Report3-1 [鉱石の街・ニビシティ]
~ニビシティ・ポケモンセンター~
受付「それじゃあスゥ君、203号室で取っておいたから。
今から外出するのなら、あまり遅くならないように。」
スゥ「ありがとうございます。ご飯を食べてくるだけだから、すぐに帰ってきます。」
ピコ「もうお腹がぐるぐる鳴ってるよ~!」
ファルナ「スゥ、早く行こっ!」
スゥ「さて、どこに食べにいこうかな。」
受付「あ~・・・、ちょっとアンタ達!」
スゥ「はい?」
受付「悪いんだけどねー、ニビじゃあ夜に開いてるお店は無いんだわ。
マサラから来たみたいだから、知らないのも無理はないんだけどねぇ。」
スゥ・ファルナ・ピコ『えぇぇ~っ!?』
§ 第3章 ニビシティ編 [躍進] §
[Report3-1 鉱石の街・ニビシティ]
スゥ「店が開いてないって、まだ暗くなったばかりですよ!?」
受付「それがねぇー、この町は男共がみんなそこらの鉱山へ岩を取りに出稼ぎに行ってるんだわ。
それで町に残ってるのは女子供や老人ばかりで物騒なもんで、みんな夜はほとんど出歩かないんだわ。
だから夜にやってる店もね~…。」
スゥ「ええ、参ったな…。」
ファルナ「えぅ…。スゥ、今夜はごはん抜きなの…?」
がっくりと肩を落とすファルナ。
「なんとかならないの?」と訴えかけるような視線をスゥに送っている。
ピコ「やだーっ!お腹すいたっ!ごはん食べたい~っ!!」
スゥの肩の上に乗っているピコが騒ぎ始めた。
スゥ「うぐ…ファルナ、そんな目で見るなって。
ピコも騒ぐなー!店が開いてないんだからしょうがな…」
ピコ「んにぃっ!そんなの知らないよーっ、ご飯ご飯~っ!!」
スゥ「いたたたっ!こらっ、髪を引っ張るなって!」
受付「こりゃあみんながカワイソウだねぇ。
…よし、それならオバサンがご飯作ってあげようじゃないの!」
スゥ「えっ!おばさんが?」
ファルナ・ピコ「!」
受付「スゥ君。おばさんじゃなくて、アタシの事は『トワさん』って呼びなさい。」
スゥ「は、はい!
あの、トワさんがご飯作ってくれるんですか?」
トワ「アンタ達みたいな子供がお腹すかせてるのを見て放っておいたら女が廃るってもんだわ!
丁度アタシの受付の当番はおしまいだから、今からウチに食べに来なさい。
このトワさんが美味しい物作ってあげるからねぇ!」
スゥ・ファルナ・ピコ『やったーっ!!』
~ニビシティ・トワの家~
スゥ達はトワの家に招待された。
トワが言った通り街中の店の電気は消えており、何処も閉店しているようだ。
トワが親切に食事を振る舞ってくれなければ、確実に今夜は食いはぐれていた所だった。
トワ「さあ、出来たよ!
ニビ名物『がんせきコロッケ』!」
テーブルに着いた三人の目の前に、大皿に大盛りのコロッケが現れた。
「がんせきコロッケ」という名前通り、丸くゴロゴロしたコブシ大のコロッケ。
揚げたてのジュウジュウという音と、ほかほか上がる湯気が三人の食欲を煽る。
ピコ「んにっ!!おいしそーっ!!」
スゥ「うわっ、たくさん!それに大きい!」
ファルナ「ねぇねぇ、トワさん!もう食べていい?」
トワ「ほほほ、お上がりなさい。熱いから気をつけるんだよ!」
スゥ・ファルナ・ピコ『いただきまーす!!』
スゥ「あちっ、ほっ、ふっ」
ファルナ「はふっ、ふぅっ」
ピコ「はひっ!はほはほ」
トワ「まあまあ、焦って食べたら火傷するから、ゆっくりお食べなさい。」
スゥ「ホコホコですっごい美味い!」
ファルナ「ふへぇ、口やけどしちゃったかも。
サクサクしてておいしい~♪」
ピコ「人間さんってこんな食べ物も作れるんだ!
いくらでも食べられるよ!」
トワ「おほほ、そうでしょそうでしょ。
このトワさん自慢の『がんせきコロッケ』だからねぇ!」
スゥ「どうしてこれがニビシティの名物なんですか?
