まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report3-10 [進化の光]★

[Report3-10 進化の光]

 

強力な電撃により、岩石を磁石に変えることで一時はイワークを圧倒したピコ。

しかし、イワークの奥の手『砂嵐』によってピコは戦闘不能となってしまった。

続いて二人目、ファルナの出番となった。

善戦するピコの姿に鼓舞され、ファルナは気合を入れてイワークと対峙していた。

 

タケシ「随分ピコ君には苦戦させられたな…思わぬ痛手だった。

   イワーク、早々に決着をつけるぞ!」

 

タケシはイワークの体力にそれほど余裕が無いと判断し、

強い口調でイワークの士気を高めた。

それはイワーク自身も感じている所。

ファルナと対峙していたイワークはタケシの方を見て

目で了解の意を示す。

 

スゥ「もしかしたらファルナの出番は無いかもしれないと

  思っていたけど…甘かった!

  砂嵐…あの技をどうにかしないと。」

 

ピコの活躍によりイワークにかなりのダメージを負わせる事が出来たが、

砂嵐の一撃で倒されてしまった。

おそらく同じ攻撃をファルナが受けても無事では済まない。

何としても砂嵐の発動を止める事が最優先だとスゥは判断し、

その手段を険しい顔で考えていた。

 

タケシ「イワーク、もう一度砂嵐だ!

  一撃で倒してやれ!!」

 

スゥに考える余裕を与えることなく、

一撃でファルナを倒すべくイワークに指示するタケシ。

 

スゥ「させるか!

  ファルナ!あのテールの回転が速くなる前に止めるんだ!

  引っ掻けーっ!」

 

考えている時間はない。

こうなれば、危険ではあるがファルナの腕力で止めるしか無いとスゥは判断した。

ファルナを急かすように、焦り気味にひっかく攻撃を指示した。

砂嵐を繰り出そうと、テールを振り回し始めるイワークを見たファルナもその準備は出来ていた。

彼女は過去にイワークの重たいテールを持ち上げる事が出来た実績がある。

まだ勢いのついていないテールならば

必ず止めることができると確信をもち、ファルナは迷わず飛び込んだ。

 

ファルナ「止まれーーっ!!」

 

ガキンッ!と堅い音を立ててイワークのテールの勢いが失われ、弱々しくしなった。

ファルナの力ならテールを止めることが出来ると分かり、スゥは一つ不安が解消して

焦る頭を整理する余裕が生まれた。

ファルナはスゥの次の指示を待つ間、いつでもテールを止められるように

腕を構え、姿勢を低く保っていた。

目は前のイワーク、耳は後ろのスゥに神経を集中する。

 

『挑戦者のヒトカゲ、爪の一振りでイワークを止めたぁーっ!

 トリッキーなピカチュウとはうって変わって、真っ向勝負という所かー!』

 

イワーク「グゥッ…!」

 

ファルナの重い一撃でバランスを崩し、呻り声を上げたイワーク。

すぐに体勢を立て直し、タケシの指示を待つ。

 

タケシ「流石に隙が無くてはこの技は使えないか…!」

 

視線の先にいる対戦者は易々と大技を決めさせてくれる相手ではなかった。

タケシは砂嵐の指示を出す時から薄々分かっていた事だったが、

それでも焦りの色が隠せない。

タケシが次の手を考えている間に

スゥは即座に攻勢に転じることが得策と考え、間を開けずファルナに指示を出す。

 

スゥ「ファルナ、絶対にイワークに時間を与えるな!

  火の粉でたたみかけるんだ!」

 

昨日丸一日を費やして打倒イワークのため、ファルナの火力を強化した。

ただひたすら岩に火の粉で大穴を開ける特訓。

『岩を貫通する』という明確な目標を持って忠実に守ったファルナの炎は

破壊力、そして精神の持久力が別物になったと言っても良い。

今のファルナならば相性の悪い火の粉でも

相当のダメージを与えることができると確信し、力強い声でファルナに指示した。

 

そして自信を持っているのは、何よりファルナ本人である。

その指示を待っていたというように、

スゥに振り返ることなくはっきりと返事をして

髪に纏う炎を大きく燃え上がらせた。

 

ファルナ「はいっ!

   イワークさん!

   この前と同じ火の粉だと思ってたら火傷するからね!」

 

『おおおーっ!ヒトカゲの炎が大きく燃える!

 修行の成果か、前回よりはるかに激しい炎だーっ!

 挑戦者、勝負を決めにかかるのか!』

 

実況者と観客だけではなく、タケシとイワークも

ファルナの炎の大きさを見て脅威を感じていた。

 

しかし、元々炎への恐怖を持っているファルナ。

そして彼らにそこまで思わせる程の火力をもつ炎。

そんな自身が生み出す炎に恐れを感じていない訳が無かった。

今、この瞬間はひたすらにスゥに勝利をもたらしたい、

頑張ったピコに報いたい、という気持ちで恐怖を抑え込んでいた。

 

ファルナ「っ…!やっぱりこんなに強い炎は怖い…

   けど、ピコ君も頑張ったもん!

