まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report3-5 [奪還]

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スゥ達が廃坑の外で作戦会議を行っている間。

スピアーを盗んだ犯人達もまた今後の動きについて考えていた。

 

         -ニビシティ 廃坑内-

 

???「あー、もう退屈ぅーっ!」

 

???「本当に、慎重にも程があるぜェ。」

 

???「黙って待てないのか。

  捕獲任務は終わったんだ。

  後は目立たずに立ち去るだけ。

  夜になれば町の奴らの目にもつかない。」

 

???「あの・・・やっぱり、人の仲間を奪うなんて酷いです・・・。

  今からでも・・・」

 

???「また口答えを・・・この期に及んで鬱陶しい。

  お前は黙って明りを灯しておけ。『出来損ない』!」

 

???「う・・・ごめんなさい・・・」

 

???「それにしてもぉ、そのボールやっぱり凄いねー☆

  トレーナーのポケモンまで捕まえられるなんて。」

 

???「クク、これで試作段階か。

  まだ改良の余地はあるとか言っていたが、

  これでも十分面白いモンスターボールじゃないか。

  『M-プロト』・・・。」

 

???「真っ黒のボール、ってのもいい趣味してるぜェ。

  あのダッセぇ赤白ボールなんて入りたくねェよな。」

 

       モクモク・・・

 

???「・・・?あれ、なんだか匂いが・・・?

   あ、あの、マスター・・・」

 

???「なんだ、出来損ない。まだ文句が・・・」

 

???「い、いえ。そうじゃなくて、匂います・・・」

 

???「えー!アンタ、もしかしてマスターが臭いって言うのぉ?

  アンタまた『躾』されたいワケ?」

 

???「ひっ!?違います違います!!

  ・・・匂いませんか?何か、煙で焚かれているような・・・」

 

???「あぁ?煙だってェ?

   !!・・・ゲホッ!ゲホッ!

   おいマスター、マジだ!なんか煙が入ってきてるぜェ!?」

 

???「何だと?

   ・・・ゴホッ、ゴホッ!?何だこれは!!

   出来損ない!何故もっと早く言わない!」

 

???「い、言いましたよ・・・!それよりも、早く出ないと皆さんの息が・・・!」

 

???「そうだよぅ、マスター!よく分かんないけど出ようよ!」

 

???「・・・チッ、確かにここには居られないか・・・」

 

 

__________________________________________

 

 

               ―廃坑の外―

 

タケシ「・・・君達は鬼か。」

 

ファルナ「わ、私まで鬼なの!?」

 

ピコ「だってファルねぇ、吹いてる『えんまく』の量が容赦ないし。

   っていうか、実行犯だよねー。」

 

ファルナ「ピ、ピコ君まで~!

   スゥに言われてるから出してるだけだよ~!」

 

スゥ「いい作戦だろ?ファルナ、気にしないでどんどん焚いてくれ。

  この中に居るのなら、絶対出てくる!

  それと、イワークはちゃんと準備しておけよ!」

 

ファルナ「えぅ~、なんかすごく悪いことしてる気がする~!」

 

スゥ「相手は泥棒なんだ、情け無用!」

 

イワーク「ぬ・・・新米トレーナーの癖に私に指示を・・・」

 

廃坑の中で煙の臭いを感じていた泥棒の一味。

 

煙たいのもそのはず。

廃坑の外ではファルナが煙幕を坑道へと送り込んでいた。

炎を出す力は残っていなかったものの、煙幕を放つ程度の余力は有ったようだ。

 

虫の巣を駆除するかのような光景に、タケシは泥棒に僅かながら同情していた。

 

 

            ドタドタッ・・・!

 

???「ガハッ、ゲホッ!!くそっ、何だこの煙は!!

   ゼェ、ゼェ・・・」

 

???「もうやだぁ~!ケホッケホッ!!マスター、早く帰りましょぅ~!」

 

???「ゴホッ、ゴホッ、やっと外の空気が吸えるぜェ・・・」

 

堪らず飛び出してきた黒マントの男と、そのポケモン達。

待ってましたとばかりにイワークに指示が出た。

 

タケシ「今だ!イワーク!そいつらを捕まえろ!!」

 

イワーク「おおっ!!」

 

 

 

__________________________________________

 

タケシ「・・・さて、三人とも。今の状況は分かるな?」

 

???「・・・舐めたマネを・・・」

 

廃坑から飛び出てきた三人をイワークはテールでまとめて締め上げていた。

タケシの手には盗まれたスピアーの入ったボールが握られている。

 

スゥ「お前達、人のポケモンを盗んでどうするつもりだったんだ?」

 

???「お前と、その二匹・・・そうか、あのザコを連れてたド素人か。」

 

ピコ「ザ、ザコ~!?

