まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report4-10 [大混乱!]

[Report4-10 大混乱!]

 

 

ファルナ達は、僅かに耳に入ってくる不快な音波が鳴り止んだ事に気付いた。

そして耳を塞いでいた手を放してスゥに伝える。

 

「スゥ!超音波が止まったよ!」

 

超音波が聞こえないスゥは、彼女の合図でそれを把握した。

そして全員に指示する。

 

「よし、周りが混乱している内に一斉攻撃だ!

 ファルナは火炎放射と火の粉!

 ピコは電気ショックだ!」

 

『わかった!!』

 

彼の指示とともに、ファルナとピコは

ロケット団員のポケモン達に攻撃を始める。

 

50人以上いた団員のポケモン達が次々と薙ぎ払われていく。

 

「メルティ、お前はM-プロトに捕まったピッピ達を助けてくれ!

 ボールを壊し回るんだ!」

 

「わかりました、スゥくん!」

 

メルティは広場の大きな岩の周りに大量に転がるM-プロトを

めがけて走り出した。

 

彼女にとって嫌な思い出しかないM-プロト。

中に入れられたピッピ達を一刻も早く助け出すために

彼女は全速力で場を駆け回り、得意の蹄による踏み付けで

1つ1つ確実にそれを壊していく。

 

破壊されたM-プロトから次々とピッピが解放される。

 

「★☆※△・・・」

「・・・」

 

短い時間ではあったが、その黒いボールに入れられていたピッピ達は

ボールから解放されても怯えている様子だった。

 

_______________________________

 

岩場の上に立つロケット団員達は、

怒涛のように薙ぎ倒される自分達のポケモン、

そして次々と解放されるピッピ達を見て唖然としていた。

 

「あ、あいつら何者だ!?」

 

「ああー!あのポニータ、ピッピを逃がしやがって!!」

 

「どうしましょう、ダイチさん!!

 このままじゃ作戦が滅茶苦茶だ!」

 

思い思いに喚くロケット団員達。

彼らの中心で、ダイチは腸を煮えくり返していた。

 

「キサマら、黙れ!!!!

 喚くだけで使えない連中が!」

 

ダイチはギリギリと自分の爪を噛みながら、

広場を見下ろして状況を見た。

 

相変わらず混乱状態のロケット団員のポケモン達。

最早戦力としては期待出来ないであろう。

そして何よりも憎々しい、迷い無くM-プロトを壊している

ポニータを見る。

 

「アイツ・・・!

 俺が居ると分かってながら、迷わず俺の邪魔をしていやがる・・・

 気に入らないな、妙な自信を付けやがって・・・!」

 

________________________________

 

スゥが彼のポケモン達に指示を出してしばらくして。

ロケット団員のポケモン達は全て倒されていた。

そしてメルティも一しきりボールを破壊し終わり、

ファルナ達全員がスゥの元へ戻ってきた。

 

「みんな、お疲れさま!

 これでロケット団が諦めてくれたら良いんだけど・・・」

 

スゥはファルナ達を労い、ロケット団員達の方を見た。

彼らは既にファルナ達の戦いぶりを見て戦意喪失している様子。

・・・ただ一人、ダイチを除いては。

 

ダイチだけはスゥの方を睨んでいる。

どうやら引き下がるという様子では無さそうだ、と

スゥは思う。

 

そしてダイチが動き出した。

 

「まさか、この人数が倒されるとは思わなかったぞ。

 ・・・お前達、出番だ。」

 

彼は自身のM-プロトを2つ取り出して

2体のポケモンを放った。

 

ニドリーノのソルト

ニドリーナのシュガーである。

 

「うーし、一暴れしてやるか!

 あの銀髪野郎、好き勝手やってくれやがったな!」

 

「ほーんと、ニビでも邪魔してきたし・・・

 再起不能にしちゃいましょう、マスター。

 それに・・・あの『裏切り者』も片付けないとね☆」

 

二人もダイチと同様、この状況に腹を据えかねている様子。

ダイチは苛立つ気持ちを吐き出すように、ソルトとシュガーに指示を出す。

 

「ククッ、いい方法があるさ・・・

 ソルト、シュガー!ピッピ達に向かって『毒針』を放て。

 別に当てなくてもかまわん。」

 

「どういう事だ、ダイチ? 

 あの銀髪に当てりゃいいじゃねえか。」

 

「そうですよぉ、何でピッピ達に打つんですかぁ?

