まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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ハナダシティ編、第4話です。
本話では、前話で新たに仲間になったポケモンが登場します。
予想出来ている方が多いと思いますが、そのポケモンがしばらくスゥの悩みの種となります。
そんな中、久しぶりの「彼」との再会で・・・


Report5-4 [悩みの種(前編)]★

ゴールデンボールブリッジでの5人勝ち抜きバトルを難なくクリアしたスゥ達。

2日間に渡るこのイベントだったが、スゥ達が挑む前日にも、彼らと同様に

難なく制覇したトレーナーが居たらしい。

 

スゥは橋を渡った先にいる『ソラ』と名乗る男から賞品として

『一人のポケモン』と、売ればいい値段になるらしい『金の玉』を受け取った。

 

資金繰りを考えていたスゥにとって、このイベントで勝ち抜いた賞金と、

『金の玉』は非常に有難いものであった。

 

今、彼らが居るのは再びハナダシティのポケモンセンター。

ブリッジでの5人勝ち抜きバトルで疲れたファルナ達を回復させる為、

一旦引き返した・・・というのは1つの理由。

 

彼らがブリッジを渡った先に進まず戻ってきたもう1つの理由があった。

それは、今スゥが頭を抱えている理由と同じものであった。

 

_____________________________

 

 

「はぁ…まさかこれ程だなんて…

 どうしたらいいんだ…」

 

ポケモンセンターのロビーで、スゥは椅子に座り込んで

頭をがっくりと下げながら深く溜息をついていた。

 

その隣ではファルナ、メルティ、ピコの3人が同じく腕を組んで

考え込んでいる。

 

 

 

スゥ達は、実は一度ゴールデンボールブリッジの先にある岬へと足を運んでいたのだ。

その岬は通称『恋人岬』と呼ばれるデートスポットでもあるのだが、

昼間はトレーナー達が互いにポケモンを戦わせ合う、練習場でもあった。

 

スゥは恋人岬にいるトレーナーを相手に、ソラから貰った『一人のポケモン』を

一度戦わせてみた。

 

その結果は…まあ散々なものであった。

スゥはこれまで旅を始めてから経験した事のない、一方的な負けを喫した。

 

そして気絶してしまったそのポケモンを治療するため、恋人岬から

ハナダシティのポケモンセンターへと引き返して来て今に至る。

 

 

「うーん…ソラって人が言ってた通りだったね…

 『とてつもなく弱い』って…」

 

ファルナは、スゥが貰ったポケモンの戦いぶりを思い出しながら

苦笑いしてスゥに同調する。

 

普段は彼女も戦闘における強い弱いについて、あまり多くを語らないのだが

今回については、流石に擁護のしようが無い様子。

 

「んにぃー…

 ま、まあスゥにぃなら何か思いつくんじゃない?

 今までボクもメルねぇも、そうしてくれたんだし!」

 

ピコは考える事をやめ、スゥに丸投げするように

彼に言葉を放つ。

 

「お前なあ、簡単に言ってくれるけど…」

 

スゥはピコの言葉に対して、頬を掻きながらピコの方を向いて答えた。

 

「わ、私もちょっと言い辛いんですけど

 流石に攻撃手段が一つも無いのは、いくらスゥくんでも…」

 

 

そう。メルティが言った通り、スゥが貰ったポケモンは

攻撃手段が1つも無かったのだ。

 

スゥがソラから貰ったポケモンの名は『コイキング』。

ソラはそのポケモンは、いずれ強力なポケモンに育つが、

それまではとてつもなく弱く、

そしてその弱い期間に耐えられなかったトレーナーに捨てられたと言っていた。

 

スゥは彼の話を聞いた時、「いくら弱いからと言って捨てるのは

あまりにトレーナーとして短絡的で責任感が無いのではないのか?」と思っていた。

 

しかし、いざ戦わせてみたらコイキングを捨てたという

トレーナーの気持ちも全く分からない…という気はしなかった。

さすがに捨てるという考えには至っていないようであるが。

 

 

スゥはいずれ強く育つというコイキングに、

出来るだけ強そうな名前を考えてあげようと、

彼に『ベルノ』という名前を付けていた。

 

 

「ベルノ…まさか攻撃が何も出来ないとは思ってなかったよ…」

 