   いけーっ、火の粉!!」

 

髪に纏う炎を手で掬い、髪の上を走らせる手の勢いそのままで

ファルナは火球を放った。

大きな火球は途中で分裂し、火の粉と化してイワークを襲う。

 

タケシ「イワーク!火の粉を振り払え!」

 

散り散りになった火の粉の一つ一つも以前とは比べ物にならないほど大きい。

火の粉という名前が似つかわしくない程の炎の波がイワークに押し寄せる。

イワークは体の前でテールを回転させ、炎をすべてかき消そうとした。

 

        ボオォォォォッ!!

 

イワークのテールに火の粉が吸い込まれ大きな炎の渦を成し、

炎の波が止まった。

イワークはテールから伝わる熱を通じ、確かに火の粉の火力が

上がっていることを感じた。

しかし、まだ十分テールで防御することができる。

視線の先にいるファルナはこの火力の火の粉を放つことに

多分な精神力を使うことだろう。そう彼は思っていた。

 

スゥ「まだだ!押し切るぞ、ファルナ!」

 

一度火の粉を止める程度では何ということはない。

鍛えられたファルナの精神力を信じ、スゥは

惜しむことなく火の粉の連撃を指示した。

 

ファルナ「どんどんいくよ!火の粉ーっ!!」

 

イワーク「馬鹿な…精神力を使い果たすつもりか!?」

 

1回、2回、3回…絶え間なく何度も火の粉を放つファルナ。

イワークはそれらの一撃一撃を食い止めるが

強力な炎は回転するテールの勢いを徐々に押さえ込む。

彼とタケシが焦りの表情を浮かべる中、

ついに炎は、勢いを失ったテールを弾き飛ばして

イワーク本体へと直撃し、炎の柱を上げて彼を飲み込んだ。

 

イワーク「グウゥァァ!!」

 

炎の柱から苦しげな声が上がる。

タケシはファルナがイワークの鉄壁の防御を破る程に

精神力が鍛えられているとは考えてもいなかったようだ。

誤算だったと言わんばかりに、タケシの額からは嫌な汗が流れていた。

それを拭うことなく、まずはイワークの体で燃える炎を消すように指示する。

 

タケシ「イワーク!!

  テールを自分の体にくまなく巻き付けろ!

  鎮火するんだ!」

 

イワークはすぐさま岩の殻にこもるかの様にぴっちりと

自身の体にテールを巻きつけた。

彼にまとわりつく炎は酸素を得る道を閉ざされ、間もなく消えた。

鎮火した後、すぐにテールを高く上げて攻撃態勢を取るイワーク。

しかし、もはや自身のテールの重量を支える力も無い程に

体力を消耗してよろけるイワーク。

そのテールは赤く熱を持ち、煙を上げている。

 

スゥはイワークの様子を見て確実に特訓の成果が出ている

手応えを感じ、高揚した声でファルナを労う。

 

スゥ「凄いぞファルナ、かなり効いてる!

  イワークはもう倒れそうだ!

  …ファルナ、炎はまだ使えそうか?」

 

高火力の火の粉を連発したファルナの方も

相当の精神力を使ってしまい、息を切らしていた。

以前であれば火の粉の連撃でファルナ自身も動けない程

疲弊していた所であるが、ここはさすが特訓の成果。

彼女は多少足をふらつかせて息を上げながらも、

髪に纏う火炎の勢いを保っている。

 

ファルナ「はあ…はあ…

   頑張って特訓したんだもん!

   まだ私は行けるよ、スゥ!」

 

ファルナは呼吸を整えながらスゥの方に振り返って

右腕を上げて明るい顔で答えた。

 

対して、体中傷だらけでじっと足を踏ん張ったまま動かないイワーク。

その様子にイワークの限界が近いことを感じ、身を案じるタケシ。

 

タケシ「イワーク!大丈夫か!?」

 

イワーク「グゥッ…なんという火力だ…」

 

炎に対する抵抗力をもつ岩属性であるにも関わらず

イワークがこれ程のダメージを受けてしまった事に

タケシだけではなく、イワークも驚きを隠せない様子だった。

 

『これは凄いーーーっ!

 ヒトカゲ、防御していたテールを溶かさんとするばかりの

 強烈な猛攻ー!イワークは体力が尽きかかっているぞーっ!』

 

タケシ「これ程に強くなっているとは…

  スゥ君、そして君のポケモン達は素晴らしい素質を持っている。

  きっと今後、壁に突き当たる度に驚く早さで成長していくのだろう…」

 

初戦の時とは見違える程に力を付けたスゥ達に感嘆するタケシ。

本来ならイワークをここまで追い詰めた時点でバッジを与えるに

足る実力と認める所なのだが…

スゥ達の急激な成長を見て、ある種の欲が彼の中に生まれた。

タケシはイワークの身を案じて少しの間、指示を出すか否か

決めかねて黙り込んでいたが、彼の中で何かを決心したように口を開く。

 

タケシ「…君たちはこの程度で満足してはいけない。

  まずはここで…俺とイワークが大きな壁となろう。

  スゥ君!」

 

スゥ「なんだ!?

