まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report3-11 [約束のご褒美]

[Report3-11 約束のご褒美]

 

スゥの二度目のニビシティジム挑戦は見事、彼らの勝利により幕を閉じた。

ピコは絶対不利な岩属性のイワークに対し、電磁石の原理を応用した攻撃により善戦。

イワークにとって想定外の痛手を負わせることができた。

反撃を受け戦闘不能となったピコに代わり、ファルナがイワークと対峙する。

余裕を奪われたイワークは奥の手である「怒り」により、理性を失う事と引き換えに

攻撃力を格段に上昇させ、ファルナを追い詰める。

しかし、ファルナの勝ちたいという強い意思、そしてスゥとピコの声援に応えるように、

ファルナは『リザード』へと進化。強力な「火炎放射」を放ち、勝利を得た。

 

そして彼らはポケモンリーグへの切符の1つ、

鈍色に光り輝くバッジ、「グレーバッジ」をタケシから勝ち取った。

 

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タケシとの戦いのすぐ後、スゥはファルナとピコ、傷ついた二人の傷を癒すため

ポケモンセンターへとやってきた。

受付ではトワが暇そうにあくびをしている。

トワは自動ドアをくぐってきたスゥを見つけ、呼びかけた。

 

トワ「あらあらスゥ君じゃないの!ジム戦の結果はどうなったかしら?

  …あら、その顔を見る感じ…いい結果だったようだわねぇ!」

 

トワはスゥの嬉しそうな、少し誇らしそうな顔を見て

質問の答えが返ってくる前に分かった様子。

 

スゥ「トワさん!今度は勝ったよ!

  色々話をしたいんだけど、その前にまずは二人を回復させて!」

 

スゥは嬉しそうな顔でトワに答えたが、すぐに腰のモンスターボールを二つ取り出して

真剣な顔で彼女に手渡しながら言った。

 

トワ「おっとっと、そうだわね!

  今日は暇だから、トワさんが直々に治してあげましょ!

  治療室へついてらっしゃい、スゥ君。」

 

トワは二つのモンスターボールを持ち、スゥと一緒に簡易治療室へと移動した。

簡易治療室にはカーテンに仕切られた白いベッドがたくさんあり、そのカーテンの

ほとんどは開け放されている。

暇と言っていた通り、治療を受けているポケモンはほとんど居ないようだった。

トワはモンスターボールからファルナとピコを外に出した。

その途端、トワはファルナのリザードに進化した姿に驚いた。

 

トワ「あらま!ファルナちゃん、大きくなって!

  いつのまに進化しちゃったの!?」

 

驚くトワに、ファルナは嬉しそうに答える。

 

ファルナ「こんにちは、トワさん!

   タケシさんのイワークさんと戦っている最中に進化したんだよ!

   すごいでしょ!」

 

トワ「ほえー!それじゃあ、ついさっき進化したって訳?

  いいわねー、顔つきがお姉さんらしくなったわよ!

  リザードの姿もいいわねぇー。」

 

ファルナ「えへへ♪ありがとうトワさん!

   私もピコ君も頑張ったんだよ!」

 

トワ「そのようだわね。ピコちゃん、この前と違って誇らしそうな顔してるもの。

  ピコちゃん傷だらけだけど、タダでやられた訳じゃなさそうだわね!」

 

トワは鼻頭を指でこするピコを見ながら彼に話しかけた。

ピコは両手を腰に当ててふんぞり返ってトワに答える。

 

ピコ「んにっ!そうだよ!

  あの岩ヘビ野郎にたくさん攻撃できたんだよ!

  どうやったかって言うとねー…」

 

ピコは鼻高々に説明を始めようとした。

トワは先に傷を多く受けているピコ治療するため、

ピコを抱えてベッドの上に座らせ、ガーゼと

『いいきずぐすり』を用意しながら聞いていた。

 

トワ「ほほほ、そうなのそうなの。電気ショックを使って岩を持ち上げたのねー。

  スゥ君がちゃんと博物館でヒントを見つけられたのね。

  三人とも、みんなよく頑張ったじゃないの!偉い偉い!」

 

トワはスゥ達の勝利に満足したように、大きな声で笑いながら

三人の肩をバンバンと叩きまわった。

 

