まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report3-7 [科学博物館]

[Report3-7 科学博物館]

 

タケシのイワークが休養を取っている間、

スゥ達はトワの勧めで、イワーク攻略の『ヒント』が得られるという

ニビシティ科学博物館に訪れていた。

 

ニビシティ科学博物館。

『科学博物館』という名を掲げるだけあり、日常生活では目にしづらい科学現象、

火炎や水力、電気を利用したカラクリ

ポケモンの属性の相性を科学的な面から実感する為の実験設備など、

子供のための学び場として大いにその役目を果たす施設となっている。

 

学びの場としてだけではなく、この施設の目玉、現代の人間の技術の粋、

月へ打ち上げた『スペースシャトルロケット』の模型や、

月から持ち帰ってきたという『月の石』といった大人の心さえも動かす展示品も置いている。

また、『学ぶ』といっても、それは難しい数式や概念に関する薀蓄を垂れ流すものではない。

何と言っても、この博物館のスローガンは

「子供でもわかりやすい!遊んで学べる博物館!」。

 

ピコ「…って言ってたのにー!ボクには全っ然わからないんだけど!?」

 

ファルナ「えぅ…私にもさっぱり分かんない…。」

 

スゥ「ポケモンには難しいのかもね。 

  ポケモンは人間みたいにややこしい事を考えなくたって、

  自分で炎や電気を起こせるもんね。」

 

ポケモンには、人間の『科学』は分からないようだ。

片やスゥは知識としては持っていた『科学』の技術を前にして、目を輝かせている。

 

スゥ「ほら二人とも見てよ、この仕掛け!

  このスイッチを押したら…」

 

スゥはヒントを得に来た事をすっかり忘れ、自分が楽しむ事に目が行っていた。

少し退屈になってきたピコとファルナは二人で喋り始めた。

 

ピコ「人間さんって不思議だよねー。なんでワケの分かんない物ばっかり思いつくんだろう?

   この家だって、昨日泊まったポケモンセンターだって、

   ボク達からしたら信じられないくらい大きい家だよ。どうやって作ったんだろうね。」

 

ファルナ「そういえばそうだよね。私は、小さい時からあんな大きい家で暮らしてたから疑問に思わなかったけれど、

   本当にどうやって作ったんだろう。

   人間って大きくて重たい物を持ち上げる力は無いと思うんだけど…。」

 

ピコ「スゥにぃだって、ファルねぇの事を『力持ち』って言ってるもんね。」

 

ファルナ「ピ、ピコ君までそう言って~!」

 

ピコ「んに?だって、あの重たそうなイワークを投げ飛ばしちゃったんだよ!

   ファルねぇの腕力ってすごいよ!びっくりしちゃった!」

 

ファルナ「えぅ…ピコ君は悪気がなさそうだもんなぁ…。

   スゥには意地悪で言われてるような気がするから、昨日は…

   …」

 

昨晩の事。ファルナはスゥへの『仕返し』を思い出した。

今更ながら思い出すと恥ずかしい。

顔を見るたびに、『仕返し』を思い出してしまい、

昨晩からずっとスゥの顔をまともに見ていない。

 

ピコ「ファルねぇ、ボーッとしてどうしたの?

   なんだか元気ないけれど、昨日のが残ってるの?」

 

ファルナ「えぅっ!?

   ど、どうして知って…まさかピコ君見てたの!?」

 

ピコ「んに?もちろん見てたよ!

  当たり前だよ!」

 

ファルナ「嘘~っ!?お、起きてたんだ…」

 

ピコ「本当、惜しかったよね~♪あともう少し頑張れば!って感じだったのに!」

 

ファルナ「や、やぁーっ!それ以上言わないでぇっ!!」

 

ファルナは真っ赤な顔を両手で被い、ピコから顔を背けた。

一方ピコの方はファルナが突然何を取り乱してるのか、理解に苦しんでいる。

 

ピコ「…ファルねぇ、どうしたの?