スゥは、コイキングのベルノをこれからどう鍛えるべきか

うんうんと唸りながら考えていた。

そうしている内に、ポケモンセンターの治療受付から呼ばれた。

 

ベルノの治療が完了したようだ。

スゥはベルノが入ったモンスターボールを受け取り、彼をボールから出した。

 

ボールから出た赤い光がポケモンの姿に収束する。

全身をうろこ状の模様の赤い服で覆い、頭には小さな王冠を乗せたポケモン。

腕には袖余りのようにだぼついた、魚のヒレのような装飾を持つ。

それがコイキングのベルノであった。

 

ベルノは袖をブンブンと振りながら、大きな声でスゥ達に言う。

 

 

「わーっはっはっ!!待ちわびておったか家来達!!」

 

 

スゥ達の事を『家来達』と呼ぶベルノ。

スゥは苦笑しながら、ベルノの体調を心配した。

 

「あ、あははは…

 ベルノ、体は大丈夫か?」

 

「うむ、少し日に当たって体が乾いてしまったようじゃ。

 こればかりは、いくら我と言おうと気を失っても仕方ない。

 心配には及ばん!!わははは!!」

 

ベルノは両手を腰に当て、大声で笑いながら彼に答えた。

ベルノの返事に疑問を持った彼ら。

 

メルティとファルナが恐る恐るベルノに尋ねる。

 

「あ、あれ…?

 ベルノくん、自分が気を失った理由を覚えてないんですか…?」

 

「べ、ベルノ君…本当に大丈夫?

 結構痛そうな技を受けて気絶してたんだけど…」

 

彼女らの問いかけに、ベルノはいぶかしげな表情を浮かべて言葉を返す。

 

 

 

「うむ…?何を言っておるんじゃ主らは。

 我が誰かに負ける訳無かろう!!」

 

 

その返事を聞いてスゥ達は驚愕した。

再び確認するように、今度はピコがベルノに尋ねる。

 

「んに!?ベル、ホントに戦った相手の事覚えてないの!?

 強く打って忘れちゃった…?」

 

「さっきから主らは何を言っておる。

 あのズバットの事であろ?

 しかと我が倒したじゃろうが。

 しかし油断した…体が乾くと気を失ってしまうのは我の弱点じゃからな。

 まあ、一つくらい弱点が無いと不公平というものじゃろ!

 何と言っても、『我は最強』じゃからな!わはははは!!」

 

 

どうにもベルノと、残りの4人の認識が噛み合っていない。

スゥはピコ達とベルノの会話で一つ確信した。

 

(ベルノ…この子は自分が負けるなんて思ってないんだ。

 多分、『負けた』っていう事は全部綺麗に忘れてる…)

 

 

スゥは再び顔を手で覆って溜め息をついた。

そして思い悩んだ表情でファルナ達に言う。

 

「ちょっとごめんみんな…

 少し考え事をしたいんだ。悪いんだけど、少しの間

 みんなボールに入ってて貰ってもいい?」

 

ファルナはスゥの表情を見て心配していたが、

彼の頭の整理が必要だと感じ、素直に従うようにした。

 

「うん…私はいいよ。スゥ、あんまり思い詰めないでね。」

 

スゥの気持ちを一番良く分かっているファルナがそう言うなら…と、

ピコとメルティも承諾した。

 

そんな中、能天気にもベルノはスゥに言う。

 

「なんじゃ家来よ。主も日にやられたか?

 まあよい、休息を許そう!わはははは!」

 

ファルナ達3人は皆同じように頭を垂れ、

モヤモヤとした気持ちを抑えていた。

スゥが悩んでいるのは、他でもないベルノの弱さと、

それに追い打ちをかける彼の尊大な態度である。

しかし自分達も軽々しく、ベルノを仲間に入れる事を了解したのだ。

自分達にも全く責任が無いわけではない。

 

スゥだけではなく、自分達も頭と気持ちの整理が必要だと思い、

各々は彼のボールに収まった。

 

ファルナ達をボールに格納し、スゥは少し気分転換しようと

ポケモンセンターの外へと足を運ぶ。

 

________________________________

 

外はもう夕刻。

ハナダシティの街中に敷かれた水路や噴水が、

夕日に赤く照らされて輝いている。

 

