まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report4-8 [ロケット団の企み]

[Report4-8 ロケット団の企み]

 

スゥ達はおつきみ山でピッピ達のダンスを見るため歩みを進めてきた。

しかし、その道中にはロケット団員が集っていた。

メルティは彼らを見て嫌な事を思い出し、怯えていたが

彼女は「今の自分を変えなければならない」と決心し、スゥ達に先に進む事を申し出た。

 

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スゥ達は彼女の意志を汲み取り、再びロケット団員が集う広場まで戻ってきていた。

 

「…やっぱり、まだあいつらが居るな…」

 

スゥは物陰から広場を覗き、小さな声で呟く。

 

「そもそも何でこんな所に居座ってるのかしら、ロケット団。」

 

ツルハもスゥの横で彼らの様子を見ながら疑問を思う。

物陰で囁かれる言葉はスゥとツルハ二人の物だけであった。

彼らは互いのポケモンをモンスターボールに格納していた。

 

…その理由は2つ。

1つはロケット団との無用な衝突を避けるため。

下手にポケモンを引き連れていると、悪目立ちする上に

戦闘になりかねないとスゥは心配したからだ。

 

そして2つ目の理由。これが最大の理由だが、「M-プロト」への警戒である。

ロケット団が扱う、トレーナーのポケモンまで捕まえる事が可能な「M-プロト」。

スゥの連れているポケモン達は「防御プログラム付きモンスターボール」によってその脅威を受けないが

ツルハについては違う。

スゥはツルハに、M-プロトという黒いボールを見たらエコーをボールに入れ、

絶対に身から離さないようにと説明していた。

 

「…案外、ピッピのダンスを見に来てるのかも。」

 

スゥは少しはにかんで、先のツルハの質問に答える。

 

「もうっ!冗談言ってる場合じゃないでしょ!

 そんな可愛い事考える連中じゃないんでしょ?」

 

ツルハは彼を睨みながら異を唱えた。

ロケット団の中に飛び込む直前である今、彼女は非常に緊張していた。

スゥは彼女の緊張を解すために言ったつもりであったが、

効果は無かったようだ。

 

「あはは、だけどツルハ。

 そんなに怖い顔して行くと、あいつらに絡まれるよ。

 もっとしれっとした顔をして。」

 

「うむむ…わ、わかったわよ…

 それじゃあ、打ち合わせ通りに行くわよ!」

 

ツルハはスゥに目を向け、ロケット団のいる広場へと二人同時に乗り込んだ。

 

広場に出てきた彼らを見つけたロケット団員の一人が、ツルハに話しかけてきた。

 

「おやぁ…?

 君は、昨日もここに来た子じゃないか。

 危ないから帰りなさいって言っただろ?

 大人の言う事は聞かないといけないよ~?」

 

そのロケット団員の男は怪しげな笑みを持ちながら話す。

「笑み」と言うが、口元だけの話である。

その男の目は笑っていない。

ツルハだけではなく、隣にいたスゥもうすら寒い感覚でいた。

 

「今日は彼氏も連れて来たんだねぇ?

 ねえボク、彼女をこんな場所に連れてきちゃダメだろ…?」

 

続けざまにスゥに話しかける男。

スゥはメルティの件を思うと、目の前のロケット団に苛立つ気持ちが湧いてきたが

それを抑えて、あくまで何も知らないという振りをしてスゥはその男に話した。

 

「あ、あはは…彼氏じゃなくて友達なんですけどね。

 今夜はおつきみ山で面白い物が見れるって言われて、この子に連れてこられたんです。」

 

ぎこちない笑顔を向けてスゥは答えた。

 

「面白い物…?

 ああ、なるほどねぇー。

 今夜は満月だもんねぇ。見に来たんだね?

 ピッピのダンスを。」

 

その男は、スゥがあえてボカして言った「面白い物」の中身を言い当てた。

 

「わ、わーっ!おじさん、バラしちゃダメですよー!」

 

ツルハは話の流れが不自然にならないよう、

わざとらしく慌てた様子で言った。

 

「くくく、そりゃ悪かったねぇ…

 そうかー、ピッピのダンスをねぇ。

 可愛いし珍しいからねえ、ピッピは。

 そりゃあもう、欲しがる人間は山のように居るからねぇ…」

 

その男は相変わらずニタニタとした顔で不穏な言葉を発する。

スゥはそれに不快感を持ちながらも、我慢して平静を装う。

 

「…そういうあなた達は、ここで何をしてるんですか?

