まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report4-7 [メルティの決心]

[Report4-7 メルティの決心]

 

「痛~っ!!」

 

「もう、だから言ったでしょ頭を打つよって!

 大丈夫?スゥ。」

 

おつきみ山の洞窟を順路から外れて進むスゥ達。

ツルハの先導で彼らは歩いていた。

その道は時々、背を屈まなければ通れないような狭い通路があった。

スゥは屈みながら歩き、ふと立ち上がった拍子に低い天井で頭をぶつけていた。

その様子を見て、呆れながらも心配するツルハ。

 

「いってて…!ごめんツルハ、やっぱり俺は洞窟をナメてたよ…」

 

「やれやれ、まだ広い道を選んで進んであげてるのよ。

 私が居なかったらどうなってた事だか。

 感謝しなさいよね、スゥ!」

 

「うん、ありがとうなツルハ!」

 

軽く嫌味のつもりで感謝を求めたツルハ。

それに対して、本心から思っている様子で笑顔で感謝した。

 

「っ…わ、分かってるじゃない!

 ほら、気を付けて行くわよ!」

 

ツルハは毒気を抜かれ、照れた顔をスゥに見られないように

振り返って皆を急かす。

 

スゥの後ろでは、ファルナ達3人が続く。

相変わらずファルナはむくれた顔をしている。

 

「ファルねぇ、怖い顔してる~!」

 

ピコは初めて見るファルナの苛ついた顔を見て

冷や汗を流しながら言った。

 

「む~っ、怖い顔なんてしてないよ!

 別に

 『ツルハさん妙にスゥと距離が近くない?』

 とか

 『スゥはスゥで、なんだか楽しそうじゃない?』

 なんて思ってないから!」

 

戦闘時でもないのに、彼女の髪の炎がメラメラと音を立てて燃えている。

 

「ぜ、全部言ってますよファルナちゃん…」

 

メルティもピコと同じように、ファルナの態度に戸惑っている。

この手の感情に敏感なメルティは、ファルナの気持ちを早い段階で察していた。

人差し指を口元に当て、困った顔でファルナとピコに話す。

 

「それにしても、今のはスゥくん減点ですねえ…

 ファルナちゃん、スゥくんとツルハさんの間に割って入らないんですか?」

 

そう言うメルティの言葉が耳に入っていないファルナは、

寂しそうな表情で彼女達に聞こえない程の小さな声で呟いた。

 

「…やっぱり、人間さん同士の方がいいのかなあ…」

 

「?ファルナちゃん、何か言いました?」

 

「…ううん、何でもないよ。

 さ、先に進もう!スゥ達行っちゃうよ!」

 

ファルナは無理に明るい表情を作り、メルティとピコを促した。

 

後ろで彼女がそんな思いを持っている事を知らず、

スゥとツルハは話を続けている。

 

「ツルハ、そういえばさっき言ってた…」

 

「『月の石』ね!今日こそ小さい欠片でもいいから見つかればいいんだけど。」

 

「そうそう、月の石。

 『おつきみ山』っていう名前は、月の石が取れるから付いた名前なのか?」

 

彼らの話に出てきた『月の石』。

このおつきみ山では、その珍しい石が稀に採掘される事で有名な山であった。

その石は貴重ではあるが、ニビの鉄鉱石のように人間にとって有用な物ではない。

人間が扱う物として、特にこれと言った使い道は無いのだ。

 

しかし、その石から発せられる特殊な放射線は

特定のポケモンの体を活発化させ、場合によっては『進化』させる事もあるという。

 

「うーん、ちょっと違うかな。

 おつきみ山の名前の由来ってね、みんな名前の通り

 『名月が見られる場所』だからと勘違いしてるの。

 でも、そうじゃないのよ。」

 

「…?じゃあ、何故?」

 

「じゃあ、まずは『ピッピ』っていうポケモンを知って貰わないとね。

 ちっちゃくて、すーっごく可愛いポケモンなの!」

 

ツルハは両手を握りしめながらスゥに力説する。

相変わらずの捲し立てる口調で、続けて話す。

 

「それでね、普段はこのおつきみ山でホントに滅多に見つからないんだけど、

 ピッピは確かに居るの。

 ピッピはね、大昔に大きな月の石で出来た宇宙船で

 おつきみ山に降り立ったと言われてるの。」

 

「つ…月から!?石に乗って!?