スゥは何気なしにゴールデンボールブリッジへとやってきた。

勝ち抜きファイブバトルも終了し、挑戦者を待っていた5人のトレーナー、

そして賞品を渡す役を担っていたソラの姿はもう無かった。

 

日中はポケモンバトルで賑わっていた橋の上。

今は人通りも少なく静かなものであった。

 

スゥは橋の手擦りに両腕を乗せ、ぼんやりと橋の下の水面を見ていた。

 

 

「何だか…初めてだなあ、こういう悩み…」

 

 

水面に写る自分の顔を見ながら、彼はつぶやく。

 

旅を始めて、今までも悩む事はもちろん有った。

まだ旅立ったばかりで戦いに不慣れな自分とファルナとで、

野生のポケモン達とどうやって戦おうか、と考えたこと。

そしてピコの電撃が全く通用しないイワーク相手や、

決定打の無いメルティとどのように戦おうか、と考えたこと。

 

それらの悩みの解決法を自分なりに考え、

彼らが得意とする部分を活かそうとした結果、

何とか上手く行ってきた。

 

しかし今回のベルノの件は全くの別物であった。

何せ攻撃手段が無い。

 

戦わせてみたら、彼が使える技は…技と言って良い代物かも怪しいが、

『はねる』事しか出来なかったのだ。

 

さすがに『無から有』を生み出す手段までは、スゥには

考えが及んでいなかった。

 

「今なら少しだけど、アイツの気持ちが分かるかも…」

 

スゥはダイチの事を思い出す。

おつきみ山でのピッピ捕獲騒動の時。

『最初から才能のある、強いポケモンを連れてさぞやる気が出る事だろうな。

 そんなお前に俺の気持ちが分かる訳が無い。』

と彼はスゥに言い放った。

 

「はあ…本当に今まで、仲間に恵まれてただけだったのかな…」

 

相変わらず浮かない顔でスゥはぼんやりと水面を見続けていた。

 

 

 

 

そんな彼に、誰かが近づいてくる。

 

 

 

 

「…ゥ!…おい、スゥ!」

 

その人物から耳元で大声で呼びかけられ、

ハッとしてスゥは振り向いた。

 

「あっ!!ノン!!」

 

「よう!久しぶりだな、スゥ!」

 

スゥに呼びかけたのは、旅立ちを同じくしたノンであった。

久しぶりの再会に、スゥは先程までのモヤモヤした考えを一瞬忘れ、

明るく答える。

 

「久しぶり!トキワシティ以来かな?

 ノンもハナダシティに来てたんだな!」

 

「ああ、ハナダに来てから少し足踏みしてるけどな。

 どうしたんだ?さっきから見てたが、ボーっと浮かない顔をして。

 …ファルナとケンカでもしたか?」

 

ノンは腕を組み、カラカラと笑いながらスゥをからかうように言う。

 

「け、ケンカなんかしてない!

 お前こそ、アクアを怖がらせてないか?」

 

ムッとした表情でスゥはノンに言葉を返す。

ノンは、スゥが少しだけ普段の調子に戻ってきたのを確かめると

眼鏡を指で押さえて答える。

 

「ハッ、何を言うかと思えば。心配無用だ。

 こっちはアクアだけじゃない、他の仲間も随分強くなったぜ。

 …で、何を悩んでるんだ。普段能天気なクセに、珍しいな。」

 

彼の再度の問いかけに、スゥは先までボーっと考えていた事を思い出す。

再び表情を暗くしたスゥは、ノンに少し相談してみようかと思い

彼に答える。

 

「能天気ってヒドいな…

 俺でも悩む事ぐらいあるよ。

 仲間の一人なんだけど、どうやってこれから鍛えようか考えてたんだ。

 だけど、どんなに考えても方法が思いつかなくて…」

 

スゥの答えに、ノンは目を見開いて言った。

 

「何だ、お前もか!

 俺も同じ悩みをつい最近持ってるぞ。」

 

「えっ、ノンも?

 意外だな、そんな悩みなんて持たずに卒なくやってると思ってた。」

 

「俺を何だと思ってるんだ。

 俺もお前も、どっちもまだトレーナー初心者だろ。

 こういう悩みくらい持つさ。」

 

「ははは、確かに!

