こえるように

ファルナとスゥの近況を話す。

時系列に準じて、メルティは自身の目で見たままの事を話していく。

 

耳を傾けていたアクアとツムジの顔がみるみるうちに赤くなっていった。

メルティの話の要所要所でファルナの顔をチラッと見る二人。

ファルナも、そんな二人の反応から

自分に向けて何を思われているのかを察して更に紅潮する。

 

「ファルナちゃん!」

 

「は、はいぃっ!」

 

急にアクアから強く呼びかけられ、ファルナは身を強張らせて答える。

 

「おめでとうございます!

 そうですか、恋人ですか…!

 ふふ、ふふふ…!どうしましょう、顔が緩んで戻りません…!」

 

アクアは頬に手を当てて蕩けた表情をしている。

その顔からは、普段の凛とした面影は全く感じられない。

ツムジに至っては頭から煙を出しており、天井を仰いで動く気配が無い。

 

「あはは…ありがとうね、アクアちゃん!

 ツムジちゃんは…その、大丈夫?

 なんかボーっとしてるけど…?」

 

「ちょっと刺激が強かったんでしょうか…?

 ツムジちゃん、ツムジちゃん?」

 

ツムジの様子を心配したメルティは彼女の頭を撫でながら呼びかける。

そしてハッと気を取り戻したツムジ。

 

彼女は気が付くやいなや、興奮した様子でファルナに勢いよく問いかける。

 

「ファルナお姉ちゃん!スゥお兄ちゃんと…!」

 

「う、うん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「子供作っちゃったんだ!?」

 

『ブーッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然飛び出たツムジの爆弾発言。

あまりの内容に、噴き出さずにはいられない三人。

ファルナだけでなく、アクアとメルティも顔を真っ赤にしている。

 

ファルナは珍しく据わった目でメルティを見て問う。

 

「めーるーちゃーん…いったい二人に何て言ったの…!?」

 

「ご、誤解ですファルナちゃん!

 私は事実しか言ってませんから!」

 

メルティの言葉に嘘は無い。

彼女は思いっきり冷や汗をかきながら、身振り手振りで誤解を解こうとする。

 

「つ、ツムジちゃん。どうしてそう思ったんですか…?」

 

落ち着いた性格のアクアも流石に戸惑いながら、

ツムジが何を思ってその発言に至ったのかを尋ねた。

 

 

「だ、だって…その…

 き、キスしたら子供が出来るって…」

 

 

『…

 ああ…』

 

 

三人はツムジの返答に、一気に脱力していた。

 

『子供ってどうやって生まれるの?』

 

という、子供によくある、親を困らせる質問の模範解答を、

ツムジが鵜呑みにしていた事が原因だったようだ。

 

三人の反応を見たツムジは困り顔で尋ねる。

 

「え、え?

 …違うの?だって、お父さんはそう言ってたもん!」

 

そして続けざまに問われるであろう質問。

それを回避するため、三人は一斉に顔を逸らした。

 

オロオロと困ったままのツムジ。

顔を逸らす事に罪悪感を覚える三人だが、

彼女らは、ツムジと目が合ってしまったら

きっと困った事を聞かれるだろうと思い、顔を動かすことが出来ない。

 

疑問を投げる先に困ったツムジは、

いつも頼りにしている『お姉ちゃん』に聞いてみることにした。

 

 

 

「ねえ、アクアお姉ちゃん。」

 

「…!!は、はい。何ですか?ツムジちゃん。」

 

 

 

彼女はターゲットをアクアに絞った。

何だかんだ、ノンのパーティの下で一緒に居る内、

一番頼りにしているのがアクアであったようだ。

 

ファルナとメルティは、アクアには悪いと思いながらも

未だにツムジへ顔を向ける事が出来ない。

 

 

 

「子供って『本当は』どうやったら出来るの?」

 

 

 

やっぱりか!と心の中で叫ぶ三人。

名指しされたアクアは、顔を逸らすファルナとメルティを

恨みがましい目で見ながら困り果てている。

 

「え、えーっとですねぇ…」

 

暫し返事に困った後、アクアは無難な回答を思いついた。

それは決して嘘でもなく、ツムジを納得させるには

十分なものだろうと確信して答える。

 

「…トルネさんが教えてくれた事は正しいんですよ?

 お父さんとお母さんの仲が良かったら、

 『いつか』神様がご褒美に、赤ちゃんをくれるんです。」

 

「えっ、神様が!?