スゥ「あ、ありがとうトワさん…いたた。」

ファルナ「えぅ、嬉しいけど痛いよ!」

ピコ「んにーっ!ケガしてるんだから優しくしてよおばさん!」

 

トワ「おほほほほ!」

 

程無くしてファルナとピコの治療が終わり、相変わらず暇なポケモンセンターの

待合室にてトワとスゥ達の四人は会話を続けていた。

そんな中、ぐぅーという音が3つ響いた。

時間を見れば、昼ごはんには既に遅めの時間。

バトルで動き回り体力を使っていた3人は空腹でたまらない様子。

 

トワ「あらあら、みんなご飯はまだなの?凄い腹の虫の音だわねぇ。」

 

スゥ「さっきまでずっとジムに居ましたから。

  そうだ!トワさん、タケシに勝ったんだし、また『がんせきコロッケ』を

  ご馳走して欲しいです!」

 

ファルナ「あ、私もっ!お腹すいたよー!」

 

ピコ「ボクも頑張ったんだよ!

   ねえおばさん作って作って!」

 

スゥ達三人は、タケシに勝ったらがんせきコロッケを作って貰うという

トワとの約束をしっかり覚えていた。

この時とばかりにトワにお願いをする3人。

彼らを見て、トワは少し困った顔をして答えた。

 

トワ「うーん、今すぐ作ってあげたいんだけど、

  アタシはまだ当番だから出られないんだわ。

  夕飯なら作ってあげるから、お昼ご飯は外で食べて我慢しておくれ!」

 

ピコ「えーっ!今食べたいー!」

 

スゥ「す、すいませんトワさん。まだ仕事中だからダメですよね。

  あの、じゃあ夕飯で作ってください!」

 

トワ「おほほ、いいわよー。

  ピコちゃん、ファルナちゃん、晩に作ってあげるから我慢してちょうだいね!」

 

ファルナ「うん!楽しみにしてるね、トワさん!

   ピコくん、今は我慢しよ!」

 

スゥ「そうだぞピコ、後の楽しみにしような。」

 

ピコ「んにー、わかったよー…」

 

ピコは今すぐ食べたいと手足をバタバタさせたが、

ファルナとスゥはピコをたしなめた。

トワは夕飯のご馳走を約束し、スゥ達三人はポケモンセンターを後にした。

 

その様子を見届けたトワはふぅ、と溜息をついて一人口を開いた。

 

トワ「…まあ、ホントは暇だから今帰ってスゥ君たちに作ってあげても

  良かったんだけどね。

  …あんたが来るだろうと思って残っておいてあげたわよ、タケシ。」

 

スゥ達が帰ったのを見計らって、待合室の後ろ側の席から

タケシがトワの前に気まずそうな顔をして現れた。

 

タケシ「ああ、すまないな母さん。

   どうも彼らと一緒に治療を受けるというのは

   イワークの為にも気が引けてしまった。」

 

トワ「あんたもイワークも、そういう妙な所でカッコつけなんだから。

  ほら、コソコソしてないで治療室においでなさいな。」

 

イワーク「すまない、母上殿。今日もよろしく頼む。」

 

トワ「イワークもご苦労様だったわねぇ。

  負けず嫌いのアンタ達だから、つい無理しちゃったんでしょ。

  まあ、こんな傷すぐ治してあげるから安心しなさいな!」

 

トワがポケモンセンターに残っていたのは、

スゥ達に負けて傷だらけになったイワークを

連れてくるタケシを待つためであった。

限界まで戦ったイワークだったが、トワの腕にかかれば

今日中に治るものであり、翌日からのジム戦には復帰できるようだ。

_____________________________________

 

そしてその日の夜。

スゥ一行三人はトワの家に夕飯をご馳走に上がっていた。

この日は以前と違ってタケシとイワークも来ており、

トワの作るがんせきコロッケの完成を5人で待っていた。

 

タケシ「そうか、俺に勝ったら母さんのコロッケをご馳走…か。そんな約束をしていたんだな。」

 

スゥ「そうなんだ!ニビシティに来たばかりの夜、食いはぐれてた俺たちに

  トワさんががんせきコロッケをご馳走してくれて、その時に約束してたんだ!」

 