  もしかして、負けを認めるのか?」

 

タケシは改まったような口調でスゥに呼びかけた。

スゥはその口調から、タケシがイワークの限界を感じ、

敗北宣言をするものだと思っていた。

しかし、次にタケシの口から出てきた言葉は

彼の予想に反するものであった。

 

タケシ「ふふふ。馬鹿を言うな。

  イワークはまだ立っているだろう?

  さあ、ここから先は危険なバトルになるぞ。」

 

イワークが体中に深いダメージを負っているのを見ても尚、

タケシは不敵な笑みでスゥに言い放った。

じっと俯いて動かず、体を休ませていたイワークは

タケシのこの言葉を聞いて彼と同じような表情を浮かべた。

 

スゥ「危険って…イワークはもう倒れそうじゃないか!

  一体何をするつもりなんだ…」

 

誰が見てもスゥ側の圧倒的優勢。

スゥは自分のポケモンがもし逆の立場であれば

ポケモンの身のために負けを認める場面だと考えていた。

しかし、タケシはまだイワークを戦わせようとしている。

この逆境から彼が一体何に勝機を見出しているのか。

スゥには全く想像が付かずに、困惑した顔でタケシとイワークを交互に見ていた。

イワークと向き合っているファルナも、彼にはこれ以上戦ってほしくない、

自分の炎によって行き過ぎたダメージを負わせ苦しめたくないと思っており、

辛そうな表情である。

 

そんなスゥとファルナの感情など気にも止めない様に、

タケシはイワークに指示した。

 

タケシ「イワーク…これが、俺の最後の指示だ!」

 

イワーク「…良いのだな、主。

   いざとなれば私を止めてくれ。」

 

イワークはタケシの「最後の指示」が何であるかを分かっているようだ。

スゥとファルナが心苦しさを感じていることに反して、

イワークは自分がこれ程苦戦させられる相手と戦えることに喜びを感じていた。

ジムリーダーのポケモンとして恥じることなく、出来る限りの力を出し尽くしたい。

『負けそうだから引き下がる』、そんな決着など彼は毛頭望んでいなかった。

 

残り僅かの体力で、今の自分に出来ること。

それは間違いなく『あの技』であろう、とイワークは確信していた。

それが自分の体に相当の負担を強いる事は心得ている。

しかし、彼はタケシに感謝するように、俯いていた顔を上げて

凛とした様子でタケシの指示を待つ。

 

タケシ「スゥ君、これが俺達の全力だ。止めてみろ!

  さあイワーク…『怒れ』!!」

 

タケシは後の事は全てイワークと、そしてスゥ達の底力に託し、

自分の出る幕がここで終わりであることを宣言するように

出せる限りの声を上げて指示した。

『怒れ。』その指示を受けたイワークは歯を食いしばり、

眉間にしわを寄せてみるみる険しい表情となる。

そして数秒前とは別人のような顔で、けたたましく叫ぶ。

 

イワーク「グッ…

   …グオオオオオオオッ!!」

 

『うおおーっ、フィールドどころか、ジム全体に響き渡るほどの咆哮だーっ!!

 まるでさっきまでとは別人のような顔だ!!

 まさに鬼の形相!ここから限界を超えた反撃に出るのかーー!』

 

ファルナ「きゃっ!

   …どうしたの、イワークさん!?」

 

体を支えるので精一杯だったはずのイワーク。

それが、今は全く動じることなく力強くテールを振り回している。

ファルナは彼の急な変貌に戸惑って問いかけたが、最早彼の耳には届いていない。

 

スゥ「ファルナ、ぼーっとするな!

  襲いかかってくるぞ、火の粉の準備だ!」

 

スゥもイワークの変貌に一旦は戸惑いの表情を見せたが

タケシが負けを認める気が一切無いことを感じ取り、ファルナに指示を出した。

それはファルナに気付けをするため、そしてこれまで以上に自身に気合を入れるために

力強く覇気を帯びた声で放たれた。

ファルナはスゥの言葉ではっと気を取り直し、髪の炎を燃え上がらせた。

 

その直後、イワークが言葉にならない声を上げながらテールで叩きつけてきた。

 

イワーク「ガアアアアァァッ!!」

 

ファルナ「い、いけーっ!

   火の粉!!」

 

   ボオオォォッ!

 

迫りくるテールに炎を直撃させたが、その勢いが全く止まらない。

間一髪、ファルナは転びながらテールをかわした。

倒れているファルナを逃すまいと、すぐさまテールで追い打ちをかけるイワーク。

狂ったように激しいテールの打ち付けをかわす事にファルナは精一杯で

反撃をする余裕が無い様子だった。

 

ファルナ「わっ!

   ちょ、ちょっと!

