まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report4-9 [作戦開始!]

[Report4-9 作戦開始!]

 

おつきみ山内部に集まるロケット団員達。

スゥ達は彼らの目的を探るべく、何も知らない振りをして接触するも

既にスゥの事はダイチからの報告により、団員達に筒抜けとなっていた。

 

スゥ達はロケット団に襲撃されたが、ファルナとツルハの協力で

彼らから逃げおおせた。

 

ロケット団達の企みの内容。

それは十中八九「ピッピ達の乱獲による金儲け」であると

スゥ達は目星をつけていた。

 

彼らは、その企みを阻止すべく『作戦会議』を行っていた。

 

その会議が終わった頃。

スゥ達はツルハの案内で「ピッピ達が集う場所」へとやってきた。

 

______________________________

 

「もう月が出てるわね。

 ここよ、スゥ。

 綺麗な場所でしょ!」

 

ツルハは得意気に言う。

 

ピッピ達が集う広場。

そこはおつきみ山中腹から出入りできる洞穴の外であった。

辿り着く為に、いくつか内部からのルートがあるのだろう、

見渡すと複数の洞穴が見られる。

ツルハ達が出てきた穴は、何とか人間が通れる道から通じるものであった。

恐らくロケット団員達が出てくる穴は、別の楽なルートに通じるものからであろう。

 

険しい山脈の中、その場所は勾配がほとんど無く拓けていた。

そして「ダンス」が行われるに相応しいと言ったような、

大きく平坦な岩がステージのように鎮座している。

その周りには月明りに白く照らされて輝く花が、一面に咲いていた。

 

「…凄い、おつきみ山にこんな場所があるんだ!

 下から見上げた時は、こんなに花が咲いてる場所なんて見えなかったよ。」

 

スゥは目を輝かせて感嘆している。

ファルナ、ピコ、メルティもその光景に見惚れていた。

 

「ほんとに綺麗・・・!

 ロケット団なんて来なければいいのにね。」

 

「ファルねぇ、もしかしたらボク達の勘違いかもよ!

 そしたらここで野宿したい!」

 

「・・・ええ、私たちの思い過ごしだったらいいんですけど・・・」

 

ファルナ達は今この光景を心置きなく見られない状況に居る事を

残念に思っていた。

 

そんな中、ツルハは腕時計を見てスゥに言う。

 

「今は…20時前ね。

 スゥ、そろそろピッピ達が集まってくると思うわ。

ちゃんと見られないのは残念だけど、

 また少し穴に隠れて様子を見るわよ。」

 

既にスゥ達の『作戦』は始まっていた。

彼らは出てきた穴に戻り、姿勢を低くして外の様子を伺った。

 

 

 

それからしばらくして。

 

 

 

 

「※※※※※!」

 

「□◇◇□◇□◇!」

 

「☆☆★☆★★♪」

 

何やら聞き取れない言語で、会話をしているような声が聞こえてきた。

スゥが外の様子を見てみると、広場の大きな岩の周りにポケモンが数人集まっていた。

 

そのポケモンはエコーやピコのように小柄な体で、桃色の柔らかそうな衣装を纏っている。

髪も愛らしくカールがかった、全体的にふわふわした見た目。

そして背中にはとても小さいが、透けて見える羽が見える。

一言で表すならば、『妖精』のような姿のポケモンであった。

 

そんな観察をしている内にも、そのポケモン達がわらわらと集まる。

 

「ツルハ!あのポケモンがピッピなのか?」

 

スゥは小声でツルハに尋ねた。

彼女はうっとりした様子で、呆けた言葉で返した。

 

「そうなのよぉ~

 ああー、何度見ても可愛い!

