まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report4-3 [モンスターボールとM-プロト]

[Report4-3 モンスターボールとM-プロト]

 

「目が覚めたかい?メルティ。」

 

優しげな声が聞こえ、メルティは意識をうっすらと取り戻す。

気が付けば自分は見覚えの無い部屋のベッドで眠っていた事が分かった。

 

「おはよう、メルちゃん!」

 

嬉しそうな声でまた自分を呼ぶ声。

気だるく起きて周りを見ると、スゥ達が自分を囲ってベッドに座っているのが見えた。

 

「…ぁ、ここは…?」

「ここはおつきみ山のポケモンセンター。

 メルちゃんぐっすり眠ってたからちゃんと寝られるようにって、

 スゥが運んだんだよ。」

 

正面に座ってそう説明するファルナ。

メルティは安心した様子でファルナの頬に自分の頬を擦りつけた

 

「よかった…夢じゃなかった…」

「えへへ、メルちゃん甘えんぼ~」

 

照れくさそうにファルナは彼女の頭を撫でた。

隣で見ていたピコはそわそわして落ち着かない様子だった。

その様子に気付いたスゥはもういいよ、とピコに伝えた。

 

「んにっ!メルねぇ!」

 

ファルナとメルティの間に割って入り、メルティに抱き着くピコ。

彼なりに空気を読んでタイミングを伺っていたようだ。

メルティは少し驚いたようだが、ピコを抱えて微笑んだ。

 

「ピコくん、ありがとうね。

 あなたの言った通り私、早く打ち明けて良かった。

 スゥさんとファルナちゃんも、こんな私を仲間にしてくれてありがとうございます。」

 

メルティは深々と頭を下げた。

 

「メルティ、こっちこそ仲間になってくれてありがとう。

 …悪いんだけど、勝手にモンスターボールを使ったよ。」

 

スゥは机の上に置いていたボールを手に取り、

メルティの目の前に差し出した。

勝手に捕獲した事に悪気を感じ、指で頬を掻きながら。

そのボールを見たメルティが不思議そうな顔で尋ねた。

 

「ぁ、あれ…?

 私、ダイチのモンスターボールがあるはずなんですけど、

 スゥさんのボールで捕まえられたんですね…?」

 

スゥはやはり気になるだろうな、と思いながら

その場の全員に切り出した。

 

「うん、俺も不思議なんだ。

 普通は他人のポケモンって捕まえられないはずなんだけどね…。

 ちょうどその事やロケット団の事を博士に相談しようと思ってたんだ。

 みんな、今から行こう!」

 

「博士…?

 スゥさん、よく見たらもう夕方ですよ。

 これから外に出るんですか…?」

 

メルティが窓を見ると、日が沈みかかっていた。

ファルナとピコは、彼女が眠っている間にスゥから話を聞いているので

特に疑問を持っていない様子だった。

 

「いや、外には行かないよ。

 ポケモンセンターの中に…って、まあその説明はいいや!

 とりあえずメルティも起きて、ついておいで!」

 

「ぁ、はい!」

 

____________________________________

 

そうして移動した場所はポケモンセンター『PC(パソコン)通信ルーム』。

1つ1つ区切られた部屋は防音室となっており、30区画程度あるようだ。

それぞれの部屋にはパソコンとモニター、モンスターボールを設置するドックがある。

この機械で「ポケモン保管ボックス」、「道具の預け入れ」、「他PCとの通信会話」

を行うことができる。

 

スゥはポケモンセンター内でこのような施設がある事を今日初めて知った。

ポケモンセンター案内所にてあらかじめ予約していた番号札を手に取り、

その番号の部屋に入った。

室内はそれほど広くはなく、ファルナ達含め4人では少々狭く感じる。

 

スゥは座席に着いてPCを起動すると、モニターには3つの機能選択画面が表示された。

その様子を脇から興味深そうに覗いている3人。

「通信会話」の項目を選択し、通信先を探した。

 

「えーっと…マサラタウンを選んで…

 あっ、有った!『オーキド研究所』!」

 

スゥがそれを選択すると、モニターには『通信中…』と表示され

ピーピーという電子音が鳴る。

しばらく電子音が鳴り続けた後、モニターの表示が切り替わった。

 

「はいはい、どちらさ…おお!スゥか!」

 

「博士!こんばんわ!」

 

面倒臭そうに通信に応答したオーキド博士。

研究所のPCモニターにスゥの顔が映し出された途端、嬉しそうに名前を呼んだ。

 

「元気そうじゃの、スゥ!

