まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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おつきみ山を抜け、ハナダシティ編のスタートです。
戦い続きの中、発展した都市に着き休息を取ることにしたスゥ達。

おつきみ山でボロボロになったスゥの服を新調する為、町を散策します。
いわゆる日常パートですね、続きをどうぞ!


~第5章 ハナダシティ編 ~
Report5-1 [ハナダシティの休日 ー男の子組の服選び―]


おつきみ山でのピッピ達とのダンスの後。

ピッピ達とピクシーはそれぞれの棲み処に戻っていった。

それを見送ったスゥとツルハ達は広場で野宿をし、一夜を明かした。

 

夜が明け、スゥはツルハにおつきみ山の出口まで

案内され、出口が見えてきた所でツルハに別れを告げようとしていた。

 

「それじゃあ、ツルハ。

 色々ありがとうな!」

 

「ううん、こっちこそありがとうね!

 みんなのお陰で昨日は最高の一日だったわ!

 ピッピ達とダンスも出来たし、

 『月の石』まで貰っちゃったし!」

 

ツルハは満足そうな顔で彼に礼を返す。

しかし彼女はまだおつきみ山の中で『古代ポケモンの化石』

を探し回るつもりのようだ。

 

二人は互いに握手を交わし、スゥは

ハナダシティに向かう洞窟の出口へ向かっていく。

 

ファルナ達もツルハにお辞儀をして、

彼の後に続いていく。

 

その時、ツルハはファルナの腕をそっと掴んで耳打ちした。

 

「あ、そうだファルナちゃん。」

 

「えぅ?ツルハさん?」

 

「スゥのことでちょっとアドバイス!」

 

ファルナは彼女の言葉にキョトンとしながら、次の言葉を待っている。

 

 

 

「時々でいいから、『ドキッ』とする恰好をスゥに見せてやりなさいね♪」

 

 

 

「・・・?

 ドキッとする恰好って・・・どんなの?」

 

ファルナは言葉の意味に今一つピンと来ていない様子。

ツルハはニヤついた顔で、首を傾げる彼女の耳元で答える。

 

「色々あるけれど、一番簡単なのは『肌』を見せるのよ、『肌』を!

 水着とか・・・ね。

 男って単純だから、簡単にメロメロになるわよ♪」

 

ツルハの回答に、ファルナはボッと顔から火を出した。

 

「は、肌って・・・!

 む、無理だよ!ムリムリ!!

 恥ずかしくて死んじゃうから!!」

 

「あはははっ!

 ほら、スゥがもう先に行ってるわよ!

 私のアドバイス、役に立ててね!」

 

ツルハは肩で笑い、ファルナを送り出す。

 

「がうぅ・・・

 か、考えてみる!それじゃあねツルハさん!

 ・・・

 スゥ、待って~!!」

 

出遅れたファルナは慌てて駆けながら洞窟を抜けていった。

 

 

 

「は~、スゥかあ・・・

 もう彼女持ちだったのねー、残念・・・。」

 

溜め息をつくツルハにエコーが元気づける。

 

「キキッ、ツルハ、元気出して!」

 

「ふふ、エコー。ありがとうね。

 ・・・まっ、いい男なんて世の中沢山いるわ!

 エコーも、いい女だって沢山いるんだから

 今後に期待してなさい!」

 

「キキッ!?な、何の事か分からないな~」

 

そんな会話を二人でしながら、スゥ達を見送ったツルハ達。

 

『みんな、元気でね!』

 

 

 

 

 

 

 

~ 第5章 ハナダシティ編 ~

 

Report5-1 [ハナダシティの休日 ー男の子組の服選び―]

 

ハナダシティのポケモンセンターに到着したスゥ達。

時間は朝の11時ごろ。

宿泊用の部屋に入り、荷物を置いて一休みしていた。

スゥは髪を結わえていた紐をほどき、ファルナ達にこれからの予定を提案する。

 

「みんな、とりあえず今日と明日はゆっくり休まないかい?

バトル続きで疲れてるだろうからね。」

彼の言葉にウキウキしながらファルナが答える。

 

「えっ、いいの!?

 さっき見てたら綺麗な街だし、

 たくさんお店があったし、私は外を観光したいな!」

ピコがそれに乗って賛同する。

 

「んにっ!遊びに行きたーい!

