[Report3-3 決着の行方]
タケシ「ピカチュウに続き、今度はヒトカゲか…
先に教えておこう、炎にとっては岩は『弱点』だ。
『天敵』ではないがな。」
ファルナ「へえー。私、岩タイプとは相性が悪いんだ。
じゃあ、頑張らないとね!」
タケシ「トレーナーに似て強気なものだ。
気持ちだけでどうにかなれば良いものだな。」
スゥ「ファルナ、『えんまく』だ!」
ファルナ「いけーっ!!えんまくっ!!」
ブシュゥゥーッ!
ファルナのやる気を表わしているかのように、膨大な量の煙幕が闘技場を黒く覆った。
観客席からは闘技場の中が見えない程。
アナウンス『あーっとォー!ヒトカゲ、目くらましの煙幕だァーっ!
これは凄い量だ!わたくしの実況席からは何も見えないっ!』
ファルナ「どう、何にも見えないでしょ!」
イワーク「む…、確かに何も見えないな…ゴホッ。」
タケシ「間違いない。大したものだ。
ゲホッゲホッ。」
スゥ「ファルナ…けほッ」
ファルナ「スゥ、どうしたの!早く次!攻撃は!?」
スゥ「俺もファルナが見えなくて指示できない…。」
ファルナ「へ…?
えぅ。ごめんなさい…ケホッ」
少しファルナのやる気が空回りしたようだ。
闘技場全てを覆い包んだ煙幕のせいで、
その場のスゥも含めた全員が身動きの取れない状況になっていた。
タケシ「限度というものがあるだろう。
イワーク、吹き飛ばせ!!」
イワーク「了解…」
ブォン!!
イワークは髪を風車のように振り回し、風圧で闘技場の煙幕を払いのけた。
タケシ「そのまま『たたきつけろ』!!」
スゥ「ファルナ!左に避けろっ!!」
ファルナ「わ、わわっ!!」
ガゴン!!
ファルナは真上から振り下ろされるテールを転がってよけた。
彼女が元いた場所にテールが叩きつけられ、ズズンと地響きを鳴らした。
テールは地面にめり込み、代わりに周りの地面が抉り上がっている。
ファルナ「あ、危なかった~・・・
スゥ、ありがとね!」
スゥ「よし、うまいぞファルナ!」
タケシ「む…!
ピカチュウ程では無いようだが、中々の速さか…」
スゥ「テールの動きが止まった…!
ファルナ、それを掴んで投げ飛ばせ!!」
ファルナ「ええっ!?出来るかな…
うーんっ!」
イワーク「何を無駄な事を…」
スゥ「それは、どうだろうな!」
ファルナが地面に転がるテールを持ち上げようとする。
彼女は自信がなさそうだったが…
ググッ!!
イワーク「な、何っ!?そんな馬鹿なっ!?」
タケシ「持ち上がっただと!?」
アナウンス『なんとォーっ!あのイワークの重たい髪を!!
しかもイワークごと持ち上げたぞォーっ!?
信じられない!なんという剛力!!』
ファルナ「だ、だれが剛力よ!!
どうして持ちあがっちゃうの!持ち上がらないでよ、もーっ!!」
イワーク「何故私が怒られる…っ!?」
ファルナ「うるさいっ!
このっ、飛んでけーっ!!」
半ばやつあたりのようにイワークの髪を振り回し、イワーク本体を投げ飛ばした。
観客席は歓声を上げる事を通り越し、唖然と口を開いていた。
ズシィィン!!
イワーク「ぐはぁぁっ!?」
スゥ「よし、さすが力持ちっ!」
ファルナ「ちょっとスゥ!いま何か言った!?」
スゥ「チャンスだ、ファルナ!『火の粉』!
さっきの煙幕みたいに思いっきり行けっ!!」
地面に叩きつけられたイワークは苦しそうに倒れている。
その隙をスゥは見逃さず、追い討ちをかけるように指示を出す。
その前のファルナの文句は聞いていない事にした。
ファルナ「後で覚えておいてよ!もう!
いけーっ、火の粉!!」
ファルナは大きな火の玉を空中に放った。
炸裂して雨のように降り注ぐ火の粉。
激しい炎の連撃を受け、炎に抵抗力を持つ岩タイプのイワークでも流石に効いているようだった。
イワーク「グォォッ!」
アナウンス『これは挑戦者のヒトカゲ、見事なコンボ!