 あれ?でも、チューじゃ子供が出来ないんでしょ?」

 

「ふふ、それはツムジちゃんが分かりやすいように

 そう答えてくれたんだと思いますよ?

 それくらい仲が良かったらいいんだよ、っていう事で。」

 

アクアの答えに、ツムジは目を輝かせながら

納得した様子で聞いていた。

 

「そ、そうだったんだ…!!

 じゃあお父さんはウソつきじゃないんだね!」

 

「ええ、もちろんです!

 ツムジちゃんに、トルネさんが嘘を付くわけ無いですよ。」

 

 

何とか急場を凌いだアクア。

ツムジの父であるトルネが『嘘つき』扱いされる事さえ

回避した見事な回答。

…ケチをつけるのであれば、『お父さん』と『お母さん』という言葉自体が、

既に子供を持っている夫婦を指すもので、

説明の後先が逆であるという突っこみ所はあるが…

当のツムジは、そこまで疑問を持つ事は無かった。

 

ファルナとメルティは、アクアを称賛の目で見ていた。

 

「アクアちゃん…流石!」

 

「ええ!やっぱりファルナちゃんから聞いてた通り、

 頭が良いんですね!」

 

そんな調子のいい二人を見て、アクアはむくれた顔で答える。

 

「もう…二人とも、私に押し付けてよく言いますよ。

 そうだ、ファルナちゃん。

 スゥさんと恋人になったのなら、もう色々デートはしてるんですか?」

 

ふと疑問に思ったアクアがファルナに尋ねる。

ファルナは、アクアの質問に答えようとしたが…

 

「えーっとね…

 …

 …あ、あれ?」

 

…アクアの質問に答える材料が無かった。

仕方の無い事ではあるが、スゥとファルナが

恋仲になってからまだ日が浅い事と、

お月見山ではロケット団絡みでそれどころでは無かった事。

そして、ベルノの件でスゥが思い悩んでいた事、それらの理由で

なかなか二人きりの時間が取れていなかったのだ。

 

「…何もしてない…!」

 

表情を曇らせて答えるファルナを見て、

アクアはキッと目を鋭くして彼女に言う。

 

「それは由々しき事態ですよ!

 本当に、男の人って鈍感なんですから…もう。」

 

アクアの言葉は、スゥだけに対する文句では無さそうであった。

どうやらアクア自身も、何かしら思う所がある様子。

 

それはさておいて、彼女はファルナが元気を出せるよう

取って置きの提案をする。

 

「ファルナちゃん!

 それならいい案がありますよ!」

 

「え、えぅ…?」

 

「いい案…ですか?」

 

「そうです!

 明日でもいいので、橋を渡った先の『恋人岬』へ

 行ってみてください!

 もちろん、スゥさんと一緒に。

 そこは名前の通り、デートスポットなんです。

 特に夕日が綺麗な場所らしいですよ!」

 

アクアの提案を聞いて、メルティが賛同する。

 

「それはいい案です!

 是非スゥくんを誘って行ってください!

 …最近ずっと忙しかったですもんね。

 私が元気になるように、スゥくんもファルナちゃんも、

 みんな一緒に居てくれてましたし。

 明日は久しぶりに二人っきりで遊んでください。

 私がピコくんとベルノくんのお守をしてますから!」

 

彼女は、ファルナがスゥとの時間が取れていない理由の一端が

自分にもあると感じており、少し申し訳なさそうに言った。

メルティの気持ちを感じ取ったファルナは、

彼女の気遣いとアクアの提案に感謝する。

 

「ううん。メルちゃんが元気になって

 私もスゥも、みんな嬉しいんだよ!

 でも、ありがとうね。メルちゃん。

 アクアちゃんもありがとう!

 …よーし!私、スゥを誘ってみるよ!」

 

「ふふ、どういたしましてですよ。

 その代わり、またお話を聞かせて下さいね!」

 

アクアは、目に光が戻ったファルナを見て安心する。

元気を取り戻したファルナは、善は急げと

早速スゥに提案してみる事にした。

 

一方、当のスゥは、ノンと概ね重要な事を話し終わったのか、

笑いのある砕けた話をしている様子。

 

ファルナは席を立ち、いそいそとスゥの元へ行く。

様子が気になるメルティとアクア、ツムジの三人は、

邪魔にならない程度にファルナとスゥの近くに席を寄せていた。

 

 

「ねえ、スゥ!」

 

ファルナは顔を赤らめて、思い切ってスゥを呼んだ。

スゥは彼女を見るやいなや、ファルナと同じように顔を赤くした。

 

「あ、ファルナ…!