 ご飯もまだだし、外に行こうよ!」

 

ファルナ達が外に出かける提案をしている中、

メルティはスゥが着ている服を見て彼に言う。

 

「改めて見たらスゥくん、服がボロボロですねぇ・・・

 先に新しい服を買いに行かないといけませんね!」

 

彼女の言葉を聞いて、ファルナとピコがスゥの姿をまじまじと見る。

 

「あ、そういえば・・・

 そうだね!まずはスゥの服を買いに行こ!」

 

「人間さんの服って元に戻らないんだね~。

 不便なの。早く服買ってご飯食べに行こうよ!」

 

「ありがとう。

 それじゃあ悪いけど、ご飯の前に買いに行こうかな!」

 

スゥは皆に感謝しつつも、

ピコがさり気なく聞き捨てならない言葉を出した事が引っ掛かった。

 

 

「・・・ん?

 ちょっと待ってピコ・・・だけじゃなくて、ファルナもメルティも。

 みんなの服って破れたり汚れても元通りに戻るのか?」

 

 

スゥの質問に、3人は顔を見合せた。

ファルナが代表してスゥに答える。

 

「あれ、スゥ知らなかったの?

 私達の服って『体の一部』みたいなものなの。

 成長したら、服もそれに合わせて変わっていくの。

 私は進化してから服が変わったでしょ?

 そういう服は、汚れても元通りになるんだよ。」

 

 

ファルナの答えに、スゥは今までの旅を思い出して納得した。

 

 

「そういえば・・・バトルの後で汚れても

 いつの間にか元に戻ってたもんなあ。洗濯した事無かったし。

 やっぱり不思議だな、ポケモンって・・・」

 

些細な事ながらも、新しい人間と違う点を知って興味深そうにするスゥ。

腕を組む彼を見ながら、ピコは逆に不思議だという顔で言う。

 

「ボク達にとっては当たり前なんだけどねー。」

 

「あ、でも着替えが出来ない訳じゃないですよ?

 いつも寝る前は着替えてますしね。」

 

メルティの言葉を受けて、スゥはふと考える。

 

「そうか、それじゃあバトルの時はともかく、

 遊ぶ時くらいはみんな自分の好きな服を着れた方がいいよなあ・・・」

 

そうつぶやいた彼の言葉に

ファルナとメルティの女性組は耳をピクッとさせて反応した。

 

「スゥ、私達の服も買ってくれるの!?

 人間さんの服って着てみたかったんだー!」

 

「嬉しいです!!

 それじゃあ、早く服屋さんにいきましょう!」

 

すっかりその気の二人。

ピコだけは大して興味が無いのか、二人がはしゃいでいる理由がよく分かっていない様子。

 

「ファルねぇとメルねぇ、ご飯の時よりも楽しそう・・・?」

 

そんな中、スゥは自分の発言の軽率さを悔やんでいた。

その理由はトキワシティでの一件である。

 

ファルナにリボンを買ってあげた時の事だ。

並んでいた女性服の値札の数字を思い出し、

はしゃぐ二人に顔を背けてつぶやいた。

 

 

 

「・・・お、お金足りるかな・・・」

 

 

 

_________________________________

 

ハナダシティの街中へと繰り出したスゥ達。

街の様々な建物を見ながら服屋を探す。

 

 

『ハナダシティ』。

別名『水の都』とも呼ばれている。

その名前の由来は、1つにハナダシティの街の景観による。

 

街の至る所に、噴水や修景用の水路といった水を使った建造物が並ぶ。

その中でも一番の名物、ハナダシティの北側に流れる川にかかる

大きな金色の橋『ゴールデンボールブリッジ』。

それを渡った先には岬があり、その場所もまたデートスポットとして

よく知られる場所であった。

 

そして2つ目の理由は、

この街のジムリーダーが『水タイプ』のエキスパートだという事である。

 

スゥ達はハナダシティのガイドマップから

このような情報を得ていた。

 

「水の都かあ・・・

 今まで見た街の中では一番綺麗な街だな。」

 

「ほんと!どこを見ても水がキラキラしてるね!

