まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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1ヶ月ぶりの投稿です。
続きが遅くなってしまい申し訳ございません。

スゥとノンのバトル、『中編』です。
前話である『前編』ですが、2017/8/16時点で修正・追加をしております。
本話投稿時点で「Report5-4」を読んで頂いていた方は
面倒ではありますが、もう一度読んで頂くのをお奨めします。


Report5-5 [悩みの種(中編)]

「驚いたな…アクアも進化したのか!」

 

ゼニガメからカメールに進化したアクアの姿を見て驚くスゥ。

ファルナもボールの中からその光景を見て、早く直接会いたくて

ウズウズしている様子。

 

「アクア『も』という事は、やはりファルナもか…

 スゥ、アクアには是非進化したファルナと戦わせてやりたい。

 悪いが、ピコには負けるわけにはいかないぞ!

 もう話はいいだろう。

 アクア!『水鉄砲』だ!」

 

ノンはスゥの発言から、ファルナも進化した事を理解した。

そして目の前のピコを蹴散らさんとし、アクアに水鉄砲を指示した。

 

「ピコくん、有利な属性だと思って甘く見たらダメですよ!

 いきます!『水鉄砲』!!」

 

アクアは片腕を高く掲げ、手の平に大きな水の塊を生み出した。

水の塊はけたたましい音を立てながら回転している。

そして水の塊をピコの方に突き出したやいなや、

激しくうねりを加えた激流がピコに襲い掛かる。

 

「ピコ!全力で電気ショックを打て!

 相殺するんだ!」

 

水鉄砲の勢いを見たスゥは、属性は違えどファルナの

火炎放射に引けを取らない威力である事を察した。

スゥの指示を受け、ピコは力一杯の電撃を激流に向けて放つ。

 

「んにぃーっ!!電気ショーック!!」

 

ピコの放つ強烈な一筋の電撃。

イワークやロケット団達とのバトルを通じて一層その威力は上がっている。

そしてピコの電撃とアクアの水鉄砲が衝突した。

 

バヂバヂッ!!と激しくせめぎ合う二人の攻撃。

属性的な相性ではピコが有利であるはずなのだが、

アクアの水鉄砲を押し返す事が出来ずに拮抗している。

 

「んに”に”っ…!!

 ほ、本気出してるのに…押し返せない!!」

 

「っく…さすがに苦手な属性だと簡単には行きませんね…!

 ノンさん、どうしましょう?」

 

中々お互いの砲撃の威力に差が出てこない。

このままでは無駄に精神力を消費してしまう事を懸念したアクアが

ノンに指示を仰いだ。

 

「アクア!

 水鉄砲の方向を変えて回避だ!」

 

「はい!!」

 

ノンの指示を受け、アクアは水鉄砲を放つ方向を脇にずらした。

その瞬間、力の均衡が崩れてピコの電撃が

アクアに向かって一直線に進んでいく。

そして彼女に命中するか…とスゥが思った瞬間の事。

 

アクアは横向きに強くステップを踏み、

水鉄砲の反動を利用して一瞬で電撃を回避した。

 

「なっ、避けた!!」

 

アクアの行動に驚くスゥに対して、

すかさずノンは次の行動をアクアに指示する。

 

「アクア!水鉄砲の反動を使ってピコに『体当たり』だ!」

 

「はあっ!」

 

アクアは再び強力な水鉄砲をピコとは逆の方向に放つ。

そして『からにこもる』と『体当たり』を組み合わせた

自身にダメージの無い体当たりを繰り出す。

 

ゼニガメの時は背中の甲羅から光の壁を纏っていた『からにこもる』技が

カメールに進化し、手の甲から盾のように発せられている。

 

そして水鉄砲の反動を利用し、メルティにも劣らない直線的な速さで

真っすぐピコに向かってくる。

 

「は、速い!!

 ピコ!こっちも電気を纏って電光石火だ!」

 

「わかった!やってみるよ!」

 

ピコも負けじと体に帯電させ、持ち前の素早さで

アクアに向かって電光石火を繰り出す。

 

 

バチィン!!と大きな音を立てて二人の体がぶつかり合った。

 

「うわあああっ!!」

 

体の軽いピコはアクアの光の盾に強く弾き飛ばされ…

 

「ああっ、ピコー!」

 

 

ボチャン。と。

橋の下の水面に放り落されてしまった。

 

 

「わぷっ!がぼがぼ…スゥにぃ!助けてー!!」

 

水面から何とか顔と手を出し、助けを求めるピコ。

急いでスゥはピコに向けてモンスターボールの光を当て、

彼をボールの中に収納した。

 

そしてスゥは再度ピコを橋の上に出したが、

アクアの体当たりが相当のダメージだったようだ。

ぐったりとして動けない様子。

 

「ぴ、ピコ…大丈夫か?」

 

「う、うぅ~ん…

 ごめんスゥにぃ、もう電撃出せる体力残ってないや…」

 

「そ、そうか…わかった。お疲れ様、ピコ。」

 

スゥはピコに戦える力が残っていないと判断し、

彼の頭を撫でて労ってやった。

 

ピコは普段なら負けると悔しがっている所だが、

今回は満足げな表情。

 

「にひひ…負けちゃった!

