まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report2-13 [ピカチュウ三姉弟]

Report 2-13.[ピカチュウ三姉弟 テラ・キロ・ピコ ~ ]

 

 

無差別に放ったピカチュウの電撃は不運にも、気が立っているスピアーに当たってしまった。

スゥとファルナはピカチュウの巻き添えを食ってスピアーに追い回されていた。

 

スゥ「な、なんだよアイツ!」

 

ピカチュウ「あいつはスピアーっていうポケモンだよ!いっつも両手に槍を持ってるアブナイやつ!」

 

スゥ「よりに寄って、そんなのに電撃当てるなよ!」

 

ピカチュウ「知らないよっ!あんな煙を使ったそっちが悪いんだよ~!」

 

スピアー「待ていっ!この卑怯者共!」

 

スピアーは背中の4枚の羽を震わせスゥ達の真上まで飛んできた。

 

スゥ「あー、くそーっ!何で俺達まで追われないといけないんだ~!!」

 

ファルナ「わぁーん!やっぱりこんな森早く抜けたい!!」

 

ピカチュウ「んに~~っ!!どうしてボクがこんな目に!」

 

スゥ・ファルナ「「 それはこっちの台詞っ!!! 」」

 

 

スピアー「逃げ足の速い奴らめ!

    食らえっ、[ダブルニードル]!!」

スピアーは両手に持っていた槍をスゥ達目掛け投げつけた。

1本はピカチュウに、もう1本はスゥに向かって一直線に飛んでいく。

 

ピカチュウ「うわあぁぁっ!?」

 

スゥ「ヤバいっ、伏せろピカチュウ!!」

 

ファルナ「スゥ!?」

 

スゥはピカチュウもろともに地面に倒れこんだ。

ダブルニードルはズンと重たい音で地面を抉り、スゥとピカチュウの両脇に突き立った。

 

スゥ「~~!?

  こんなモノ刺さったらひとたまりも無いって!冗談じゃないよ!」

 

ピカチュウ「ひ、ひぃぃぃっ!」

 

ファルナ「あ、危なかった・・・」

 

スピアー「チィッ、外したかっ。人間の癖に生意気な真似を!」

 

一先ずスゥ達が無事である事を確認し、安堵と共に脱力するファルナ。

しかし状況が状況なだけにそれも束の間、急いで彼らの元に駆け寄って手を貸した。

 

ファルナ「スゥ、ピカチュウ君!大丈夫!?」

 

スゥ「ああ、二人とも大丈夫だ。

  走ろうファルナ!

  アイツ、本当に凶暴だ!きっと何言っても通じない!」

 

ファルナ「う、うん!」

 

ピカチュウ「ちょっ、ちょっと待って、足が・・・!」

 

スゥ「足・・・?挫いたのか!?」

 

ピカチュウ「んに・・・違う、けど、震えて・・・」

 

ピカチュウは目の前に突き立ったダブルニードルを見て命の危険を感じ、腰を抜かしていた。

 

スピアー「いつまでも逃げられると思うな、この餓鬼共!」

 

ファルナ「!!

   スゥ、また来るよ!!」

 

スゥ「まずい!

  仕方ない、しっかり捕まってろよ!」

 

ピカチュウ「にっ!?」

 

スゥはピカチュウを背中に負って、急いで走り始めた。

しかし、スゥにとってピカチュウが小柄とは言え、

人一人を背負っての全力疾走が長く続くはずが無く、スピアーに易々と追いつかれた。

スピアーは、次は外さないといった様子でじっくりとスゥ達を狙っている。

 

ファルナ「はあっ、はぁっ、スゥ、どうしよう!?」

 

スゥ「ぜぇっ、ぜぇっ・・・

  ど、どうするって言ってもなぁ・・・!」

 

スゥは酸素が足りていない頭でこの状況を打開する案を探った。

とっさに頭に浮かんだのはファルナが覚えたばかりの、スゥの記憶に最も新しい技だった。

 

スゥ「・・・そうだ!ファルナ、[えんまく]!」

 

ファルナ「そっか!

