まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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~ 第4章 おつきみ山編 [解放] ~
Report4-1 [悩めるポニータ(前編)]


~ 第4章 おつきみ山編 [解放] ~

 

[Report4-1 悩めるポニータ(前編)]

 

場所はニビの東北、おつきみ山へと向かう大通り「鈍月街道」。

おつきみ山には長い洞穴があり、それを通り抜けることでハナダシティへと続いている。

この鈍月街道は、ニビシティからその洞穴への入り口までを繋ぐ

草原の中に作られた通りである。

ニビシティあるいはハナダシティジムへの挑戦のため、日々トレーナーが

ポケモンを戦わせている通りでもある。

スゥ達もこの数日、街道のトレーナー達から何度も挑戦され戦っていた。

 

「ファルナ、火炎放射!」

 

「はい!」

 

ファルナの高く結んだポニーテールが、リボンで結んだ根本から先端にかけて

赤い輝きが満ちる。

その髪に手を沿わせ梳くように滑らせると、炎が彼女の腕に巻き付くように燃え盛る。

 

「かえん…ほうしゃ!」

 

目前の敵に向かって腕を振り出すと同時に、

炎が螺旋を描きながら一直線に飛んで行った。

 

「うわあああぁっ!!」

 

放たれた先の相手は火炎放射に吹き飛ばされ、堪らず戦闘不能となった。

 

「ちょ、ちょっと君強すぎないか!?」

倒されたポケモンのトレーナーは、そのポケモンをモンスターボールに格納しながら言った。

 

「スゥ、また勝ったよー!

 段々、火炎放射も慣れてきちゃった!」

 

「お疲れ様、ファルナ!

 炎使いすぎて疲れてないかな?」

 

「うん、まだまだ大丈夫!」

 

「スゥにぃ、ボクももっと戦えるよ!」

 

スゥは彼の元に戻ったファルナを労う。

既にファルナもピコも何戦か戦っていたが、特に疲労を感じていない様子。

周囲では、バトルを観戦していた数人のトレーナー達がざわついていた。

 

「さすがタケシのイワークを倒しただけあるなあ…」

 

「私はさっき彼のピカチュウに負けちゃったわ。

 この辺だと相手になるトレーナーが居ないんじゃないかしら?」

 

「よくピカチュウなんて捕まえられたなあ。僕なんか何か月も探してるのに

 見つかりもしない!」

 

「そのファルナって子、進化系だろ?俺も進化させたいんだけど、中々進化しなくて。

 一体どうやったんだ?」

 

鈍月街道を行く中、スゥの率いるファルナとピコはことごとく挑戦者を退けていた。

そうしている内に、いつの間にか周囲のトレーナーの注目を集めていたようだ。

スゥは今までに経験した事が無いような質問攻めに遭い、少し目を回しそうになっている。

 

「えーっと…練習とか特訓の中身は考えたんだけど、強くなったのは

 ファルナとピコが頑張ってくれたからかな。

 俺はみんなと違うような特別な事はやってないと思うよ。」

 

彼の肩に乗るピコの頭を撫でながらそう答えた。

その内容は謙遜するつもりは無く、本心であった。

野生のポケモンに襲われたりして戦った事や、仲間を大事にしている事。

それくらい事は思いつくのだが、それは他のトレーナー達も同じだろう。

ここまで注目される程に、ファルナとピコを強くした「何か」が思いつかなかった。

そんな中、ファルナは多くの知らない人間に囲まれる事が珍しいのか

スゥの影で少し怖がっているような様子でいた。

 

「ポケモンの頑張りねぇ。でもトレーナー経験もまだ何日かって話だし、

 やっぱり元々のポケモンの強さって大事なんでしょうね…」

 

「さっきから負け無しなんだもんなあ。

 いいなあ、俺も強いポケモンを探して捕まえ直そうかな!」

 

そんな溜め息交じりの会話がトレーナー間でちらほらと起こる。

 

「えっ…」

 

スゥはその会話を聞くと、胸に何かざわつく物を感じていた。

ファルナとピコは彼らの会話を驚いた顔で見ていた。

 

「ちょ、ちょっと待ってよみんな!

