まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report2-12 [いたずら者]

Report2-12 [いたずら者]

 

 

               トキワの森 順路外 ???

 

???「~♪」サッサッサッ

 

道の外れ、一層光が届きにくい森の中。

図鑑を盗んだ泥棒は薄暗く走りづらい中を身軽に駆け回っていた。

 

 

???「・・・ちょっと速すぎたかな?

   にいちゃん達、追いついて来れないかも。

   

   ・・・だけど、この赤い本大事そうだったし、きっと来るよね。

  『貰った』コレ食べて待ってよっと!」バリバリ

 

『あげた覚えは無いんだけど・・・?』

どこからともなく、そんな文句が飛んできそうな独り言を言って、

泥棒ポケモンは立ち止まり、まるで追いつかれるのが楽しみであるように悠々とおにぎりを食べ始めた。

 

一方、スゥ達は・・・

 

スゥ「はぁ、はぁ、・・・いててっ!」

 

ファルナ「はっ、はっ、きゃっ!」

 

薄暗さに足をとられ、ファルナが転びそうになる。

繋いでいた手を引っ張って助けてやるスゥ。

彼も彼で、ちょうど背の高さの位置で伸びた小枝に頭をぶつけていた。

 

スゥ「っつー・・・

  ファルナ、大丈夫か?

  くそっ、全然追いつける気がしない。参ったな・・・」

 

ファルナ「で、でも、図鑑盗られちゃたから何とか取り返さないと!

   さっきのポケモン、こっちの方に逃げたはずだよ!

   もっと追いかけてみようよ!」

 

スゥ「ごめん、ファルナ。怖いのにこんな奥に連れてくる羽目になるなんて・・・」

 

ファルナ「ううん。たしかに怖いけど、今はそんな事言ってられないよ!頑張る!」

 

スゥ「・・・ありがとな。

  それじゃあ、もうちょっと付いてきてくれ!」

 

ファルナ「うん!」

 

ファルナに後押しされ、申し訳なさを感じながらさらに森も奥へと進もうとするスゥ。

 

一方、泥棒は相変わらず?気に追手を待ち続けていた。

 

???「モグモグッ・・・ゴクン。

  んにーっ、やっぱり人間さんが持ってる食べ物は美味しいなー。

  それにしても、にいちゃん達遅いなー。 

  まさか、もう諦めちゃったのかな?

  つまんないの・・・。」

 

               ガサガサッ

 

???「!」

 

スゥ「はぁ、はぁ・・・

  あっ!居た、こいつ!」

 

ファルナ「図鑑返してよ!それは大事な物なんだから!」

 

ようやくスゥ達は泥棒に追いついた。

 

???「んにっ、来た来た♪

   遅いよ、にいちゃん達!待ってたんだよ?

   このノロマ~っ!!」

 

スゥ「こ、このドロボウポケモン!!

  大人しく返さないと痛い目に遭うからなっ!!」

 

ファルナ「スゥ、それワルモノの台詞みたいだよ。抑えて抑えて・・・。」

 

スゥ「あ、確かに・・・。

  とにかくっ!それを返して、頼むから!」

 

???「この本・・・『図鑑』?そんなに大事なモノなの~?

  ふーん・・・(ペラペラ)

  ・・・

  あ、ビードルもキャタピーも載ってる!

  わ!ボクまである!いつの間に?

  へー、面白い。・・・やっぱりコレ欲しい!

  もーらいっ♪」

 

図鑑に興味を持ってしまった泥棒ポケモンは図鑑をポケットにしまい、再び逃げようとしてスゥ達に背を向けた。

 

スゥ「もう逃がさないぞ!!

  ファルナ、[ひのこ]!」

  

ファルナ「ちょっと熱いよ、ごめんねっ!」

 

               ボオォッ・・・

 

泥棒を目の前にして攻撃態勢のファルナの炎が燃え盛る。

 

ファルナ「やあっ!」

 

               ボボボッ

 

???「よっ!よっ!ほぃっ!」

 

威嚇で放った[ひのこ]を、火花のような動きで避ける泥棒。

小さな体と、その機敏な動きで被弾を免れた。

 

ファルナ「す、凄い・・・!全部避けちゃった!?」

 

スゥ「こいつ、コラッタよりずっと速い!」

 

???「にひひっ、にいちゃん達、遊んでくれる?」

 

スゥ「くそっ・・・

  絶対に図鑑を取り返してやるからな!」

 

???「その意気その意気!

   じゃあ決まりっ!遊んでくれるのなら、自己紹介しなきゃ♪

   ボクは『ピカチュウ』!」

 

スゥ「だから遊びじゃないって・・・!