 なんか信じられないなあ…」

 

スゥはピッピという滅多に見られないポケモンに

会ってみたいという感情も沸いたが、

それよりも『月から降りて来た』という唐突に出てきたスケールが違う話に

戸惑う気持ちの方が大きかった。

その反応が期待通りというように、ツルハは得意気に話す。

 

「ふっふーん、まあそりゃ信じられないわよね!

 でも、その説が主流だっていう根拠があるの。

 大昔にピッピ達が隕石で降り立った時、おつきみ山の周りは

 隕石の衝撃で大爆発を起こしたと言われてるわ。

 それで、可哀想なんだけどこの周辺に生きてた古代のポケモン達は

 その爆発で死んでしまったの。」

 

「し、死んじゃったの!?

 大昔とはいえ、可哀想だな…」

 

「…こほん。まあしんみりしないで。大昔の話よ。

 考古学者的にはとっても興味深いわ。

 この山ではね、その大昔に死んでしまったポケモン達の『化石』

 まで発掘される事があるのよ。

 凄いわよね、この山。

 『月の石』だけじゃなくて『化石』まで発掘されるんだから!」

 

ツルハは今までスゥが見た中で一番興奮しながら饒舌に語り続ける。

 

「とりあえず、この場所で月の石と

 古代のポケモンの化石が見つかるって事が一番の根拠。

 あとは少しロマンチックな話になるんだけどね。」

 

「…ロマンチック?」

 

「そ。

 月から降りて来たピッピ達はね、満月の夜にある場所で

 みんな集まってダンスをするの。

 わざわざ、今私たちが通っているような大変な道を通ってまで

 見に来ようとする人は稀だけど。

 ピッピ達が満月の夜に集まってダンスをするのは、

 ご先祖様が元居た月に向かって挨拶をする為だって言われてるわ。

 これがもう一つの、彼らが月から来たっていう根拠。

 …根拠って言うにはちょっと弱いかもしれないけどね。」

 

「そうか…おつきみ山って言われてるのは

 人間が月を見るからじゃなくて…」

 

スゥは今までのツルハの話で、おつきみ山の名前の由来について

推測できた様子。

ツルハは得意気な顔で、その答え合わせをした。

 

「そう!その通り!

 ピッピ達が月を想って見るから、『おつきみ山』っていうの!」

 

ツルハは人差し指を立てて結論を言った。

その表情は実に満足そうである。

スゥは一気に詰め込まれた情報を飲み込むのに苦労している。

 

そしてツルハの話を整理していく内に、彼は大事な事に気が付いた。

 

「…ちょ、ちょっと待って!

 満月の夜に…?」

 

スゥは昨夜、ポケモンセンターの屋上でファルナと見た月を思い出した。

彼は後ろにいるファルナの方に足を運び、彼女の肩を両手で掴んで確認した。

 

「ファルナ!昨日の夜の事なんだけど!」

 

「え、えぅっ!?スゥ、ちょ、ちょっと…!」

 

ファルナはスゥに掴まれている事と、『昨晩』について尋ねられた事で

思わず夜の屋上の件を思い出した。

先程まで浮かない表情をしていたファルナは、一転して頬を染めて慌て始めた。

 

「スゥ、昨日の夜の事は…恥ずかしいから言っちゃダメ!」

 

スゥはファルナの早とちりに反応して、同じく頬を赤くする。

その様子を見ていたツルハは勘付くものが有った。

 

「あ、あら?ファルナちゃんとスゥ…もしかして…」

 

彼女は、もし自分の勘が正しかったら

スゥと親しく話した事がファルナに悪かったかもしれないと思っていた。

 

スゥは慌てて、本来質問しようとしていた内容を話す。

 

「お、俺も言わないよ!

 恥ずかしいし…!

 そうじゃなくて、昨日の夜の月って確か『満月の直前』だったよね?」

 

ファルナはまだポーッとしたまま、ぼんやりと答えた。

 

「あ、あぅ…確かスゥが『明日が満月だね』って言ってたよ。

 …あっ!!」

 

ファルナは自分で回答した言葉と、

ツルハの話が繋がったようだ。

スゥが言うよりも先に、ファルナは考えを言った。

 

「スゥ!今夜だよ、ピッピ達のダンスが見られるの!

