まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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ハナダシティ編 第3話です。
2話までは日常パートでしたが、本話から再び物語が進行します。

本話は「ゴールデンボールブリッジ」が舞台となります。
ゲーム本編をご存知の方なら、読んでいる途中で「あれ・・・?」と
思って貰えるでしょう。

基本的にはゲーム本編の要素を強く残していますが、
全く同じストーリーではありません。
そろそろその雰囲気が、展開から伝わればと思います。


Report5-3 [勝ち抜きファイブバトル]

ハナダシティに到着して早二日。

休暇を楽しんだスゥ達は、朝のポケモンセンターのロビーで

今日一日の予定を考えていた。

 

4人分、皆の私服を買い、

すっかり目減りしてしまった旅のお金。

 

さて、まずはバトルに勝って賞金を稼がなければ・・・

と考えていたスゥはある広告を見つけた。

 

『勝ち抜きファイブバトル!』

 

と大きな文字でプリントされた紙が

ロビーの掲示板に貼り付けられている。

 

「ん?

 勝ち抜きファイブバトル・・・?」

 

「どうしたの、スゥ?

 何か面白い事が書いてるの?」

 

まじまじと広告を読むスゥに、脇からファルナが尋ねた。

 

「いや、そういえば昨日こんなチラシが有ったなーって思って。

 昨日は休むつもりだったから、ちゃんと中身を読んでなかったんだ。

 どれどれ・・・?」

 

彼が読んでいた広告の内容を要約したらこうだ。

 

 

『勝ち抜きファイブバトル』

 

ルールは単純明快。

ゴールデンボールブリッジで立ちはだかる5人のトレーナーを

連戦で勝ち抜けば、イベントの賞品が得られるというものだ。

 

ただし『連戦』であるため、途中の何人目かで

ポケモンセンターへ引き返して休むことは禁止である。

 

どうやら彼らが休んでいた昨日から始まっていたようだ。

そして期間は今日まで。二日間限定のイベントだった。

 

ハナダシティジムに挑む前の腕慣らしとしても、

スゥは非常に興味を惹かれたが・・・

彼が何より惹かれたのは、その『賞品』である。

 

 

 

見事5人勝ち抜いたトレーナーには、『超豪華な賞品』をプレゼント!

 

 

 

・・・と記されていた。

 

「おーっ!

 『超』豪華な賞品か・・・!

 みんな、これに参加してみないか?」

 

スゥはファルナ達に、ファイブバトルの内容を説明した。

二日間の休暇で体力が有り余る彼らは、そのイベントに

強く興味を示した。

 

「へぇー、賞品って何だろうね?

 面白そう!私はやってみたい!」

 

ファルナは両手の拳を握ってそう答える。

 

「私も自分の力試しをしてみたいです!

 まだ『火炎車』も使い慣れていないですし。」

 

「んにーっ!5人でも10人でも関係ないよ!

 みーんな倒せばいいんでしょ?」

 

メルティ、ピコについても乗り気であるようだ。

 

そうと分かれば善は急げ。

スゥ達は早速ゴールデンボールブリッジへと脚を運んだ。

 

_____________________________

 

そうしてポケモンセンターの北に位置する

金に輝く橋・ゴールデンボールブリッジに辿り着いた4人。

 

橋の両柱には、イベント名を書いたのぼりが掲げられていた。

 

「んにっ!来た来た!

 きんた・・・」

 

「こら、ピコくん。

 その名前で呼んだらいけませんよ。」

 

ゴールデンボールブリッジの和訳を言おうとしたピコを

メルティが制す。

ピコはその呼び名について、意味を分かっている上で

気に入っていたようだ。

その辺りについては、さすがお子様と言った所。

 

スゥは『だから教えたくなかったんだ』と思いながら、

彼を教育してくれるメルティに感謝していた。

 

「あ、スゥ!