 何か、お前も同じ悩み持ってるんだって思ったら

 少し気が楽になったよ。」

 

「そうか、まあ俺は悩み始めてから少し時間が経ってるからな。

 気持ちの整理もだいぶ出来てきた。

 今日も気晴らしに、恋人岬でバトルしてきたところだ。

 …スゥ、お前も強くなったんだろ?

 ちょっと俺の気晴らしに付き合え!」

 

ノンはモンスターボールを構え、スゥに勝負を仕掛ける。

 

「気晴らしか…うん、とりあえずやってみるか!」

 

スゥの方も、アクアや新しい仲間の力を見てみたいと思い

勝負を受けることにした。

 

 

「そう来なくてはな!

 俺の方は4人居るぜ、スゥは何人仲間がいるんだ?」

 

「こっちも同じ、4人だ!」

 

「それなら4対4の勝負にするか。

 同時に一人目を出すんだ、いいな?」

 

「ああ、それでいいよ!

 それじゃあ…」

 

スゥは一人目のポケモンを選ぶ。

同じくノンも選び、互いに勝負の合図を交わす。

 

『勝負だ!』

 

__________________________________

 

「まずはピコ、行くぞ!」

 

スゥはピコを繰り出す。

ピコは目の前にいる人間が、スゥの幼馴染のノンである事が分かってから

早く戦ってみたくて仕方ない様子であった。

 

「んにっ!!

 スゥにぃ、ちょっと元気になったね!

 この人がノンって人かー。」

 

スゥがピコを出したと同時に、ノンも一人目を繰り出した。

 

「行けっ、ツムジ!!」

 

ノンはポッポのツムジを繰り出した。

 

「はーいっ!

 スゥお兄ちゃん、久しぶりだね!」

 

「つ、ツムジ!?」

 

彼女の姿を見たスゥは驚く。

ポッポのツムジ。

彼女はスゥが旅立って最初の頃に知り合ったポケモンだ。

コラッタ達に襲われ、傷ついていた所をスゥが治療し、

その後トキワシティまで飛んで連れて行って貰った事がある。

 

「そっか、ノンと旅をするようになったんだ!

 久しぶりだな、ツムジ!」

 

「んにっ!?スゥにぃ、この子の事も知ってるの?」

 

「ああ、ファルナも知ってるよ。

 …まあ、それは後で話そうか!行くよ、ピコ!」

 

「うん!」

 

スゥは色々と経緯を聞きたい気持ちが湧いたが、

今はバトルに専念することにして切り替えた。

スゥの反応を見て、ノンは期待通りだと思い

笑みを浮かべながら話す。

 

「お前との事もツムジから聞いたぜ。

 …話は後でのお楽しみって事だ!

 ツムジ、空を飛べ!」

 

「はいっ!」

 

ノンはツムジに一旦距離を取るように指示した。

スゥの繰り出したピコを見て、彼は内心穏やかでは無かった。

 

(ピカチュウ…電気タイプか、ツムジもアクアも苦手属性だな…!)

 

ノンは早速ツムジを交代させようかとも考えたが、

極力今の戦力をスゥに見せないように、彼女を続投する事にした。

 

 

空を飛び、ピコから距離を取ったツムジを見てスゥは彼に指示を出す。

 

「ピコ、空から技を打ってくるぞ!

 お前の『隠し玉』、ちゃんと発動しておいてくれ!」

 

「んにっ、分かったよ!アレだね!」

 

スゥが指示した『隠し玉』とは、『電磁波』の事である。

ノンにその技の名前を言うと、恐らく接近技を出さないように

対策を取られてしまうと判断し、あえて言わなかった。

 

「『隠し玉』…?

 何か分からないが、警戒した方が良さそうだな!

 ツムジ!『かぜおこし』でピコを足止めするんだ!」

 

「いくよーっ、風起し!!」

 

ツムジは空中で翼を大きくはためかせる。

彼女が翼を前に突き出す毎に、彼女の小さな体からは

想像もつかない強風がピコを襲う。

 

「んにーっ!!」

 

ピコの軽い体は、その強風に煽られそうになる。

吹き飛ばされないように踏ん張るだけで精一杯のピコ。

その様子を見てノンは続けて指示する。

 

「よし、『電光石火』だ!!

 連撃で一気に決めるぞ!」

 

ノンの指示の後、上空から猛スピードでピコ目がけて急降下するツムジ。

スゥはピコに電気ショックを放つように指示しようとしたが、

それが間に合わない程の速さで初撃を受けてしまった。

 

「痛っ!