 やっぱりファルねぇの友達だね!めちゃくちゃ強いや!

 アクねぇ!次は負けないからね!」

 

ピコは横たわりながら、にこやかな表情でアクアに親指を立てて

リベンジを宣言した。

 

「ふふ、アクねぇですか。

 また戦う時を楽しみにしてますよ!

 お疲れ様、ピコくん。また後でお話しましょうね!」

 

アクアもピコが楽しそうに戦っていた事に感化され、

今から再戦が楽しみな様子。

 

そうしてピコとアクアのバトルは、アクアの勝利で区切りがついた。

 

 

ノンの元に歩いて戻るアクアが、一瞬だけ脚をふらつかせた。

 

「っく…ノンさん。

 『からにこもる』を使っても結構ダメージが来ました…

 ピコくん、次に会う時はもっと強くなってるかもしれません。

 まだ子供だから伸び代が大きそうですし。」

 

アクアはピコの前では我慢していたが、

ピコと衝突した際の電撃が光の盾を貫通していくらかダメージを負っていた。

 

「やっぱり無傷では無かったんだな・・・

 アクア、苦手な相手によく頑張ったな。

 連戦になるけど、次の相手も頑張れそうか?」

 

「はい!まだ大丈夫です!

 次は誰でしょう…?」

 

 

 

 

「さて、こっちは次は誰に戦って貰おうかな…」

 

スゥはピコをボールに戻し、少しの間考える。

スゥの方は残るポケモンが炎タイプであるファルナ・メルティ、

そして戦力としてはあまり期待できないベルノの三人となっている。

ベルノは最後の最後、どうしようも無くなったら戦わせるとして、

ファルナとメルティのどちらを出そうか考えていた。

 

そんな中、ファルナがボールの中から主張する。

 

「ねぇスゥ!私がアクアちゃんと戦いたいんだけど…ダメ?」

 

「ファルナか、苦手属性だけど…それはメルティも同じか…

 メルティ、お前はアクアと戦ってみたいか?」

 

「そうですねえ、私も戦ってみたいですけど…

 ファルナちゃんの幼馴染ですし、ここはファルナちゃんにお任せします!」

 

「分かった、それならファルナ!

 久しぶりのアクアとのバトルだよ、気を引き締めて行こう!」

 

話がまとまった所で、スゥはファルナをボールから出した。

 

「いけっ、ファルナ!

 リザードに進化した姿を見せてやるんだ!」

 

「よーしっ!次は私だよ!

 ノン、アクアちゃん、久しぶりだね!」

 

スゥ達にとっては見慣れている、リザードに進化したファルナの姿。

それを初めて見たノンとアクアにピリッとした緊張が走った。

 

「!!

 ファルナ…『リザード』って言っていたか?

 やはり進化していたか…!」

 

「強いでしょうね、以前とは段違いに。

 それにしてもファルナちゃん、綺麗になりましたねえ…」

 

「えへへ、ありがとうアクアちゃん!

 アクアちゃんも綺麗なお姉さんって感じになったね!

 お互いどれだけ強くなったか、勝負だよ!」

 

「ふふ、望むところです!」

 

幼馴染であるファルナとアクアが対峙する。

よく知る仲なだけに、互いの新しい姿を見て

嬉しい気持ちと、それ以上に、緊張感を持っていた。

 

 

そして、スゥとノンはほとんど同時に

攻撃の指示を発した。

 

互いの指示の内容も同じ。

得意の技を全力で放つという物であった。

 

「属性はこっちが有利だが…気を抜くんじゃないぞ、アクア。

 一撃で倒せ!!『水鉄砲』!」

 

「ファルナ、『火炎放射』フルパワーだ!!」

 

 

 

「行きますよ・・・ファルナちゃん!!」

 

アクアが両の掌の間に大きな水の塊を生み出す。

ピコに撃った時のように片手で作った水球ではない。

ノンの言葉通り、一撃で倒す為の本気の『水鉄砲』の準備動作。

 

「アクアちゃん、私の自慢の炎、受けてみて!!」

 

対するファルナは長い髪を赤々と燃え上がらせる。

そしてポニーテールの先に手を沿わせ、手から腕にかけて炎を纏わせる。

 

「『水鉄砲』!!」

「『火炎放射』!!」

 

 

同時に放たれる、互いの全力全開の得意技。

激流の放射音と、炎が燃え盛る音。

 

それらが接触した瞬間・・・

 

 

ブシャアァァァッ!!

