まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report3-9 [再挑戦・ニビシティジム]

[Report3-9 再挑戦・ニビシティジム]

 

特訓の翌日。

へとへとに疲れたファルナとピコだったが、たったの一晩の睡眠で

すっかり元気を取り戻していた。

 

スゥ「二人とも、本当に疲れは残っていないのか?」

 

ファルナ「うん、すごく元気だよ!髪の炎もしっかり燃えてるでしょ?」

 

ピコ「ボクも元気!一発思いっきり電気ショックを出してみようか?」

 

スゥ「ポケモンの回復力って、本当に驚くよ。

  昨日はもう炎も電気も出せないくらい疲れてたのにね。

  …それじゃあ、行こうか。」

 

二人の様子を見て、体力の心配は不要と思ったスゥは

再びニビシティジムへと向かった。

昨夜のトワの話によると、イワークの回復も予定より1日早く

一暴れしたくてじっとしていられないとの事だった。

 

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      ~ニビシティジム~

 

    …ギギッ…

 

タケシ「…早速来てくれたな、スゥ君。

   こちらのイワークも、君達と戦いたくて仕方ないようだ。

   病み上がりだと思って甘く見ないことだ。

   コンディションは以前戦った時よりも間違いなく良い。心してかかってこい。」

 

スゥ達が扉を開けた途端、タケシは待ち構えていたように話す。

タケシの後ろではじっとスゥの方を、

シンボルである岩の長いテールを構えたイワークが睨みつけている。

 

スゥ「それを聞いて安心したよ。

  ファルナとピコは見違える程強くなったからね。

  イワークが万全じゃないとあっという間に勝負がついてしまうよ。」

 

タケシ「ふふふ…いいぞ、楽しくなりそうだ。

   早速始めよう。さあ、準備をするんだ!」

 

タケシの言葉を合図に、それぞれのトレーナー指示台へ向かう二人。

お互いモンスターボールを手に取った瞬間、場内に高らかに実況が響いた。

 

『さあジムリーダー・タケシ復帰の第1戦目!挑戦者はマサラタウンのスゥ!

 前回はノーゲームとなって、ポケモンを鍛えて再挑戦だ!

 …挑戦者、一人目をフィールドへ!』

 

タケシ「思う存分暴れてこい、イワーク!」

 

スゥ「この前は悔しかったよな。借りを返そう、ピコ!」

 

ピコ「んにっ!

   今日はしっかり活躍させてね、スゥにぃ!」

 

イワーク「ピカチュウ…だと?

   あのトレーナーの事だ。考え無しという訳では無いのだろう。

   さて、どうするつもりか…楽しませてもらおうか。」

 

『挑戦者、一人目はピカチュウだ!

 前回の挑戦では電撃は全く通用しなかったが、それでもあえてのピカチュウか!?

 これは展開が楽しみだーっ!

 両者準備万端、バトル…スタート!!』

 

タケシ「てっきりピコ君は戦力外だと思っていたが…

   まあいい。電撃は一切通用しない!一気に倒させてもらう。

   イワーク、叩きつけろ!」

 

イワーク「すばしっこい奴だという事は前回で分かっている。

   どこまで逃げられるか…やってみろ!!」

 

うねりを加えながらピコを薙ぎ払う軌道でイワークの

長く重たいテールがフィールドを暴れまわる。

 

スゥ「ピコ、当たったら一溜りもないぞ!

  電光石火で逃げ回れ!!」

 

ピコ「うわっとと…!相変わらず乱暴な攻撃だねー!

  でも、そんなんじゃ全然遅いよ!」

 

鋭く、多角的な動きで鮮やかにイワークのテールを避けるピコ。

ピコが避ける度に、振り抜かれたテールが

フィールドにそびえる岩の柱を轟音を立てて破壊する。

 

『ピカチュウ、さすがの身のこなしだぁー!

 小さな体も相まって危なげなくかわしている!

 しかし、逃げの一手ではイワークを倒せないぞー!どうするのか挑戦者!!』

 

タケシ「ピコで避け続けてイワークを疲弊させ、有利にファルナへ繋ぐといった所か…?

  俺のイワークはそんなにヤワではないぞ!

  イワーク、根比べだ!逃げ場を無くして追い詰めろ!!」

 

スゥ「ピコ!!崩れた岩に足を取られるな!

  出来るだけ広く逃げるんだ!」

 

ピコ「ファルねぇがコレで転んだの見てたからね!