 一人でもいいから連れて帰りたいわ・・・!」

 

「ツルハさん、そんなにピッピが好きなら

 捕まえようとはしなかったの?」

 

ファルナはツルハに素朴な疑問を投げた。

ツルハは口を尖らせて答える。

 

「もちろん捕まえたいとは思うわ。

 でもピッピは聞いての通り、私たちの言葉が通じないのよ。

 もし捕まえたとしても、私じゃその後仲良くなれそうにないわ・・・」

 

「んにぃ、ボク達ピカチュウの名前もスゥにぃ達には聞こえにくかったんだよね。」

 

ピコは初めてスゥに自己紹介した時の事を思い出していた。

彼の兄であるキロ、姉のテラ。

彼らの名前も、スゥ達が聞こえやすいように訛らせて名乗ったものであった。

 

今回、ピッピに至っては普段の話し声全てが聞き取れないものである。

スゥ達はツルハの言い分に納得していた。

しかしツルハは、更に理由が有るという口ぶりで続けた。

 

「種族が違うんだもの。言葉が通じないポケモンだって居るわ。

 …でも、ピッピを捕まえない理由は他にもあるの。」

 

「他の理由・・・?」

 

スゥはツルハに尋ねる。

 

「危険なのよ。簡単な話でしょ?」

 

「危険なんですか!?あんなに可愛らしい見た目なのに・・・」

 

メルティは目の前に見える、愛らしい見た目のポケモンからは

想像もつかない回答に驚く。

 

「そう、危険なの。

 と言っても、人から聞いた話なんだけどね。

 ピッピ達はね、自分の身に危険が迫ると『ゆびをふる』の。」

 

「んに?指を振るだけ?

 それの何が危ないの?」

 

ピコは自分の指を左右に振りながらツルハに尋ねた。

 

「ピコちゃん、ピッピが『ゆびをふる』とね…

 〝何が起きるか分からない〟んだって。

 例えば急に地震が起きたり、大雨が降ったり、雷が落ちたり・・・

 最悪の時は『大爆発』を起こしたりするらしいわ。

 まあ、そんな大事になる時ばかりじゃないみたいだけど。」

 

スゥは顔を引きつらせてツルハに話す。

 

「だ、大爆発・・・!?

 何で指を振るだけでそんな事が起こるんだ?」

 

「それは研究でも分かってないみたいよ。

 超科学的な何か、としか言えないって研究を諦めてる人も多いわ。

 ・・・まあそういう事よ。

 何が起きるかは、本当に『運』。

 キツい言い方をするなら、ピッピを捕まえるのは命懸けってことね。」

 

「なるほど・・・」

 

スゥはツルハの話を聞いて、ピッピを仲間にする事が難しそうだと感じていた。

その時、事態が動いた。

 

 

 

「始まったぞー!!」

 

「一匹でも多く捕まえろ!」

 

「逃がすな!!」

 

「※★!?」

 

「▽▼△◇~~~!!」

 

 

スゥ達の隠れている穴の外が急に騒がしくなった。

ピッピ達の言葉は彼らには分からないが、

それが『悲鳴』である事は十分に分かった。

 

彼らは外の状況を見た。

そこにはコラッタやズバット、そしてスゥがまだ見た事の無いポケモン達が

一斉にピッピ達に攻撃を仕掛けていた。

 

そして空からは大量の「M-プロト」らしき黒いモンスターボールが降り注ぐ。

混乱の中、ピッピ達は成す術なく次々と捕獲されていった。

 

やはりスゥ達の予想は間違っていなかった。

ロケット団達がピッピの集団を襲っていたのだ。

 

「あいつら、やっぱりか!

 ツルハ、作戦開始だ!」

 

スゥは一刻も早くロケット団達を止めようと、

ツルハを急かした。

 

「分かったわ!それじゃあ、私は頃合いになったらエコーに頼むわよ。

 悪いけど、戦うのは任せたわ!」

 

「キキッ、みんな気を付けて!」

 

ツルハはエコーを抱きかかえ、スゥに伝える。

 

「ああ、ツルハ達は出てきちゃダメだよ!