   わかった、やってみる!」

 

スピアー「今度は外さんぞ、串刺しになれっ!」

 

ファルナ「ちょ、ちょっと待って!

   えんまくが・・・間に合わないよ!!」

 

スゥ「くそっ!もうダメか・・・!?」

 

スピアー「くらえっ!!」

 

スピアーは攻撃に対し、ファルナはまだ煙幕を十分に作れていなかった。

今度ばかりはスピアーも攻撃を外さない。

 

手に持った二本の槍が振り下ろされた。

その時。

 

 

 

ピカチュウ「これでもくらえーっ!!」

 

スゥ「いでででででっ!?」

 

ファルナ「でんきショック!?」

 

スピアー「うおっ!

   し、しまったっ・・・!!」

 

スゥの背中にしがみついていたピカチュウが苦し紛れに空中へ電撃を放った。

命中はしなかったが、意表を突かれたスピアーの手元が狂い、

[ダブルニードル]はターゲットへの軌道から大きくずれて、木に深々と突き刺さった。

 

スピアー「ぐうぅ・・・1度ならず2度までも・・・っ、この子ネズミぃっ!!

   まずはキサマから串刺しにしてくれる!」

 

二度も電撃を撃たれ、スピアーは完全にピカチュウを狙う体勢になった。

真っ直ぐ睨んできた物凄い形相に、涙目で震え上がるピカチュウ。

 

ピカチュウ「ひいぃっ!?

    た、助けてぇ!!」

 

スゥ「ピカチュウ、大丈夫だ。

  俺達が絶対に逃げ切らせてやるからな!」

 

ピカチュウ「んにぃ・・・っ・・?」

 

スゥ「お前のおかげで何とかなったんだよ!

  ・・・なっ、ファルナ!」

 

ファルナ「うん!準備おっけーだよ、スゥ!」

 

スピアー「見ていろよ、子ネズミ・・・

    !?・・・っく、クソッ!ぬ、抜けん・・・!」

 

ピカチュウがとっさに放った電撃は全くの無駄ではなかった。

スピアーは全力で投げた槍は木に深く抉りこんでおり、スピアー自身にもなかなか抜けないようだ。

しかも、頭に血が上っているためか急いでダブルニードルを抜くことばかりに気を取られ、

ファルナの動きには目もくれていない。

 

スゥ「今がチャンスだ!ファルナ、[えんまく]!」

 

ファルナ「いけぇーっ![えんまく]!」

 

ファルナは手の中に集めた十分な量の黒い煙を、ありったけスピアーに吹きかけた。

             

スピアー「チッ、やっと抜けた・・・ん!?」

   ぬああああ!?目が、目がぁ!!

   ゲホッ、ゲホゲホッ!!」

 

煙に巻かれ、スピアーは視界を奪われていた。

 

ファルナ「やったっ!効いてる!

   スゥ、今のうちだよ。逃げよう!」

 

スゥ「よくやったファルナ!

  おいピカチュウ!!この森に詳しいだろ、隠れられそうな場所って無いのか!?」

 

ピカチュウ「隠れられそうな場所・・・?

    有るといえば有るんだけど、あまり人間さんに知られたくない・・・」

 

スゥ「そんな事言ってる場合か!

  あいつが追いかけてくる前に早く案内してくれ!!」

 

ピカチュウ「で、でも・・・」

 

ファルナ「ピカチュウ君、お願い!

   とにかく今は逃げないと!!」

 

ピカチュウ「わ、わかったよ!」

 

スピアー「うぐっ、くそぉっ!

    待て、逃げるな!!ゲホッゲホ」

 

ファルナ「スピアーさん・・・、ごめんなさい!」

 

逃げる前にファルナは煙で咽ているスピアーにぺこりと頭を下げた。

 

スゥ「(ファルナ、律儀に謝ってる場合じゃないって!急いで!)」

 

ファルナ「えぅ、うん・・・!」

 

ピカチュウ「(こっちだよっ!あの奥!)」

 

小声でスゥ達を誘導するピカチュウ。

『人間に知られたくない』場所・・・そこは・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

               [ トキワの森 ??? ]

 

 