 今はおつきみ山におるようじゃな。

 ファルナも元気にしとるかな?」

 

「博士ー!私も元気だよ! 

 見て見て、進化しました!」

 

スゥに詰め寄ってファルナがモニターに顔を向ける。

ファルナも博士との話を楽しみにしていた様子で、

今の姿を自慢するように博士に見せていた。

 

「おお!リザードに進化したんじゃな!

 思ってたより早いのう。炎ももう大丈夫なんじゃな。」

 

えへへ、と照れたように笑顔を向けたファルナ。

スゥはピコとメルティを博士に紹介する。

 

「ほら、ピコとメルティもおいで!

 博士、もう3人も仲間が出来ました!

 こっちのピカチュウがピコ、ポニータがメルティです。」

 

モニターの中を狭そうに映る全員。

ピコとメルティは博士に挨拶をする。

 

「ふむ、警戒心の強いピカチュウをよく見つけられたのう…

 それにスゥ、ポニータをどこで見つけたんじゃ?

 その辺りには生息していないはずなんじゃが…」

 

それを聞いてスゥは本題に入る。

 

「えーっと、実は博士に相談したい事があって…」

 

メルティの過去の経緯について説明した後に、スゥはオーキドに質問した。

 

スゥが聞きたかった事は2つ。

1つはオーキドがロケット団とM-プロトについて何か知っているか。

2つ目はなぜロケット団のポケモンだったポニータを、スゥのモンスターボールで

捕まえる事が出来たのか。

 

「そうじゃったか…ロケット団に捕まっておったんじゃな。

 メルティ、色々と辛い事が多かったじゃろ。

 大変じゃったな。」

 

メルティは耳を伏せて少しの間暗い顔をしたが、すぐに元気を取り戻して話した。

 

「ありがとうございます。

 …でも、これからは皆が付いてくれてますから…!」

 

「そうじゃな。

 スゥ、引き受けたからにはしっかり面倒を見るんじゃぞ。

 …

 …うーむ、まずはロケット団についてじゃが…詳しくはよく知らんのう。

 ポケモンを使って強盗や破壊活動をしている集団だという程度じゃ。

 じゃが、M-プロトについては知っとる。」

 

「本当ですか!?

 知ってる限り教えてください!」

 

スゥはモニターに迫りながら言った。

 

「これスゥ、あまり画面に近づくと目を悪くするぞ。

 スゥ、モンスターボールには、捕まえたポケモンにトレーナーIDを登録する機能があるんじゃ。

 IDを登録されたポケモンは、他のトレーナーのモンスターボールでは捕まらなくなる。

 …これはお前も知ってる事じゃろう。

 モンスターボールは他のトレーナーのポケモンの盗難を防ぐために、

 そうプログラムされてるんじゃ。

 …

 …じゃが、M-プロトはその盗難防止プログラムを無視するんじゃ。

 トレーナーIDが登録されたポケモンでも捕まえられるという事じゃな。

 モンスターボールのプログラムをよく理解してる人間が作ったんじゃろう…

 それに加えて、皆知っとるじゃろうが『悪夢』をポケモンに見せる機能もある。」

 

ピクリとメルティの耳が動く。

彼女の様子を見て、スゥはオーキドに尋ねた。

 

「博士、M-プロトには捕まらないように気をつけるしか無いんですか?

 何か対策があれば教えて欲しいんですけど。」

 

オーキドは腕を組み、目を瞑って溜め息を吐いた。

 

「ふぅむ…」

 

それを見たスゥ達は、やはり対策は無いのかと思い

表情に影を落とした。

 

「博士…そうですか。対策は無いんですね。

 それじゃあ、俺がしっかり皆を守ってやら…」

 

スゥがそう言いかけた所にオーキドは口を挟んだ。

 

「…もう対策済みじゃ。」

 

「…えっ?」

 

スゥはオーキドの言葉が予想外であったように驚いた表情。

 

「スゥ、お前が旅立った時に渡したモンスターボールがいくつか有ったじゃろ。

 あれはワシが作った特注品でな。

 …『防御プログラム』を書き込んだモンスターボールなんじゃ。」

 

「防御プログラム…?」

 

「そうじゃ。

 M-プロトのような不正プログラムで、トレーナーIDを無視出来ないように

 プロテクトされておる。」

 

「プログラム…って何…?」

 

「ファルねぇ、ボク訳分からなくて眠たくなってきたよ…」

 

ファルナ達ポケモンはそろそろ話の中身についていけていなかった。

今までの話を正しく理解出来ていたスゥは、オーキドに期待を込めて確認した。

 

「博士!つまり、最初に貰ったボールで捕まえたポケモンは

 ロケット団には奪われないって事?」

 

「「!!」」

 

メルティだけではなく、ファルナとピコもスゥの言葉に目を見開いた。

皆の期待に応えるように、オーキドはハッキリと回答した。

 

「その通りじゃ!