ファルナ「あの時は気軽に考えてたんだけど、イワークさんと戦ったらもう本当に強いんだもん。

   勝てるか心配だったよー。」

 

ピコ「ボクの電撃も効かなかったしね!最初の一発で倒しちゃうつもりだったんだけどなあ…」

 

イワーク「ふむ、そう言いつつも結果はこうだ。二人…いや、スゥ殿もだ。

   三人とも胸を張ればいい。

   まさかお主達と食事を共にするとは思っていなかった、

   話をする機会が欲しいと思ってた所だったので幸運だ。」

 

ファルナ「イワークさんってもっと喋らないと思ってたんだけど、

   けっこう話してくれるんだね!」

 

タケシ「ははは、ジム戦では相手を威圧する為にほとんど喋らないからな。

   こいつは意外に話好きな所があるんだ。沢山話し相手になってやってくれ。」

 

スゥ「そうだ。俺が言うのも変かもしれないけど、イワーク、傷は大丈夫かい?」

 

ピコ「んにぃ、たくさん岩をぶつけちゃったもんね。」

 

ファルナ「最後は我を忘れて戦ってたし、わたしも心配してたんだよ!」

 

イワーク「気遣い痛み入る。大丈夫だ、母上殿の治療でほとんど治っている。

   それにしても、ファルナとピコ、二人とも恐れ入った。

   特にピコ、まさか君からダメージを受ける事になるとは

   失礼ながら全く想像していなかった。」

 

ピコ「へへーん!あの電気で岩を動かす技、たくさん練習したんだよ!」

 

イワーク「あのような攻撃が来るとは考えていなかった。

   私の属性が完全に有利だと思っていたが、戦いとは奥深いものだ…

   ファルナ、君も強かった。まさか試合中に進化までしてしまうとはな。

   こうして改めて見ると、何とも可憐になったものだな。」

 

ファルナ「え、えうっ!?

   あ、ありがとうイワークさん…お世辞でも嬉しいよ!」

 

ピコ「ねぇスゥにぃ、『かれん』って何?」

 

スゥ「え!?…えーと、綺麗とか可愛いって事だよピコ。」

 

ピコ「そういう事なんだ!

   うんうん、ファルねぇはほんと綺麗になったよね!

   背も大きくなったし!」

 

ファルナ「ぴ、ピコくんまで恥ずかしいよ!

   わたし、まだこの格好に慣れないなあ。

   スゥはもう見慣れたのかな?」

 

スゥ「え、えーと…」

 

タケシ「ふふふ、恐らく見慣れていないのではないかな?

  なあスゥ君。嬉しいものだろう。」

 

タケシが細い目をスゥに向け、からかうように話しかける。

スゥは自分以外の全員が平然とファルナの容姿と誉める事に

ある種の焦りを感じていた。

もちろん、隣にいる成長したパートナーを見て、皆と同じ感想を抱いている。

だが意識しすぎる余りに、しれっと同じことを言えず、

あうあうと言葉に詰まり顔を真っ赤にして伏せてしまった。

 

それに釣られるように、ファルナまで頬を染めて顔を皆から逸らしている。

そんな二人の様子を、タケシとイワークは笑いをこらえるように、

ピコはきょとんとした様子で見ていた。

 

そんな中、スゥにとっては助け舟のようにトワがコロッケを盛った皿を持ち

話しかけてきた。

 

トワ「ほほほ、お話の途中に失礼!

  トワさんお手製のがんせきコロッケ出来たわよ!」

 

スゥ「と、トワさん!いいところに…!」

 

ホッとした様子でスゥはトワの方に顔を向けた。

だがその途端、トワはニヤッとした。

 

トワ「楽しそうな話ね、アタシも混ぜて聞かせておくれ!」

 

スゥ「トワさんー!」

 

…待ち受けていたのは助け舟ではなく追い打ちだった、とスゥは思った。

 

トワ「…なんてね!

その話はもっとね、これから時間をかけて進めていくもんだよ。

  タケシもイワークもからかわないの!

