[Report3-4 救助作戦]
拮抗したファルナとイワークの勝負は突如中断。
虫取り少年がタケシに助けを求めてきた。
その突然の事態にジムの中が騒然とした。
『どうして試合を中断したんだ?』
『なんだよ、いい所だったのに!』
『今騒いでる子、さっき負けた子じゃないか?』
『なんて言ってた?』
『ポケモンが盗まれたって・・・?』
『うそ、怖っ!』
『そういえば、怪しい感じの人達がいたような・・・』
観客席では見物人同士が顔を見合わせ、思い思いに声を放つ。
タケシ「君は確か・・・」
ナツ「さっきアンタにやっつけられた虫使いの『ナツ』だよ。」
タケシ「ああ、そうだったな。
それで、君のポケモンが盗まれたと?」
ナツ「そ、そうなんだ・・・。
ジムから出て、黒い布を被った怪しい奴に会ったんだ。
急にソイツ、僕に向かってポケモンを使って攻撃しようとしてきて・・・」
スゥ「ポケモンに襲われたのか!?よくケガせずに逃げられたな・・・。」
ナツ「・・・スピアー、あいつがボールから出てきて僕を庇ってくれたんだ。
さっきタケシさんとの戦いでボロボロだったのに!
アイツは僕に『今のうちに逃げろ』って・・・。
黒マントのボールに僕のスピアーが捕まるのを見ながら、逃げてきたんだ・・・。
トレーナー失格だ・・・。大事なパートナーを見捨てて、僕だけ逃げて・・・!」
経緯をタケシに伝えようと、その時自分が見たものを思い出し、ナツは声を震わせながら話した。
タケシ(妙だな。トレーナーのポケモンは他人のモンスターボールでは捕獲できないはずだが・・・
・・・しかし、今はそれについて考えてる場合ではないか。)
タケシ「ナツ君。ジムで起きた事件だ、オレに責任がある。
責任を持ってスピアーを取り返してやる。」
ナツ「!あ、ありがとう・・・!アイツを助けて!
アイツは、僕が小さい頃から一緒に成長してきたパートナーなんだ!」
タケシ「分かった。任せてくれ。
ナツ君。今の君には戦えるポケモンがいない。
辛いだろうが、付いて来よう等と考えずに、急いでニビ警察に通報して後を追ってきてくれ。
・・・恐らく、犯人は『廃坑』へ逃げたのだろう。警察にはそう伝えてくれ。」
ナツ「ぅ・・・!
・・・わ、わかったよ・・・。どうか、お願いだ!」
釘を刺されたナツ。タケシの言う事がもっともだと考え、すぐさま町に戻って行った。
タケシが『廃坑』と見当をつけた理由。
町に逃げるのは論外、鉱山も昼間は力自慢の男達が働いている。
今そこに逃げるのは自滅行為。・・・となると、『廃坑』しか無い。
犯人は人気の無くなる時間まで粘るつもりだろう。
そう踏んでいた。
タケシ「行くぞ、イワーク!」
イワーク「うむ!」
盗人の行き先に見当をつけたタケシはイワークをボールに収納しジムを飛び出した。
駆けだすタケシを後ろから見ていたスゥ。
先ほどのナツとタケシのやり取りには介入せず、ただ黙って聞いていた。
スゥの掌には、拳の握り跡。
その跡は、彼がこの件を他人事だとして済ますつもりはない事を表していた。
スゥ「・・・ファルナ、ボールの中でしばらく休んでも大丈夫そうかい?」
ファルナ「ふふ。休むだけなんだから大丈夫に決まってるよ。
スゥ、助けに行くんでしょ?行こっ!」
スゥ「ああ!
・・・ピコ、さっきの分まで一暴れしてもらうよ!
元気なお前が頼りだからな!」
ピコ「んにっ!今度こそ、ボクの出番だね!
悪い奴は黒コゲだ~!」
スゥ「仲間を奪うなんて、しかも、弱っている所を・・・卑怯な奴!