 はっ、速い!」

 

ツムジの電光石火を受け、大きなダメージは無いものの怯むピコ。

彼が怯んだ隙を突いて、彼女は電光石火の連撃を浴びせる。

 

「うあっ!くっ!!

 スゥにぃ…この子、滅茶苦茶速いよ!!」

 

「ピコ、耐えられそうか!?」

 

「つっ…!!

 うん、まだ大丈夫だと思う…!」

 

ピコはツムジの連撃を受けながらスゥに答える。

ツムジの体が軽い事が幸いし、

ピコにとってそれほど大きなダメージにはなっていない様子。

 

「いいぞツムジ!

 ピコが倒れるまで繰り返せ!」

 

ノンはツムジの電光石火の一撃一撃が軽い事は承知していた。

しかし、その速さを活かして一度攻撃が当たると、

相手が倒れるまでジワジワと連撃を浴びせる事が出来る。

それがノンにとっての、『火力の低さを補う方法』であった。

 

しかし、今回についてはその手段は通用しない。

 

「そろそろ効いてくるかな…?」

 

スゥはピコに蓄積していくダメージを見計らいながら、

指示を変更するか考えていた。

ピコを見た所、まだしばらく耐えられそうだと思い、

『電磁波』の効力が発揮されるのを待つ作戦にしていた。

 

…そして、その作戦が功を奏した。

 

「きゃっ!!」

 

空を素早く駆っていたツムジが地面に落下した。

ピコが発し続けていた電磁波により、

彼女は体の動きが封じられ羽ばたけなくなったのだ。

 

「ツムジ、どうした!?」

 

ノンは急に倒れたツムジに驚く。

そして、その理由を急いで考える。

思い当たる事は1つ。スゥとピコが言っていた『隠し玉』である。

 

「まさか…そうか、『電磁波』か!!」

 

「流石だなノン。その通りだよ!

 ピコ、一撃で決めるよ!

 電気ショックだ!」

 

ピコは尻もちを付くツムジの前に立ち、

電気袋からバチバチと電流をほとばしらせて

彼女に指を向ける。

 

「あわわわわ…!!」

 

目の前で電撃を放つ準備をするピコを見て

成す術無く怯えるツムジ。

 

ピコはツムジを改めて見ると、同程度の歳の子供だと分かった。

スゥには『一撃で』と言われたが、あまり強く撃つと可哀想だと思い

彼女に優しく言う。

 

「んに?

 キミ、ボクと同じくらい…?

 うーん…じゃあギリギリ倒せるくらいに弱目に撃つね!」

 

「あ、ありがとう…

 …じゃなくて!!

 それはそれで怖いよー!!」

 

「んにーっ!!」

 

「きゃああああーっ!!」

 

ピコは宣言通り、手加減して電撃を放った。

しかし『飛行属性』のツムジにとって、ピコの電撃は強烈だったようだ。

 

ピコの電気ショックを受け、戦える体力が無くなったツムジ。

彼女は恨みがましい目でピコを見る。

 

「ううう…意地悪っ!!」

 

「あ、ありゃ…?だいぶ手加減したんだけどなあ…

 にへへ、ごめんね!後で遊んであげるからさ!」

 

ピコはヘラヘラと笑い、ツムジに謝る。

 

「むぅぅ~…約束だからね!!」

 

 

ツムジが不満気にピコに言うと、ノンのモンスターボールへと戻された。

 

「すまなかったな、ツムジ。 

 頑張ってくれて有難う。

 …さて、二人目はどうするか…

 ピカチュウ相手だしな、アクアは温存しておくか…」

 

電気タイプのピコに対し、苦手属性であるツムジは

健闘するも敗北。

続けて苦手属性である水タイプのアクアを戦わせる事は

ノンの中に選択肢として無かった。

 

…のだが。

 

「ノンー!アクアって人が居るんでしょ!

 スゥにぃもファルねぇも、すっごく強いって言ってたよ!

 ボクとも戦わせてー!」

 

兼ねてからノンとアクアの話を聞いていたピコは、

ここぞとばかりにノンにせがむ。

 

「こ、こらピコ!

 こっちから指名するのはダメだろ!