 ファルナ、ピコ、メルティ!行くぞ!」

 

スゥはファルナ達を引き連れ、外に飛び出した。

広場に出て状況を確認すると、ロケット団員達が何十人も高い岩山の上に立っているのが見えた。

彼らはピッピ達にM-プロトを絶え間なく投げ続けている。

 

 

「お前ら、やめろー!!」

 

 

 

スゥは彼らの注意を引く為に大声でロケット団に向かって叫ぶ。

ファルナ達も彼らを睨み、臨戦態勢を取っていた。

 

 

「あ、あのガキ!やっぱり邪魔しに来やがったな!」

 

「お前ら、あのリザードには特に気を付けろ!」

 

「何言ってるんだ。この人数だぜ、袋叩きにしたら楽勝だろ!」

 

「まあ、いざとなればこっちにはM-プロトがあるしな!」

 

ロケット団員達はスゥ達の姿を見て、ピッピ達よりも優先して

スゥ達にポケモンを襲わせようとした。

そんな団員達を止める声が一つ。

 

 

「お前ら、少し待て。」

 

 

団員達の後ろの方から、割って出てきた人影。

黒いマントを身に纏った人物が言葉を発した。

 

「あ、あいつです!さっき俺たちの邪魔をしやがったガキは!」

 

周りのロケット団員がその人物に告げる。

スゥを憎らしそうな目で見る人物。

 

・・・それはダイチであった。

 

彼はニビ鉱山での捕獲任務を邪魔した

スゥを見て言った。

 

「やはり・・・お前だったか。

 ニビ鉱山ではよくも恥をかかせてくれたな・・・!」

 

対してスゥも、姿を現したダイチを睨み付けて言う。

 

「お前、またこんな酷い事をやってるのか!

 今すぐやめろ!ピッピ達をM-プロトから出してやるんだ!!」

 

「ははっ、何を言うかと思えば。

 多少強くなったらしいが・・・

 一人でかかってくるとは、馬鹿な奴だ。」

 

ダイチはスゥの傍らに立つファルナを見て言う。

ニビ鉱山で見た時とは違う、進化した姿があった。

 

そして、ダイチは大変な事に気付いた。

彼がよく知る人物・・・

 

白い衣装を身に着け、炎のように輝く髪と尻尾を持つポケモン。

彼の元から逃げ出したポニータが居る事に。

 

ダイチはメルティが自分を睨んでいるのを見て、驚きと怒りを込めて言葉を発した。

 

「き、キサマ・・・!

 『出来損ない』!!何故そこにいる!!」

 

相変わらずの呼び名でダイチに名指しされるメルティ。

彼女は彼の剣幕に僅かに怯えながらも、負けじと抗議した。

 

「っ・・・私は・・・『出来損ない』なんかじゃありません!

 今は『メルティ』という名前があります!!」

 

その言葉を聞いてダイチは目を見開き、歯を食いしばった。

 

「メルティ?名前・・・だと・・・!?」

 

「ダイチ!もうこんな悪い事はやめてください!

 まだ引き返せるうちに・・・お願いですから!!」

 

メルティは精一杯の声でダイチに叫んだ。

しかし、その言葉は彼の耳には届いていなかった。

 

自分の元を逃げ出したポニータ。

それが今、自分の経歴に傷を付けたスゥと共にいる。

しかも勝手に名前まで付けられて。

彼女はその名前をまるで誇るかのように、自分に言ってきた。

・・・一体、どの面を下げて。

 

そんな負の感情を渦巻かせ、ダイチの怒りは募るばかりであった。

 

「・・・許さん・・・『出来損ない』・・・

 そして、キサマも・・・!」

 

ダイチはスゥとメルティを見て、周囲のロケット団員に指示する。

 

「全員!あのポニータ以外を攻撃しろ!

 徹底的に、倒れても攻撃を続けろ!!」

 

その掛け声と共に、ロケット団達は各々のポケモンをスゥ達に向かわせた。

団員への指示の後、ダイチは歪んだ笑いを浮かべてメルティに伝える。

 

「『出来損ない』!

 お前はその銀髪達がボロボロにされるのを見てろ!

 どうせお前には何も出来まい。

 始末した後はお前も・・・銀髪のポケモンも、全てM-プロトで奪ってやる!!