 わたしぃ、優しいから可愛い子を襲うのイヤなんですけど~?」

 

ダイチの指示に疑問を持つ二人。

 

「黙って従え。

 意味はやってみれば分かる。

 ククク・・・」

 

「お、おう。

 それじゃあ行くぜシュガー!」

 

「了解、ソルト☆

 食らいなさい、『毒針』!!」

 

ソルトとシュガーはダイチの指示の通り、

ピッピ達の集団に向けて毒針を放った。

 

_____________________________

 

ダイチ達の動きを下で見ていたスゥ達。

ソルト達が襲ってくると予想していたスゥは

ファルナ、ピコ、メルティの三人に臨戦態勢を取らせていた。

 

そして案の定、といったようにソルト達が『毒針』を放ってきた。

 

しかしその軌道は自分達を狙うにしては

明らかに明後日の方向であった。

 

「な、何だ!?

 あいつら・・・どこを狙って・・・」

 

スゥが疑問を持ってからすぐ。

ソルト達が放った毒針は「怯えるピッピ達」の周囲に降り注いだ。

 

「※※※~~~~!!」

 

「★☆☆!!」

 

 

 

「スゥにぃ、大変だよ!ダイチ達、ピッピを狙ってるみたい!」

 

ピコがスゥの肩に乗って、彼の頭をピッピ達の方に向けた。

 

「い、痛たた・・・!

 ピコ、頭を無理やり動かすなって!

 くそっ、訳が分からないけどピッピ達を守らなきゃ!

 ファルナ、火炎放射で毒針を燃やしてくれ!」

 

「分かった!

 いけーっ、火炎放射!!」

 

ファルナはピッピ達に降り注ぐ『毒針』に向かって火炎放射を放つ。

しかし距離が離れているため、全ての毒針を燃やし尽くす事が出来ていない。

 

雨のように止まない毒針。

ピッピ達は身を寄せ合い、怖がっている。

 

 

 

 

・・・そして、恐怖の限界が来た彼らは動き始めた。

 

 

 

 

彼らは一斉に『指を振り』始めたのだ。

 

 

それを見たスゥ達は青ざめた。

ツルハから仕入れていた知識が有ったからだ。

ピッピが「指を振る」とどうなるのか。

一人のピッピを捕まえるだけでも『命懸け』。

それなら、これだけ大勢のピッピ達が一斉に指を振ると・・・

 

 

そして、ダイチはこれを狙っていたのだと理解した。

彼の推測が正しい事を示すかのように、

ついさっきまでダイチやソルト達が居た場所から、彼らの姿が消えている。

ロケット団員達を取り残したままに。

 

 

「アイツ、ピッピ達を攻撃したのはそういう事か!

 みんな、急いで穴に逃げるぞ!」

 

 

彼がファルナ達にそう言った瞬間、彼が恐れていた事が起きた。

ピッピ達の指がそれぞれ輝き出した。

 

 

 

最初に起きた事、それは『地震』であった。

ゴゴゴゴと地鳴りが響き始めた。

スゥ達は立っていられない程の大きな地震で

動きを封じられる。

 

「じ、地震だ!!」

 

「きゃあっ!!

 み、みんな・・・大丈夫!?」

 

「スゥにぃ、マズいよ!逃げられない!」

 

スゥとファルナ、そしてピコは揺れる地面に足を掬われて

膝をついていた。

その中でただ一人、強靭な脚を持ちバランス感覚に優れたメルティが

難なく姿勢を保っている。

 

「み、みんな・・・!」

 

メルティは彼らが動けない状態を見て、

自分がこの状況を何とかしなければならない事を悟った。

 

今は地面が揺れているだけ。

しかし、これから『何が起きるか分からない』。

とにかく一刻も早くスゥ達を穴の中へ逃がさなければならない状況であった。

 

メルティは急いでスゥに言う。

 

「スゥくん!私は走れます!

 みんなを穴の中に連れていけます!」

 

スゥはメルティが動ける状態であるのを見て、

一人ずつ彼女に逃がして貰うように頼んだ。

 

「メルティ、ありがとう!

 まずは軽いピコから頼む!」

 

「は、はい!」

 

メルティはスゥの言葉通り、ピコを背負って

ツルハ達が隠れている穴へと走った。

 

さすがに体の軽いピコを背負う事は

彼女にとって大した負担ではなく、

あっという間にピコを穴の中へ送り届けた。

 

一目散に再びスゥとファルナの元に戻るメルティ。

スゥは戻ってきた彼女に言う。

 

「凄いな、この中を軽々と走れるなんて・・・!