 ファルナは当然じゃが、

 ピコとメルティは最初のボールで捕まえたんじゃろ?

 それならM-プロトで捕まることはない。

 …そういう訳じゃ、メルティ。もう怖い夢を見なくてええんじゃ、安心せい。」

 

オーキドの言葉を聞いたメルティは涙交じりの震える声で言った。

 

「…夢みたいです…!

 もう二度と…あれに怯えなくていいなんて…

 グスッ、ごめんなさいみんな。

 私、みんなに会ってから泣いてばっかりですね…」

 

スゥ達はメルティの様子を暖かく見ていた。

ファルナとピコも、自身がM-プロトに捕獲されない事が分かって安心している様子。

ファルナはメルティに手を広げながら言った。

 

「メルちゃん!ほら、こっちにおいで!」

 

「ぁ…えっと、はい!」

 

メルティはファルナの懐に寄り、胸に頭を擦りつけた。

 

「はぁー…何だか、ファルナちゃんの体暖かいから安心します…」

 

「えへへ、メルちゃんも炎タイプなんだから一緒だよ!甘えんぼさん。」

 

甘えているメルティを見ているスゥは、ほっとした顔をしていたが

座席をくるっと回してモニターに向き合い、画面越しの相手に向かって抗議の視線を向けた。

 

「それにしても博士、ありがとうだけど…

 そんな機能が付いてるのなら旅に出る時に言ってよ!

 さっきは溜め息なんか付いてたから不安になりましたよ。」

 

オーキドが特注のボールを持たせてくれた事には感謝したスゥだったが、

特に説明が無かったことに文句を言った。

 

「おお、すまんすまん。

 旅に出る前から心配事ばかり教えても、水を差すと思ったんじゃ。

 そう怒るな、ほっほ!

 溜め息付いたんは…お前たちがロケット団に関わってしまった事に対してじゃ。

 まあそうなると予想しておったから、そのボールを渡したんじゃがな。」

 

「はあ…博士からまだ教えてもらってない事が沢山あるんだろうなあ…」

 

悪びれずカラカラ笑いながら話すオーキドに、頬杖を突きながらスゥが言った。

ロケット団やM-プロトの事、そしてファルナの炎へのトラウマについても

特に教えられていなかったのだ。スゥが不服を持つ事は無理もないだろう。

 

「一から十まで教えておったら、いつまで経っても旅に出られんわ。

 また困った事があればその都度教えてやるから連絡せい。

 …して、もう一つの質問は何じゃったかの?」

 

オーキドはスゥの不満を軽く受け流し、本題の続きに入るように促した。

スゥはそれもそうだと一応納得して、改めて質問する。

 

「はいはい、分かりました。

 もう一つは、どうして俺のボールでメルティを捕まえれたかって事です。

 さっきの話だと、メルティには既にダイチのトレーナーIDが登録されてるから

 捕まえれないはずですよね?」

 

「おお、そうじゃな。

 基本的にはその通りじゃ。

 ただ、そのID登録については『例外』があるんじゃ。」

 

「例外…?」

 

「ポケモンのID登録を解除する方法は2つあるんじゃ。

 1つは、モンスターボールで紐付けしたIDをトレーナー自ら解除する方法じゃ。

 ほれ、お前の手元にモンスターボールの設置台があるじゃろ?そこから手続き出来るぞ。

 ポケモンを逃がして自由にしたい時にはそうするんじゃ。」

 

スゥはパソコンの脇にあるドックを見た。

滅多に使う事は無いだろうな、と思いつつオーキドの話の続きを聞いた。

 

「2つ目は、ボールの中にいるポケモンが『トレーナーに対してストレスを抱えている状態』を

 モンスターボールが検知したら、『IDが書き換え可能な状態』になるんじゃ。

 …おそらくメルティの件はこれが理由じゃろうな。

 どうしてこんな機能が有るか、スゥは分かるな?」

 