   イワークさん…我を忘れて攻撃してる…!」

 

防戦一方のファルナを、腕を組みじっと見ていたタケシが口を開く。

 

タケシ「『怒り』。

  ピコ君、ファルナ、二人からイワークが受けて蓄積したダメージの分だけ

  イワークは怒り狂い、攻撃力を増強させて暴れまわる。体の痛みなど忘れてな。

  この技を使ったら最後、イワークは倒れるまで俺の指示を聞くことはない…

  …さあ、止めてみろ!そして俺からバッジを勝ち取れ、スゥ君!」

 

技の種明かしをするタケシの表情は、勝ち誇るようではなく

出来ることなら使いたくない、そう言うような陰りのあるものであった。

しかし、その気持ちを上回る程の願い。

今、向かいのトレーナースタンドで拳を握り締めて

憤るトレーナーの更なる成長を願い、挑戦的な口調で

彼に最後の勝負の始まりを宣告した。

 

 

_______________________________

 

 

 

スゥ「どうしてそんな危険な技を…!

  イワークが可哀想だろ!」

 

イワークは本来、疲弊しきってまともに動けない体を

怒り狂う事で強引に酷使している。

少しの間だがタケシと行動を共にしたスゥには

彼がこのように自分のパートナーを傷つけるような技を

指示した事が信じられず、疑問と憤りを感じて彼へ訴えた。

 

…しかし、タケシはスゥの思いを十分に心得ても尚、

戦いを止める素振りは見せなかった。

 

タケシ「…今の君達にそんな事を気にかけている

  余裕があるのか?」

 

『イワーク、つい前の倒れそうな姿からは信じられないほどの猛攻だー!

 いや、これはむしろダメージを受ける前よりも明らかに速い!強い!

 なんという底力だーっ!!

 ヒトカゲは押されている一方だぞ!』

 

タケシとスゥが言葉を交わしている間にも、

イワークは構わず連撃をファルナに加える。

ファルナは相変わらず逃げ惑い、避けきれない攻撃を

引っ掻いて弾き飛ばしていた。

 

ファルナ「はぁっ、はぁっ…!

   スゥ!

   私を…勝たせてっ!!」

 

イワークの攻撃を捌くために必死に走り回る中で

ファルナは息も絶え絶え、強い口調でスゥに意思を伝えた。

その切実な声と表情が、スゥの余計な思考をかき消した。

 

スゥ「ファルナ…!

  …そうだよな!

  ここまで頑張ったんだ、必ずお前たちを勝たせてやる!

  『煙幕』を思いっきりイワークに浴びせるんだ!」

 

精一杯戦ってくれたピコ、そしてファルナの為に

スゥはトレーナーの自分が今やらなければならない事に集中した。

彼は、イワークが理性を失っている状態である事を利用しようと指示を出した。

考える余裕のないファルナは、ついにスゥからの指示を受け

彼を信じてそれに応える。

 

ファルナ「はい!」

 

    ブシュゥゥゥ

 

ファルナはイワークに向かって手の平から勢い良く

煙幕を放出した。

 

イワーク「ガアアアァァ!」

 

錯乱状態のイワークは、視界を奪われ

ひたすらテールを乱れ打ちしている。

理性を欠いている為なのだろう、

煙幕を振り払おうという思考が全く無い様子である。

叩きつける攻撃を狙って放つ術もなく、ただ延々と外し続けるイワーク。

ここでようやくファルナが反撃する余裕が生じた。

 

スゥ「よし、反撃だ!

  火の粉を限界まで出し続けるんだ、これで決めるよ!!

  頑張ってくれファルナ!!」

 

ファルナ「うん!

   私達がイワークさんを止めるよ!

   いけーっ、火の粉!!」

 

スゥとファルナは互いの意思を重ね合わせて

目の前の暴走するイワークを止めることに全力を尽くす。

煙幕の中のイワークを目掛けて火の粉を浴びせるファルナ。

このチャンスを逃すまいと、力の限り放ち続けている。

黒い煙の中心から大きな火柱と、苦痛の声が上がる。

 

『煙幕のかく乱で挑戦者、反撃のスキを作ったー!

 またもや強烈な火の粉の連撃!今度こそ勝負あったか!?』

 

イワーク「グガアアア…!

   …倒れん…!こんな程度では倒れんぞォォォ!!」

 

      ガガガガガンッ!!

 

炎に包まれながら、夜叉の形相で闇雲にテールを振り回すイワーク。

近くに転がる岩を手当り次第に破壊し、岩石封じを繰り出した。

フィールド中いっぱいに岩を弾き飛ばすことで、俊敏なピコさえも逃がさない岩石封じ。

例え煙幕の中、イワークからファルナを狙うことが出来なくとも

逃げ場を与えない攻撃に、彼女は避ける手段を持っていなかった。

 

『いや、まだだーっ!!

 イワーク、ダメージを受けながらも構わず反撃!!

 降り止まない岩の雨に、ヒトカゲはたまらず防御に回ったー!!

 なんという激しい攻撃の応酬ーーっ!!』

 

ファルナ「きゃあああっ!!

   うっ…くうっ!」

 

ファルナにとって相性の悪い岩属性の攻撃。

大小様々な岩がファルナの体を打ち、切りつける。

とても火の粉を放つ余裕など無く、両腕で体を庇い

痛みをこらえて歯を食いしばっている。

 

タケシ「さあスゥ君、どうする!

  このままフィールド中の岩が無くなって

  岩石封じが止まるのを待つ気か?」

 

スゥ「くっ…くそっ!