 何かそれは違う気がする。」

 

スゥは思ってもみなかった周りの反応に、慌てながら言った。

 

「違うって、何が?」

 

新しいポケモンを捕まえようと息巻いていた一人が反応した。

 

「ピコは確かに最初から強い電撃を出せたりはしたけど、

 ファルナはそうじゃなかったんだ。

 元々強いとか、そういうのでは無くて…

 うまく言えないけど、今の仲間ともっと強くなる訓練をした方がいいと思う。」

 

口下手ながらも、はっきりとした口調で伝えるスゥ。

それを聞いたトレーナーは組んでいた腕をほどき、頭の後ろを掻きながら言った。

 

「そうは言ってもさあ、俺はもう1年くらいトレーナーやってるんだ。

 今の子ともずっとやってきたけど、まだ日が浅い君達に負けるんじゃダメだ。

 こいつらはあまりバトルに向いてないんじゃないかって思っちゃう訳で。

 …うん、まあ考えてみるわ!じゃあな!」

 

スゥに別れを言うトレーナー。

その傍ら、ずっと話を聞くだけだったファルナがスゥの袖を掴んで言った。

 

「ね、ねぇスゥ。早く私達も先に行こ。」

 

「う、うん…すみません、俺たちこの先に行くので。またいつか!」

 

そう周りに挨拶すると、ファルナとピコを連れて早足でその場を去った。

 

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少々先まで歩き、他のトレーナーが少なくなってきた場所に来たところでスゥは二人の顔を見た。

するとファルナもピコも難しい顔をしている。

 

「ファルねぇ、ボクはさっきの話イヤだったよ。」

 

ムスッと小さな腕を組みながらファルナに言うピコ。

感情に釣られて頬の電気袋が少し青白く光り、パチパチ音を立てている。

 

「うん、あの人達…自分の仲間がいるのにどうしてあんな事言うんだろう…

 あんな事トレーナーに言われたら、私だって戦うの嫌になるよ。」

 

悲しいのか怒っているのか、それらを織り交ぜた表情でファルナは目を伏せてそう答える。

話を聞いていたスゥが口を開こうとした。

その時、彼の背後にトスンッ、と何者かが飛び降りてきた。

 

「ああいう考えの人間さんって少なくないんですよ。」

 

「あ、お前は…!」

 

スゥ達が驚いてそちらを見ると、見覚えのある白い布に身を包んだ

馬の耳を生やしたポケモンが立っていた。

ニビシティ鉱山でロケット団員「ダイチ」が連れていたポケモンの一人である。

ファルナとピコはスゥの前に立ち、それぞれ臨戦態勢を取った。

 

「スゥ、この前のロケット団の人だよ。

 気を付けて!」

 

「もしかしてボク達の事を追ってきたの?

 仕返しに来たんだな!」

 

その二人を見て、白いポケモンは慌てて弁解する。

 

「ま、待って下さい!私に戦う気はありません!

 ぁ…でも追ってきたのは当たってますけど…

 あの…話を聞いて貰えませんか?」

 

そう言って被った白いフードを脱ぎ、スゥ達に深々と頭を下げた。

 

「はじめまして…じゃないですけど、はじめまして。

 私はポニータっていいます。

 ニビの鉱山の時はごめんなさい。それと、ありがとうございました。」

 

てっきりダイチや他のロケット団員も居るのかと思い

警戒していたスゥ達だったが、ポニータと名乗る彼女の態度からは

敵意が感じられなかった為、戸惑っていた。

 

「ファルナ、ピコ、この子は多分大丈夫だよ。

 警戒するのはやめて話を聞いてみよう。

 …えーっと、色々混乱してるんだけど、君はダイチのポケモンじゃないのか?」

 

ポニータはスゥの言葉に耳をピクリと動かし、表情に陰りを持った。

 

「ぁ…はい。ダイチの仲間でした…

 いえ、でしたと言うより、多分まだそうなんだと思うんですが…」

 

そう歯切れ悪く答える。

スゥはその様子を見て、「話」の中身が長そうだと思い提案した。

 

「ポニータ。

 大分事情がありそうだし、敵意が無いなら一緒にお昼ご飯を食べながら話をしないか?