  ・・・『ピカチュウ』?種族の名前か?」

 

ファルナ「『ピカチュウ君』?名前はないの?」

 

ピカチュウ「名前みたいなのはあるけど、人間さんには聞こえないと思うよ~。

    ボク達『ピカチュウ』にしかわからない声だもん。」

 

スゥ「あ、成る程・・・。

  って、そんな話してる時じゃないって!

  ファルナ、[ひっかく]!」

 

ファルナ「はいっ!」タッ

 

ファルナはピカチュウに向かって走り出した。

 

ピカチュウ「遅いよ、おねえちゃん!」シュッ

 

ファルナ「(速い!)

   ・・・きゃっ!」

 

ピカチュウ「ん~。やっぱり炎タイプだからあったかい~。」

 

ピカチュウは素早くファルナの懐に潜り込み、攻撃を仕掛けてくるのかと思いきや・・・

そのまま抱きついた。

意外なピカチュウの行動にファルナは戸惑っていた。

 

ファルナ「え、えっ?

   ねぇスゥ、どうしよう!?」

 

スゥ「攻撃しない?何考えてるんだ、あの子・・・?

  でも、チャンスだファルナ!

  そのままピカチュウを捕まえてくれ!」

 

ファルナ「んっ、しょっ!(グイッ)

   ・・・あれ?

   (抵抗しない・・・?)」

 

ピカチュウ「わー、捕まったー♪」

 

ファルナが呆気に取られる程、ピカチュウはあっさりと捕まってしまった。

ところが彼本人には『捕まった』という焦りの色は一切見えず、

むしろファルナに甘えているような様子にさえ見えた。

 

スゥ「なんだか気が抜けるな・・・。まあいいや!

  ファルナ、そのままピカチュウを捕まえていてくれ!」

 

ファルナが捕まえているピカチュウに近づいて図鑑を取り返そうと、スゥが手を伸ばした。

その時。

 

               パチッ!!

 

ファルナ「きゃっ!!」

 

スゥ「いつっ!!」

 

スゥが図鑑に触れるかどうかのタイミングで、一瞬だけピカチュウの体が強く光った。

ファルナとスゥに鋭い痛みが走り、驚いたファルナはピカチュウを逃がしてしまった。

 

ピカチュウ「へへー、ごめんごめんっ。痛かった?」パチッパチッ

 

へらへらと謝っているピカチュウの赤い頬から鋭い光の筋が走っている。

それがファルナ達に痛みを与えたモノのようだった。

 

スゥ「っつ・・・手がピリピリする・・・。

  あいつの頬で光ってるやつ・・・まさか電気か!?」

 

ファルナ「ごめんスゥ。びっくりして放しちゃった・・・

この子、たぶん『電気タイプ』のポケモンじゃないのかな?」

 

ピカチュウ「そうっ!今のはボクの得意技、[でんきショック]!

    びっくりさせるくらいにしか撃ってないけどね~。すごいでしょ!

    本気でやったらもっと凄いんだよ!

 

    というワケで、また追いかけてきてね♪バイバイ!」(ピョンッ)

 

スゥ「くそっ、また逃げる気だ!」

 

ファルナ「っ・・・

   もう逃がさない!」(シュウゥゥ・・・)

 

ファルナは炎の球を両手で握り、まるで炎をすり潰すように手を動かした。

するとファルナの手の間から『黒い煙』がモクモクと上がった。

 

スゥ「コホコホッ

  ・・・煙・・・?

  一体どこから?」

 

ファルナ「スゥ、私にまかせて!あの子を逃げられないように出来るかも!」

 

スゥ「この煙、ファルナが出してたのか!

  逃げられないようにって・・・どうやって?」

 

ファルナ「スゥは口を覆っててね!

   いけーっ!『えんまく』!!」

 

フシュウウウウゥゥゥ!

 

ピカチュウ「ふぇっ!?」

 

ファルナは『黒い煙』を逃げようとしたピカチュウに向かって勢い良く噴きつける。

瞬く間に『えんまく』がピカチュウを取り巻き、彼の目と鼻を刺激して方向感覚を狂わせた。

 

やがて煙が晴れ、中から涙目でむせているピカチュウが見えてきた。

 

ピカチュウ「げほっ、ゲホゲホっ!め、目が!目がしみる~~~!

    ケホッ!ケホッ!」

 

スゥ「ゲホッ・・・こ、この煙はキツい・・・!

  ファルナ、いつの間にこんなことが出来るようになったんだ?」

 

ファルナ「ううん。さっき思いついた!