  でも、いくら岩をばらまいてもボクには関係ないよ!」

 

ひたすら逃げ続けるピコ。

フィールドには砕けた岩が大量に撒かれているが、

体の軽いピコは物ともせずその岩を足場にして駆け回る。

 

イワーク「…ふん、相変わらずの素早さだ。大したものだな。

   これでは狙っても埒があかないだろう…」

 

イワークは突然テールの動きを止めた。

 

タケシ「そうだ。こうなれば狙う意味などない。

   ちょうど岩もよく散らばった所だ…まき散らせ!!イワーク!」

 

イワーク「食らえ、『岩石封じ』!!」

 

イワークは地面に積もった岩石をテールで叩きつけた。

無数に砕けた岩が不規則に飛び散り、フィールド中を飛び回る。

 

ピコ「わ、わわっ…!

   こんなの無茶苦茶だよ!痛っ、痛たたっ!!」

 

『おーっと、イワーク、まき散らした岩を砕き散らせているーっ!!

 これはまるで岩の雨だ!さすがのピカチュウも逃げ切れない!

 挑戦者、このままではジリ貧だー!』

 

スゥ「ピコ!大丈夫か!?」

 

ファルナ「スゥ、ピコ君を交代しなくて大丈夫!?

   攻撃も効かないし、危ないよ!」

 

ピコ「小さい岩だから大したことないけど、これは逃げれないなー。

  スゥにぃ、反撃しよう!!」

 

スゥ「ファルナ、まだピコは大丈夫だよ。

  さて…これから反撃だ!」

 

ファルナ「は、反撃って…ピコ君、電撃が効かないのにどうやって?」

 

スゥ「しっかり見ておいてよ、ファルナ。

  …さて、たっぷり岩をまき散らしてくれたな。

  やるぞ、ピコ!!『電気ショック』!!」

 

タケシ「電気ショックだと…!?

  忘れたのか、いくら強力な電撃でもイワーク相手では効果がないぞ!」

 

イワーク「やはりろくな攻撃手段は無いか。

   そうと分かれば時間の無駄だ…早々に退場願おう!!

   食らえ、岩石封じ!!」

 

ピコ「そっちこそ食らえーっ!

   んにぃぃーーーっ!!」

 

         バリバリバリッ!!

 

ピコは両手を左右に大きく広げて、

イワークの放った岩の雨に向かって強烈な電撃を放った。

その瞬間、スゥとピコを除くその場の全員が呆然とした様子でフィールドを見た。

 

『こっ…これはどういう事だ!!宙に…

 岩が宙に浮いているぞぉーーーっ!?』

 

イワーク「な…何っ!?」

 

ファルナ「う、浮いてる…!?」

 

タケシ「これはっ…!

  一体何を!?」

 

スゥ「ピコ!!」

 

ピコ「いけーーっ!!『岩石封じ』…返しっ!!」

 

ピコは上に掲げた両腕を思いきりイワークに向けて振り下ろした。

宙に浮いていた岩がイワークに矢のように降り注ぐ。

 

イワーク「グォォォォッ!!」

 

       ゴゴゴゴゴゴォォォォン…!!

 

『な、何とぉぉーっ!ピカチュウ、大量の岩を逆にイワークにお見舞いしたぞー!

 これは効いているようだ!!しかし、どうやって岩を浮かせたのか

 私には全く分からない!!』

 

タケシ「く…やられたな…!

   博物館の騒動…あれで得たヒントだな。」

 

タケシはスゥに向かって静かに言った。

 

スゥ「ああ。『電磁石』だよ。

  鉄は電流を流したら磁石になるんだ。

  …ニビの岩って、鉄の原料なんだってね。

  ピコくらい強い電撃を流せば岩石がしっかり磁石になってくれたよ。」

 

ファルナ「あっ…!この前ピコ君が壊した『リニアモーターカー』…!」

 

スゥ「それと全く同じ事だよ!

  さあ、ピコ!

  イワークが沢山まいてくれた岩で攻撃だ!!」

 

ピコ「どんどんいくよーっ!食らえーっ!!」

 

ピコの手の平の先から次々に岩石が放たれる。

イワークはテールで体を庇ってはいるが、その数に圧倒され仰け反り、

ついに倒れた。

 

『効いている、効いているぞーー!

 挑戦者のピカチュウ、絶望的な相性を逆手に取り一転攻勢だーーっ!』

 

イワーク「ぐ…ぐぅっ…!」

 

タケシ「スゥ君、本当に君は先々が楽しみなトレーナーだな…。

  こちらも全力を出さないと危ないようだ。

  イワーク!まだいけるな!」

 

イワーク「う…うむ。問題ない!

   次の指示を!」

 

タケシ「病み上がりで使うのはやや心配ではあるが…

  イワーク、奥の手だ!!」

 

スゥ「奥の手…!?」

 

タケシの指示を受け、イワークは再び立ち上がりテールを振り回し始めた。

その回る速度がみるみる上昇していく。

 

『イワーク、立ち上がったーっ!