   もっぺん言ってみろ、真っ黒男~!!」

 

この泥棒の一味の主人、黒マントで全身を覆う男が毒づいた。

 

スゥ「ザコとド素人で悪かったな。

  そいつらにしてやられたのは何処のマヌケ達だよ。」

 

???「ンだと?この白髪ぶっとばされてぇのか!」

 

言い返すスゥに対して腹を立てている♂のポケモン。

ギザギザの大きな耳と、長く鋭いトゲを額に生やしているのが特徴。

口が悪く、気の短い荒い性格のようだ。

 

???「マスター、どうすんのー?

   せっかく取ったポケモン、奪われちゃったよ~」

 

呑気に捕まった事よりも、獲物が横取りされた事を心配する♀のポケモン。

もう一人と似た大きな耳とトゲを持っているが、幾分、こちらのトゲは短い。

二人ともすみれ色に濃い紫のまだら模様が施された服を身につけている。

 

タケシ「いずれ警察がこの場に来る。

   暴れても結局捕まるだけだ。だから大人しくしているんだ。

   ・・・それと、2,3質問がある。」

 

???「クククッ・・・大人しく、な・・・。

  ジムリーダー様のご質問とあらば、答えて差し上げなければならないだろうな。

  ククッ・・・。」

 

タケシ「・・・それは有り難い事だな。

  まず最初の質問だ。お前達は何者だ?

  わざわざ黒い布で顔を隠しているが、まるで『何かの団体』の衣装じゃないか?」

 

???「・・・」

 

タケシ「どうした。答えてやる、と言ったのは嘘か?」

 

???「クク、ジムリーダー様も人が悪い。

  もう見当が付いているんだろう?

  ・・・俺達が『何者か』ぐらい・・・。」

 

タケシ「・・・では質問を変えようか。

  お前達は・・・『ロケット団』でどの階級だ?」

 

スゥ「・・・『ロケット団』?」

 

???「ククッ、その通り。

  俺は『ロケット団』の一員。

  階級まで聞いてくるとは、そこそこ俺達について知っているらしいな。

  ・・・俺は『ステージ1』のダイチ。

  この口の悪い♂が『二ドリーノ』のソルト。

  もう片方が『二ドリーナ』のシュガーだ。」

 

ソルト「ケッ、わざわざ丁寧に紹介しなくてもいいんじゃねーのか?ダイチ。」

 

シュガー「そうですよぉ、そんな事よりもいい加減逃げましょうよぉ☆」

 

タケシ「・・・」

 

ダイチ「どうした?せっかく捕まえた団員が『ステージ1』なんて

   下っ端でガッカリしたか?ククッ・・・」

 

タケシ「・・・さあな。

  もう一つ質問だ。

  この黒いモンスターボールは何だ。世に出回っている物ではないようだが?」

 

ソルト「オッ、興味持ってくれたねェ~!イカした見た目だろぉ?

  ロケット団しか手にできないボールだぜェ?」

 

シュガー「そうそう。限定品よ、限定品☆」

 

タケシ「そんな事は聞いていない。

  何故、トレーナーのポケモンを入れる事が出来る?

  一度、誰かのモンスターボールに入れられたポケモンは

  別の誰かのボールで捕まえることは出来ない。

  それなのに・・・」

 

ダイチ「クク・・・そこは企業秘密、だ。

   さて、質問はそれだけか?

   そろそろボールと中身を返して頂くとするか。」

 

イワークのテールに縛られ、逃げられない状況だというにも関わらず

ダイチは不敵な笑みを浮かべて言った。

ソルトやシュガーの発言にも危機感が無かったようだが・・・

 

タケシ「何だと?捕まっているお前達に何が・・・」

 

ファルナ「ねぇスゥ、あのダイチっていう人のポケモンってあの二人だけだったっけ?」

 

ピコ「え?ファルねぇ、あの真っ黒男を見た事あるの?」

 

ファルナ「うん。ジムの中にいた人達だよ。

   そういえばピコ君は試合見てるのに夢中だったね。」

 

スゥ「(ダイチを見たのは、確かジムに乗り込んだ直後・・・

  ファルナがあいつ等を見てるのを俺が注意したときは・・・

  あのニドラン二人と、その間に・・・確か・・・)

  あっ・・・!!」

 

ファルナ「ね!?やっぱり、そうだよね!?」

 

スゥ「マズい!タケシ、そいつら『もう一人』・・・!」

 

ファルナが気づき、スゥも気づいた。

タケシとイワークの油断。ほんの数秒。

それはダイチ達にとっては十分な時間だった。

 

ダイチ「今だ!『出来損ない』!!