スゥはオーキドに問いかけられて即答した。

メルティのこれまでの扱いを十分聞いているのだ、分からないはずが無い。

 

「『ポケモンの虐待防止』のため…ですよね。」

 

「その通り。残念なことじゃが、ポケモンをそのように扱うトレーナーも居なくはない。

 『IDが書き換え可能な状態』になってるポケモンのトレーナーには

 調査員がポケモンの様子を調査をしに行くんじゃが、

 最近はロケット団の所為かそんなトレーナーが増えたらしくてのう。

 調査員の人手が足りていないそうじゃ。」

 

話を聞いていたピコが項垂れて言った。

 

「んにぃ…メルねぇみたいなかわいそうな人が他にもたくさん居るって事?

 テラねぇが人間さんに近づいちゃいけないって言ってたけど、

 何だか分かった気がするよ…。」

 

ファルナはピコの頭を撫でながら優しく話した。

 

「ピコくん、そんな人間ばっかりじゃないよ。

 きっと、スゥみたいに大事にしてくれるトレーナーさんが普通なんだと思う。

 ポケモンを虐める人の方が珍しいんじゃないかな。」

 

スゥはファルナがピコを慰めてくれた事に感謝していた。

人間の立場では何を弁解しても空しく感じると思っていたからだ。

 

「ピコ、ファルナの言う通りじゃ。

 実際、ロケット団が世間に現れ始めるまでは、調査員が仕事をする事は

 ほとんど無かったんじゃ。

 …まあ、それはともかく!

 今回はそういう理由で、メルティのID登録が書き換えられる状態だったんじゃろう。

 メルティよ、スゥは昔からの付き合いじゃが、悪さをしないいい子じゃぞ。

 今度は辛い思いはしないから安心してやっておくれ。」

 

「ぁ…はい!沢山教えてくれてありがとうございます、博士。

 いつかご挨拶させてください。」

 

メルティはモニターに向かって頭を下げた。

スゥ達もオーキドに礼を言う。

 

「ほっほ、それじゃあの。

 みんな元気にするんじゃぞ!

 …そうじゃ、スゥ。

 ジム攻略も良いが、図鑑を作るのも忘れるんじゃないぞ?」

 

そう言ってオーキドは通信を切断した。

 

______________________________________

 

PC通信ルームから出たスゥ達。

スゥは濃い内容の話に少し頭が疲れたようだが、

M-プロトの脅威を受けない事が分かり一安心していた。

 

ポケモンセンターの窓ガラス越しに外を見ると、

先ほどまでの夕日もすっかり沈んで辺りは電灯が灯っていた。

時間が時間である事と、安心感からファルナとピコのお腹の虫が鳴き出す。

 

「んにーっ、お腹空いた!スゥにぃ、ご飯食べようよ!」

 

「私もー!

 スゥ、最近たくさんバトルに勝ってるんだから、豪華なのが食べたい!」

 

いつもの通り、ご飯の話になると異様に元気になる二人。

メルティもお腹が空いている様子だが、まだ皆に対して遠慮があるのか

控えめに主張する。

 

「わ、私は何でも…

 ぁ…」

 

そう言いかけた途端、クゥ…と彼女のお腹から音が聞こえた。

小さな音ではあったが、その場の全員が聞こえていた。

メルティは恥ずかしさのあまり肩を縮めプルプルと体を震わせている。

 

「にひひ、メルねぇもファルねぇみたいに食いしん坊?

 ほらスゥにぃ、みんなお腹空いてるんだからご飯ご飯!」

 

「ピコくーん、私が何って言ったのかな?」

 

ファルナはピコの言葉に口元を引きつらせながら尋ねた。

放っておいたら収拾が付かなくなりそうだと思ったスゥは、全員に提案した。

 

「よーしっ、今夜はメルティの歓迎会だ!

 みんな、何でも好きなご飯食べよう!もちろんメルティも、遠慮なんかするなよ!」

 

その言葉を聞いたメルティは耳をピンと尖らせ、

スゥ達が初めて見る満面の笑みで言った。

 

「ありがとうございます!

 それじゃあ、お言葉に甘えちゃいます!」

 

彼女の笑顔を見て、ファルナとピコが嬉しそうに賛同する。

 

『おーっ!!ごちそう食べるぞー!』

 

その後、ポケモンセンターのレストランで騒がしく夜が更けていった。

 

 

 


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