 皆さん、お揃いの服を着てますけど…」

 

スゥはロケット団達の目的を知るべく、少し踏み入った質問をした。

 

「俺たち?

 俺たちはねぇ…ちょっとこれから『お仕事』があるんだよ。

 この服はそのユニフォーム。」

 

男が言う『仕事』。

彼らの正体が分かっているスゥとツルハは、その内容が『悪事』である事は

容易に想像がついた。

 

「お仕事ですかー、お疲れ様ですね!

 何をするんですか?」

 

ツルハの質問の後。

目の前の男は「ふぅ」と溜め息を吐いた。

そして俯いたまま、怪しげな笑い声を零していた。

 

 

「くくくっ、くくくく…!!

 やっぱり君達は子供だねぇ…

 下手糞だ。」

 

 

その男は顔をぐにゃりと歪ませて、ツルハの質問の回答に

なっていない言葉を口にした。

その言葉がスゥとツルハを青ざめさせる。

 

そして自分達の周りを見ると、ロケット団員に取り囲まれていた。

その数はざっと10人程度。

全員がスゥを見て意味あり気な笑みを浮かべている。

 

スゥ達を囲んでいたロケット団員の一人が言う。

 

「…こいつ、報告にあったガキだろ?

 『長い銀髪』の男だって。」

 

「なっ…!?」

 

スゥは自分の事が既にロケット団に知られていたとは思いもよらず、

顔に焦りの色を浮かべていた。

 

「ダイチから報告があったんだよ。

 ロケット団にちょっかいを掛けたバカな子供が居るってさ。

 もうお前の事は筒抜けなのさ。

 大方、何も知らないフリして適当に会話して探りを入れに来たんだろ?

 バレバレなんだよ、ガキの演技くらい見りゃ分かる。」

 

最初に話していた男が、スゥに言う。

ニビ鉱山でスゥがダイチの任務を阻止した件。

ダイチはそれを既にロケット団員に報告していたのだ。

 

そして、周りのロケット団員はそれぞれモンスターボールを構えた。

 

「俺たちロケット団の怖さを思い知らせてやる!

 このガキ共をやっちまえ!!」

 

その声と共に、団員達はポケモンを繰り出した。

コラッタ、ポッポ、ビードル、キャタピー…様々なポケモン。

その全員が虚ろな目をしてスゥ達に襲い掛かろうとしていた。

 

ツルハはロケット団の敵意に怯え、震えて動けない様子。

スゥは腹を括って、モンスターボールを取り出した。

 

「ツルハ!俺から離れるな!」

 

「う、うん…!

 でもこの数、大丈夫なの…?」

 

ツルハはスゥの影に隠れながら心配する。

 

「大丈夫…だよな!ファルナ!!」

 

スゥはファルナを繰り出し、そう答える。

ファルナの髪は既に赤々と燃え盛っている。

ロケット団との話が怪しくなってきた頃から、彼女はボールの中で臨戦態勢を取っていたようだ。

スゥの目の前に立つファルナは、振り返って彼の顔を見て堂々と答えた。

 

「もちろんだよ、スゥ!」

 

そしてスゥは彼女に指示を出す。

 

「ファルナ!『火炎放射』!!」

 

「いけーっ!!」

 

ファルナはスゥとツルハの周りを守るように、火炎放射を振り回した。

襲ってくるビードルの放つ毒針、コラッタやポッポ達の体当たり。

それらをファルナの火炎放射が尽く薙ぎ払った。

 

一瞬で大勢のポケモンを一掃したファルナ。

ロケット団員達とツルハはその光景を目にして呆気に取られる。

 

「す…凄い…!

 ファルナちゃん、こんな力を持ってるんだ…!」

 

「何だこのガキ!?

 こんなに強いなんて聞いてねえぞ!」

 

「ダイチさんの報告じゃ数人がかりなら楽勝だって言ってたのに…!」

 

ダイチのスゥに関する報告は、ロケット団員に正しく伝わっていなかったようだ。

それもその筈。スゥとダイチが対峙した時は、主に戦っていたのはピコであった。

ファルナはタケシのイワークとの戦闘で疲れており、煙幕でかく乱していた程度。

攻撃らしい攻撃はしていない。

 

仮にファルナが戦えていたとしても、ダイチの報告は無駄であっただろう。

当時ファルナはまだ『ヒトカゲ』であった。

ダイチの知らない所で彼女は『リザード』に進化した上、

強力な炎技『火炎放射』を使えるようになっていたのだ。

当然、今は比較にならない程に大きな戦力となっている。

 

スゥはロケット団員達の戦力が残っていない事を確認して、ファルナとツルハに言う。

 

「二人とも!