 えっとな…ちょうどファルナに明日の事を話そうと思ってたんだ。」

 

「えぅ…?あ、明日の事?」

 

既に何か予定が有る事を察したファルナは、

少し残念な表情をして彼の話を聞こうとする。

 

しかし、中々次の言葉を発さないスゥ。

そんな彼を見ていたノンが痺れを切らして喝を入れた。

 

「おいスゥ。何を今更戸惑ってんだよ。

 さっさと言え!」

 

ノンにせっつかれ、スゥは焦りながら口を開いた。

 

「うっ…わ、分かってるよ!

 あのな、ファルナ。

 明日、『恋人岬』に行こう。

 ピコ達には悪いけど、二人で。」

 

「えっ…!?

 スゥ…!うん!行くー!」

 

ファルナは、思ってもみなかったスゥからの提案に

驚きはしたものの、満面の笑みで答えた。

ノンの見ている前で抱き着いてくるファルナ。

スゥは顔から湯気が上がる程照れている。

 

メルティ達がファルナの事を気にかけていたように、

時を同じくしてノンもスゥの事を気にかけていたようだ。

恋人らしい事をしていないスゥに対し、ノンは

先駆けて行った『恋人岬』の情報を彼に伝え、ファルナを連れて行くように提案していたのだ。

 

 

 

そんな様子を見ていたメルティ達は

三人で顔を見合わせ、胸を撫で下ろしていた。

 

「スゥさん…!良かった、鈍感な人じゃなかったんですね…!」

 

「私もちょっと心配してたんですけど、要らない心配でした!

 やっぱりスゥくん、ちゃんと考えてくれてたんですね。」

 

「ファルナお姉ちゃん、嬉しそうだね!」

 

 

スゥはそんな事を思われているとはつゆ知らぬまま

ファルナの頭を撫でながら続きを話す。

 

「ごめんな、ファルナ。なかなか時間が取れなくて。

 明日は一緒にデートしような。」

 

「うん!…えへへ…」

 

ファルナは顔をスゥの胸に埋めながら甘えている。

余程嬉しいのか、最早周りの目を気にしていない様子。

 

スゥは周りを見てみると、アクア達女性陣だけでなく、

ピコ達男性陣も彼の方を『面白い物』を見るような目で見ていた。

 

「ぐっ…やっぱりこの場所で言うんじゃなかった…!

 …まあ仕方ないや。

 ファルナ。デートもなんだけど、他にも『恋人岬』で

 寄りたい場所があるんだ。」

 

「えぅ?寄りたい場所?」

 

「ああ。『マサキ』って人が近くに住んでるらしいんだけど、

 俺に大事な話が有るんだって。ノンが言ってたんだ。」

 

「へぇ~。うん、いいよ!

 でも何だろうね?大事な話って。」

 

「それが、ノンも話してくれないんだ。

 ノンはもう『マサキ』さんに会ってるんだけど、

 どうも直接じゃないと話せない事らしい。」

 

 

「…まあ、それだけ大事なことなんだ。

 そういう訳だからファルナ、すまないが少し時間を割いてやってくれ。」

 

ノンはファルナに言う。

彼自身は、既に『マサキ』という人物からその重要な話を聞いているのだが、

固く内容を口外しないように言われている。

 

そして彼は、スゥだけでなく

じっとこちらを見ていたアクアやメルティ達に伝えた。

 

「さて、そういう訳だ!

 ピコ、メルティ、ベルノ!

 明日はウチのパーティーで行動してもらうぜ。

 その方がスゥも安心だろうからな。」

 

ノンの言葉を聞いたピコ達は、皆喜んで賛同した。

彼らもまだまだ話し足りない事ばかり。

それがもう一日ゆっくりと話せる時間が貰える事が嬉しい様子。

 

 

気が付けば、もう随分と遅い時間になっていた。

時刻は21時。

幼いピコやツムジを早く寝かせる為、一旦今日のところはお開きとなった。

 

明日は久しぶりに二人の時間が過ごせるスゥとファルナ。

そして中々話の尽きない他のメンバー。

それぞれが次の日を楽しみにし、眠りについた。

 

 


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