ピカチュウ「ここまで来たらもう大丈夫だ~・・・!」

 

スゥ「ほ、本当か・・・?ぜぇ、ぜぇ・・・」

 

ファルナ「助かったの・・・?」

 

森の奥まで案内される始終、ピカチュウを背負いっ放しのスゥの体力は限界だった。

ピカチュウの表情が緩み、彼がスゥの背中から降りたのを見てファルナも警戒を解いた。

その時、近くの茂みから声が聞こえてきた。

 

???「なんだ?騒がしいな。

  ・・・あ、『☆☆』!お前、今まで何処行ってたんだよ!!飯の当番サボりやがって!」

 

ピカチュウ「にひひ、ごめーん『△△』にぃ。」

 

ピカチュウが『にぃ』と読んだ相手。

赤いバンダナを頭に巻き、バンダナから覗くようにまっすぐ黄色い髪と長い耳を顔の横で下ろしていた。

ピカチュウの特徴である大きな雷の形のしっぽが伸びている。

 

スゥ「?

  『にぃ』・・・『兄』・・・?

  この子もピカチュウみたいだし、兄弟?」

 

ファルナ「名前を呼んでたのかな?よく聞き取れなかった。」

 

ピカ兄「で、☆☆。誰だこの人達は。

    特にあの男・・・、人間じゃねーのか?」

 

ピカチュウ「えーと、実はね・・・」

 

ピカチュウは兄に、スゥ達をここまで連れてきた経緯を説明した。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ピカ兄「・・・チィッ。

   ったく、アホ弟!

   人間を連れてくんなって、あれほど言っただろ!!」

 

       ゴチッ

 

ピカチュウ「にぎゃっ!」

 

ファルナ (えぅっ、痛そっ・・・)

 

ピカチュウの兄は弟を怒鳴るやいなや、堅いげんこつを食らわせた。

その様子と痛そうな音に、見ていたファルナは身を竦めた。

どうやらこの兄は、話し方からしても、行動からしても、気の長いタイプではないようだ。

 

ピカチュウ「あてててっ・・・

    ご、ごめんってば△△にぃ。

    だって、スピアーから逃げれそうな所がここしか思いつかなかったんだって!」

 

スゥ「なあ、『△△』。

  ん・・・、発音しにくい。」

 

ピカ兄「・・・無理に呼ばなくていい。

    俺は『キロ』だ。

このアホ弟は『ピコ』。

これなら聞こえるだろ?俺達にとっては、気持ち悪いぐらい訛ってるけどな。」

 

ピカチュウの兄は自分を『キロ』、弟のことを『ピコ』と名乗った。

彼らが普段使っている発音からはかけ離れたものらしいが、これならスゥ達にもはっきりと聞こえたようだ。

 

スゥ「わかった、じゃあそう呼ぶよ。キロとピコ。」

 

ファルナ「よろしく、キロくん、ピコくん!」

 

ピカチュウ「んにっ!じゃあ、あらためまして!

    ボクは『ピコ』!助けてくれてありがとうね、スゥにぃ、ファルねぇ!」

 

スゥ「スゥにぃ・・・?」

 

ファルナ「ファルねぇ?」

 

ピコ「だめ?」

 

スゥ「いや、いきなりだなって思って。」

 

ファルナ「私はいいよ!仲良しの名前で呼ばれるの、嬉しいから!」

 

ピコ「じゃあ決まりっ!スゥにぃ、ファルねぇ!」

 

スゥ「はいはい。よろしくな、ピコ。」

 

キロ「おい、お前ら。せっかく仲良くなった所悪いんだが、人間はさっさとココから出て行ってくれないか。

  オレの方はヨロシクするつもりは無い。」

 

ピコ「キロにぃ!どうしてそういう事言うんだよ!スゥにぃはボクを助けてくれたんだよ!?」

 

キロ「うるせぇ!とにかく人間は連れてきたらダメだっていう決まりだろうが!」

 

スゥ「キロ、どうしてココに人間が来たら駄目なんだ?」

 

キロ「チィ、面倒くせぇ人間だな。

  ・・・まあ一応、弟を助けてもらった恩もあるしな。理由くらいは言ってやるか。」

 