 今夜は満月だもん!」

 

スゥはファルナに笑顔で言った。

 

「やっぱりそうだよな!

 みんな、今夜そのダンスを見よう! 

 …野宿になっちゃうけど、いいかい?」

 

スゥはファルナ、ピコ、そしてメルティに問いかけた。

元はと言えば野宿を避ける為に早出していたのだ。

少し気まずそうにしている。

 

それに対してファルナだけでなく、

ピコもメルティも皆顔を見合わせて答えた。

 

「もちろんだよ、私も見てみたい!」

 

「スゥにぃ、ボク達が居れば野宿も安心だよ!

 …ちょっと野宿って楽しみだったんだ!」

 

「ふふ、私もいいですよ。

 楽しそうです!」

 

ツルハは彼らの話が纏まったのを確認して言った。

 

「そうこなくちゃね!

 その通りよ、今夜はピッピ達のダンスが見れるはず!

 私たちが今向かっているのはその場所なの!

 それに、ピッピ達が集まるような場所なら月の石も見つかるかもしれないしね!」

 

意気揚々と言うツルハ。

しかし、スゥはツルハの言葉に少し疑問が残った。

 

「あれ、ツルハ…案内して貰えるのは有難いんだけど、

 言ってたよね?『ボディーガード』になってくれって。

 今の所ズバットに襲われていないし、そういう道を知ってて案内してくれてるんだろ?

 それなら一人でも行けたんじゃ…?」

 

スゥの質問にツルハはピクッと反応した。

 

「うっ、なかなか鋭い質問ね…

 そうよ、今までは一人でもその場所に行けたわ。

 でもね…この先に進むとちょっと困った事があるの。」

 

ツルハは浮かない顔で言った。

スゥは理由を聞く。

 

「困った事?」

 

「そう、何か怪しい人達が居るのよ。

 この数日で見かけるようになったんだけど、昨日その人達に言われたの。

 『子供がこんな場所に来たら危ないよ~?』って。

 こっちを心配してくれてるような言い方なんだけど、何だか笑い方が不気味で…

 少し怖くなったから引き返したの。」

 

ツルハの言う「笑顔が不気味な怪しい人達」。

スゥはそんな連中から彼女を守るためのボディーガードとして連れてこられたのだ。

彼は嫌そうな顔をして言った。

 

「ええー…俺はてっきりズバット達に襲われるから追い払って欲しい、

 っていう意味かと思ってたよ。

 俺も怪しい人に関わるのはイヤだな。」

 

彼の返事を聞いてツルハは説得しようとする。

 

「何言ってるの!男の子でしょ?

 男ならビシっと言えばナメられないわよ!

 ほら、先に行くわよ!ピッピ達のダンス、見たいんでしょ?」

 

「ちょ、ちょっと!

 見たいのは見たいけど、関わるのは嫌だってー!」

 

…説得ではなかった。

決定事項としてツルハは強引に嫌がるスゥを引っ張っていく。

ファルナ達は不安を覚えながらも、仕方無くスゥ達について行った。

 

___________________________________

 

 

しばらく洞窟を進んだツルハ達。

ツルハは、昨日怪しい人に会ったという場所で足を止めた。

 

「…この辺りね。

 ファルナちゃん、メルティちゃん。

 ちょっと炎を消して!」

 

小声で彼女はファルナとメルティに言った。

ファルナ達はとりあえずツルハの言う通りに、髪に灯す炎を消した。

 

「スゥ、居たわ。

 …あの人達よ。」

 

スゥは彼女が指さす方向を見てみた。

先には、外の明かりが差す広場があった。

その場所だけ天井の岩が無いのであろう。

そしてそこには、黒の衣装で統一した男達が数人見られた。

彼らの胸には赤色で「R」の文字が大きく描かれていた。

 

「うわ…確かに怪しい…なんだあの集団?」

 

「スゥ…私、ちょっと怖い…」

 

「んに…あんな服、ボクなら頼まれても着たくないよ。」

 

スゥとファルナ、そしてピコは見るからに怪しいその集団を見て

やはり関わりたくないと改めて思っていた。

スゥはメルティが言葉を発さない事に違和感を覚え、彼女の方を見てみた。

 

「メルティ?