 それに、あっちに見える金色の橋、凄く綺麗!」

 

「あの橋が『ゴールデンボールブリッジ』っていう橋なんですかね・・・?」

 

ファルナとメルティが目をやる金色の橋。

スゥは彼女らが言う通り、それがゴールデンボールブリッジであるのだろうと

二人に伝える。

 

「ゴールデン・・・ボール・・・ねぇ・・・

もうちょっと名前が何とかならなかったのかな。」

 

小さい声でスゥは口元を押さえながらつぶやく。

ポケモンであるファルナ達3人には分かっていないだろうが、

スゥはその橋の名前の『直訳』が分かっていた。

 

彼の気持ちなど知る由もなく、好奇心旺盛なピコが尋ねる。

 

「ねぇスゥにぃ!ゴールデンボールブリッジってどういう意味?」

 

(うわ、やっぱりこうなるかー!)

 

スゥは後頭部を手で掻きながら、どう答えたら良い物か悩んでいる。

その『直訳』を女性陣に伝えたら、どんな表情で見られるか分かったものではない。

幼いピコに対しても、情操教育上ちょっと宜しくない。

 

状況は辛いことに、ファルナとメルティもその意味を興味が有りそうな顔で

スゥを見ている。

 

彼はこの橋の命名者に文句を言いたい気持ちで、誤魔化して答えた。

 

「ご、ゴールデンボールってのが『金』って意味で、

 ブリッジは『橋』って意味だよ・・・ははは」

 

スゥの答えに、ファルナ達3人は「なるほど!」と納得している様子。

ひとまず難を逃れたように思えたが・・・

 

 

 

「ゴールデンボールブリッジ!

 ゴールデンボールブリッジ!

 ゴールデンボールブリッジ!」

 

 

「ちょっ、ピコ!?」

 

 

唐突にピコが大きな声でその橋の名を繰り返し発していた。

街行く人の目がスゥ達の方を向いている。

 

スゥは慌ててピコの口を押さえる。

 

「ごーるで・・・むぐっ!

 な、何するんだよスゥにぃ!」

 

「それはこっちのセリフ!

 どうしたんだ、急に何度も橋の名前を連呼して・・・」

 

「だって、名前が長くて覚えにくいんだもん!

 20回くらい言ったらさすがに覚えるかなーって思ったんだ!」

 

ピコの意図を聞き、スゥはこれ以上ピコが連呼しないように

正直な答えを3人に教える事にした。

特に女性陣。彼女らがあまり堂々と橋の名前を呼ぶのは、

正直なところ恥ずかしい。

 

「はあ・・・ごめん、3人とも。

 ちょっと誤魔化した。

 ゴールデンってのが『金』。

 ブリッジは『橋』って意味だよ。」

 

「えぅ?スゥ、それじゃあボールってどういう意味?」

 

「そういえば、モンスターボールにも『ボール』って入ってますね。」

 

スゥは溜め息をつきながら答える。

 

「メルティ、その『ボール』も同じ意味だよ。

 ・・・『玉』って意味。」

 

 

 

「玉・・・?・・・あっ!」

 

 

 

「へえー、確かにモンスターボールも玉だね!

 んー、でも何でそんな事を誤魔化したの?スゥ。」

 

ファルナは不思議そうな顔でスゥに尋ねる。

そんな中、彼の意図が分かったメルティは顔を赤くしてファルナを制した。

 

「スゥくん、誤魔化したのはそういう事ですか・・・

ファルナちゃん、あんまり何度もこの橋の名前を呼ぶのはやめましょう。」

 

「えぅ・・・?メルちゃんもスゥも、何で?

うーん、『ゴールデン』・・・『ボール』・・・『ブリッジ』・・・

 ・・・あっ。」

 

 

 

ファルナもようやく気が付いた。

さすがにこの程度の性に関する知識はファルナも持ち合わせていたようだ。

メルティと同じように、顔から火を上げて俯いた。

 

 

 

「ファルナちゃん、そういう事ですよ。

まったく、何を思ってこんな名前を付けたんでしょうね・・・?」

メルティは頬を軽く描きながら呟く。

 

そんな彼女らの様子を気に掛けることもなく、

ピコは教えてもらった情報を繋げて一気に言葉にした。

 

 

 

「金玉橋!」

 

 

 

『やめなさい!!』

 

 

 

スゥとファルナ、そしてメルティは3人がかりでピコの口を押さえていた。

 