 ファルナとピコはそれでもいいかい?」

 

「うん、何となくだけど私もポニータちゃんは大丈夫だと思う!

 いいよ、ポニータちゃん、一緒にご飯食べよ!」

 

「んに!さっきからお腹空いてるし食べよう食べよう!」

 

ほんの少しの問答の中であったが、ファルナもピコも共に警戒心はほとんど消えていたようだ。

 

「ぁ…ありがとうございます!

 本当に、ありがとうございます!」

 

彼女はスゥの誘いとファルナ達の答えに感激しながら、再度深々と頭を頭を下げた。

 

「よし、それじゃあオッケーだな!

 みんな、ご飯にしよう。ポニータも好きな物食べていいよ。

 …それにしても、改めてすごい量のおにぎりだなあ…」

 

スゥはその場にシートを敷き、鞄からおにぎりやパンを取り出しながら言った。

やたらとおにぎりの数が多い。元々3人で食べる予定だったにしては明らかに過剰な量である。

 

「ピコくん、おにぎり沢山買っておいてよかったね!」

 

「んにっ!

 スゥにぃは『買いすぎ!そんなに買っても食べれないだろ!』

 って言ってたけど、買ってて良かったでしょ?スゥにぃ。」

 

これだけの量を買うようにせがんだのはピコであったが、

悪びれるどころか威張るように言った。

 

「胸を張るな!

 こんな展開になるって分かってなかっただろピコ。」

 

「ふーんだ、結果オーライだよスゥにぃ!」

 

「そうそう、スゥ。細かい事は気にしないの!」

 

「お前らなあ。…まあ、確かに結果オーライだけど!」

 

スゥ達3人は笑いながら話していた。

 

「…ふふ」

 

その様子を見ていたポニータが釣られるように笑った。

彼女を見て、3人は少し安心していた。

 

「良かった、少しは元気出たみたいだなポニータ。

 こんな訳だし、遠慮せずに沢山食べていいからね。」

 

「ポニータちゃん、ずっと辛そうな顔だったもんね。

 もっとお話ししながらご飯食べよ!」

 

「ご飯食べたらもっと元気出るよ!早く食べようスゥにぃ!」

 

「…はい!いただきます!」

 

こうしてポニータを含めた4人での昼食が始まった。

ポニータはファルナやピコと比べると控えめな性格なのか、

口数はそれほど多くはない。

それでも普段3人でのご飯より賑やかな雰囲気が漂っていた。

 

「ポニータちゃんその髪と尻尾、炎みたいだけど

 もしかして炎タイプのポケモンなの?」

 

ファルナは隣に座っているポニータのオレンジ色の髪と尻尾を見ながら言った。

スゥ達も見てみると、確かに全体的に自ら発光している事が分かった。

ファルナのポニーテールの赤い発光ととてもよく似ている。

 

「ぁ、はい!ファルナさんと一緒で炎タイプなんです。

 そういえばファルナさん…」

 

「ちゃん付けでいいよ、ポニータちゃん!」

 

「ぁ…ふぁ、ファルナちゃん。

 その姿、最初にジムと鉱山で見た時と違いますけど、もしかして進化を…?」

 

ポニータは親しい呼び名は今一つ慣れていない様子。

ファルナへの呼び方に照れながら質問した。

 

「うん!1回目はタケシさんのイワークさんに負けちゃったんだけど、

 2回目戦った時に進化出来たの!