 …ど、どうしたんだ?」

 

スゥはメルティの様子が尋常では無い事に気付いた。

彼女は目を大きく開き、冷や汗を流している。

そして自身を抱くように腕を組んで震えていた。

 

「ぁ…ぁ…!!」

 

スゥだけではなく、ツルハ、ファルナ、ピコも彼女を見て驚いている。

まともに呼吸が出来ているのか心配になる程、メルティの呼吸が乱れていた。

 

「メルちゃん…一体どうしたの?」

 

ファルナは震えているメルティの体を抱きしめ、落ち着いて尋ねた。

次第に呼吸だけは落ち着いてきたメルティは、か細い声でスゥ達に答えた。

 

「っ…みなさん、あの人達は…

 …

 …ロケット団です。」

 

ツルハを除いた、その場の全員がメルティの言葉に硬直した。

 

「ロケット団…!?

 確かに言われてみれば黒づくめの服だし…それに、あの胸の『R』。

 Rocketの『R』か!」

 

スゥはメルティの答えから、その集団がロケット団であると

断定出来る要素ばかり見つけてしまった。

 

「そうか、メルちゃん…ダイチと一緒に居たんだもんね…

 他の団員も見たことがあるんだ…」

 

ファルナはメルティの頭を優しく撫でながら言う。

 

「んにぃ…でも、ダイチってあんなカッコ悪い服じゃなかったよね?

 なんか黒いマントを被ってたし。」

 

ピコはメルティに疑問を投げかけた。

メルティは、その質問に答える前にスゥ達に願い事をした。

 

「み、皆さん…お願いです。

 この場所から離れたい…です。そこで答えますから。」

 

スゥは彼女が言う事ももっともだと思い、場所を変える事にした。

 

「ツルハ、事情は後で話すよ。

 ちょっとあいつらから離れよう。ここじゃ危ない。」

 

今の状況が全く呑み込めていないツルハ。

しかし、メルティの異常な怯え様を見て文句も言わずスゥに従った。

 

_________________________________

 

しばらく来た道を引き返したスゥ達。

強い光を出して目立たないよう、彼らはツルハが持つライトの明かりだけを

頼りに歩いてきた。

 

そして頃合いになった時、ツルハはファルナに炎で照らして貰うように頼んだ。

道に詳しいツルハが言うなら大丈夫なのだろうと、

ファルナは彼女の言う通り、髪に炎を灯した。

スゥ達の周囲がボワッと暖かい光で照らされる。

 

「…この辺りまで来たら大丈夫よ。 

 結構戻ってきたしね。

 それで、私は全く分かってないんだけど。

 一体みんなどうしたの?ロケット団って…?」

 

ツルハは、まだ怯えているメルティには直接聞かず

スゥに質問を投げた。

 

彼は「ロケット団」について知る事を一通りツルハに説明した。

破壊・盗み・ポケモンへの虐待・M-プロトの事…そして、

そんな連中にメルティは捕まっていたという事を。

 

彼の説明を一通り聞いたツルハ。

彼女の顔は非常に怒りに満ちたものになっていた。

 

「はあ!?何それ!

 とんでもない連中じゃないの!

 メルティちゃん、それでこんなに怯えてるのね…」

 

ファルナはまだメルティを抱いている。

ようやく落ち着いてきた様子で、メルティは先のピコの質問に答える。

 

「ピコくん、彼らの服の事なんだけどね…

 あれは団員の下っ端が着ている服なの。

 ダイチもそれほど偉かった訳じゃないけど、それでも彼らよりは上だった。」

 

ピコはタケシからロケット団について教えてもらった時の事を思い出した。

 

「そういえば、タケシが言ってたよね?

 ダイチは…えーっと…うーんっと…」

 

「ピコ、多分『ステージ1』の事を言いたいんだろ?

 ダイチはステージ1っていう下っ端だったって。」

 

「そ、そうそう!それそれ!