  さあ、冷めないうちにこれをお食べなさいな!」

 

目の前に大盛りに盛られたがんせきコロッケに

大はしゃぎするスゥ達三人。

タケシとイワークもゴク、と喉を鳴らせてコロッケの山を見ている。。

皆の待ちきれない様子を見て、トワは自分も急いで椅子に座った。

席に着いたトワは、両手を顔の前で合わせ、全員に目配せをした。

それを見て、一同は同じように手を合わせた。

 

『いただきます!!』

 

賑やかな食卓。

コロッケの盛られた皿の四方八方から手が伸ばされ、

サクサクという小気味良い音とともに瞬く間にコロッケの山が小さくなっていった。

そして、皿の上のコロッケは残りひとつ。

トワ以外の五人は一斉に伸ばしかけた手を止め、お互いを見合わす。

どうやら、今回もジャンケンで決着をつけることになったようだ。

 

「今度はズルは無し!」とピコに念押しをするスゥとファルナ。

ピコはケラケラ笑いながら、了解した。

 

ファルナ「よーし、今度は負けないからね!」

タケシ「みんな聞いてくれ、俺はグーを出す。」

イワーク「主よ、またその手か。その手には乗らないぞ。」

スゥ「そう来るかタケシ…!じゃあ俺もグーを出すよ!」

 

ジャンケン慣れしたトレーナー陣の、ささやかな心理戦が始まっていた。

ファルナとピコは、何故スゥとタケシがこのような宣言をするのか理解できておらず

きょとんとしていたが、少ししてファルナは意図を察したようだ。

結局、ピコだけがこの心理戦の状況を理解しないまま、勝負の火ぶたが切られた。

 

『じゃーんけーん…!』

 

__________________________________________

 

スゥ「やれやれ、結局今回も最後の一個はピコに取られていったな。」

 

ファルナ「スゥもタケシさんも、作戦たててたのにねー。

   あー、またトワさんにご馳走してもらいたいなー!」

 

トワ達との夕食が終わり、ポケモンセンターの宿泊室にて会話する二人。

結局、コロッケの最後の一個争奪戦は、

全てを運に任せたピコがジャンケンの勝者となったようだ。

そのピコは、お腹が満たされたのと一日の疲れで既にベッドの真ん中で寝息を立てている。

 

スゥとファルナも眠る準備が出来ており、部屋の電気を落として

眠るピコの傍ら、並んでベッドに腰掛けていた。

スゥはふと立ち上がり、長い髪を縛っていた紐を解いて机の上にそれを置きに行った。

 

ファルナ「あ…スゥが髪を解いてるところって初めて見た!

   ねえねえ、こっち向いて見せてよ!」

 

スゥ「ん?あれ、今までファルナは見たこと無かったっけ?

  …そういえば、いつもファルナが眠った後に解いてたかな。」

 

そう言ってスゥは机に紐を置いた後、ファルナの方に振り返った。

スゥの肩より少し下まである長さの白銀色の髪が

窓から注ぐ月の光に照らされ、柔らかく輪郭を描いていた。

その姿を目を丸くしてじっと見ていたファルナが口を開いた。

 

ファルナ「わぁ…スゥ、女の子みたい!」

 

スゥ「お、女の子っ!?」

 

予想もしていなかった言葉を言われ、驚くスゥ。

その言葉は、大多数の男にとって言われたくない言葉上位に食い込むであろう。

スゥは少し悲しそうな顔をしてファルナを見ていたが、

それに気が付いたファルナは弁解するように言葉を続けた。

 

ファルナ「あ…えーと違うの、女の子みたいっていうのは髪がね!

   さらさらで、白色なのかな、銀色なのかな…

   とにかく、すごく綺麗…!

   ねえ、少し触ってもいい?」

 

そう言ってファルナはベッドから立ち上がり、スゥに近づく。

一応安心した様子のスゥは、近づいてくる彼女にはにかみながら答えた。

 

スゥ「あ、ああ髪の事か…ははは…

  いいよ、でも触っても何も起きないよ?」

 

ファルナ「えへへ、分かってるよ!わたしのように炎が出たらびっくりしちゃうよ!」

 

そう笑いながらファルナはスゥのすぐ正面に立ち、彼の後ろ髪に手を滑らせた。

髪を手に取って顔の近くでまじまじと見たり、一本一本を光に透かせていた。

 