  ボクの代わりにイワークと戦ってたファルねぇ、すごくカッコよかったよ!

  あんなに頑張ってたんだし、やっぱり昨日のイワークとの戦いで疲れが残ってるんだよ。」

 

ファルナ「…へ?」

 

ファルナは勘違いし、勝手に暴走していただけだった。

ピコが『見てた』のは『イワークとの戦い』

『昨日の』とは『イワークとの戦いの疲れ』

『惜しかった』のは『イワークとの勝敗』。

 

ピコ「だから、今日はしっかり休んで!

  スゥにぃに美味しいもの食べさせてもらおうよ!」

 

ファルナ「…うん。」

 

どうにも意識が『昨日の夜』に偏ってしまい、周りが見えていないファルナ。

ピコの発言に対して、無茶苦茶な勘違いをしてしまった自分に呆れていた。

 

彼女がこんな様子の一方、『彼』の方は、というと…

 

スゥ「…ん?

  電気の仕掛けだ!

  トワさんが言ってたヒントってこれかな?

  …って、二人とも!ちゃんと付いてこないとはぐれるよ!」

 

ふと冷静になったスゥは、傍らにいるはずの二人に声を掛けたが返事が無い。

周りを見渡してみると、遠く後ろに話し込んでいた二人が見えた。

 

ピコ「あちゃ~っ!スゥにぃってば、あんなに先に行ってる!

   ほら、ファルねぇ行こう!」

 

ファルナ「えぅっ!?

   ま、待って~!」

 

スゥ「来た来た。

  見てよ二人とも、この仕掛け!」

 

ファルナ「これって…一体どんな仕掛けなの?」

 

スゥ「これは『発電機』だよ。

  磁石を使って電気を起こす機械なんだ。

  電気に関わる仕掛けだから、きっとピコのためのヒントがあるはずだよ!」

 

ピコ「ほんとっ!?じゃあボクもしっかり見るよ!

   スゥにぃ、早く動かしてよ!」

 

スゥ「よし、それじゃあ早速!

  このハンドルを回すみたいだ…」

 

スゥが回すハンドルの先には、数枚の歯車で繋がった、二枚の金属製の円盤。

その円盤がお互いに逆の向きに回転する。

仕掛けに何が起きるのか、興味津々に見つめるファルナとピコ。

やがて徐々に回転の勢いが付いてくると、その二枚の円盤の間に青白い閃光が走った。

 

ファルナ「きゃっ!」

 

ピコ「んにっ!?で、電気だ!どうして?円盤がぐるぐる回っただけなのに。」

 

スゥ「あまり難しい事は俺も分からないんだけど、

  『磁力』っていうのは、使い方によったら『電気』を作ることが出来るんだ。

  この仕掛けのようにね。」

 

ピコ「へーっ、人間さんって色々考えるんだね。

  …でも、そんな難しいことしなくてもボクはフツーに電気使えるよ?」

 

ファルナ「う~ん、確かにそうだよね。

   これが何かヒントになるの?スゥ。」

 

スゥ「俺がヒントだと思ったのは、こっちじゃないんだ。

  …ほら、あっちの仕掛けを見に行くよ。」

 

そう言ってスゥは、発電機のすぐ隣にある別の仕掛けに二人を連れていった。

 

そこには…

 

「間もなく完成『ヤマブキ‐コガネ間 リニアモーター鉄道』の1/100スケールモデル!

 電気が生み出す強力な磁力で500kmをひとっ飛び!」

 

…とケースには記してある。

 

沢山のコイルによる電磁石で作られた二本の真っ直ぐなレール。

レールの長さが5m程ある、比較的大掛かりな仕掛け。

その間に架かるように置かれた、磁石を組み込んだ列車型の模型。

 

ピコ「かっこいい~!!ね、スゥにぃ!これ何!?」

 

スゥ「格好いいだろ!このカッコよさが分かるかい、ピコ!」

 

ファルナ「格好いい…のかな?よく分かんないや。」

 

ピコ「んにっ!動くの?これ動くの!?」

 

スゥ「…よしっ!それじゃあピコがボタンを押してみる?」

 

ピコ「うん!やるやるっ!