 早く先に行くよ!ツルハは案内してくれ!

 ファルナは煙幕だ!」

 

スゥ・ファルナ・ツルハの3人は広場の奥に見える狭い道に向かって走り出した。

ロケット団員達は彼らを捕まえる為、追ってくるが

ファルナの煙幕がそれを阻止した。

 

ロケット団員の視界を奪っていた煙幕が晴れた時には

既にスゥ達の姿は無かった。

 

「く…くそっ!

 逃げられちまった!」

 

「仕方ない、ダイチさんに早く報告しよう。

 このままではあのガキ、俺たちの計画の邪魔になる!」

 

_____________________________

 

 

ファルナの煙幕でロケット団から逃れてきたスゥ達。

ツルハの案内によって、ロケット団達が使わないであろうルートを選択して

洞窟内を進んできた。

 

その進路は少々道が狭く、人間が通れない事は無いが、楽ではない道であった。

ロケット団との衝突が無ければ、ツルハはもっと通りやすい道を選ぶつもりであったが、

背に腹は代えられなかった。

 

そしてツルハの言う「ピッピ達のダンス」が見られる場所まであと少しという場所で

スゥ達は休憩していた。

 

「はぁ…はぁ…

 こ、ここまで来たら大丈夫よ。

 スゥ、ファルナちゃん。ごめんね、大変だったでしょ?」

 

洞窟の探索に慣れているツルハでさえ息が上がっていた。

人間よりも体力のあるファルナは、それほど疲れている様子では無かったが

スゥは既に壁にもたれ掛ってぐったりとしていた。

彼の体と衣服は、狭い洞穴を進む中で擦れたり泥を被ったりと、

見るからにボロボロになっていた。

 

「私は大丈夫だけど…スゥが辛そう…

 スゥ、大丈夫?」

 

ファルナは息を上げているスゥの顔を覗き込んで心配する。

スゥは少しの間呼吸を整えて答えた。

 

「だ、大丈夫だよファルナ。

 ちょっと疲れただけ。ありがとうな、ファルナのお陰で逃げられたよ。」

 

そう言ってスゥはファルナの頭を撫でる。

彼の顔は疲れてはいるが、とりあえず脅威から逃れて安心したものであった。

その表情を見てファルナは安心して撫でられていた。

 

「えへへ、どういたしまして!」

 

「ツルハもありがとう、流石にこんな道じゃアイツ等は追ってこないよね。」

 

スゥに礼を言われ、ツルハは照れた顔をして言った。

 

「う、ううん…こっちこそありがと。

 さっきは本当に怖くて動けなかったの…」

 

スゥは、しおらしく話すツルハを気遣うように言う。

 

「正直俺も怖かった…というか、まだ怖いかな。

 ファルナ達が居てくれるから、あんなハッタリが出来ただけだよ。」

 

そう言いながら、スゥはしばらくボールに格納していたピコとメルティを外に出した。

 

「ぷはー!やっと出られた!

 スゥにぃ、ボクやっぱりボールの中あんまり好きじゃないよ!」

 

ピコは両手足を思いっきり伸ばしながらスゥに文句を言う。

 

「悪かったなピコ。

 もう俺の事はロケット団にはバレてるみたいだし、

 みんなをボールに入れてる意味は無さそうだよ。」

 

スゥの言葉を聞いたメルティは、心配な顔でスゥに謝る。

 

「スゥくん…ごめんなさい。

 私やダイチと関わった為にこんな事になっちゃって…」

 

「メルティのせいじゃないよ。

 今はロケット団はどこに行っても見かけるんだろ?

 それなら、遅かれ早かれ俺はロケット団と関わってたんだ。

 それに…メルティも俺達を守ってくれるくらい強くなるんだろ?

 それなら安心だ!」

 

スゥはメルティに向かって笑顔で答えた。

彼女ははにかみながら、スゥに言う。

 

「ふふ、そうですね!