  逃げ場が無い…!」

 

攻撃の手を休めないイワーク。

スゥは身動きがとれないファルナを見て

次の手が思いつかず酷く焦っていた。

そんな中、ついにダメージが重なったファルナは

地に膝をついた。

煙幕が晴れ、ファルナの隙を見たイワークはここぞとばかりに

大技の構えを取った。

 

『おーっと!!ヒトカゲ、とうとう耐え切れずダウン!

 対するイワークはこの時を待っていたという様に

 テールを高速回転させているーっ!

 大技の砂嵐で決着をつけるつもりだァーー!!』

 

ファルナ「あうっ…た、立ち上がらないとっ…!」

 

スゥ「まずい!竜巻が起き始めた!

  ファルナ、頑張って立ってくれ!!」

 

タケシ「…いや、もう遅い…!」

 

砂嵐を決められては、今の体力のファルナが耐えられる可能性は極めて低い。

スゥは勝負の分かれ目であるこの瞬間、どうにかファルナが立ち上がるように

精一杯の声で元気づけた。

 

ファルナはそれに応え、痛む手足を使って何とか体を起こしたが時既に遅し。

完全に勢いをつけたテールが巨大な砂嵐を発生させていた。

 

イワーク「とどめだァァァ!

   食らえ、砂嵐っ!!」

 

砂嵐は轟々と音を立てながらファルナに接近する。

スゥはこの瞬間、自分の力が今一歩及ばなかったと思い

悔しそうに目をつぶり、腰につけたモンスターボールに手を掛けた。

 

スゥ「だ、駄目だ…!

  ファルナ、もう戻れ!これ以上砂嵐が近づくと間に合わない!!」

 

スゥはモンスターボールを構え、ファルナを戻そうとした。

ピコの時は砂嵐を止めようとするも失敗。

それで対応が遅れて、モンスターボールに戻すことが出来ずにピコを気絶させてしまった。

ファルナを手元に戻す事は、負けを認めるのと同じである事と

スゥは分かっていたが苦渋の決断であった。

 

…しかし、彼の様子を見たファルナはとっさにモンスターボールの

光の筋をかわした。

その行動に驚いたスゥは叫んで彼女に訴える。

 

スゥ「ファルナ、何やってるんだ!?

  どうして避けるんだ、戻ってくれ!」

 

ファルナ「ダメだよ!!戻らない!

   …大丈夫。

   こんな砂嵐くらい、耐えきってみせるよ!」

 

強い意思の光が灯った瞳をスゥに向け、ファルナは

砂嵐に向き直って自分の爪を地面に突き立てた。

 

『なんとぉーっ!?ヒトカゲ、体を伏せて鋭い爪でがっしりと地面を掴んだ!

 まさか、砂嵐を真っ向から受けようとしているのかぁーっ!?』

 

スゥ「ファルナ…!」

 

自分のポケモンの限界を把握することも、トレーナーの大事な役目。

いつか言われたその言葉がスゥの頭をよぎる。

限界と判断して止めること、あるいは自分のポケモンを信じる事…

どちらを取ればいいのか、スゥは決められずに

ただモンスターボールを強く握りしめてファルナを見ていた。

 

対するファルナ。

スゥが自分の事を心配してくれている事は痛いほど分かっている。

しかし、ここでその気持ちに甘えてしまっては

これからの旅で彼を守りきる事がきっと出来ないだろう。

今の自分が彼に対して無茶を言っていると思いながらも、

自らの底力を試さずにはいられなかった。

これこそが、彼女がこの戦いで勝ちにこだわり、努力した真の理由である。

決意と懇願を織り交ぜた声、そして表情で再びスゥに訴える。

 

ファルナ「スゥ、私を…信じて!」

 

スゥはファルナの力強い声と構える姿に、ついに心を決めた。

ぼろぼろに、体力の限界を尽くそうと戦っている自分のパートナー。

そこまで頑張っている彼女が、勝負の命運を分けるこの局面で立ち向かおうとしている。

ここで彼女を止めることはその気持ちを裏切ることになる。

傷を負った体で砂嵐に耐えきる保証はないが、ファルナの底力に賭けてみようと思った。

 

そして指示というよりも願い、というように

ファルナに告げる。

 

スゥ「…ファルナ!砂嵐に耐えてくれ!!

  お前を信じてる!」

 

ファルナは姿勢を低くしたまま、嬉しそうな表情を浮かべて返事をし

勝負の命運を分けるこの局面に立ち向かった。

 

ファルナ「まかせてっ!」

 

そうして間もなく、砂と岩を巻き込んだ竜巻がその勢力内にファルナを取り込んだ。

 

『ヒトカゲ、完全に砂嵐に巻き込まれたーっ!!

 姿を見ることはできないが、苦しげな声が聞こえているぞぉーっ!』

 

ファルナ「あううぅぅっ!!

   くっ、がうぅっ…!