 もう戦ってる人達がいるよ!」

 

ファルナは橋の上で戦うトレーナーとポケモン達を見つけた。

二人目、三人目まで勝ち進んでいる者も居るようだ。

しかし、四人目、五人目ではその様子は見られない。

 

橋から悔しそうな表情で引き返してくるトレーナーも数人。

どうやら『連戦で五人』を勝ち抜く事はそう容易では無さそうであった。

 

 

しかし怖気づかないスゥ達。

ファルナとピコについてはニビシティジムでの戦い、

そしてメルティはおつきみ山での活躍、

それらが彼らの自信の源となり、負ける心配をしていない様子。

 

 

 

そうして早速、ゴールデンボールブリッジに乗り込み

勝ち抜きバトルに挑戦するスゥ達。

 

 

トレーナー達が扱うポケモンはポッポやコラッタ、ズバットといった

今までスゥ達がよく見てきたポケモン達。

 

おつきみ山ではロケット団員も扱っていたポケモンである。

だが、彼らとはポケモンへの指示の『練度』が全くの別物であった。

 

 

どのトレーナーも、ポケモンとの連携が良く取れており

動きがトリッキーで的確。

ファルナ達の攻撃も一筋縄では当たらない。

 

しかし、二日間しっかりと休暇を取って体力が有り余るファルナ達。

彼女らの力、素早さもまたおつきみ山の頃と比べて一段とレベルアップしていた。

ファルナの『火炎放射』、ピコの『電気ショック』、メルティの『火炎車』。

 

いずれも立ちはだかるトレーナー達を退けるに十分な威力を持つ

各々の必殺技。

順調に三人、四人・・・と勝ち抜いていくスゥ達。

 

 

早くも五人目のトレーナーを相手に戦うスゥ達。

繰り出すポケモンはコラッタの進化系である『ラッタ』。

体格はコラッタと比べて二回り程大きく、

得意の電光石火の威力も速さも段違いのものであった。

スゥはファルナで応戦していたが、素早さはラッタに分があり

彼女の得意の火炎放射がうまく当たらない。

 

 

それなら素早い相手には、それを上回る素早さを。

スゥはファルナからピコに交代させ、ラッタの動きに対応させる。

 

 

彼が素早いピコに交代した理由は一つ。

ラッタの鋭い歯を使った必殺技、その名も『必殺前歯』に強く警戒したからだ。

 

スゥは自分の前に、五人目に挑戦したトレーナーのポケモンが

この技により、一撃で敗北していたのを見ていた。

 

五人目のトレーナーは、ラッタの素早さを活かしながら

必殺前歯による一撃ダウンを何度も狙ってくる。

 

しかし、ラッタを上回る速さでピコは攻撃を避け続けた。

 

そして決着は呆気なくついた。

ラッタの体が急に痺れて動けなくなったからだ。

ピコが隠し玉、『電磁波』をラッタとの攻防中に発動し続けていたのだ。

 

動けなくなったラッタに、ピコは指を突き付け、

いつでも電気ショックを放てる姿を見せつける。

 

五人目のトレーナーは、この時点で降参した。

 

 

 

見事に五人、連戦で勝ち抜いたスゥ達。

五人目のトレーナーがラッタをボールに戻し、スゥに伝える。

 

「・・・いやはや、お見事!

 凄いね、五人勝ち抜いてもまだ君のポケモン達は

 元気そうじゃないか。」

 

彼の労いに、スゥは感謝して答える。

 

「ありがとうございます!

 だけど、コラッタもしっかり育てたら進化して

 こんなに強くなるんですね!」

 

スゥは旅立った最初の頃、野生のコラッタに襲われた時の事を

思い出しながら言った。

野生のコラッタを倒したのは、ファルナがまだヒトカゲの頃。

しかも使い慣れていない『火の粉』ですら倒せるレベル。

それがここまで強くなる可能性を持つポケモンだとは

想像していなかった。

 

正直なところ、五人目のトレーナーが言う程

スゥはあまり余裕を感じていなかった。

 

多角的な動きの素早さに長けるピコが居なければ、

ファルナもメルティも『必殺前歯』で倒されていたかもしれないのだ。

 

スゥの言葉に、五人目のトレーナーは少し嬉しそうに答える。

 

「ははは、そう言われるとこちらこそありがとうだよ。

 コラッタの頃は苦労したんだ。

 でも、コイツもよく俺に付いてきてくれたと思ってるよ。

 ・・・

 さて、見事五人勝ち抜いた君には賞品をプレゼントするよ!