 

 

と、激しい水蒸気がゴールデンボールブリッジ一帯を埋め尽くす。

 

「うわっ…!」

 

「くっ…!」

 

スゥとノンは水蒸気に巻き込まれ、思わず腕で身を守ろうとした。

トレーナー二人の視界は完全にホワイトアウトし、

互いのパートナーの状況を見ることが出来ない。

 

 

そんな中、ファルナとアクアはまだ技を出し続けている。

絶え間なく発生する水蒸気。

 

 

 

「くぅっ…ファルナちゃん…

 姿は見えませんけど、まだ火炎放射の手応えが有ります…!」

 

「アクアちゃん、私が苦手な水属性の攻撃だけど…

 負けないよ!!」

 

 

視界が遮られているのはポケモン側の二人も同じ。

技を撃ち合う相手が見えない状況の中、まだ技が拮抗している手応えを頼りに

力の限り『水鉄砲』と『火炎放射』を出し続けていた。

 

 

 

「チッ、この視界では…」

 

「下手に指示を変えられない…!!」

 

スゥとノンは、発生し続けている水蒸気に包まれながら考える。

双方共に、技を中断して瞬時に回避する事は

この視界ゼロの中ではリスクが大きすぎる。

 

そう考えを巡らせた結果、二人とも出した結論は同じ。

 

ファルナかアクアのどちらかが精神力を使い果たすまで

『根競べ』するしかない。

 

 

暫くこのような拮抗状態が続き、発生する水蒸気が弱弱しくなってきた。

『水鉄砲』か『火炎放射』の威力が落ちたか、それとも…

 

 

水蒸気が晴れ、スゥとノンは互いのパートナーの姿を視認出来るようになった。

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

「ひ、引き分け…!」

 

 

 

そこには肩を上下させて息を上げるファルナとアクアの姿があった。

どうやら力のバランスが崩れないまま、互いの技の威力が弱まっていったようだ。

 

「ファルナ!大丈夫か?」

 

「う、うん…!だけど、もう火炎放射は撃てなさそう…」

 

「アクア、まだ戦えるか?」

 

「はい、体はまだ大丈夫です!

 でも、私の方ももう精神力が…」

 

ファルナとアクアの双方とも、炎と水を操るための精神力を使い果たしていた。

しかしまだ体力は十分残っている。

 

そうと分かれば、スゥもノンも、次に取る行動は決まっていた。

何も彼女らが使える技は『火炎放射』と『水鉄砲』だけではない。

 

 

「ファルナ、よく水鉄砲を耐えきったな!

 …さあ、お前の得意技は火炎放射だけじゃないだろ?」

 

「えへへ、そうだね!

 …

 …えぅ?

 …スゥ、また私を力持ち扱いしてるでしょ!!」

 

「あはは!

 だけどこういう時こそ使い時だ!

 行くぞファルナ!『メガトンパンチ』!!」

 

「もう、しょうがないんだから!

 アクアちゃん、ちゃんと防御しないと危ないよ!

 『メガトンパンチ』!!」

 

ファルナは右の拳を強く握り締め、一気にアクアに向かって飛びかかった。

 

「アクア!盾を作って『体当たり』だ!」

 

「はい!まだ終わってないですもんね!

 こっちも行きますよ、ファルナちゃん!」

 

向かってくるファルナに立ち向かうように、アクアは右腕に

甲羅状に輝く光の盾を作り、体当たりを仕掛ける。

 

 

再びファルナとアクアの攻撃が真正面からぶつかりあう。

 

アクアに向かって振り出されるファルナの拳。

それを防ぎつつ押し返そうとするアクアの光の盾。

 

 

ビキィッ!!と、堅い音が響く。

 

 

「っく!?ひ、ヒビが…!!」

 

ファルナの拳を起点に、アクアが張った光の盾がヒビ割れている。

驚く表情のアクアに対し、勝利を確信したファルナは

高らかに宣言する。

 

「アクアちゃん!