 

 

気を取り直して、ファルナはメルティに話しかける。

 

「ねえメルちゃん、ここのジムって水タイプなんだって・・・」

 

「そうみたいですね。

 ファルナちゃんも私も、炎タイプだから辛いですね・・・」

 

ファルナとメルティは街の景観を楽しみながらも、

ジムで扱われる属性に不安を持っていた。

ニビシティではファルナは苦手な属性、『岩・地面タイプ』に果敢に相手取ったが、

さすがに水タイプに対しては怖気づく物が有った。

 

そんな二人の様子を見ながら、スゥも同じ感想を持っていた。

そしてハナダシティジムの攻略のキモとなるのが、

有利属性『電気』であるピコだということも。

 

「・・・電気タイプのピコが要だね。

 ピコ、今回はお前がエースで頑張ってもらうよ!」

 

ピコは彼の言葉を聞いて、今までで一番嬉しそうな表情で答えた。

 

「やったあああー!ボクがエース!

 ファルねぇ、メルねぇ。

 ボクがリーダーのポケモン全員倒しちゃうから安心して!

 ・・・ボクにまっかせなさーい!」

 

頬の電気袋からバチバチと青い電流を放ちながら、

腰に手を当てて威張るピコ。

戦う前から既に勝った気でいるようだ。

 

スゥは有頂天なピコを見て、少し心配な様子。

しかし今回は彼の言う通り、本当に全員を倒してしまう勢いで

ピコを活躍させなければならないと感じていた。

 

 

 

 

そんな話をしながら街を散策している内に、彼らは目的の店に辿り着いた。

 

入り口はすべてガラス貼り、そして残りの面は赤茶色いレンガで囲まれた

小奇麗な店舗。

 

「あっ!スゥ、ここって服屋さんじゃない?

 中にたくさん服が見えるよ!」

 

「そうみたいですね!スゥくん、早く中に入りましょう!」

 

「わ、ちょっと待って、転ぶ転ぶ!!」

 

ファルナとメルティはスゥの腕を1本ずつ掴んで、彼を引きずるように

店の中へと入っていく。

元々は自分の服を買いに来たはずなのだが、その事を彼女らは覚えているのだろうか?

二人のテンションに当てられたスゥは、そんな疑問を持っていた。

 

 

彼らが入った店舗は、男性服・女性服の両方が揃えられており、

丈の大きさも子供から大人まで、一通り困らない程度の品揃えであった。

 

「わあ、広ーい!

たくさん服があるね、どれにしよう!」

ファルナとメルティは目を輝かせながら店の中一杯に陳列された服を眺める。

2人の楽しげな様子を見ていたスゥは彼女らに提案する。

 

「2人とも、俺とピコはこっちで服を選んでるよ。

俺は女の子の服ってよく分からないし、ファルナとメルティの

2人でお互いの服を選んだ方がいいんじゃないか?」

スゥの言葉に、2人は顔を見合わせて相談する。

 

「ファルナちゃん、どうしますか?」

 

「うーん、スゥの服も選びたいけど

私も男の人の服って分からないし・・・」

「それなら、お互いどんな服を選んだかお楽しみってことにしましょうか♪

男の子組と女の子組で分かれて選びませんか?」

「あっ、それ面白そうだね!

スゥ、私はメルちゃんと一緒に服を選んでるよ!

スゥもピコくんも、かっこいい服選んでてね!」

話は纏まったようだ。

スゥはそれぞれ30分くらい自分達の服を見繕う時間を作ることにした。

彼とピコは男性服のコーナー、ファルナとメルティは女性服のコーナーへ

分かれて行動を始める。

 

_____________________________

 

まずは男性服のコーナー。

足の長い、スタイルの良いマネキンに

コーディネイトの見本を着せた物が並ぶ。

 

ピコはそれらを見ながらスゥに話す。

 

「スゥにぃ、こんなのどう?

 カッコいいよ!」

 

ピコが指さしてるのはパリっとした白いシャツ、灰色のスラックスに

黒いベストを着たマネキン。

シャツにはネクタイを模したダミーのラインが入っている。

普段着としては、比較的フォーマルに近いものであった。

 

スゥはピコが指す服の組み合わせを見て首を横に振る。

 

「ちょっと俺には合わなさそうだなー。

 それに何より、アイツが着てる組み合わせにそっくりだし。

 アイツに見られたら色々文句を言われそうだ。」

 

苦笑いをしながらピコに話す。

ピコは首を傾げてスゥに尋ねた。

 

「んに?アイツって誰?

