まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report3-12 [みんながいるから]

[Report3-12 みんながいるから]

 

ポケモンセンター宿泊施設、スゥ達の部屋にて。

部屋のカーテンの隙間から光が差し込んでいる。

スゥ達三人はジム戦の疲れからか、いまだに寝息を立てている。

 

その静かな部屋のドアからコンコンとノックの音が響いた。

 

「…ん、朝…?」

 

その音に反応し、スゥはぼんやりと眼を開いた。

 

ノックの主は部屋の中からの反応が無かったため、

もう一つコンコンとノックをした後、口を開いた。

 

「マサラタウンのスゥさん、郵便を預かってます。

 いらっしゃいますかー?」

 

その声を聞いてスゥはハッと意識を取り戻し、答えた。

 

「は、はい!ちょっと待ってください!」

 

「んにぃ…?」

 

「えぅ…?あ、朝だー…」

 

ピコとファルナもそれに釣られるように一緒に目を覚ましたようだ。

バタバタとベッドから降りてドアを開けるスゥを傍目に、二人とも眠たそうな目を擦っている。

 

「こちらどうぞ。それでは失礼します!」

 

いそいそと郵便屋はスゥに封筒を渡し、部屋の前から去っていった。

手にした封筒をスゥは裏返した。

 

「…誰からだろう?

 あ、母さんからだ!」

 

スゥは差出人を確認したら、すぐに中身を出した。

中には3枚ほど折りたたまれた紙が入っていた。どうやら手紙のようだ。

彼はそれを読むためにベッドへ腰かけた。

ファルナとピコも眠たかった目を覚まし、スゥの両肩から手紙を覗いている。

 

 

『スゥとファルナちゃん、そして新しいお友達へ。

 まだ旅立ってから何日しか経ってないけれど、つい退屈なのでお手紙を書きました。』

 

そんな書き出しから、スゥ達が元気にしているか、旅のお金は大丈夫か。

彼らの心配をする内容だった。

スゥの母はどうやらスゥ達がニビシティに着くであろうタイミングを見計らって手紙を出したようだ。

 

『…色々と心配ばかり書いちゃったけど、ファルナちゃんも居るし大丈夫だと思ってます。

 時々はそっちからもお手紙ちょうだいね。みんな頑張ってね!』

 

「…ありがと、母さん。元気だよ。」

 

「ねぇスゥ、お母さんに会いたくなった?」

 

少し目を細めるスゥに、ファルナが問いかける。

 

「少しだけね!でもまだまだ旅に出たばっかりだよ。

 ファルナもピコも一緒だから、寂しくないしね!」

 

「スゥにぃのお母さんに会ってみたいー!

 美味しいご飯作ってくれるかな?」

 

「ピコくん、お母さんの料理美味しかったよ!

 またいつかみんなで家に帰ろうね、スゥ。」

 

「そうだね、ピコや進化したファルナを見せてあげたいし!

 …あれ、手紙はまだ1枚あるみたい。どれどれ…?」

 

『ファルナちゃんだけ読んでね!スゥはダメ!』

 

最後の1枚にはそう大きく見出しに書かれていた。

字は緑色で書かれており、先ほどまでの字体とは違い少し稚拙なものであった。

 

「ん?…もしかして、ロゼが書いてるのかな。

 俺が読んじゃいけないって何でだろう。」

 

「スゥ、私に貸して!」

 

何故かファルナが焦りながらその1枚をパッと取った。

ファルナはベッドから離れ、窓の近くで一人その中身を読んでいた。

 

「んに?ファルねぇ、どうしたの?」

 

「何が書いてるの?凄く気になるんだけど…」

 

ファルナの方に二人は目をやっていた。

すると手紙を読んでいたファルナが目に涙を浮かべ始めた。

 

「…ロゼちゃん、ありがとう。」

 

手紙を胸に抱きながらファルナは小さくそう呟いた。

 

「ファルナ?」

 

「ファルねぇ、何で泣いてるの?」

 

「あ、あはは…ごめんね。

 ロゼちゃん、私の事を凄く心配してくれてたみたい。

 嬉しくてつい涙が出ちゃった。」

 

ファルナは指で涙をすくい、元気な笑顔で二人に言った。

そしてピコが話に置いてきぼりにならないよう、ロゼのことを説明した。

 