   こんなに苦しいなんて…

   た、耐えきれ…る…かな…」

 

ミキサーのように切りつける岩と、じわじわとファルナの体力を削り取る無数の砂粒。

ろくに呼吸も出来ない砂嵐の中、ファルナは目と口を強く閉じながら

今にも浮き上がりそうな自分の体を地面に突き立てる爪を頼りに、ひたすら耐えていた。

 

彼女にとって不利な相性の岩・地面の属性攻撃。

痛みと息苦しさでそう長くは体力が持たない。

砂嵐の勢いが収まるか、彼女の体力が尽きるかの根比べの

結果が見えたというような雰囲気がジムの中を漂う。

 

…しかし、そんな中でただ二人、

彼女の力をただひたすら信じ続けているスゥ、

そしてボールから出て彼の傍らに立つピコがいた。

 

スゥ「ピコ、お前も一緒に応援してくれ!

  ファルナぁぁぁーっ、がんばれぇぇーっ!!」

 

ピコ「ファルねぇぇぇーっ!!負けちゃダメだー!」

 

力いっぱいの声でファルナを応援するスゥとピコ。

声が砂嵐にかき消されないよう、何度も何度も喉が枯れる程叫んだ。

そんな二人の思いは、暴風を突き抜けてファルナの耳に届いていた。

 

ファルナ「がぅ…スゥとピコ君の声…!

   みんなで勝とうって、あんなに頑張ったよね…!

   …絶対に…絶対に勝つんだからーーーっ!!」

 

       ボオオオオォッ!

 

ファルナが苦しみの中で耐え、勝ちたいと心の底から強く思った瞬間…

髪に纏う炎が激しく燃え上がり、彼女の全身を包んだ。

その炎の勢いはジムの天井まで届き、目も眩むほどに輝く。

ファルナの体と一体になった炎の柱は枝を広げ、

強烈な砂嵐さえも飲み込んだ巨大な炎の渦を成した。

 

突然の出来事に、怒り狂うイワークさえも動きを止め、

そして場内の全員が驚いた表情で思い思いに言葉を漏らした。

 

イワーク「グゥ…ッ!?私の砂嵐が炎に…!」

 

スゥ「ファルナ…!?

  一体中で何が起きてるんだ!」

 

ピコ「んにぃーっ、ま、眩しい!!」

 

タケシ「この輝き…まさか!」

 

『な、何だぁーーっ!?

 まるで火山の噴火のような火柱!!

 ヒトカゲを飲み込んだ砂嵐が、逆に炎に飲み込まれたぁーっ!!』

 

しかし、一番驚いているのは他でもない、本人であるファルナだった。

炎と化した自身の体。彼女は、髪に纏う炎を抑えきれずに

燃え上がってしまったのかと不安になったが、苦しさは全く感じていない。

苦しいどころか、その炎は優しく彼女の傷を癒やし、

かつて感じた事が無い程の精神力のみなぎりを与えていた。

 

ファルナ「私の体が炎になってる…!

   でも熱くない…

   暖かくて、力が溢れてくる!」

 

そして巨大な炎の渦が放射状に広がり、中心に輝く光を残した。

その光景は形容するなら、まるで炎の花が咲くようであった。

スゥ達がその炎の美しさに見とれている中、

光は徐々に人の姿に収束していく。

 

 

【挿絵表示】

 

 

…それこそが死力を尽くす中、更なる強さを求めたファルナの姿だった。

 

姿形が変わったファルナを見て、目を見開いて驚くピコ。

その隣で、スゥは慌ててポケットに入れていた図鑑を取り出した。

その画面に記されているのは、彼がよく知る名ではなかった。

画面を見てすぐさま、浮き立った声で彼女の名前を呼んだ。

 

ピコ「んにっ、ファルねぇの姿が…変わった!?」

 

スゥ「『ヒトカゲ』…じゃない!

  『リザード』!?

  進化だ!進化したんだ、凄いよファルナ!!」

 

タケシ「ふふふ…俺が期待してた以上だ。

  本当に凄い…!」

 

『なんとぉーーっ!

 燃え上がる炎の渦の中からヒトカゲが進化ーっ!!』

 

少し背が伸び、腰にフリルをつけた赤色の服を身につける。

そして腰より下には、黄色から橙色への

グラデーションが美しいフレアスカートを風になびかせている。

まるで炎そのものを表すかのようなファルナの新たな衣装。

 

そして何よりの特徴である炎の髪。

ハイポニーに結い上げられた髪に纏う炎は

今までよりもさらに赤々と輝きを放っている。

その髪を結ぶのは、ヒトカゲの時と同じ

彼女のお気に入りの桃色のリボン。

姿が変わってもこれだけは変わっていなかった。

 

イワーク「砂嵐に耐え…尚且つ進化だと…!

   面白い。その力、どれ程の物か見せてみろ!!

   …これが私の全力だ!

   最大級の砂嵐を食らええェェっ!!」

 

奥の手を耐え抜いたファルナを見て驚くイワーク。

しかし、ファルナが進化した事に一切恐れなど見せない堂々とした表情。

彼は再びテールを高速で振り回し、竜巻を作り上げた。

彼女を鎮圧するために、彼の全力を尽くした砂嵐。

恐ろしい速さで放たれた竜巻が、

フィールド上に撒かれた全ての岩を飲み込みながら突き進む。

 

スゥはファルナの髪に燃え盛る炎、そして気力に満ちた姿を見て、

今の彼女なら砂嵐も止める力を持っていると確信し、

最後の指示を力強い声で告げた。

 

スゥ「ファルナ!