   撃ち抜け!!」

 

???「っ・・・!」

 

      ボウッ 

         ボウッ!!

 

廃坑の暗闇から突然飛び出してきた2つの火の球。

一つはイワークのテール。

もう一つはタケシの手の中にあるボールへ着弾。

不意を突かれたイワークは思わず捕まえていた3人を離し、

タケシも手にしていたボールを遠くへ弾かれてしまった。

 

タケシ・イワーク『ぐあっ!!』

 

ダイチ「ソルトはイワークを倒せ!

   あの邪魔なテールを『二度蹴り』で破壊しろ!!

   シュガーはボールを回収!

   出来損ない、お前はあの白髪を消し炭だ!!」

 

ソルト「ウイっす!」

 

シュガー「はぁ~い☆」

 

???「に、人間を・・・ですか!?」

 

ダイチは自由になった瞬間、素早くソルトとシュガー、

そして『出来損ない』と呼ばれる者に指示を出した。

 

タケシ「くそっ、もう一人いたのか・・・油断したっ!

   イワーク、来るぞ!岩落としだ!」

 

体勢を立て直し、イワークは向かってくるソルトに反撃する。

ジムで体力を消耗してしまった為、機敏なテール捌きが出来ない。

普段の力があれば呆気なく退けることが出来ただろうが、

今はソルトとイワークの力が拮抗していた。

 

スゥ「ファルナは戦うな!ピコ、『電光石火』で先にボールを回収してくれっ!!」

 

無理にでも戦おうとするファルナを急いでボールに戻したスゥ。

『出来損ない』が襲ってくる気配が無いと判断し、ピコに黒いボールへと向かわせる。

指示と同時に、火花のような勢いでスピアーの入ったボールを回収したピコ。

シュガーはあっという間にボールを横取りしていったピコを見て唖然としていた。

 

ピコ「スゥにぃ、真っ黒ボールとったよ~!!」

 

シュガー「なっ・・・!

   ちょっとぉ~、それ私達のよぉ!?

   返しなさい!」

 

ピコ「へへ~ん、や~なこった♪」

 

シュガー「な、な・・・

    返せぇっ!!このクソガキぃ~っ!!」

 

ピコ「んにぃっ!?急に凶暴になった!?」

 

シュガーは飄々とした口調から急変、荒々しい態度でピコを襲い始めた。

その形相に驚いたピコはボールを抱えて逃げ回る。

 

ダイチ「チッ、何をしているシュガー!そのチビを潰せっ!!

   ・・・そして、何をしている・・・?

   この、『出来損ない』・・・!」

 

???「ひ、ひぃっ!

  ・・・でも、人間は襲えません!だって、下手をしたら・・・」

 

ダイチ「生ぬるい・・・。

   仕方ない、聞けないのならば『躾』が必要だな。

   昔のよしみで甘やかしていたが、これが最後になるぞ・・・?」

 

???「!・・・それでも・・・やっぱり、出来ません・・・!」

 

ダイチ「チッ、覚えていろ出来損ないめ・・・!

   シュガー!標的の変更だ、お前があの白髪を潰せ!

   そうすればあのチビの気も変わるだろう!」

 

シュガーは大きな耳をピクッとさせ、追いかける足を止めた。

逃げ回るピコを見て不敵な笑みを作る。

・・・そして、視線を別の方向へ。

 

シュガー「あぁ~、成る程ねぇ~☆

   流石、マスター頭がいい~。

   さーてっ・・・☆

   

   保護者は・・・

   ・・・クソガキの悪さの責任取れぇっ!!」

 

鋭い額のトゲをスゥに向け、一直線に走ってきた。

 

???「や、やめてーっ!!その人が死んじゃう!!」

 

ファルナ「・・・!」

 

スゥ「やっぱりこっちに来たか・・・。

  まさか人間を襲わせるトレーナーがいるなんてな。

  信じたくなかったけど、本当に居るんだな。」

 

自身の危機だというのに、取り乱さないスゥ。

予想してた、そんな態度でいる。

 

ファルナ「スゥ、のんきな事言ってないで!私を出して!