それに、『がんせき』コロッケっていう名前は?」
トワ「ニビがあんまり植物が育たない土地っていうのは、トキワから来たアンタ達なら分かるわよね?」
ファルナ「そういえば、トキワの森を出てから緑を見なくなったよね。」
ピコ「ボク、森に住んでる間も、どうして外では木や草が少ないんだろうって思ってたんだ!」
トワ「そうそう。
それはこの辺りの地質が関係してるのよ。
ニビは『鉱石の街』とも呼ばれてね、金属を多く含んだ高価な岩石がたくさん埋っているの。」
スゥ「へぇー、どんな金属なんですか?」
トワ「アタシは難しい事は分からないんだけど、建物や、アクセサリーや、あとは磁石とか・・・
とにかくたくさんの使い道がある、いい岩石なんですって。
それでね。そういう岩石が採れるのは良いことなんだけど、
植物が育つ栄養は無い、痩せた土なのよ。」
スゥ「それで、ニビシティの近くでは植物が少ないのか。」
トワ「そんな中でもね、このコロッケに使う『ガジャの実』はよく育ってくれるのよ。
だから昔からこの町ではガジャの実を美味しく食べる方法が伝わってるの。
その中でも一番おいしいのが、この『がんせきコロッケ』ってわけ。」
トワの話を、コロッケを頬張りながら聞くスゥ達。
手づかみでわしわし食べているので三人とも手の平も口の周りもコロッケの油でベトベトになっている。
トワ「そういえばあんた達、マサラタウンから来たんだっけ?どうしてまた。」
スゥ「えーとですね・・・」
スゥは旅の目的をトワに説明した。
トワ「・・・へぇ!ポケモンの図鑑をねぇ!そりゃー大変だねぇ。
一体どれだけ時間がかかるんだろうね?」
スゥ「全然想像できないですねー。
だけど、これからファルナ達とたくさん旅をして、
たくさんのポケモンに会えると思うと、凄く楽しみなんです!」
トワ「いいわね~。おばさんも若い時はポケモンと一緒に旅をしたのよ。
本当にたくさんのポケモン達に出会ったわねぇ。」
ファルナ「トワさんもトレーナーだったの!」
スゥ「どんなポケモンと旅をしてたんですか!」
ピコ「ねーねー!そのポケモンは強かったー!?」
昔の話が出るやいなや、食事の手を止め、
テーブルの前に乗り出して質問攻めする三人。
トワ「おほほ、みんな興味を持ってくれて嬉しいわねぇ。
それはそれは、私は『美人エリートトレーナー』って呼ばれてモテモテだったわよ。
弱っちい男なんか相手にしなかったんだから。」
興味津々なスゥ達の反応を見て、上機嫌にトワが語り始める。
トワ「連れていたポケモンはねぇー、岩タイプのポケモンが多かったわね。
アタシの趣味でね、ついついゴツゴツして逞しいポケモンばっかり揃えちゃって。ほほほ。」
スゥ「岩タイプ…どんなポケモンなんですか?」
トワ「それを言っちゃあ、アンタ達の楽しみを奪っちゃうっていうもんでしょ。
なんだったら、明日にでもニビのジムを見に行ったらどう?」
スゥ「!
この町にジムがあるんですか!
トキワシティではジムが閉まってて、まだ一度も入った事が無いんです!」
トワ「あら~、そう言えばトキワのジムリーダーさん、病気なんですってねぇ。
しばらくお休みのようで、気の毒だわねぇ。
それに引き替え、ウチのジムリーダーは元気ピンピンだわよ。」
ファルナ「やっぱり、ジムリーダーのポケモンって強いのかな~?」
トワ「そりゃあ、アタシの・・・
スゥ「え、トワさんの?」
トワ「おっと、ゲフン…何でもない何でもない。
そりゃあ、この町のジムリーダーの使うポケモンは
ちょっとやそっとの攻撃は屁でもないわよ。
もしも挑戦するんなら、生半可じゃ勝てないって思いなさい。」
ピコ「大丈夫だって!
ボクの『でんきショック』ならイチコロだよっ!」
ファルナ「私だって強いもん!『ひのこ』だって使えるんだから!」
スゥ「二人ともやる気だな。
よーしっ、決まり!
明日はジムリーダーに挑戦しよう!」
ファルナ・ピコ「おーっ!!」
トワ「ほほほ、それじゃあ地図を書いてあげるから持って行きなさい。」
スゥ「はい!ありがとう、トワさん!