 下っ端って言ってたのに、もっと下っ端が居るんだね。」

 

メルティは彼らの話を聞いて、思ったより多くの事を

彼らは知っているのだと感じた。

 

「その通りです。ロケット団には『ステージ3』までの階級が有るんです。

 だけど、まだ『ステージ1』という名前を貰っているだけでも

 ロケット団の中では一目置かれます。

 きっとダイチはソルトとシュガーとの相性が良かったんだと思います。

 …数多くの下っ端からは一つ抜き出てる訳ですから。」

 

スゥはメルティの話を一しきり聞いて、全員に告げた。

 

「…よし!

 メルティ、おつきみ山の探検はもう終わりにしよう。

 あまりウロウロしているとあいつらに見つかっちゃうかもしれないし。

 …そういう訳だから、ツルハ。

 ごめん、俺たちはまた順路に戻って山を抜けるよ。」

 

スゥはツルハに言った。

跳ね返りな彼女も、事情が事情なだけに流石に諦めた様子。

 

「はあ、仕方なさそうね。

 私も残念だけど、そんな危ない連中なら関わるのは御免だわ。」

 

そんな彼らを見ていたメルティだが…

意を決したように、彼らが思いもよらぬ事を言い出した。

 

「…いえ、行きましょう…!」

 

スゥ達は彼女の言葉が、自分達の聞き間違いかと思った。

一番傍にいたファルナが、それが聞き間違いでは無い事を理解して言う。

 

「…え?

 何言ってるのメルちゃん!

 ダメだよ!捕まる心配は無いけど、メルちゃんが怖がるのは嫌だよ!」

 

強い口調でファルナはメルティを止めた。

しかし、彼女の想像以上にメルティは固い意志だったようだ。

一言一言を自分に言い聞かせるように、メルティは全員に言った。

 

「…ダメ、なんです!

 私、このままじゃダメなんです!」

 

スゥは彼女の瞳に強い思いが籠っているように見えた。

彼女がどういうつもりなのか、問いかける。

 

「どういう事かな、メルティ?

 聞かせてくれ。」

 

「スゥくん、ロケット団はもう何処に行っても見かけるぐらい

 団員が増えてしまってるんです。

 見かける度に、私の為に団員を避けようとしてたら…

 何処にも行けません!

 私は今でももう十分、スゥくん、ファルナちゃん、ピコくんに助けてもらいました。

 ほんの数日ですけど、本当に暖かい毎日。

 M-プロトを怖がらなくても良くなった事。

 あなた達は…私の大恩人なんですよ。」

 

スゥは粛々とメルティの話を聞いている。

ピコですら、普段のお調子を出さずに真面目な顔で聞く。

ファルナは、メルティがこの先言おうとしている事が想像出来ていた。

それは、スゥに炎のトラウマを打ち明けた時、

ファルナ自身が心に決めた事と同じであろうという事を。

 

「私は変わらなきゃいけない!!

 ロケット団なんて怖がってちゃ、大好きなみんなと一緒に旅が出来ません!

 私、みんなを守れるくらいに強くなりたいんです!

 だから…行きましょう!」

 

メルティはすっと立ち上がり、拳を握りしめて言い放った。

スゥ達は彼女の意志を尊重し、それぞれ思いの丈を述べる。

 

「メルティ、分かった。

 そういう事なら…この先に進んでみよう。

 だけど、忘れないでくれよ。

 メルティ一人が俺たちの為に頑張るんじゃない。

 みんなもメルティの力になりたいと思ってるって!」

 

「んにっ!メルねぇ、ボク達みんなで力を合わせようよ!」

 

「そうだよ!

 メルちゃん、一人で頑張りすぎないでね。

 怖かったり辛かったら、いつでも私がぎゅーってしてあげるからね!」

 

彼らの言葉に、メルティは涙腺が緩みそうになっていた。

しかし、彼女は泣かなかった。

彼らと出会った時のような泣き虫も、彼女は克服したかったのだ。

 

だから涙の代わりに笑顔で答える。

 

「はいっ!ありがとうございます、みんな!」

 

そんな彼らを見ていたツルハ。

彼女はエコーをボールから出して彼を抱きしめて言った。

 

「エコー…私たちも、あんな風になれたらいいね。」

 

小柄なエコーは、ツルハの腕に抱かれたまま彼女を見上げて言った。

 

「キキッ、ツルハ。俺達も頑張ろうね!

 スゥ達に負けないようにさ!」

 

 

 


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