 向こうの岸にいる人から貰ってくれ!」

 

____________________________________

 

彼に言われるように、スゥは橋を渡り切った先に居る男性に話しかけた。

その男性は端正で爽やかな顔立ち。

青年・・・と言うほど若くは無いが、その容姿からは

年齢よりもずっと若く見える。

そんな彼がにこやかに賛辞を送る。

 

「やあ、おめでとう!

 さっきのバトル、ずっと見てたよ。

 こんなに余力を持って勝ち抜いた子は珍しいな。

 昨日もそんな子が一人居たんだ、今回のイベントは

 レベルが高いなあ。」

 

「へえ、どんな人だったんですか?」

 

スゥは『昨日余裕で勝ち抜いた一人』について興味を持ち、

彼に尋ねた。

 

「そうだねえ、年齢は君と同じくらいだったかな?

 とても上手にポケモンを使っていたよ。

 何より印象に残ってるのは『カメール』だね。

 ラッタの『必殺前歯』を受けてもビクともせず反撃していた。

 あれは凄かったなあ・・・」

 

「カメール・・・初めて聞くポケモンです。

 一度戦ってみたいな!」

 

スゥは初めて聞いた『カメール』というポケモンを見てみたい気持ちと、

ラッタの攻撃を物ともしない防御力、そんな相手にファルナ達が

どれだけ戦えるか試してみたい気持ちでワクワクしていた。

 

「おっと、話が逸れちゃったね!

 これが賞品だよ、受け取ってくれ。

 『とても強力なポケモン』だ!」

 

そう言って彼はモンスターボールを一つスゥに渡す。

スゥは『超豪華な賞品』が、まさかポケモンだったとは思わず

戸惑っていた。

 

「ぽ、ポケモンが賞品・・・!?

 ・・・あの、折角ですけど、受け取れません。」

 

スゥはポケモンが物のように扱われている事に嫌な気持ちを覚え、

断ろうとした。

そんなスゥの様子を見て、男は笑いながら言った。

 

「ははは!

 君もやっぱり、あの子と同じような事を言うんだな。

 さっき言った『昨日勝ち抜いた子』もそんな事を言ってたよ。」

 

「そうですか・・・。

 折角ですけど、ポケモンを賞品とか物のように扱うのは俺は嫌です。

 受け取れませんし、出来たらそのポケモンも逃がしてあげて下さい。」

 

スゥは毅然と言う。

彼の態度に、その男は困った表情で頬をポリポリと掻きながら言葉を返す。

 

「うーん・・・実はこのポケモンはワケありでね・・・

 心無いトレーナーに捨てられた子なんだ。」

 

彼の言葉を聞き、スゥは疑問に思う。

 

「捨てられた・・・?

 でも、あなたが言う通りならそのポケモンって

 『とても強い』んですよね。

 どうしてそんなポケモンが捨てられたんですか。」

 

スゥの質問に、男は痛い所を突かれたという顔で

仕方なさそうに答える。

 

「うっ・・・まあ、そう思うよねえ・・・

 正直に話すと、このポケモンは『とても強くなる』と言った方が正しいんだ。

 だけど、そうなるまでは『とてつもなく弱い』・・・。」

 

「と、とてつもなく・・・ですか。

 それで、強くなるまで育てられずに捨てられたって事ですか?」

 

「そういう訳だよ。

 僕はね、捨てられたポケモン達を逃がしたり、

 大事にしてくれそうなトレーナーに譲ったり、

 そういう事をしているんだ。

 ・・・ただの自己満足かもしれないけどね、ははは・・・。」

 

その男はそこまでスゥに正直に話し、改めて彼に言う。

 

「君のように、ポケモンを大事に育てていそうなトレーナーを

 見つける事が、この『勝ち抜きファイブバトル』の本当の目的なのさ。

 表向きにはハナダシティの町興しのイベントって事になってるんだけど。

 ・・・

 どうだろう、この行く当ての無いポケモンを

 大事に育ててくれないかい?