急がないと!タケシを見失ってしまう!」
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―ニビシティ 『廃坑前』―
ニビシティジムの裏。鉱山に続く道を駆けていたタケシ。
しかし、何かに気がついたのかピタっと足を止めて振り返った。
タケシ「・・・全く、予想通りだよ。君という奴は。」
タケシは眉を上げ、感心や呆れが混ざったような表情を作った。
彼の視線の先には、険しい山道を走り抜け、息を切らす者がいた。
スゥ「はぁ、はぁ・・・
こっそり、付いていこうとしたんだけど、はぁ・・・はぁ・・・」
ファルナ「スゥ、そんなに息の音が大きいとバレるに決まってるよ。も~っ。」
ピコ「スゥにぃ、それじゃあ子供のボクの方がまだ体力あるよ~?
代わりにスゥにぃがボールの中で休む?」
タケシに気づかれた途端、ボールから勝手に抜け出した二人がスゥをつっついて言う。
スゥ「はぁ・・・はーっ。
・・・お前ら、人間の体力をもう少し考えろって・・・。
こんな山道を走ってれば息も上がるって・・・!」
タケシ「俺は別に息は切れていないが。
・・・単に君の鍛練不足だ。トレーナーならもっと自身も鍛えるんだ。
ポケモンに馬鹿にされるぞ?」
ファルナ「ほーら。これから頑張らないとね、スゥ♪」
ピコ「明日からスゥにぃも特訓だね!」
スゥ「もう馬鹿にされてるみたいだけど・・・。」
タケシ「悪いが、無関係な者を巻き込むわけにはいかない。
その傷ついたヒトカゲを早くポケモンセンターへ連れて行け。
町へ戻るんだ。」
スゥ「ファルナは戦わせない。
でも、まだピコは無傷だ!
俺達、何とかあのナツっていう奴の力になりたいって思ったんだ!
手伝わせてくれ!」
タケシ「その気持ちは分かるが・・・」
イワーク「主、私は協力して貰う事に賛成だ。
私とあれだけ戦えたヒトカゲのトレーナーだ。
恐らくピカチュウの方も、私との相性が悪かっただけ。
相当な戦力なのだろう。」
タケシ「・・・お前の口からそういう言葉が出るとは意外だな。
ファルナとピコ?だったか。二人とも。」
ファルナ「は、はい?」
ピコ「んに?」
タケシ「約束だ。
危険だ、もう無理だ、と思ったらスゥ君を引っ張って全力で逃げろ。
俺達を置き去りにしても全く構わない。
・・・と言うより、置き去れ。それが出来るなら、協力してくれ。」
スゥ「あれ?そういうのは俺に言う台詞なんじゃ・・・」
タケシ「・・・君は人を置き去りにできるか?」
スゥ「えっ!?
た・・・多分。」
タケシ「他人のポケモンが盗まれたってのに、わざわざ追いかけてくる君がか?」
スゥ「う・・・。」
ファルナ・ピコ『無理だね。絶対。』
スゥ「二人とも、そんなにハッキリ言うか!?」
コラッタ達に袋叩きされた時。スピアーに追いかけまわされた時。
二人とも、自分達の主人の過去の行動から自信を持って判断した。
タケシ「ははは、悪い事じゃないさ。
だからこそ、この子達にこんなにも信頼されているんだろう。」
ピコ「そうそう!バカにしてるんじゃないよ?誉めてるんだよ、スゥにぃ♪」
ファルナ「えへへ、ごめんねスゥ。ちょっと意地悪く聞こえたかも。
私はスゥのそういう所が大好きだからね♪」
スゥ「あ~、もうわかった!恥ずかしいって!
とにかく、俺もその約束は守る。だから協力させてもらうよ。」
タケシ「了解した。
『廃坑』までもう少しだ、行こう。」
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―ニビシティ 『廃坑』―
スゥ達は廃坑の入り口までたどり着いた。
数十メートルもある岩に大きな穴がえぐられており、
奥に続いているだろう道は光が届かずに真っ暗闇。
『廃』 『止』 『進入禁』 『坑』
入り口の『廃坑、進入禁止』書かれていたであろう札が砕かれ散らばっていた。
スゥ「タケシ!この看板・・・!」
タケシ「割れた断面が新しい。
・・・この中に入って行ったのは間違いないな。」
スゥ「行こう!奥は暗いようだけど、ピコの電気で照らせば…」
タケシ「いや、それは要らない。」
スゥ「?」
ピコ「ちょ、ちょっと!ボクが要らないって、どういう事!?」
ファルナ「ピコ君が要らないとは言われてないと思うよ!?」
ピコ「むぅ~っ!何でぇ!?」
タケシ「すまんな、ピコ。
明りを使ってはまずいんだ。
『廃坑』の中の作りは単純な一本道。
迷う心配はしなくていいが、一本道という事は・・・」
スゥ「一本道・・・?