地面にたたきつけられ、さらに火の粉の追い討ちだァーっ!
確実に効いているようだぞォーっ!』
タケシ「イワーク!
スゥ…手持ちのポケモンの力をよく把握しているようだな。
不勉強な所はあるが、その点は大したものだな。」
イワーク「っぐ…甘く見た…!主、指示を!」
タケシ「よし、まだ行けるなイワーク。
『岩落とし』だ、逃がすな!」
イワーク「行くぞ!」
体勢を立て直したイワークは再び髪を高く振り上げた。
ファルナの近くにある岩の柱をことごとく砕きまわり、岩石を降り注がせる。
スゥ「なっ、多すぎるだろ!」
ファルナ「スゥ、どうしたらいい!?」
スゥ「(そうだ、ピコが戦っていた時にも岩を砕いていた!
そこに逃げれば、岩は降ってこない!)
後ろだ!ファルナ、急いで逃げろ!」
ファルナ「は、はいっ!」
ゴロゴロゴロッ!!
逃げるファルナの背後から岩がなだれ落ちる音が聞こえる。
音はファルナのもうすぐ後ろまで迫ってきていた。
スゥ「(やっぱり、ファルナの速さじゃキツいか…!?)
頑張れ、ファルナ!もう少しだ!」
ファルナ「くぅっ…!」
タケシ「…そうだ。逃げ場所はそこしか残っていない。
間違った指示では無い…が!」
ゴロゴロゴロ…
ズズゥン…!!
ファルナ「っはぁ、はあ、はぁ…
ま、間に合ったーっ!」
アナウンス『間一髪ーっ!挑戦者のヒトカゲ、間一髪で岩落としの猛攻を逃れた!
それにしても、タケシのイワーク凄いパワーだ!
デコボコだった闘技場がサラ地同然になってしまったぞォーっ!』
スゥ「やったぞファルナ!もう崩せるほど高い岩は残ってない!
もう『岩落とし』は出来ないはず!」
タケシ「…包囲したぞ、イワーク!
あのヒトカゲを捕まえろ!」
イワーク「…もう逃げ場は…無い!」
今度は直接ファルナを狙うイワークのテール。
アナウンス『タケシのイワーク、休む間も与えず容赦なく挑戦者のヒトカゲを襲う!
さっきの仕返しと言わんばかりの激しい連続技だァーっ!』
スゥ「くっ、逃げてばかりだ…!
ファルナ、走れ!これを避けたら反撃だ!!」
ファルナ「はぁ、はぁ…
…っく、はいっ!!」
逃げ疲れた足で懸命にテールから逃げようとするファルナ。
髪に纏う炎は弱弱しく、彼女の疲労を表している。
スゥもイワークが操る複雑な動きのテールを追うことで集中力を切らしかけていた。
だから、二人とも気づけなかった。
ファルナの足元に散らばる、砕けた岩の残骸に。
ズルッ!!
ファルナ「あっ!」
スゥ「しまった!」
小岩に足を取られ、ファルナは姿勢を崩す。
タケシはこれを狙っていたかのようにニヤリと口元を上げた。
イワーク「捕った!」
ギュゥンッ!
ファルナ「!!
きゃあぁっ!!」
逃すことなくテールをファルナの体に巻きつけ、ぎっちりと締め上げるイワーク。
ファルナは足から肩まで全身を締め付けられ、身動きが取れない。
アナウンス『イワーク、ヒトカゲを捕まえたァーっ!
外しただけかと思われた岩落とし!これがヒトカゲの足元を掬ったァーっ!
挑戦者のヒトカゲ、手も足も出ない状態となってしまったぞォーっ!』
タケシ「イワーク、そのまま『しめつけろ』!」
イワーク「これで、終わりだ…!」
ギリッ…ギィッ…
ファルナ「あぅっ…くぅっ…!!」
巻きつけたテールに力を込め、とどめを刺しにかかるイワーク。
イワーク「初挑戦でここまで戦えたのは、大したものだ…
しかし、ここで諦めるんだな、挑戦者!」
イワークは苦しげな声を上げるファルナを見上げ、勝利を確信して言い放った。
スゥ「くそっ…、もうダメなのか!