 昨日の子や、君ならそれが出来ると思うんだ。

 どうか、頼む!」

 

スゥは彼の話を一通り聞き、そういう話なら

無下に断ることも気が引けた。

彼はファルナ達に相談する。

 

「みんな、どう思う・・・?

 俺はこの人がくれるって言ってるポケモンを

 仲間に入れてもいいかな・・・と思ってるんだけど。」

 

ファルナ達3人は顔を見合わせて、互いに頭を縦に振る。

答えは3人とも同じであるようだ。

 

「スゥ、私は賛成だよ!

 行く当てが無いなんて可哀想だもん。

 仲間が増えるのは嬉しいし!」

 

「んにっ!ボクもいいよ、新しい仲間だね!

 しかも『すごく強くなる』んでしょ?それならいいじゃん!」

 

「スゥくんなら、その子が強くなるまで育てられますよ。

 私の事だって見捨てずに、みんなと同じように戦えるように

 考えてくれたんですから!」

 

 

3人の言葉で、スゥの気持ちは固まったようだ。

彼はその男に向き直り、手を差し出す。

 

「あの・・・さっきは要らないって言いましたけど、

 やっぱり貰います!

 絶対にその子が強くなるまで諦めずに育ててみせます!」

 

スゥの返事に、その男はパッと表情を明るくして

モンスターボールを渡し、そのまま彼の手をぐっと握った。

 

「ありがとう!!

 君なら出来るよ、どうか大事にしてやってくれ!

 そうだ、『本当の賞品』もあげないとね。」

 

「えっ、本当の賞品・・・?」

 

スゥは受け取ったモンスターボールを腰のベルトに留め、

その男に尋ねる。

 

彼はバッグの中からゴソゴソとその『賞品』を取り出す。

それは金色に輝く、拳大の綺麗な玉であった。

 

そして爽やかな笑顔でスゥ達に言う。

 

「これが本当の賞品だ!

 ゴールデンボールブリッジらしく、『金の玉』!

 いい値段で売れるよ、旅の足しにしたらいいと思うよ。」

 

「き、金の玉・・・ですか・・・」

 

スゥは複雑な表情でその玉を受け取る。

後ろではピコが笑い転げている。

それとは対照的な女性陣のやや冷ややかな視線。

 

その男は親指をぐっと立てて、改めて笑顔で言う。

 

「いいかい、『金の玉』だよ!

 間違えないようにね、『金の玉』だからね!」

 

「わ、わかりましたってー!!

 も、もう俺達は先に行きますよ!」

 

スゥは後ろの女性陣の放つ空気に耐えられず、

いそいそとその場を離れようとした。

 

そんな彼を引き留め、男は別れ際に言った。

 

「ははは!!

 まあ、感謝するよ。その子もいいトレーナーに引き取ってもらえた。

 僕の名前は『ソラ』!

 またどこかで会えるのを楽しみにしてるよ!」

 

ソラと名乗ったその男は、改めてスゥに握手をする。

スゥも自分の名前を名乗り、ソラに別れを告げた。

 

そして去っていくスゥを見届けたソラ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ふふ、相変わらずの名演技じゃないのソラ。

 今回は二人も『狩り甲斐』のある子が見つかって良かったわねぇ?」

 

岩陰から現れた、黒く露出の多い服を纏った妖艶な女性。

彼女はソラに怪しく笑いながら言う。

ソラは彼女に、得意の爽やかな笑顔で答えた。

 

「・・・やだなぁ、スフィア。狩るなんて人聞きの悪い。

 僕はただ強い相手と戦いたいだけさ。

 さーて、『あの二人』はちゃんと育ってくれるかな~・・・?」

 

 

 

 




スゥが渡されたポケモン、分かりますかね?
バレバレだとは思いますが、次話より登場します。
本話は色々な物事をボカして書いてるので、読み辛かったらすみませんでした。

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