 そう自分で決めたんですから。

 スゥくん、さっきのロケット団の話だと…」

 

メルティはロケット団達が話していた言葉の中で、

どうしても聞き捨てならないものが有った。

当然、スゥも認識していた。

 

「…ダイチ、だろ?

 多分アイツがさっきの連中を連れていたんだろうね。」

 

スゥの言葉に相槌を打ちながらメルティは続ける。

 

「はい。

 多分…ですけど、今日私はダイチに見つかってしまうと思います。」

 

メルティは落ち着いた様子で話していた。

スゥは彼女の言葉を意外とも思わずに答えた。

 

「ああ、俺もそう思う。」

 

ファルナとピコ、そしてツルハもその意味が分かっていた。

ツルハが答え合わせをするように、スゥに聞いた。

 

「あいつら…ピッピ達を捕まえるつもりなのよね?

 今夜、ダンスのために集まってくる所を狙って。」

 

「捕まえて売り物にするつもりなんだろうな。

 『ピッピを欲しがる人間はたくさん居る』とか言ってたし。」

 

その場の全員の思いは同じだった。

それを黙って見過ごす事は出来ない、と。

 

メルティは改めてスゥに頼む。

 

「…そうはさせません!

 もう悲しむポケモンを増やしたくないんです!

 スゥくん、私…ダイチが目の前に現れてもボールの中に隠れません!

 ダイチの時は、私を戦わせてください!」

 

スゥはメルティの言葉に頷いた。

 

「メルティの気持ちは分かったよ。

 だけどメルティ、きっとアイツやソルト達は

 お前が辛くなるような事を言ってくると思うよ。」

 

「分かってます!

 だけど、きっと大丈夫です。

 今はみんなが居ます。何を言われたって泣いたりなんてしません。

 私は…あの人達に勝って見返してみせます!」

 

メルティの強い意志が込められた言葉を真剣に聞くスゥ達。

スゥはダイチが現れた時は、メルティを戦わせる事を決めた。

 

「…よし!

 それじゃあ、いざという時は任せたよメルティ!」

 

スゥの言葉に、メルティは嬉しそうに答えた。

 

「任せてください!」

 

スゥとメルティの話を聞いていたツルハは、

先程まで残っていたロケット団への恐怖が払拭されていた。

メルティから勇気を貰ったツルハは、スゥに提案する。

 

「…スゥ!

 私もエコーと協力するわ!

 ピッピ達を守らなきゃ!」

 

スゥはツルハの申し出を認めようか迷っていた。

迷っていた理由はただ一つ。「M-プロト」の心配であった。

 

「ツルハ、有難いけど…

 言っただろ?アイツら、トレーナーのポケモンでも

 捕まえることが出来るって。

 エコーを出したら危ないんだ。」

 

スゥの心配に、ツルハは普段の調子を取り戻しながら答えた。

 

「そんな事分かってるわ!

 えーっと何て言ったかしら?ナントカていう黒いボールでしょ?

 私だって、大切なエコーを盗られてたまるもんですか!」

 

ツルハはそう言ってエコーをモンスターボールから出した。

パタパタと羽音を立てて宙に浮かぶエコー。

彼はツルハの言葉に続けて言った。

 

「キキッ!

 俺もね、みんなに良い所見せたいんだよ!

 メルティに何も出来ずに負けちゃったからね。

 だけどアイツ等に捕まるのは絶対イヤだ!」

 

「ふふ、そうよねエコー!

 スゥ、エコーを『戦わせる』訳じゃないわ。

 言ったでしょ?『協力する』って!」

 

スゥはツルハの言葉の意味が理解出来ていない。

戦わせはしないが、協力する。

一体どういう事なのかツルハに尋ねた。

 

「ど、どういう事…?

 ツルハ、何をするつもりなんだ?」

 

分からない様子のスゥに、ツルハは得意気な顔で言った。

 

「ふふ、ふふふふ!分からない?分からないのね?

 そうねえ、答える前に作戦会議といこうじゃないの、スゥ!

 月が出るまで、もう少し時間もある事だしね♪」

 

腕時計の時間を見ながらツルハはスゥ達全員を傍に集めた。

そうしてスゥ達は彼女の言う『作戦会議』を始めた。

 

今の彼らには見る術は無いが、おつきみ山の外では夕日が赤々とその山脈を照らしていた。

…満月の夜は近い。

 

 


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