その間スゥは立ちつくしたまま、どうにも身動きの取りようが無いまま

彼女の行動をじっと見ていた。

ヒトカゲの時はスゥの腹より少し高い程度の背丈だったファルナが、

リザードに進化した今では、胸のあたりまで背が伸びている。

つまり今の状況は、彼女の顔がとても近い。

皆が彼女を誉めていた言葉と同じものがスゥの頭を占めていた。

顔が熱くなるのを感じ、とりあえず今の状態から抜け出したいかのようにスゥは口を開いた。

 

スゥ「…ふぁ、ファルナ、そろそろいいかな?」

 

ファルナ「えう?…うん、ありがとうね♪

   スゥ、特訓の時にした約束覚えてる?」

 

突然聞かれた事に対し、冷静になったスゥはわずかな間記憶を辿っていた。

ああ、あの事かと思い出したスゥが答える。

 

スゥ「ああ、頑張ったら何でも聞いてあげるって言ったね。

  何にするか、もう決めてたように見えたけど、何がいいんだ?」

 

ファルナ「あのね、その…」

 

貰うご褒美を決めていたはずだったが、言葉に詰まるファルナ。

顔を赤く染め、せわしなく視線をあちこちに向けている。

 

スゥ「ん?言いにくい事なの?

  買って欲しい物があって、とても高い物とか…?」

 

ファルナ「ち、違うよ!

   あ、あの…うぅ…」

 

いつまで経っても言葉を濁しているファルナ。

その様子を見ていたスゥは、思い当たる節が有るのか、

またもや顔を熱くしておそるおそる聞いてみる事にした。

 

スゥ「その、もしかして…恥ずかしい事…かな?」

 

そう言われた瞬間、ファルナは真っ赤になった。

しかし、彼の言葉が後押しになり、しどろもどろになりながらも

口にすることが出来る気分になった。

 

ファルナ「…うん。

   そ、その…スゥが嫌じゃなければなんだけど…

   キ、きき…」

 

スゥ「き…?

  き…き…あっ。」

 

ファルナ「えぅ…」

 

何を言おうとしていたのか推測したスゥと、

その推測がおそらく正しい事を示すように

ファルナは言葉を止めて俯いた。

 

スゥ「ファルナ、もし間違ってても怒らないでね。」

 

ファルナ「え、えっ?」

 

スゥ「ん」

 

スゥは戸惑っているファルナの肩を掴み、

頬にキスをした。

 

ファルナ「ひゃ、ひゃああああっ!!」

 

目を丸くして恥ずかしさのあまり両手をバタバタさせるファルナ。

力加減を忘れて思いっきりスゥと突き飛ばしていた。

 

スゥ「わっ、痛っ!」

 

姿勢を崩し、ガタゴトと大きな音を立てて後ろの机に頭をぶつけたスゥ。

打ち所が悪かったのか、その場で気を失いのびてしまっていた。

 

ファルナ「あ、あうう…ご、ごめんスゥ!

   大丈夫?ねえスゥ!」

 

ファルナは赤く熱を持った顔を両手で覆いながら

気絶したスゥに突き飛ばした事を謝っていた。

そんな中、大きな音や声に反応してピコが目を覚ましてしまったようだ。

 

ピコ「んにぃ…うるさいなあ、どうしたの?」

 

ファルナ「あああピコ君が起きちゃった…!

   な、なんでもない!なんでもないよピコ君!」

 

ピコ「んぅー?あれ、スゥにぃどうしてそんな所で寝てるの?

  風邪ひいちゃうよ?」

 

ファルナ「そ、そうだよスゥ!疲れてるのかな?ちゃんとベッドで寝ないと!

   

   …えうぅ、朝起きたら謝らないと…

   ほんとにごめんね、スゥ…」

 

ピコに聞こえないように小声で謝りながら、スゥの体を抱えてベッドに運ぶファルナ。

寝ぼけ半分のピコはまた眠りに落ちていた。

スゥをピコと並べて置き、布団をかけたファルナは

ベッド脇に座り込んで再び顔を両手で覆い、深いため息をついた。

 

ファルナ「はぁぁ…

   もうもうもう!

   間違ってないけど、心の準備が出来てなかったよー…!」

 

心臓を忙しく脈打たせながら一人悶えているファルナ。

結局、眠れたのはそれから1時間程経ってからだったようだ。

 


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