 次はファルナをお願いだ!」

 

メルティはスゥの言葉を聞いて、すぐには動かなかった。

彼女は、ファルナの方を見て尋ねる。

 

「・・・ファルナちゃん、スゥくんはそう言ってますけど・・・」

 

彼女の問いかけにファルナは語気を強くして言った。

 

「ダメ!!

 メルちゃん、先にスゥを連れて行って!」

 

彼女の言葉に驚くスゥ。

彼はファルナに怒るように言う。

 

「何言ってるんだファルナ!

 譲り合ってる場合じゃないだろ、早く逃げろ!」

 

それを聞いてファルナも同じような怒声で彼に答える。

 

「スゥのバカ!!

 スゥは弱いんだから、先に逃げないとダメでしょ!!」

 

「なっ・・・!」

 

「メルちゃん、任せたよ!」

 

ファルナはメルティの顔を真っすぐに見て頼んだ。

メルティはファルナの表情を見て、どちらを先に逃がすべきか決断出来た様子。

 

「・・・分かりました!

 スゥくん、つべこべ言わず私に掴まってください!」

 

「お、おいメルティ!!」

 

メルティはスゥに有無を言わせず、彼の腕を強引に掴んで背負った。

ピコを背負った時とは違い、軽々と走る・・・という訳にはいかない重量を感じる。

 

彼女はスゥを背負う事でバランスが取りにくくなっていた。

スゥはよろよろと走るメルティの背中で文句を言う。

 

「メルティ、どうしてだ!?

 先にファルナを・・・」

 

彼が言葉を言い切る前に、メルティはそれを遮って答える。

 

「理由は答えません!!

 自分で考えるか、ファルナちゃんから直接聞いてください!!」

 

「えっ・・・!?」

 

息を上げながらメルティはスゥを叱責した。

うまく走れず、少し時間はかかったが、

彼女はそうしている間に彼を穴の中まで送り届けた。

 

そして再び、最後に残るファルナの元へ走るメルティ。

 

穴の中で降ろされたスゥは、ツルハ達と外の様子を心配そうに見ていた。

彼らが心配していたのはファルナとメルティだけではない。

ダイチに取り残されたロケット団員達。

彼らもまた地震でまともに動けていなかった。

 

地面を這いずりながら、我先にと穴の中へ逃げ込もうとするロケット団員達。

スゥ達は、彼らも何とか安全な場所に逃げ切れるように祈っていた。

 

(…それにしても、何でメルティが怒ってたんだ・・・?)

 

先のメルティの態度に疑問を持ちつつも、そんな事を考えている場合では無いと、

スゥは余計な考えをかき消した。

 

______________________________________

 

ファルナが座り込む場所まで戻ってきたメルティ。

相変わらずまだ強い地震が続いている。

 

ファルナは戻ってきたメルティに感謝した。

 

「ありがとう、メルちゃん。」

 

メルティは彼女に笑みを向けて言う。

 

「どういたしまして。

 さあファルナちゃん、掴まってください。」

 

「うん!

 あ・・・あれ・・・?」

 

ファルナがメルティの背中に飛び乗ろうとした時。

これまで鳴り響いていた地鳴りがパッタリと止んだ。

 

「地震が止まりましたね・・・」

 

メルティがぽつりと呟いた。

次の瞬間・・・

 

 

 

ドゴォォォン!!

と、何かがぶつかる衝撃音、さらに衝撃波がファルナ達の体を揺らした。

 

 

 

『きゃあっ!!』

 

耳が壊れそうな大きな音に身を竦める二人。

音の出所が分からない程の轟音。

彼女らは周囲を見渡し、その発生源を見つけて戦慄した。

 

 

 

『隕石』がおつきみ山の岩肌に突き刺さっていたのだ。

 

 

 

 

更に空を見上げると、炎を纏いながら降り注ぐ隕石があった。

ピッピ達が指を振って発動した技は『竜星群』。

様々なポケモンの技の中でも、非常に強力な部類に入るものであった。

 

次々と岩肌に衝突する隕石。

 

 

「うわああああっ!!」

 

「ひ、ひぃぃ、助けてくれーっ!!」

 

「俺はこんな危険な任務だなんて聞いてねえよー!