 体勢を立て直した途端、テールを凄い勢いで回している!』

 

ピコ「へーんだ!いくら速く叩きつけても絶対に避けてやるーっ!」

 

ピコはテールが自分の方向へ飛んでくるのを今か今かと待ち構える。

しかし一向にイワークは叩きつける事なく、ひたすらテールの回転を増していく。

ついには残像を描くほどの速さとなった、その時…

 

          ゴゴオォォォォ!!

 

『うおおおぉーっ!イワークの周りに、巨大な竜巻だーー!

 これはとんでもない技を繰り出したぞー!』

 

発生した竜巻はフィールドの砂や砕け散った岩を巻き込み、土色に濁っていく。

 

スゥ「た、竜巻だって…!?

  ピコ!あの竜巻に飲み込まれたら一溜りもないぞ!

  岩をぶつけてあの竜巻を止めるんだ!」

 

離れたトレーナースタンドまで風が及ぶほど、その竜巻は

勢力を増していた。

 

ピコ「わかった!

   いけーっ!岩石返しっ!!」

 

ピコはその勢いを止めるべく、手近な岩を電気ショックで操り竜巻に向かって放つ。

しかし、勢い良く放たれた岩は竜巻に近づくにつれ失速し、

更にはその岩さえも飲み込み、より強力な竜巻となった。

 

ピコ「んにっ!?き、効かない…!」

 

スゥ「ダメだ、小さい岩じゃ返って飲み込まれてしまう…!

  ピコ、戻れ!よくやっ…」

 

スゥはモンスターボールを構え、ピコを退却させようとした。

 

タケシ「そうはさせない!

   イワーク、放て!!『砂嵐』!!」

 

イワーク「グゥォォォォ!!」

 

イワークは回転させていたテールを振り抜いた。

大量の砂と岩石を飲み込み、巨大に育った砂嵐がピコに向かって勢い良く放たれた。

その砂嵐は、ピコに向かって伸びるモンスターボールの光を拡散させ…

 

スゥ「くそっ…砂嵐が邪魔で戻せない!

  ピコーッ!!」

 

ファルナ「ピコ君ーー!!」

 

『あーっとぉ!!

 挑戦者のピカチュウ、抵抗虚しく竜巻に飲み込まれたぁーーっ!』

 

ピコを飲み込んだ砂嵐は徐々に勢いを失い、巻き上げられた物が重力に従ってバラバラと落下した。

土色に濁った砂嵐が消え失せた後、そこには砂と岩の中に埋もれ、

目を回す傷だらけのピコの姿があった。

 

『ピカチュウ、戦闘不能!

 驚くべき技でイワークに対抗したが、惜しくも敗れたー!

 いやー、一人目から凄い戦いだったぞーっ!!』

 

イワーク「…くぅっ…まずは一人倒したな…」

 

タケシ「よくやった、イワーク。テールの具合は大丈夫か?」

 

イワーク「うむ。問題ない。

   …元々、この技は疲れるのだ。まだ修行が足りんな…。」

 

スゥは戦闘不能になったピコをボールで連れ戻しピコの体を心配していた。

 

ピコ「…んにゃ…

  くそー、岩ヘビめー…」

 

スゥ「ピコ、大丈夫か?すぐにポケモンセンターに連れていこうか…?」

 

ファルナ「ピコ君!体は動く!?」

 

ファルナもボールの中からピコの身を案じて声をかける。

 

ピコ「んにぃ…大丈夫。

  うううーーっ!悔しいーー!

  いい所までいったのに!あんな技を持ってるなんて…」

 

手足をじたばたさせて悔しがるピコ。

その様子を見てスゥとファルナは一先ずは安心した。

 

スゥ「ピコ、作戦通りイワークに攻撃してくれてありがとう。

  …あの砂嵐にはさすがに勝てなかったけど、かなりダメージを与えたはずだよ。

  よく頑張ってくれたね、ゆっくりボールで休んでくれ!」

 

 『さあ挑戦者、二人目をフィールドへ!』

 

ファルナ「スゥ、行こう!」

 

スゥ「…よし!

  ピコがくれた勝機だ。絶対にバッジを手に入れるよ、ファルナ!」

 

スゥはファルナのボールの光をフィールドへと向けた。

凛とした姿でイワークと対峙するファルナ。

 

 『挑戦者、二人目のポケモンはやはりヒトカゲだぁーっ!

  重量級のイワークのテールさえも投げ返したパワーが

  更に鍛えられているのか!?』

 

ファルナ「…スゥ、わたしって『力持ち』の印象しかないのかな。」

 

スゥ「あはは…

  そんな事ないよ、鍛えた炎の威力をみんなに見せてやろう!

  いくぞ!」

 

 


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