…ん?」
話をしながら食事をしている中、スゥがふと皿に目をやると
大皿に山盛だったコロッケがいつの間にか残り一つとなっていた。
皿の上に皆の視線が集まり、僅かに緊張した空気。
3つの手がコロッケの上でにらみ合う。
スゥ「ちょっと皆待って。
俺ならこういう時、『一番年上』に譲るよ。」
ファルナ「へぇー。もし私が男の子だったら、こんな時は『女の子』に譲ると思うよ。」
ピコ「優しいお兄ちゃん、お姉ちゃんなら『一番小さい子』にくれるよね?」
スゥ・ファルナ・ピコ『むむむ…』
一日中外を駆け回ってお腹を空かせていた三人。
誰も引かないこの状況の解決策をトワが提案した。
トワ「こらこら、それじゃあジャンケンで決めなさいな。」
スゥ「それだっ!
恨みっこナシのジャンケンで!
じゃ~んけ~ん・・・」
ファルナ・ピコ「「『ジャンケン』って何?」」
スゥ「ええっ!?
ポケモンはジャンケンを知らないのか…。
ジャンケンっていうのは…」
スゥは3種類の手の形を見せてルールを二人に説明していた。
ファルナとピコは自分の両手でそれらの形をマネては、『へぇ~』と感心して返事をした。
ファルナ「へー、ポケモンの『相性』みたいだね!」
スゥ「あ、確かに。
紙は石をくるんで勝って、
石はハサミを壊して勝って、
ハサミは紙を切って勝って
って、しっかり弱点関係になってるな。」
ピコ「今度、キロにぃにも教えてやろっと!
いっつもキロにぃは話聞かずに譲ってくれないもんなー。」
ファルナ「ピコくん、私思うんだけどね。
キロくんならルールを教えてる間に…」
スゥ「『あ~っ、ごちゃごちゃメンドクセぇっ!』とか言って、
『グー』で叩いてくるかもな。」
ピコ「んにぃ…あり得る。
キロにぃはホントに短気だからな~。アタマ悪いし。」
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キロ「へくしっ」
テラ「あ、キロちゃんカゼかしら?鼻水出てるわ、ほら。」
キロ「だから子供扱いすんな!鼻拭くな!!自分でやるっつーの!!!」
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スゥ「それじゃあいいか!
・・・じゃ~んけ~ん」
三人「ぽん!」
スゥとファルナは『グー』。
ただ一人、ピコが指を二本立てた。
ピコ「うわぁあ~ん!スゥにぃとファルねぇにも『グー』でやられたぁ!」
スゥ「悪いなピコ。これは勝負だからな。」
ファルナ「ごめんね~、ピコくん♪
・・・さあ、スゥ!いざ勝負だよっ!」
スゥ「最後のコロッケは俺が貰うぞ!
じゃ~んけ~ん・・・」
スゥ・ファルナ「ポン!」
スゥ「『あいこ』か…。」
ファルナ「もう一回!あ~いこで・・・」
スゥ・ファルナ「しょ!」
スゥ・ファルナ「あ~いこで」
スゥ・ファルナ「しょ!」
スゥ・ファルナ「あ~いこで」
スゥ・ファルナ「しょ!」
スゥ・ファルナ「あ~いこで・・・」
トワ「あらあら、息の合うこと。
ほらピコちゃん、今がチャンスよ
…って。
まー、ピコちゃんてば、ちゃっかりしてるわねぇ。」
ピコ「あー美味しかった!ごちそうさま!」
トワがピコに耳打ちする前に、既に行動していたピコ。
三人兄弟の末っ子だからこそ、この判断の早さという所だ。
スゥ・ファルナ「あ~いこ~で・・・
……『ごちそうさま』・・・?」」
ピコ「あ、まだ終わってなかったの?」ペロペロ
ピコは手についた油を舐めながらしれっと言う。
皿の上に残っていたはずの、勝者の取り分はきれいに無くなっていた。
スゥ・ファルナ『ちょっと…!』
トワ「コロッケはねぇ、冷める前に食べないとダメよ。
ちゃーんとピコちゃんが熱い間に食べてくれたからね。」
スゥ「ピコ!ずるいぞっ!」
ファルナ「も~っ!スゥが早く負けてくれないからだよっ!」
スゥ「俺を怒るのかよ!