 ノンにも作戦とかあるだろうし・・・」

 

ピコがいつもの我儘を言い出したのを聞き、

スゥは制そうとする。

対してピコはスゥの制止にむくれながら答えた。

 

「に”-っ!だって、今逃したら今度はいつ戦えるかわかんないじゃん!」

 

アクアと戦う事を余程楽しみにしていたのか、

ピコは珍しくスゥが反論し辛い主張をする。

それを受けてスゥは頭の後ろを掻きながら困った様子でピコに話す。

 

「むむ…まあそうだけどさ…

 だけどアクアは水タイプなんだよ。

 電気タイプのお前は有利だからいいけど、それを出せって言うのはなあ…」

 

二人のやり取りを見ていたノンは、スゥ困った表情と

隣で未だにワーワーと喚いているピコを見て笑いが堪えられなかった。

 

「くくっ…!!

 何と言うか、お前のパーティーって俺の想像通り過ぎて面白いな!

 やっぱりそんな感じで振り回されてるんだな。」

 

「わ、笑うなよ! 

 こんなにワガママ言うのはピコだけだ!」

 

ノンに笑われた事にムッとしたスゥは

恥ずかしさを紛らわせるように、強い口調でノンに言葉を返す。

そんな彼の言葉を聞いてか聞かずか、ノンはピコに問いかけた。

 

「くくくっ!

 まあ、話を戻そうか。

 ピコ、そんなにアクアと戦いたいのか?」

 

ノンからの問いかけに、ピコは期待を持ったのか

耳をピンと立て、拳を握りながら彼に答えた。

 

「うんっ!!

 だってファルねぇに勝った事があるんでしょ?

 そんなに強いんなら、ボクも戦ってみたいんだ!」

 

ピコの無邪気な要求に、ノンは悪い気はしなかった。

彼はボールの中にいるアクアに問いかける。

 

「はは…チビ助がああ言ってるぜ、アクア。

 どうする?相手はお前の苦手な電気タイプだけど。」

 

ノンの問いかけに対し、アクアは答える。

 

「ふふっ、いいんじゃないですか?

 あんなに私と戦うのを楽しみにしてくれてるんですもの。

 それに…たまには苦手なタイプの相手とも戦う練習をしないといけませんし!」

 

彼と同様、悪い気はしていないのか、少し嬉しそうな口調のアクア。

彼女がそう言うなら、最早断る理由は特に無い。

ノンは二人目のポケモンを決定した。

 

「ああ、そうだな!

 いけっ、アクア!!」

 

ノンはボールを高く投げ上げた。

空中のボールが開き、赤い光がブリッジの中心に収束する。

 

 

そこにはスゥとファルナがよく知るアクアの姿ではなかった。

トキワシティでは背負っていた亀の甲羅が無くなっている。

クセ毛気味な短い青い髪は長く伸び、衣装も大きく変わっていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「ふふっ、お久しぶりですねスゥさん!

 そしてピコくん、はじめまして。

 『カメール』のアクアです。」

 

スゥはアクアの名乗りにハッとした。

勝ち抜きファイブバトルを余裕でクリアしたもう一人のトレーナー。

その人物が扱っていた『カメール』が印象的だったと

ソラは言っていた。

 

「…そうか、昨日勝ち抜いたっていう人はノン!お前だったのか!

 カメールっていうのは…」

 

スゥの言葉を受け、ノンは眼鏡を指で掛け直しながら言う。

 

「言ったろ、みんな強くなったってな。

 特にアクアは進化したんだ。ゼニガメからカメールに。

 …さあ、リクエスト通りアクアを出してやったぜ!

 勝負の続きだ、スゥ!ピコ!」

 

 

 




前話でスゥが貰ったポケモンはコイキングでした。
進化系のギャラドスというネーミングは、特に意味は無くて
「強そうな名前」という事で付けられたという話を聞いた事があります。
なので、本作でも何となく強そうな名前、という事で「ベルノ」と名付けました。
一応、元ネタとしては水力学で「ベルヌーイの定理」という定理が有るんですが、
それから文字っています。

2017/8/16追記:次話を書いていましたが、区切りの良さを考えて
本話に次話冒頭をくっつけることにしました。
最近少し忙しくて投稿が遅くなってすみません。近々次話をアップしたいと思っています。

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