 今はヒトカゲじゃなくて『リザード』だよ!」

 

「やっぱりそうなんですか。

 服や髪だけじゃなくて、雰囲気が少し大人びたなって思ったので。」

 

「そうそう。ファルねぇが進化してから、

 スゥにぃずーっとファルねぇにデレデレしてるんだよ!」

 

ピコがそう言うと、スゥは飲み込みかけていたおにぎりを

喉に詰まらせかけ、咳き込んだ。

ファルナも手に持っていたパンを思わず落としそうになった。

 

「ケホッケホッ!!…ふぅ…!

 で、デレデレなんかしてない!」

 

スゥは赤くなり、ピコの髪を手でわしゃわしゃと掻き乱して言った。

ピコは相変わらずニヤニヤしている。

 

「んぅー、やめろよースゥにぃ!

 にへへ…!」

 

「(ピコ君、分かってるのかそうじゃないのか、

 時々読めなくて焦っちゃうんだよね…)」

 

ファルナの方も顔を赤くしながらそっぽを向き、

黙々とパンを食べ始めた。

 

「ふふふ、何だか家族みたいなパーティですね。

 こんな暖かい空気、久しぶり…」

 

ポニータは微笑みながら小さく言った。

その顔は楽しそうだが、どこか寂しそうな雰囲気を持っていた。

ポニータの呟きを聞いて、スゥは本題に入ろうか否かを迷っていた。

 

「(これは…下手にこっちから話を引き出そうとしない方がいい

  気がしてきたなあ。うーん、どうしようか…)」

 

スゥが迷っていた時、ポニータは自ら意を決したように切り出した。

 

「みなさん、さっきの話の続きなんですが、食事中にお話ししてもいいですか?

 …たぶん、暗い雰囲気にさせてしまうと思います…。」

 

ポニータの発言に対して、真っ先に反応したのはファルナであった。

 

「ポニータちゃん、言うのが怖い事なのかな。

 気持ちが整理出来たのなら私はいつでも話を聞くよ。

 …私もね、スゥにそうして貰ったから。」

 

自らの炎に対するトラウマを打ち明けた時。

その間スゥがじっと話を聞いてくれた事と、受け入れてくれた事を

思い出しながらそう言った。

 

「そうだなあ、そんな事もあったね。

 ピコはいいかい?」

 

「んーっとね、おねえちゃん!」

 

ピコが珍しく真面目な顔でポニータに目を合わせて言う。

 

「は、はい!何ですか?」

 

ピコから改めて呼ばれて、ポニータは正座でピコに向き合った。

 

「辛い事や言いにくい事って、出来るだけ早く誰かに言った方がいいんだよ!

 その時は泣いちゃうかもしれないけど、明日からは笑えるようになるからね!」

 

「ぁ…!!」

 

その言葉はポニータだけでなく、スゥやファルナを驚かせた。

二人は丸く目を開いてピコに賛同した。

 

「ピコ…そうだよ!その通りだ!

 こういう事を後回しにはしない方が良いんだ。

 良い事を言えるんだな、ピコ。」

 

「ピコくん、私もびっくりしちゃった!

 私よりも考え方が大人っぽい…!」

 

そんな反応を受けたピコは、「いやー、参ったな!」と言わんばかりの

勢いで照れながらふんぞり反っている。

 

「…なーんてね、ボクの言葉じゃないんだ!

 テラねぇから聞いた言葉!

 ボクがイタズラして物を壊しちゃった時に、中々言い出せなかったんだー。

 それがテラねぇにバレちゃった時に聞いたんだよ。」

 

ポニータは正座したまま下を向き、肩を震わせて

絞りだすように話し出した。

 

「…っ、みんな…本当に暖かい…ありがとうございます!

 お願いします、聞いて…下さい…

 …

 ……グスッ、助けて…下さい…!!」

 

 


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