   大成功だね♪」

 

スゥ「思いついた・・・?

  『えんまく』か、便利な技だな。すごいぞファルナ!」

   さて、ピカチュウ。もう遊びはおしまいだ!」

 

ピカチュウ「ケホケホッ!や、ヤダ!」

 

スゥは視界を塞がれて動けないピカチュウに近づいた。

 

スゥ「頼むから、そのまま大人しく・・・

  ・・・ん?」

 

その時、ピカチュウの後ろの茂みから『ブーン』と震えるような音を立てて何者かの影が飛び出てきた。

               

               ブーーーン

                ガサガサッ

 

スゥ「な、何だ!?」

 

               ザザッ!

 

スピアー「おかしい・・・。さっき、この辺りから煙が昇ってたと思うのだが・・・」(キョロキョロ)

 

飛び出てきたのは『毒蜂ポケモン・スピアー』。

『ビードル』の進化形態『コクーン』を経てさらに進化した、4枚の薄い羽を高速で震わせ飛ぶ『虫・毒タイプ』のポケモン。

両腕に鋭い槍を持ち、黄色と黒の縞模様の堅そうな鎧を身に纏っている。

巣に居るサナギ状態の『コクーン』達を守るため、彼らが羽化するまでのこの時期のスピアーは警戒心がとても強く気性が荒いので危険。

ファルナの[えんまく]に異変を感じて出てきたようだ。

 

彼らの巣は森の観光順路から遠い場所にあるので、順路に沿っている限り出くわすことはまず無かったのだが・・・

 

[えんまく]は全て消え去っていた為、幸いにも犯人がスゥ達であることに気付かずただ彼らの頭上を飛び回っている。

 

 

スゥ「槍を持ってる!?

  怖そうなポケモン・・・だけど、襲ってくる様子じゃないな。良かった。」

 

ファルナ「でも、なんだか怒ってるみたいだよ?」

 

スゥ「もしかしたら、さっきの[えんまく]の煙を火事だと思ってるのかも・・・!

  なんだか長居は出来なさそうだな。

  ピカチュウ、図鑑返してもらうよ。」

 

ピカチュウ「 や だ --- っ !! ま だ 遊 ぶ ーーー !! 」(バチバチバチバチッ!)

 

駄々をこねるピカチュウは、涙で視界がぼやけて狙いが付けられないまま『でんきショック』を乱れ撃ちして抵抗した。

 

 

               バチッ!バチッ!

 

ファルナ「きゃっ!! わわっ!」

 

ファルナは何とか当たらずにかわしきれた。

 

               ビリビリビリビリ!

 

スゥ「あ”あ”あ”あ”あ”あ”! !」

 

スゥには当たった。

 

 

               バチバチバチバチッ!

 

スピアー「べ べ べ べ べ べ っ! !」

 

・・・飛び回っていたスピアーにも当たった。

完全にトバッチリである。

 

ファルナ「あ"・・・」

 

 

ピカチュウ「はあ、はぁ。

    あ、目が見えてきたっ!

    へへー♪ちゃんと遊んでくれたら返すから、もう少し遊んでよ!」

 

ファルナ「(ブルブルブル・・・)」

 

スゥ「あてててて・・・(プスプス)

  返すって、本当だな!?」

 

ファルナ「(ブルブルブル・・・)」

 

ピカチュウ「うん!だからもうちょっとだけ、お願い♪」

 

スゥ「それならいいけど・・・約束だからな!」

 

ピカチュウ「んに。約束!」

 

ファルナ (チョイチョイ)

 

スゥ「・・・ん、ファルナ?どうしたの?」

 

ファルナ「(プルプルプル)」

 

ファルナが先程からずっと引きつった顔で一言も口にせず震えている。

彼女はスゥの後方を指し、激しく首を横に振っていた。

 

・・・イヤな予感。

スゥはファルナが指さす『後ろ』を見る勇気が無かった。

 

ピカチュウ「どーしたの、おねえちゃ・・・ヒイイイッ!!」

 

そんな空気を読まず、後ろを見てしまったピカチュウが悲鳴を上げて震え上がった。

 

 

スゥ「あははは・・・まさか・・・ね・・・」(チラッ)

 

 

 

               ブィーーーーーン!!

 

スピアー「・・・・不意打ちでオレに電撃を浴びせるとは、キサマら、良い度胸だな。

   勿論、覚悟は出来ているのだろうな・・・・?」(プスプス)

 

 

スゥ

ファルナ  「「「 ひいぃぃーーーーっ!!!! 」」」

ピカチュウ

 

 


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