 ボクはいいと思うんだけどな~」

 

「ああ、そうかピコはまだ会ったことが無かったっけ!

 アイツっていうのは、『ノン』っていう

 俺の幼馴染だよ。

 一緒にマサラタウンから旅に出たんだ。

 ノンはゼニガメの『アクア』って子を連れてるんだよ。

 アクアはファルナの小さい頃からの友達なんだ。」

 

「そうなんだ!ノンとアクアってどんな人?

 男の子?アクアって人は強いの?」

 

「ははは、ピコって本当に好奇心旺盛だな。

 いいよ、後でちゃんと教えてあげる。

 まずは俺とピコの服を選ぼう。ファルナ達を待たせちゃうよ。」

 

スゥはピコのいつもの質問攻めに笑いながら、

服選びを再開する。

ピコの方も、スゥの言う通りだと納得して

次の服を選ぶ。

彼の場合、早くご飯を食べに行きたい気持ちが強い事もあり、

今回は特に口答えもせず、早く服を選ぶ方を優先した。

 

 

そして様々なコーディネイトを見ていく彼ら。

ハットを被り、長いカーディガンを羽織った少し中性的な組み合わせのもの。

タンクトップにカーゴパンツを履いた、ワイルドな雰囲気のもの。

無地のTシャツに青いジーンズのオーソドックスな服装。

 

いずれも服の組み合わせに慣れた店員が揃えているだけあって、

違った魅力がある。

 

始めは興味が無さそうだったピコも、次第にスゥの服選びを楽しそうにしていた。

 

「んにー、ほんと人間さんって色々考えるよねー。

 だんだんボクも服欲しくなってきたよ!

 スゥにぃ、ボクのも後で買ってー!」

 

「お、ピコも乗り気になってきたみたいだね!

 もちろんピコの服も選ぼうな。

 それにしても・・・俺はどうしようかな。

 これだけ色々あると迷うなあ・・・」

 

スゥは困った顔で腕を組んでいる。

ピコやファルナ、メルティが買う服はあくまで

バトル以外での休みの日に着るもの。

しかしスゥが選ぶ服は、旅の中で常用するもの。

 

あまり生地が薄く、長手の物は向いていないと彼は思っていた。

このような考えに至っているのは、おつきみ山でツルハに

指摘された事が有ったからだ。

 

そうして考えを巡らせながら、他のマネキンを見回るスゥ達。

 

その中で一つ、スゥはピンと来るものが有った。

 

「あっ、コレいいかも!

 ピコ、どう思う?」

 

「んに・・・?

 あっ、いいねー!」

 

彼らが見ているもの。

それは黒のジーンズ生地のパンツ、白い無地のシンプルなTシャツ、

そして襟元が大きく取られた、厚手のミリタリー調のジャケットの組み合わせであった。

 

スゥは売り場から、そのジャケットを選んで羽織ってみる。

カーキ色のジャケットに、スゥが普段着ている黒いシャツ、

そして青のジーンズの組み合わせ。

 

慣れない服選びではあったが、スゥはその上着を気に入ったようだ。

 

「スゥにぃ、それいいよ!

 ちょっとゴツい感じがいいねー。」

 

ピコに褒められ、スゥは照れながら答える。

 

「そ、そうか!ありがとうな、ピコ。

 俺、この上着にするよ!

 値段も1万円だし、思ったより安いしね。」

 

 

機嫌が良さそうなスゥに、ピコは少し悪戯心が働いた。

 

「にひひ、スゥにぃって女の子みたいだから

 それぐらい男らしい服の方がいいと思うよ♪」

 

「お、女の子って・・・!

 ピコ、それは酷いんじゃないか?」

 

「だってスゥにぃ、髪が長いし顔もちょっと女の子っぽいしー。」

 

「ぐっ・・・確かにファルナにも似たような事言われたような覚えが・・・」

 

スゥは頭を抱えながら溜め息をついた。

 

「スゥにぃ、気にしてたの?