   これを押したらいいんだよね…?」

 

ピコが恐る恐るボタンを押した途端、電磁石のレールに青白い電光が走った。

その途端に強力な磁力が発生し、リニアモーターカーの模型が浮き上がり…

5mもあるレールの端から端を一瞬で駆け抜けた

 

あっという間の事で目を丸くするピコとファルナ。

 

ファルナ「…えっ?」

 

ピコ「…

  …す、すご~いっ!!速い!ボクよりも速いかも!

  スゥにぃ、なんでこれ走ったの!?」

 

スゥ「さっきの仕掛けの逆だよ。

  『磁力』で『電気』を作るんじゃなくて、

  『電気』で『磁力』を作ったんだ。

  磁石がくっつく時の勢いで速く走れるんだって。」

 

ピコ「なるほどね~っ!

  全然わっかんないけど凄~い!」

 

理屈を聞いておきながら、全く理解しようとしないピコ。

本人の興味はまたリニアモーターカーの方に移っていた。

スゥの話を最後まで聞かず、ボタンを何度も押して模型が往復するのを楽しんでいる。

 

ピコ「ポチッっと…お~♪これが電気で動いてるんだ~。」

 

スゥ「…ピコが満足したならそれでいいや。

  壊しちゃダメだよ、ピコ。」

 

ファルナ「ねぇスゥ。

   この、リニアモーターカーって何に使うの?」

 

スゥ「これは人をたくさん乗せて街から街まで移動する為の物なんだ。」

 

ピコ「ポチポチッっと…おお~♪電気で…って事は、もっと強い電気を使えばもっと速くなるのかな…?」

 

ファルナ「ちょ、ちょっと待って。

   …これに人がたくさん乗るの?一人も乗らないような気がするんだけど…」

 

スゥ「あはは、もちろんこれには乗れないって。

  これは小さい模型だけど、

  これと同じ形で、もーっと大きなのがあるんだよ。」

 

ピコ「ポチポチポチ……おおおお~♪…んに?なんだろ、この紐…」

 

ファルナ「へ~っ!乗ってみたーい!

   って思ったけど、あんなに速いんじゃ怖いのかな?」

 

スゥ「大丈夫!本物は凄いんだよ!たしかに、凄く速いんだけど

  空気抵抗をギリギリまで減らすために前面の鋭い形が…」

 

ファルナ「す、スゥ、何か生き生きしてない…?」

 

ピコ「……赤い紐と、青い紐…?触ってたらなんだかピリピリって…」

 

スゥ「綺麗な流線型のおかげで、乗っている間の振動は全然無いらしくて、

  それが正に空飛ぶじゅうたんの様だって噂で…」

 

ファルナ「おーい。スゥくーん…」

 

ピコ「……!よーし…」

 

スゥ「…っていう事で、色々な工夫がされていて

  速くても、怖くない乗り物…」

 

            ピコ「んにぃーっ!!」バリバリバリッ!!

 

              ドゴオオンッ!!!

 

スゥ「おおおぉっ!?」

 

ファルナ「きゃああっ!?」

 

いい気分で語っていたスゥの隣で、突然の爆音。

振り返れば、火花を散らし煙を上げるレールに、ぐちゃぐちゃに潰れた無残な模型。

黄色い耳の犯人は赤と青の二本の紐…ではなく、ケーブルを両手に持ち呆気に取られていた。

 

スゥ「ピ…、ピコ~っ!!!」

 

ファルナ「…スゥ、やっぱり私、乗れなくてもいい…」

 

ピコ「…けほっ。」

 

 

 


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