 今回は…私の勝ちだよ!!」

 

至近距離でアクアに向き合うファルナがそう言った途端、

アクアの光の盾が砕け散り、強い衝撃波が発生した。

 

「きゃあっ!!」

 

光の盾が砕けた衝撃で、大きく後ろに弾き飛ばされるアクア。

この瞬間、スゥもファルナも勝負が決まったと思った。

…のだが。

 

 

 

「まだだ、アクアっ!!」

 

 

 

 

ノンの力強い声がその場に響く。

その声が、宙を舞うアクアの耳に届いた。

 

「ぐっ…!諦めません!!

 『水鉄砲』!!」

 

「な、何っ!?ファルナ!避け…!!」

 

アクアには最後にもう一発だけ、水鉄砲を放つ余力が残っていた。

先の撃ち合いとは比べるまでもなく弱々しい水鉄砲が、

油断していたファルナに直撃した。

 

「えっ…?ええっ!!?

 きゃあっ!!」

 

たとえ威力が大きく落ちていようとも、カメールに進化したアクアの一撃。

その辺の野生のポケモンが扱う技の威力とは訳が違った。

弱点属性の攻撃である上に、防御を取る間も無くモロに受けてしまい

堪らずファルナはその場に倒れてしまった。

 

「くっ…うう…」

 

ギリギリ最後の一撃でファルナを戦闘不能にしたアクアもまた、

地面に激しく叩きつけられ、同じく戦闘不能となった。

 

 

スゥは倒れて動けなくなったファルナの元に急いで駆け寄る。

 

「ファルナ、ごめん!

 勝てたと思って油断した…」

 

「う、ううん…私も同じだったよ。

 やっぱりアクアちゃんは強いね、簡単には勝たせてくれないね…」

 

「ああ、だけど苦手な属性相手によく頑張ったな!

 今回は引き分けだけど、今度こそリベンジしないとね。」

 

「うん!

 あ、そうだ。アクアちゃんの方は大丈夫かな・・・?

 遠慮無しでメガトンパンチしちゃったけど・・・」

 

ファルナは、吹っ飛ばされたアクアの身を案じて

彼女の方を見やる。

そこには、アクアの調子を心配したノンの姿もあった。

 

 

「アクア、大丈夫か?

 よく最後まで頑張ったな、お疲れ様。」

 

ノンはギリギリまで力を出し尽くしたアクアを労い、

彼女の頭を撫でて言う。

 

「ノンさん…えへへ、ありがとうございます。

 だけど、有利な属性なのに引き分けちゃいました…」

 

アクアは彼女の言葉の通り、得意であるはずの炎属性のファルナに

引き分けてしまった事を気にしていた。

陰った表情の彼女に、ノンは微笑みながら言う。

 

「そんなにがっかりするな。

 得意な属性だからって、必ず勝てるって訳じゃないんだ。

 こんな事だってある。また鍛え直せばいいだろ?」

 

「ええ、そうですね!」

 

彼の言葉に、アクアは気を取り直して明るく返事をした。

 

そんな二人の場所へ、スゥとファルナが近づいてきた。

 

「アクアちゃん!大丈夫?」

 

ファルナは戦える体力は残っていないものの、

立ち上がって歩く程度の事は問題が無いようだ。

アクアの前で背を屈ませて彼女の心配をする。

 

「あ、ファルナちゃん!

 ありがとうございます、少し休んだら体も動くと思います。

 また勝負が終わったら沢山お話しましょうね!」

 

アクアはファルナに笑顔を向けて答える。

今この場で話したい事も沢山有るのだが、まだスゥとノンの

決着は着いていない。

 

ファルナも同様、アクアと今すぐにでも話をしたい気持ちを抑えて

手短に彼女に言う。

 

「えへへ、良かった!

 アクアちゃん、すっごく楽しかったよ。

 ・・・次も楽しみにしてるね!」

 

「ふふ、引き分けですけど、気持ち的には

 今回は私が負けてしまった気分です。

 ・・・私も、次を楽しみにしてますね!」

 

そうしてファルナとアクアは握手をし、

次に戦う時までには更に強くなる事を決意した。

 

スゥとノンは、バトルを続行する為に

それぞれのパートナーをモンスターボールの中に収納する。

 

4対4の長丁場のバトル。

それもようやく半分が終了した。

スゥもノンも、互いに戦力は残り2人。

 

・・・しかし、スゥの悩みの種、コイキングの「ベルノ」。

現状、彼の活躍にはほとんど期待出来ない。

実質、スゥの戦力は1体。

彼は残るメルティに望みを託して、ノンの2体のポケモンに立ち向かう。

 






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