 それなら髪を切ればいいのに。

 顔は変えられないけど!」

 

ピコは悪気無く、スゥに言う。

スゥは彼をジトっとした目で見ながら答えた。

 

「お前なあ・・・好き放題言ってくれるな。

 この髪は・・・うーん、切ってもいいんだけど、

 何となく長い方が落ち着くんだよ。

 それに、ファルナにはこの髪を綺麗だって言って貰ったしね。」

 

そんな彼の答えに、ピコはニヤニヤしながら言う。

 

「へぇ~、ファルねぇがねえ・・・。

 それなら切っちゃいけないね、スゥにぃ!にひひ。」

 

ピコはスゥの膝辺りを肘でつつきながらからかう。

スゥはうっかり惚気た言葉を出してしまった事に、更に頭を抱えていた。

 

「ち、違っ、そういう事じゃなくて・・・」

 

「いいよいいよ、もっとスゥにぃとファルねぇの話、

 面白い事があったら聞かせてね!」

 

「ぐっ、有ってもお前には絶対言わないからな!」

 

「さーて、それじゃあ次はボクの服選ぼうよ、スゥにぃ!」

 

「人の話をちゃんと聞けー!」

 

一しきりピコにからかわれたスゥ。

見た目からの年齢を考えると、ピコは10才に達しているかどうか・・・

そんな彼にいいように翻弄されていた。

 

 

 

 

スゥはとりあえず自分の買う服が決まった所で、

ピコの服を選び始めた。

 

子供服のコーナーは大人用のそれに比べて、品ぞろえは少ない。

しかし大人が着るには厳しいが、冒険心に溢れたデザインの服が揃っていた。

 

例えば星やハートの模様が大きくプリントされたようなTシャツ。

地の色も鮮やかな赤や黄色、ピンクであったり非常にカラフルなものであった。

 

 

その中でも特にピコが興味を示したものが一つあった。

 

 

それは裾の長いトレンチコートと鹿撃ち帽。

正に名探偵がパイプを吹かせながら着ているようなデザインの衣装であった。

 

子供の背丈のマネキンに着せられているそれを見て、ピコは目を輝かせている。

 

「か、カッコいい~・・・!

 スゥにぃ、ボクこれがいい!!」

 

ピコは興奮気味にスゥの肩に飛び乗って

買ってくれとせがむ。

 

スゥはもう少し普通のデザインの物がいいのではないかと

彼に言うが、聞く耳を持たない様子。

 

仕方なくスゥはそのトレンチコートを見てみるが、

値札の数字を見て驚いた。

 

「ご、五千円・・・!!

 子供服って意外に高いんだ・・・

 生地だって小さい分少ないのに・・・」

 

試しに他の子供服を見てみるスゥ。

それらのいずれも、彼が思っていた金額の2~3倍程。

 

スゥはピコの服の金額については完全に誤算だったようだ。

しかしピコの期待に溢れた目を見ていると、

無下にする事も気が引けた。

 

実際、ファルナやピコがこれまでバトルで勝ってきた賞金で

旅をやりくりしているのだ。

その恩恵を受けるべきは、第一に彼らでなければならないと

スゥは思っていた。

 

「ねーねー、スゥにぃ!ダメ?」

 

「・・・

 ピコ、どうしてもこれがいいんだね?」

 

「うん!これと、あの帽子も!」

 

「そっか・・・よし!

 いいよ、この探偵服みたいな奴にしようか!」

 

「やったーーーっ!!

 ありがとう、スゥにぃ!

 早速着てみたいよ!」

 

ピコは居ても立ってもいられない様子で

服を手に持ち、そわそわしている。

 

スゥは彼の喜び様を見ていたら、悪い気はしなかった。

仕方ないな、と笑いながら試着室の方へピコを連れて行った。

 

ピコが試着室の中で着替えているのを

外で待っているスゥ。

 

一人になり、ふと思う。

 

「ファルナとメルティも変な格好の服を選んでないかな・・・

 大丈夫かな・・・」

 

 

その心配が杞憂である事を、彼は後に知る。

女の子組の服選びはまた、次のお話。

 

 

 




今まで読んで頂いて本当にありがとうございます。
これからまた5章の話をぼちぼちアップしたいと思っています。
感想やツッコミ、色々とレスポンスを頂けたら非常に嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。

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