ピコ「あのね、スゥにぃ。ここは・・・」

 

キロ「オメーは説明しなくていい。話がややこしくなるだけだ。」

 

ピコ「んにーっ!!キロにぃだって、頭悪いくせに!」

 

キロ「んだとぉっ!?もっぺん言ってみろ、アホ弟!」

 

            ボカッ

 

ピコ「んにぃっ!!またブった~!!テラねぇに言いつけてやるっ!」

 

キロ「お、ぉ~・・・、やってみやがれっ!」

 

スゥ 「話が・・・」

 

ファルナ「ぜんぜん進まないね。」

 

??「こらッ!キロちゃん、またピコちゃんをいじめてる!」

 

突然、この兄弟喧嘩を止める声が聞こえた。

 

キロ「げっ、姉貴!」

 

ピコ「テラねぇ!」

 

スゥ・ファルナ (またピカチュウだ・・・)

 

また新たに3人目のピカチュウが現れた。

このピカチュウは『テラ』という名前でキロとピコの姉であるようだ。

キロやピコと違い、長い耳はピンと上に向かって伸びている。

表情も少し大人びており、やんちゃな弟達よりは落ち着いた様子だった。

 

テラ「・・・ちょっと挨拶の前に失礼するわね、人間さん達。

  ちゃんと見てたわよ。キロちゃーん・・・?

  覚悟はいいわね?」 

  

      パチッ・・・ 

          ヂヂッ・・・

 

キロ「ちょ、ちょっと待った、姉貴!」

 

頬の電気袋に充電をはじめるテラ。

先ほどまでピコには強気だったキロが急に怖気づいていた。

 

キロ「わ、悪かったって!謝る、あやまるから!ゴメンナサイ!

  ・・・なっ?」

 

テラ「あら、物分かりがいいのね~キロちゃん。

  それじゃあ、もうやっちゃだめよ?」 ヂヂヂッ

 

キロ「は、ハイっ!」

 

キロの頭を撫でているテラを見ていたスゥ達には、

その様子が「反省の色に免じて微笑んで弟を許してやる」構図に見えていたのだが。

 

テラ「いい返事ね~、キロちゃん。

  だけどねぇ~、気のせいかもしれないんだけど~。」

 

キロ「は、ハイっ?」

 

テラ「私ね~。

  つい昨日も。  ヂリヂリッ

  おとといも。

  その前の日も、ね。」 バチバチバチッ

 

テラはにこやかな顔で充電を進めている。

頬からほとばしる電光が首、肩、腕と伝って行き、テラの手へ集っていく。

・・・まだキロの頭を撫ぜている、"その手"に。

 

キロ「え、ちょっ!?姉貴っ!?」

 

 

 

テラ「何度も何度も同じ事言ったはずなんだけどねぇっ!!」

 

             ビシャアアァァン!!

 

キロ「ぎにゃぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

スゥ「か、かみなり!?」

 

ファルナ「きゃぁっ!?」

 

怒ることを"雷が落ちる"とは言うが

言葉通りに脳天へ雷が落ちる光景をスゥ達は目の当たりにした。

ファルナは強烈な電撃に驚き、スゥの後ろで隠れて震えていた。

 

テラ「まったく・・・、少しは懲りなさい。」

 

キロ「は・・・へひ・・・」

 

キロは白目をむいて伸びている。

 

ピコ「さっすがテラねぇ!」

 

テラ「ピコちゃん、あなたも!」

 

          バヂッ!

 

ピコ「に"に"っ"!!?」

 

テラはピコにも電撃を打った。

キロに放ったものほどは強烈ではないが、叱る意味を込めたものとしては十分な威力だった。

 

テラ「キロちゃんも言ってたでしょ、人間をここに連れてきちゃダメって!」

 

ピコ「んに"ぃ~っ・・・ごめんなさい、テラねぇ。」

 

スゥ「あ、そうだ。その事について聞こうと思ってたんだった・・・」

 

ファルナ「わたしは雷で忘れそうになってた。

   びっくりしたぁ~、もう。」

 

 


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