   まだ少しなら戦えるから!!」

 

スゥ「大丈夫だよ、ファルナ。

  『これ』、用意しといて良かった。」

 

スゥはすぐに使えるようにポケットに忍ばせていた『毒消し』と

炊事用のライターを取り出した。

 

ファルナ「大丈夫って・・・スゥ、何をする気!?」

 

シュガー「キャハハハッ、食らえぇ~っ!

   毒針で串刺しだよぉ~っ☆」

 

スゥ「お前こそ、これを食らえーっ!!」

 

      シュー・・・ボオォォォッ!!

 

シュガー「へ?

   キャアアアッ、熱っ、熱ぅーっ!!」

 

???「・・・!

  あの人、いったい何を・・・?」

 

スゥはライターの火をつけ、その火に向かって毒消しのスプレーを噴射した。

ガスに引火し、毒消しのスプレーが火炎放射器に変身。

無防備だと疑わなかった人間から、予想外の反撃を受けたシュガー。

慌てて着いた火を消そうと自分の体を叩いている。

 

ファルナ「えぅっ!?スゥが火を噴いた!?

   なんで?スゥも私の技を使えるの!?」

 

スゥ「後で教えてあげる。

  ピコ、今だっ!『電気ショック』!!一撃で決めろーっ!!」

 

ピコ「んにっ、待ってましたーっ!

  でんき・・・ショーック!!」

 

        バリバリバリッ!!

 

シュガー「ちょ、ちょっとタイ・・・むべべべべべっ!!」

 

火消しに精一杯で、電撃を避ける余裕なんて無かった。

一撃でシュガーを倒してしまったピコ。

イワークの見込んだ通り、相性の問題が無ければ

相当の威力の電撃であるようだ。

 

スゥ「お見事。すごいぞ、ピコ!」

 

ファルナ「ピコ君、カッコいい~♪」

 

ピコ「にひひ、スッキリしたーっ!♪」

 

スゥ達がシュガーを倒した一方で、ソルトと対峙していたイワークが危機に陥っていた。

ソルトの素早さにイワークの攻撃では付いていけず、空振りで体力を消耗していた。

ついに反撃の期を見たソルトが『二度蹴り』でイワークのテールを攻撃。

根本に近い所からテールが破壊されてしまったイワーク。

 

イワーク「グオォォッ!!」

 

ソルト「っしゃぁ、取ったぁーっ!!

  これでもう攻撃手段はねェーっ!!」

 

タケシ「イワークッ!!くそっ・・・!」

 

ダイチ「いいぞ、ソルト。そいつはもう戦えまい。

   ・・・やれやれ、ジムリーダーなど、この程度か。

   警戒する程の事も無かったか・・・。」

 

タケシ「二度蹴り・・・まさか『格闘技』を持っているとは・・・っ!」

 

ダイチ「ククク、後で貴様のイワークも頂いておこう。

   さて、シュガーの方も終わったか?あのド素人はくたばっ・・・!?」

 

イワークとの戦いに専念していたダイチ。

まさかシュガーがスゥ達に遅れを取るとは夢にも思わず

彼女に任せきりにしていた。

 

 

スゥ「ド素人が、何だって?」

 

ピコを引き連れ、ダイチの前に立つスゥ。

 

ダイチ「バカなっ、あんなザコにシュガーが・・・!?」

 

スゥ「タケシ、スピアーを取り返したよ!

  逃げようっ!!」

 

タケシ「!!

  うむ、イワーク、ボールに戻ってくれ。」

 

タケシは傷ついたイワークを収納し、ダイチに背を向けた。

 

ダイチ「なっ・・・、ソルト!そいつらを逃がすなっ!!」

 

ソルト「待ちやがれッ、そのボールを置いて行けーっ!!」

 

スゥ「二人とも!!」

 

ファルナ・ピコ『はいっ!!』

     

      バリバリバリッ!!

            ブシュゥゥゥッ!!

 

ダイチ・ソルト『うぐぁっ!!』

 

威嚇の電気ショックと、目くらましの煙幕。

イワークの劣勢を見てとっさに『逃げる』ことが得策だとスゥは判断した。

 

やがて煙幕が晴れ、ダイチは獲物を完全に逃がしてしまったことを理解した。

そしてダイチの指示を聞かず、この結果を招いた大本の原因。

当然向けられる怒りの矛先となるのは・・・

 

ダイチ「・・・『出来損ない』ッ!!!