 帰らせてくれええ!」

 

 

ファルナ達のような、力を持っているポケモンでさえ恐怖を感じているこの状況。

ロケット団員達がパニックになり、逃げ惑う事は無理も無かった。

地震が収まっているのが幸いし、彼らはすごすごとおつきみ山の中へと逃げていく。

 

各々必至の形相でおつきみ山から退散していった。

彼らは恐らく、二度とこの場でピッピ達を襲おうとは思わないだろう。

 

 

そんな彼らを見ていたファルナ達。

彼女らも他人事ではない。

スゥ達が隠れている穴まで逃げ込む事も考えたが、

無防備な背中で隕石を受けては、ひとたまりもない。

 

ファルナは『真正面』から迎え撃つことを決めた。

 

 

「メルちゃん、ここは私に任せて!

 私の傍から離れないでね。」

 

彼女はメルティの前に立って言う。

そんな彼女の様子を見て、メルティはくすりと笑う。

 

「ふふ、ファルナちゃん・・・

 やっぱり似た者同士ですねぇ。」

 

「えぅ!こ、こんな時にメルちゃん・・・もう!」

 

悪戯に笑うメルティ。

ファルナは、今の自分の行動が

そのままスゥと同じ物であった事に気付いて顔を赤くした。

 

そうしている間にも、彼女らの周囲に振り続ける隕石。

そのほとんどがこぶし大程度の小さなもの。

 

それを避けながら、彼女らは最後に1つ降ってくる隕石を見た。

 

 

 

直径3メートル程の大きな隕石。

これが落下してきたら、相当の規模の衝撃波が周りを襲うだろう。

穴の中に隠れているスゥ達も、無事では済まないかもしれない。

その隕石だけは、破壊しなければならない。

メルティはそれを見て血の気が引いていた。

 

「あ、あんな大きい隕石が落ちたら・・・!

 ファルナちゃん、やっぱり逃げましょう!」

 

そんな彼女を見て、ファルナは微笑んだ。

 

「メルちゃん、大丈夫。

 じっとしててね!」

 

「ま、まさかファルナちゃん・・・!」

 

ファルナは拳を強く握り締め、姿勢を低く構えた。

『メガトンパンチ』の準備体勢である。

そして持てる全力の力で隕石に向かって拳を振る。

 

「やあっ!!」

 

強烈な衝撃が隕石に加わり、

轟音を立てて粉々に砕け散った。

 

メルティはファルナの後ろで呆然としている。

 

「う、嘘・・・!

 まさか隕石を壊すなんて思いませんでした・・・」

 

ファルナは彼女のそんな様子を見て、顔を赤くして言った。

 

「えぅ・・・メルちゃん、怖がらないでね。

 私、この技は恥ずかしいの。

 だって、女の子が使う技じゃないでしょ!

 名前が酷いよ、何よ『メガトンパンチ』って!」

 

ファルナは頬を手で覆いながらメルティに話す。

メルティはその様子がおかしくて、笑いがこらえられなかった。

 

「ぷっ・・・ふふふ!

 あはははは!」

 

「も、もーっ!!

 メルちゃん、何で笑うの!?」

 

「ご、ごめんなさい・・・ふふっ!

 何だか、ファルナちゃんが勇ましかったり、可愛かったり

 コロコロとイメージが変わるから面白くて・・・くすくす」

 

メルティはファルナに悪いと思いながらも、

まだ笑いを零していた。

 

彼女達がじゃれている間に、スゥ達が穴から出てきた。

 

「ファルナ!メルティ!

 大丈夫か!?」

 

「スゥくん!

 こっちは大丈夫です!」

 

「スゥの方は大丈夫?」

 

「・・・ああ、二人のお陰でみんな無事だったよ!

 ありがとう、二人とも。」

 

スゥ達はお互いの無事を確認し、安心していた。

ほっとしたのも束の間、スゥは後ろを振り向いて言う。

 

「・・・さてと・・・

 まだやる気か?ダイチ!」

 

ピッピ達を刺激し、このような騒動を起こして隠れていたダイチ。

彼はソルトに掴まり、スゥ達のいる広場へと降りてきていた。

 

ダイチはスゥを睨み付けて言う。

 

「まさか無事だとはな。

 しぶとい奴だ・・・俺が直々にお前を潰してやる。」

 

 

 

 




書き溜めた話を吐き出し切った後(Report4-9)の初投稿です。

最近はファルナとメルティの掛け合いを考えるのが楽しいです。
女の子同士の会話って華があって好きです。

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