そうか、必ず泥棒に遭遇するって事か。
それなら確かに、明りはダメだね。」
タケシ「そう。間違いなく『真正面から』遭遇する。
明りを持っていてはこちらの場所を先に教えてしまう。
不意打ちを受けるだろう。」
ピコ「んにっ・・・そっか。しょーがないなー・・・。」
スゥ「なら、明り無しで手さぐりで入るのか?この暗闇の坑道を?」
タケシ「いや、その必要はない。
もう俺達は泥棒を追いつめたんだ。
忘れたか?
俺は、警察を廃坑に呼ぶようにナツ君に指示した。
あとは入り口で待ち伏せているだけでいい。」
スゥ「それで、もし抵抗してきたら俺達も戦うって事か。」
タケシ「そういう事だ。」
スゥは成る程、と一度納得した。
しかし、すぐに「そう上手くいくだろうか?」という疑問を感じた。
あとは警察が来るまで待っていればよい。
もう泥棒を追いつめている。それは間違いないが・・・。
スゥ「・・・それ、少しやり過ぎのような気がする。」
タケシ「む、やり過ぎだと?
警察に捕まえて貰うんだぞ。
俺のイワークで力ずくで痛い目に遭わせて捕まるより、ずっと生易しい方法だと思うが?」
スゥ「あ、違うよ。犯人に同情って意味じゃなくて・・・」
ファルナ「スゥ・・・?」
スゥ「その、『追い詰めすぎ』って、マズいんじゃ・・・?
犯人は、弱り切ったスピアーを盗んだんだろ?
それって、使いようによっては・・・」
タケシ「!!」
イワーク「ぬ・・・。」
ファルナ「あ・・・。」
ピコ「え?何?なになに?」
ピコを除いて、その場の全員がスゥの言わんとすることが理解できた。
追いつめ過ぎた場合、もう犯人はこの手を使うしか無くなるだろう。
スゥ「そのスピアー・・・、
『人質』に使われるんじゃないかな・・・って。」
タケシ「・・・警察と一緒に追いつめる、というのは止めた方が良さそうだな。
となると、穴の中から引きずり出して戦うしか無い・・・か。
しかし、下手に廃坑の中で暴れでもしたら危険なんだがな。」
スゥ「危険?
この『廃坑』って、崩れそうなのか?」
タケシ「その通り。
10年ほど前に『大きな地震』があってな。中の一部が崩れてしまった。
脆くなり危険だということでこの坑道は閉じられてしまった。」
スゥ「『大きな地震』・・・?10年前にマサラタウンではそんな大きな地震は起きてないけど?」
タケシ「そうだろうな。やはりマサラタウンもか。」
スゥ「・・・?」
タケシ「奇妙な事に、あれだけ大きな地震は隣のトキワシティにも、ハナダシティにも伝わっていなかったらしい。
このニビシティにだけ、局所的に大きな地震が生じたんだ。」
スゥ「何で・・・?」
タケシ「分からない。ポケモンの仕業じゃないか、と騒ぐ人もいた。
しかし、流石にポケモンといえど鉱山を崩してしまうほどの地震は起こせないだろう。」
スゥ「『本当に、ものすごく強力なポケモン』か、
『鉱山中のポケモンみんな』が地震を起こした・・・とか?」
タケシ「坑道を作る時は、ポケモンの住処を傷つけない場所を選んで作っている。
ポケモンの怒りを買って、そうなる事は無いはずだ。
・・・今はそんな事を考えている時じゃない。
どうやって暴れずに奴らを引きずり出せるか、それを考えよう。」
スゥ「それなら考えがあるよ!」
タケシ「む?自信あり気な顔をしてるな。どんな案なんだ?」
スゥ「ファルナ、もう一頑張りお願いしてもいいかな?」
ファルナ「えぅ?わ、私?」