   貴様のせいでとんだ無様を!」

 

ソルト「うわ、ヤベっ・・・今回はアイツ、特にキツい罰を・・・

   って・・・ん?」

 

・・・居ない。

 

ダイチ「!?

   ・・・アイツが、居ない!?何処へ・・・」

 

…居ない。

 

ダイチ「・・・クッ、クククッ・・・」

 

・・・逃げた。

 

ソルト「ダ、ダイチ・・・?」

 

ダイチ「逃げた・・・か。

   しかし・・・逃げても、どうにもならない。

   俺の元を離れた事、必ず後悔させてやる・・・!!」

 

____________________________________________________________________

 

      [ニビシティ・ポケモンセンター]

 

トワ「いや~っ、お手柄だったわネェ、スゥ君、ファルナちゃん、ピコちゃん!」

 

上機嫌に大声で労いの言葉をかけるトワ。

バシバシと大きな掌でスゥの背中を叩いた。

 

スゥ「痛たたっ、ど、どうも・・・」

 

ファルナ「スゥ、あのダイチって人に言い返してる時カッコ良かったよ~♪」

 

ピコ「にひひ、ボクの電気ショックも凄かったでしょ!」

 

スゥ「うん、本当に一撃で倒せるなんてな!

  お前のお陰でスピアーを取り返せたよ。サンキュー。」

 

ピコ「んにっ!これからもボクに任せなさ~い♪」

 

トワ「オホホホ、見かけによらず頼もしい子達なんだねぇ。

  まったく、それに比べてアンタの方は情けないねぇ~。」

 

タケシ「む、面目ない・・・」

 

スゥ「トワさん、タケシがあのダイチを引き付けてくれたんです。

  俺達だけじゃ、絶対に取り返せなかった。

  ・・・あの、それよりもタケシってジムリーダーですよね?

  『アンタ』って・・・」

 

トワ「オホホ、ぜ~んぜん問題ないわよ。

  だって、アタシの『息子』なんだから♪」

 

スゥ・ファルナ・ピコ『ええっ!?』

 

タケシがトワの息子。予想外の返事に3人皆が驚いた。

 

タケシ「母さん、イワークの方はどれ程掛かりそうだ?」

 

トワ「根本から折られちゃってるからねぇ。

  ちゃんとくっつくまで、2日くらいは掛かるんじゃないかねぇ?」

 

タケシ「2日・・・か。その間はジムも休業だな。」

 

トワ「イワークも疲れが取れて丁度いいわよ。

  もうさっさと『バッジ』をスゥ君に渡して、ついでに1週間くらい休んだら?

  アンタ自身も。」

 

タケシ「そうはいかない。『バッジ』が掛かるとなると、真剣勝負だ。

   確かにスゥ君には助けられたが、それとこれとは話は別だ。」

 

スゥ「俺だって、ちゃんと勝たずに貰っても嬉しくないよ。

  この子達だって、そんなんじゃきっと納得出来ない。」

 

ファルナ「相性が悪くても、私頑張ったでしょ?

   今度は絶対イワークさんに勝つからね、タケシさん。」

 

タケシ「ふふ・・・、もう次の挑戦に気が向いているのか。

   スゥ君、次はもう君が初心者だという意識は捨てよう。

   全力でバッジを守って見せるぞ。

   ・・・さて、イワークの様子を見てくる。失礼する。」

 

そう言ってタケシはスゥ達の前から立ち去ろうとした。

・・・が、何か思い出したように足を止める。

 

タケシ「そうだ、スゥ君。

   あの『ロケット団』について、明日詳しく話をしたい。

   ・・・これからの君の旅の中で、おそらく連中とのトラブルに巻き込まれることになるだろう。

   時間が出来れば、またジムに来てくれ。

   『休業』の看板を立てておくが、俺は中に居る。

   それじゃあ、またな。」

 

スゥ「・・・ああ。こっちから教えてほしいって言おうとしてた所だよ。

  また明日。今日はありがとう!」

 

タケシはスゥに背を向けたまま手を上げ、その場を去った。

 

スゥ「初心者という意識を捨てる、か。

  ・・・今回はあのまま続いてたら負けてたな。」

 

ファルナ「・・・うん。私、精一杯戦ったけどまだ力が足りないね。

   もっと強くならないと!」

 

ピコ「むーっ、どう頑張ってもアイツに電気ショックは効かないのかな~・・・。

  スゥにぃ~、何とかならないの~?