かなりダメージを与えたのに…!」
タケシ「さあどうする、続けるのか?スゥ!
このヒトカゲが苦しむだけだぞ?」
スゥ「(ファルナ…!俺はどうしたらいい!?
諦めるべきか、それとも…!)」
ピコ「…スゥにぃ!何やってんの!」
ボールの中からピコが叫んだ。
スゥ「ピコ!?」
ピコ「諦めちゃダメだよ!スゥにぃ、ファルねぇを元気付けて!
あの岩ヘビ野郎だって、もう疲れてるはずだよ!」
スゥ「…そうだ、諦めちゃダメだな!
ファルナ、まだだ!振り解けーっ!
イワークを投げ飛ばせたんだ!きっと解けるはずだ!頑張れ!」
ファルナ「や、やってみる!
くうううぅ・・・!!」
ズリッ…
ズズズ…
イワーク「!!
くそっ…まさか、抜け出せるとでも言うのか…!?」
スゥ「解けそうだ!頑張れ、ファルナ!!」
ファルナ「んんっ…がぅ…!」
アナウンス『何とォーっ!?またもやヒトカゲ、力技だァーっ!
イワークを投げ飛ばした力を、今度は振り解く力に注いでいるーっ!』
イワークが思っていた程、ファルナを捕らえ続ける事は簡単ではなかった。
ファルナが力を込めると、わずかに隙間が生じた。
解かされまいと、イワークも残る力でより強く絞めつけようとする。
ギリッ…
ギリギリ…
ファルナ「く…ぅ…もう…力が…」
スゥ「あと少しだ!頑張れ、ファルナ!!」
タケシ「イワーク、踏ん張れ!」
イワーク「ぬ…ぬぅっ…!」
締める力と解く力。
そのどちらも僅かに残る体力から絞り出され、
互いに均衡を保ちながら徐々に弱くなっていく。
ファルナ「もう…ダメ…!」
残っていた体力の差が決着を付けようとしていた。
広がっていたファルナとテールの隙間がまた狭くなっていく。
ピコ「ファルねぇ…!」
スゥ「くそっ、ファルナがもう限界だ…!
ここまでか…」
スゥはファルナの限界を感じ、ついに降参を宣言しようとしていた。
スゥ「…タケシ!」
タケシ「!」
スゥ「俺の負け…っ!」
タケシ「…終わり、か。」
バァン!!
『た、助けてくれぇーーーっ!!』
スゥ・タケシ『!?』
観客席の扉が勢いよく開き、突然の助けを求める声。
その声の主は先の挑戦者、スピアーのトレーナーだった。
タケシ「あれは、さっきの挑戦者…!?
試合中だ!邪魔をするな!!」
『ぼ、僕の…僕のスピアーがぁーーーーっ!!』
タケシ「…!?
スゥ、勝負の決着はお預けだ。
イワーク!ヒトカゲを開放しろっ!」
イワーク「了解…」
タケシの指示でイワークは締める力を緩め、
そっと地面にファルナを下ろしてやった。
ファルナ「う…ぁ。」
スゥ「ファルナ!戻ってこい!」
スゥはファルナを傍らに戻し抱きかかえた。
アナウンス『え?あ…?
な、何だァーっ!?
突然叫び声と共に現れた、前の挑戦者!
何と、勝負の最後の最後、ジムリーダーによって
試合が中止してしまったァーっ!?』
ファルナ「スゥ…、勝負は…?」
スゥ「わ、分からない…。
とにかく、お疲れ様…、ファルナ。
よく頑張ったね。」
ファルナ「んぅ…、もう体動かない…。」
片手で抱えながら、もう一方の手でファルナの額を撫でてやる。
ファルナは気持ちよさそうに目を瞑り、疲れて動けない体をスゥに預けた。
落ち着きを取り戻した彼らとは反対に
何か大変な事が起こっているのだと感じたタケシと、
当事者である先の挑戦者に緊張した空気が流れていた。
タケシ「何事だ!君のスピアーが、どうしたんだ?」
『僕の…僕のスピアーが…奪い取られたんだ!
助けてくれ、お願いだ!!』
スゥ・タケシ『な、何だって!?』