  お前の全力の炎で…

  …あの巨大な砂嵐を撃ち抜けーっ!!」

 

確信を持っているのはファルナも同じ。

自身からみなぎる、力強い血の流れ、そして精神力。

今はもう、向かってくる砂嵐に恐れを感じてはいなかった。

風で乱れる髪を手でかき分けて、はっきりと彼の声に応える。

 

ファルナ「まかせて、スゥ!」

 

ファルナは高く結わえた髪の先へ手を滑らせる。

それは彼女が炎を扱う準備動作。

一つ違う事は、手の平に火球を持っているのではなく、

髪の先から伸びた長く連なる炎を腕に絡ませていることだった。

 

その炎を絡ませた腕を

目の前の砂嵐に向かって突き出し、新たな技を繰り出す。

 

ファルナ「いくよ…

   『火炎放射』ーーっ!!」

 

   ゴオオオォォォッ!!

 

彼女が突き出した手の向きに従うように、連続した炎の帯が一直線に放たれた。

炎の帯がイワークの放った砂嵐と衝突する。

強力な二つの攻撃がぶつかり合い、地響きが立つ程の轟音を響かせている。

火炎放射は竜巻に巻き込まれた岩を焼き尽くし、消し炭に変えていく。

そして岩で強化されていた砂嵐の勢いがついに殺された。

 

ファルナの火炎放射の勢いは一向に衰えない。

弱った風の壁をこじ開けるように炎が砂嵐を貫き、

そのまま先のイワークに襲いかかる。

 

イワーク「馬鹿なっ!?あの砂嵐をかき消しただと…!

   …

   …全く、大した奴だ…」

 

全力で放った砂嵐。それを打ち破られたイワークは怒りを沈め、

自分の負けを認めるようにテールを地に下ろし

抵抗することなく、その場で佇んだ。

 

ゴウゴウとけたたましい音を立てながら火炎放射の先がイワークに迫り、直撃する寸手。

そこでスゥはファルナの名前を叫んだ。

 

スゥ「ファルナ!」

 

彼が指示した事、それは決してイワークにとどめを刺す事では無かった。

彼女はそれも確かに心得ていたというように、すぐさま行動に移した。

 

ファルナ「わかってるよ、スゥ!

   えいっ!」

 

ファルナは腕を素早く振り上げ、火炎放射の軌道を真上に変えた。

間欠泉のような炎の柱が立ち上がり、そして消滅した。

 

イワーク「情け…か。

   かたじけない。」

 

イワークは目の前で軌道を変えた炎を見て

ふっと満足したように微笑んだ後、とうとう体力が尽き、地に伏した。

 

…それを合図にジム全体にビーッと警告音が響き渡る。

勝敗が決した合図だった。

 

『バトル終了ーーーっ!!

 勝者、マサラタウンのスゥ!

 怒り狂うイワークをついに止めたーっ!

 実況の私から賛辞を贈らせてもらたい!

 岩と電気という絶望的な相性、天敵のイワークをユニークな発想で善戦したピカチュウ!

 素晴らしかったぞぉーっ!!

 そして死闘と称してもいいだろう、全力のぶつかり合いを制したヒトカゲ!

 …いや、リザード!華々しく進化を果たして勝利!おめでとう!』

 

実況者に続いて観客から歓声と拍手がジムの中一杯に轟く。

それは勝者であるスゥ達に対してだけではない。

ジムリーダー・タケシと、そのパートナーに相応しい強さを

見せつけたイワークに対してでもあった。

 

ファルナ「スゥー!

   やったーーっ!!」

 

スゥの元に駆け寄ってきたファルナは、

戦いの疲労を全く感じさせない満面の笑みで

そのままの勢いで彼に抱きついた。

喜びの声を上げる暇もないスゥ。

進化して体が少し大きくなったファルナを受け止めた彼は、少しよろけながら

喜びを一杯に浮かべた顔で、彼女への労いと進化した事への祝いの言葉をかけた。

 

スゥ「うわっとと!

  ほんとによく頑張ってくれたね!ありがとう!

  そして、リザードに進化おめでとう!ファルナ!」

 

すりすりと自分の胸元に頭を擦りながら甘えるファルナ。

スゥは照れながら、進化してもヒトカゲの時と中身は

全然変わっていない事に安心していた。

 

ファルナ「ありがとう、スゥ!

   その…どうかな?進化して私、怖くなってない?」

 

対して彼女はリザードに進化して、自分の姿については

背丈が伸び衣服が変わった事しか分からない。

もしかしたら自分の顔が凶暴なものになっていないかと不安な様子で、

彼の胸から離れて顔を上げた。

急にスゥの肩にひょいと登ったピコが、先に目を輝かせながら答える。

 

ピコ「ファルねぇ、すっごく綺麗!