  ボクだけ役に立たないなんて、悔しい~!!」

 

スゥ「そうだなぁ・・・」

 

       パンパンッ

 

次の挑戦に向けた対策を考え始めた3人。

首を垂れて黙々と思索する彼らを見ていたトワが

突然手鳴らしをし、乾いた音が響いた。

 

トワ「あーんた達も!少しくらい休みなさい!

  たまには休まないと、みんな倒れちまうよ?」

 

スゥ「あ、はい。つい次はどうしようかって考えてました…

  今日は部屋に帰って休みます。

  あの、この子達を診てくれてありがとう!トワさん。」

 

トワ「良いのよ良いのよ~。

  これから2日はジムも開けられないし、明日もゆっくり休みなさいな。

  今日はもう遅いけど、明日にでもニビシティの観光もしておくれ。

  『ニビ科学博物館』は有名だから、ここは外せないわよ。」

 

スゥ「『ニビ科学博物館』?

  その博物館って、何を展示しているんですか?」

 

トワ「それは見てのお楽しみ!

  男の子なら絶対楽しめるはずよ。

  ・・・ピコちゃん活躍のヒントもあるかもね?」

 

スゥ「ピコ活躍の、ヒント・・・!?」

 

ピコ「んにっ!?ホント~!?」

 

トワ「あくまで『ヒント』よ、『ヒント』。

  『答え』まで言ってあげたい所だけど、あの子に怒られちゃうから。

  ・・・大体、自分自身で考える方が楽しいでしょ?」

 

スゥ「はい、明日行ってみます!」

 

スゥはポケモンセンターの宿泊室に帰っていった。

ピコもスゥの背中に飛びつき、一緒にその場を去る。

ファルナもその後を続こうとした。

 

トワ「・・・ファルナちゃん、しっかり頑張ってスゥ君に褒めて貰いなさいね。」

 

ファルナ「えぅっ!?な、何の事・・・?」

 

目を丸くし、顔を赤くするファルナ。

 

トワ「さぁ~ねぇ?何の事かしら。

  これからの旅、他の娘には気をつけなさいね。

  オホホホ・・・」

 

ファルナ「う、うぅ~っ!!

   ・・・オヤスミなさいっ!!」

 

トワ「オヤスミなさ~い。ホホホ。」

 

 

             [ポケモンセンター・病室]

 

スゥがファルナ達をポケモンセンターに預けている間。

タケシはナツに取り返したスピアーを引き渡していた。

スピアーは疲労とダメージが重く、彼の目が覚めたのは夜になってからだった。

 

ナツ「スピアー、無事に戻ってきてくれて良かった・・・。

  ごめん、お前を置き去りにして逃げて・・・」

 

スピアー「いいって事よ。ナツが助かったんだしな。」

 

ナツ「捕まった後、あいつ等に酷い事されなかったか!?」

 

スピアー「あのボール・・・、捕まったボールの中で・・・」

 

ナツ「スピアー?」

 

スピアー「悪い夢にうなされてた。

    俺が『凶暴』になって、見境なく誰かを襲う夢。

    沢山のポケモンを、この槍で刺す夢。何人も刺した。

    その夢の中で、ナツ。アンタに襲いかかろうとする瞬間、目が覚めたんだ。

    もし、目が覚めてなかったら、俺はアンタを夢の中とはいえ・・・」

 

ナツ「・・・いいよ。夢なんだから。

  怖い思いをさせて、本当にごめんよ。

  また特訓して、今度こそあのイワークを倒してやろうぜ!

  助けてもらったお礼に、強くなったお前を見せてやるんだ、タケシさんに!」

 

スピアー「おうっ!ナツ、アンタも俺のスピードに付いて来るように頑張ってくれよ!」

 

 

???「・・・」

 

病室の様子を外からうかがっていた白い衣で身を包んだポケモン。

高い木の枝に腰かけ、穏やかな目で彼らを見ていた。

自ら纏う炎が、暗闇の中で暖かな光を放っている。

 

???「・・・良かった。あのボールから開放されたんだ・・・。

  『間に合って』、本当に良かった・・・

   ありがとう、みんな。」

 

 

 

 

 


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