 はははは!!」

 

そんな彼の姿を見ていたメルティは、悲しそうに目を瞑った。

 

「・・・ダイチ・・・」

 

そうしている間にも、ロケット団のポケモン達がスゥに近づいてくる。

その数は軽く50は超えている。

洞窟の中で戦った数とは比べ物にならない。

 

スゥはファルナ達に指示する。

 

「みんな、襲ってくるぞ!

 応戦だ!」

 

スゥのその合図とともに、ファルナ達は向かってくるポケモン達に

各々攻撃を放とうとした。

 

 

 

その時。

 

 

 

 

 

『キィィィ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

月明りが照らす広場中に、ゾワゾワと背筋が痒くなる

『高周波音』が響き渡った。

 

「あ、あぅ・・・クラクラする・・・!」

 

「んにぃ・・・あ、頭が~!」

 

「め、目が回りそうです・・・!」

 

スゥはファルナ達の様子を見て、ツルハと打ち合わせた『作戦』が始まったのを確かめた。

 

「ツルハ・・・始めたんだな!

 みんな、耳を塞いで!」

 

スゥは急いでファルナ達に指示した。

彼女達はすぐさま耳を塞ぎ、その音を聞かないようにした。

 

 

__________________________________

 

『高周波音』が響き渡る少し前のこと。

 

「エコー、スゥ達が襲われ始めてる!

 そろそろ行くわよ!」

 

ツルハはエコーを抱きかかえたまま、作業服のポケットから小型の『拡声器』を取り出した。

それは彼女の探検に欠かせない道具の一つである。

その拡声器をエコーの口元に近づけた。

 

「キキッ、いつでもいけるよ!

 思いっきり『超音波』を出すからね!」

 

「よし、それじゃあエコーお願いね!」

 

『超音波』。

ズバット達が光の届かない暗い洞窟の中を自由に飛び回れるのは、

この音波によるものである。

音波が周囲の障害物に当たって返ってくるまでの時間で、

彼らは周囲の状況を把握することが出来るのだ。

ズバット達にとっては、

この超音波は主に同族でのコミュニケーション手段として使うものであった。

 

しかし、彼らにとってそれは武器でもある。

超高周波なこの音波は、『人間には聞き取れない領域の音』であるが

感覚の優れたポケモン達にとっては頭の中まで揺さぶられるような不快感を覚える。

 

長時間この音波を聞き続けると、ついには『混乱』してしまうのだ。

 

そんな超音波を、エコーは『拡声器』を使って増幅させ、

穴の外へと放出していた。

____________________________________________

 

「な、何だこの音!?」

 

「き、気持ち悪い・・・!目眩が・・・」

 

「あれぇー、ここは何処・・・?」

 

外の広場では、ロケット団達のポケモンが目を回している。

足取りがおぼついていない者や、完全に方向感覚を失っている者。

更には敵・味方の区別も付かず、出鱈目な方向に攻撃を振りまく者。

 

エコーの超音波によって広場の状況は滅茶苦茶になっていた。

 

「お、おいビードル!攻撃しろ、何をボーっとしてる!!」

 

「ポッポ、敵はそっちじゃない!何処に向かってる!」

 

「くそっ、言う事を聞け!」

 

ロケット団員達には、その超音波は聞こえていない。

『人間が聞き取れる周波数』では無いからだ。

自分達のポケモンが急に混乱状態に陥っている理由が分かっていない様子。

 

 

残念ながら、超音波の影響はロケット団のポケモンだけではなく

まだ捕まっていないピッピ達にも及んでいた。

 

「※※☆☆彡★~~~??」

 

「◇◆◆◆◆・・・!」

 

ピッピ達も足をもつれさせ、転んだり仲間同士で体をぶつけ合っていた。

 

____________________________________

 

ツルハは、穴の外の様子を覗いている。

広場に出ている全てのポケモンが混乱状態になっているのを見て、

彼女はエコーの口を手で塞いだ。

 

「エコー、もういいわ。

 よく頑張ったわね!」

 

「ぜぃ…ぜぇ…

 キキッ、ありがとうツルハ!

 頑張って特大の超音波を出したよ!」

 

「ええ、おかげでしっかりみんな混乱してるわよ!

 さて・・・あとはスゥ、任せたわよ。」

 

 


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