   ね、スゥにぃ!」

 

改めて進化したファルナをじっくり見たスゥ。

バトルの間はそんな余裕もなく遠目だった事もあって

顔つきの変化はよく見えていなかった。

 

間近で見てみると、ファルナの顔つきは凛々しくなっており

少し年齢が上がったような印象を受けたスゥ。

その途端、急に照れくささが爆発し顔を赤くした。

 

スゥ「そ、そうだな!ちょっと大人っぽくなったなあ...」

 

惚けた様子でファルナの顔を見ながら、そう答えた。

彼女はその回答を聞き、安心して恥ずかしげに礼を返す。

 

ファルナ「えぅ…あ、ありがとね!

   そんなに見られたら恥ずかしいよ二人とも!」

 

『挑戦者、バトルで活躍した二人をねぎらっている!

 さあ、正々堂々と戦った証に握手を!

 挑戦者・スゥ!ジムリーダー・タケシ!フィールドの中央へ!』

 

タケシとスゥは激しい攻撃の応酬によって荒れ果てたフィールドに降り、

その中心で握手を交わした。

そしてタケシは鈍色に輝く、石を模したバッジをスゥの前に差し出す。

 

タケシ「さあ、スゥ君。これがニビシティジム認定の

  『グレーバッジ』だ。受け取ってくれ。」

 

スゥ「これがグレーバッジ…!

  やったあああ!!

  ファルナ、ピコ、見てよ!

  お前たちのおかげだよ。ありがとう!」

 

ファルナ「わあ…綺麗!」

 

ピコ「ピッカピカだね!」

 

タケシ「今日の試合で俺とイワークは全力を尽くした。

  『認定』と言わず、『攻略』と言って誇ってくれて構わない。

  本当に素晴らしい試合だった。」

 

スゥ「ありがとう、タケシ。

  …でも、イワークに無理をさせすぎだよ。

  『怒り』を使う前だってイワークはもうふらふらだったのに…」

 

タケシ「ああ、イワークにはたっぷり謝らなければいけないな。

  だが、きっと俺が『怒り』を指示しなくともイワークは

  自分で繰り出していただろう。」

 

ファルナ「え、えぅっ!?

   そんなにイワークさんは怒ってたのかな…」

 

ピコ「んにぃ…ボクもイワークに岩ヘビ野郎~とか言ったからかも…」

 

タケシ「はははっ!いや、そうじゃない。

  イワークも俺と同じで楽しみなんだよ。

  君たちが困難にぶつかる程に急激な成長をして、

  そしてどこまで強くなるのかがな。」

 

スゥ「そうだったんだ…

  そのおかげで俺もどうやってピコを戦力にしようか、と考えたし

  ファルナもリザードに進化出来たんだよな。」

 

タケシ「そうだった、まずは祝うべきだな。

  ファルナ、進化おめでとう。」

 

ファルナ「ありがとう、タケシさん!」

 

タケシ「そしてありがとう。

  最後の火炎放射…あれはわざと外してくれたのだろう。

  おかげで、イワークはまた入院せずに済んだ。」

 

ファルナ「だって、イワークさんは限界以上に頑張ってたんでしょ?

   最後に砂嵐を出してた時、もう倒れそうだったから

   これ以上傷つけたくなかったの…

   それに、スゥは『砂嵐を止めろ』って指示したからね!」

 

タケシ「そうだったな。

  …さて、まだ君たちとは色々と話をしたい所だが、

  そろそろイワークをポケモンセンターに連れていかないといけない。

  こっちは賞金だ。旅の足しにしてくれ。」

 

タケシは賞金の入った包を手渡した。

衆目の中で開封することは気が引け、スゥはそのまま包を鞄に入れた。

 

タケシ「そしてもう一つ。

  『技マシン』。きっと君は初めて見たのではないか?」

 

タケシは懐から手の平大の薄い円盤を取り出し、スゥに渡した。

彼の言うとおり、初めて目にしたそれを裏返したり、

目に近づけたり色々な角度から見るスゥ。

 

スゥ「技マシン…?」

 

タケシ「そうだ。このディスクをポケモンの頭にかざす事で

  中に記録された技を教えることが出来る。

  それに記録している技は…『メガトンパンチ』だ。」

 

スゥ「すごく分かりやすい技名だね。」

 

タケシ「ああ。名前の通り、強力なパンチを放つ技だ。

  ちなみに、技マシンは一度しか使えない。

  しかもその技を覚えられないポケモンもいる。

  その場合は頭にかざしても何も起きないから分かるはずだ。

  よく考えて、誰に覚えさせるか決めることだ。」

 

スゥ「へぇ…ありがとう、タケシ!

  『メガトンパンチ』…覚えさせるとしたら…」

 

タケシ「うむ。豪腕の持ち主にこそ、ピッタリ似合う技だと思うぞ。」

 

スゥとタケシはチラっと一人の顔を見る。

 

ファルナ「ねぇスゥ、タケシさん?

   …何か私に言いたい事があるの…かな?」

 

拳を上げているファルナの目が笑っていない。

リザードに進化して変わったと思われる事がもう一つ。

ヒトカゲの時とは違って『力持ち』の度合いが

最早冗談にならないレベルになった事だろう。

 

スゥ・タケシ「いえ、何でもありません…」

 

二人は身震いをしながら彼女に答えた。

 

 


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