「ピコくん、ロゼちゃんっていうのはね、私の小さい時からの友達なの。

 何を書いてくれてたか、ピコくんにはまた話さないとね。

 気持ちの整理が出来たらお話するから、少し待っててね。」

 

「…んに?うーん、よく分からないけどファルねぇがそう言うならいいよ!」

 

「ファルナ、俺には?」

 

「えへへ、スゥにはダメ!ロゼちゃんも書いてたでしょ?」

 

「ほ、本当に読んじゃダメなのか!?」

 

スゥはまたロゼがからかい半分で自分を除け者にしてる程度なのだろうと思っていたが、

どうも本気で書いていた事だったらしい。

 

「あ、そんな事よりスゥ。

 ロゼちゃんはお母さんの菜園のお手伝い頑張ってるみたいだよ。

 草タイプのポケモンだから、植物の気持ちが分かるの。

 だからお野菜がすっごく元気に育ってるんだって!」

 

ファルナは話題を変えるように、ロゼの近況をスゥに伝えた。

そして唐突にその手紙を自身の炎で燃やしてしまった。

 

「あっ!ファルナ、せっかくの手紙なのに燃やしちゃうのか!?」

 

「いいの?ファルねぇ。大事に取っておけばいいのにー。」

 

ファルナの突然の行動に二人は戸惑いながら話しかけた。

そんな二人に目をやり、ファルナは笑顔で答えた。

 

「いいの!

 だって、ロゼちゃんがそう書いてたからね。

 『スゥが読めないようにこの手紙はもやしちゃってね☆』

 ってね♪」

 

「あ、あいつめー!やっぱり俺をからかってるな!」

 

「スゥにぃはからかうと面白いもんねー。

 ファルねぇ、また今度教えてね!」

 

ケラケラとスゥを笑って言うピコ。

スゥは顔を手で覆いながら深くため息を付いていた。

 

「さーてみんな!今日はどうする?

 そろそろ次の街に行こうよ!」

 

ファルナが二人に言う。

スゥとピコが声を合わせて答えた。

 

「おう!」

 

 

_______________________________________

 

 

荷支度をし、ニビシティを後に歩き始めたスゥ達。

日はまだ昇ったばかり。目指す先はニビシティと次の街を結ぶ「おつきみ山」。

道中、ファルナは暖かい気持ちでロゼの手紙を思い出していた。

 

『ファルナちゃん、火がこわかったりつらいときは私とアクアちゃんをおもいだして。

 でも、スゥがついてるからきっとだいじょうぶだよね!がんばってね!』

 

「えへへ、ロゼちゃんは何でもお見通しだね。

 私がすぐに炎を使えるようになるって、分かってたんだ…

 大丈夫!炎はまだ少し怖いけど、みんながいるもん!

 進化した私の姿、いつかロゼちゃんに見せてあげたいな!」

 

 

            「"ニビ"は堅い鉱石の色。盤石な礎の色。」

 

 

    タケシとの厳しいジムバトルを乗り越え、1つ目のバッジを手に入れたスゥ達。

         圧倒的不利な相手にスゥの知恵と強烈な電撃で善戦したピコ。

      激闘の中、スゥ達の為に勝ちたいという強い意志により進化したファルナ。

             着実にスゥは仲間達と絆を強めていく。

         

       そして「ロケット団」なる黒い影。その団員ダイチを退けたものの

           スゥ達はいずれこの組織と衝突することになる。

      ダイチの元を逃げ出した白いフードのポケモンは今頃どうしているのか…

                 それはまた次のお話。

 

 

「そういえばファルナ、俺は昨日いつの間に寝ちゃってたのかな。

 気が付いたら朝だったんだけど、覚えてる?」

 

「えうっ、な、何も無かったよ!スゥ疲れてたから何も覚えてないんじゃないかな?」

 

「んに、スゥにぃとファルねぇが何か話してたような…」

 

「わーっ!!ピコくんも寝ぼけてたのかな!?みんな普通にベッドですぐ寝てたよ!」

 

「「うーん…そうだっけ??」」

 

 

~ まっ白レポートとふたつの炎 ~

 

 第3章 ニビシティ編[躍進] 終

 

 

 


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