それはこっちのセリフだよ!」
ピコ「スゥにぃ、ファルねぇ、ケンカは良くないんだよ~!」
スゥ・ファルナ『誰のせいだ!』
ピコ「にひひ、しーらなーい♪」
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トワ「ほら、これがジムまでの地図ね。
またウチに来とくれよ。
リーダーに勝てたらご馳走してあげるからねぇ。」
スゥ「ありがとう、トワさん!ごちそうさまでした!」
ファルナ・ピコ『ごちそうさま~!』
トワ「ほほほ、頑張っておいで。
負けても、おばさんがポケモンセンターにいるからね。
いつでも連れておいで~。」
スゥ「有り難いけど、不吉ですよ!」
ピコ「ぜーったい負けないよーだ!」
トワ「おほほほ」
~夜・ポケモンセンター宿~
スゥ「さ、ファルナとピコは明日のジムに備えて早く寝ような。」
ピコ「zzz…」
スゥ「って、静かだと思ったらピコはもう寝てるんだ。
さすが子供。寝るのが早いな~。」
ファルナ「ふぁ~ぁ…。私もねむたい…。
スゥはまだ寝ないの?」
スゥ「ああ。今日見つけたポケモンについて図鑑に書かないとね。」
椅子に座り、机に向かっていたスゥが振り返って答える。
ファルナ「そっか~…」
スゥ「ん?どうしたんだ?」
ファルナ「ううん。なんでもな~い…
今日も忙しかったし、ムリしないでね。」
スゥ「ん。ありがとう。」
ファルナ「明日、ジム戦がんばろうね♪」
スゥ「そうだな!
勝って、トワさんのコロッケ食べに行こうな。」
ファルナ「うん!」
スゥ「おやすみ、ファルナ。」
ファルナ「…ん~…」
スゥ「ん?寝ないのか、ファルナ。」
ファルナ「う゛~…」
なかなか『おやすみ』の返事をせず、ファルナは口を尖らせてじっとスゥを見ている。
その様子を見てスゥは大体の見当が付いたようだ。
スゥ「……ちょっとだけ待ってて。すぐ書き終わるから。
…来るか?」
スゥはそう言って膝をポンポンと叩いた。
ファルナ「うん!
えへへ、おじゃましまーす♪」
ちょこんとスゥの上に背中を向けて飛び乗るファルナ。
さっきまで尖っていた口が緩み、嬉しそうな笑顔を向けた。
スゥ (ふわふわして温かい…)
ファルナはリラックスしてスゥに体を預けていた。
彼女の体重がしっかりと自分に掛けられているのを感じるスゥ。
ファルナ「ねぇー、早く図鑑書いてよ~。」
前に投げ出した足をパタパタと上下に動かし催促する。
足の動きに釣られてファルナの髪が炎と一緒にゆらゆらと揺れた。
スゥ「はいはい。
ファルナ、ちょっとワガママになってきたんじゃないか?」
ファルナ「そんな事ないよー♪」
スゥ「そうかなあ…?
…そういえば炎に当たっても、相変わらず熱くないな。」
ファルナ「もう慣れちゃったのか、攻撃するつもりがなくても火が点いてるみたい。
スゥが熱くないみたいで良かったよ。」
スゥ「熱くないけど、温かい。
それに体も温かいし。
やっぱりファルナが炎タイプのポケモンだからかな。」
ファルナ「スゥ…」
スゥ「…ん?」
ファルナ「…えっち。」
スゥ「この…っ、また言ったな!じゃあ降りろって。」
ファルナ「ほら、図鑑図鑑。早く書いてよ~。」
スゥ「まったく…。」
スゥは止めていた手を動かし、図鑑をのデータを埋めていく。
図鑑を埋めるのに一日一日を振り返り、まるで日記でも付けているような感覚だった。
研究所でファルナに出会うまで、本物のポケモンを見たことすらなかったスゥ。
旅立ってからというもの、スゥは毎日が新しく楽しい出会いで充実していた。
スゥ「よし、図鑑はこんな所かな。
寝ようか、ファルナ。お待たせ。」
スゥは膝の上のファルナに声をかけたが、
かくりと首を傾けて返事が返ってこない。
ファルナ「…すー…すー…」
スゥ「あはは、間に合わなかったか。
…頑張って起きててくれたんだな。」
スゥが図鑑を閉じた時には随分夜も更けていた。
先にピコが寝ているベッドにファルナを運び、毛布を掛け直す。
スゥ「明日は頑張ろうな。
2人とも、おやすみ。」
横になり、明日のジム戦を考えると心が躍りだす。
しかし一日で溜まった疲労に対して体は正直なもの。
瞼を閉じると興奮を上回る眠気に意識が飲み込まれる。
やがて部屋には3人の寝息だけが響いた。