まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report2-11 [どろぼうポケモン]

Report 2-11. [どろぼうポケモン]

 

 

ヒロと別れたその後。

相性のお陰で逆転勝利を収めることが出来た二人だったが、スゥはファルナの体に残る毒を心配していた。

 

スゥ「ファルナ、毒は大丈夫?まだ苦しい所はない?」

 

ファルナ「うーん・・・さっきまで腕が痺れてたんだけど、もう大丈夫だよ!」

 

バトルの最中に投与した[どくけし]が今になって完全に効いたのか、確かにファルナの顔色を見ても健康に見えた。

ファルナの返事と様子にスゥはとりあえず一安心した。

 

スゥ「良かった。歩いてついてこれる?」

 

ファルナ「平気平気!

   また手つないで行こう♪」

   あ、その前にリボン!」

 

スゥ「結んであげないとね。後ろ向いて。」

 

ファルナがくるっとスゥに背中を向ける。

髪の先で小さな炎がチロチロとゆらめいていた。

 

スゥ「あれ、まだ火が残ってるよ?ファルナ。」

 

ファルナ「え?あっ!そうだった。

   待ってね。今消すから」

 

スゥ「・・・ちょっと待って!」

 

ファルナ「?」

 

何を思ったのか、スゥは目の前で揺れる火に手を近づけた。

その行動を横目に見ていたファルナが慌てて避けた。

 

ファルナ「ちょ、ちょっとスゥ!何してるの!?あぶないよ!」

 

スゥ「い、いや。火を触ってみようかなって。」

 

ファルナ「だめだよ!スゥが火傷しちゃう!」

 

スゥ「この前、ファルナが『触っても熱くなかった』って言ってたのが気になってたんだ。

  ・・・ちょっとだけ、ダメ?」

 

ファルナ「えぅ・・・だけど、スゥにはそうじゃないかもしれないから・・・」

 

スゥ「熱かったらすぐに手を退けるよ。ちょっとだけ!」

 

ファルナ「う~・・・そんなに言うんだったら、少しだけだよ?」

 

そう言って渋々ファルナは長い後髪の先を前にたぐり、

そこに灯る炎をスゥの前に差し出した。

 

スゥ「じゃあ、そーっと。」

 

ファルナ「気をつけてね。」

 

炎の主であるファルナには『熱さ』を感じないらしい炎。

それに触れたスゥは・・・

 

スゥ「やっぱり、熱くない。」

 

ファルナ「ほ、本当に?ウソついてないよね?」

 

スゥ「ウソだったらこんなに長く触ってられないよ。

  ・・・不思議な火だな。」

 

ファルナ「さっきビードルにはちゃんと効いてたんだけどなぁ。」

 

スゥ「もしかしたら、このままリボン結べるんじゃないかな?

  むしろ火を纏ったままでも普通に生活ができるとか。

  ほら、俺の服も燃えてないし。」

 

ファルナ「ほんとだ。燃えてない・・・」

 

スゥ「これなら安心して結べるな。

  ・・・(キュッ)

  な、やっぱり大丈夫だ。」

 

ファルナ「私が言うのもおかしいけど、変な炎だね~・・・。

   今度からリボン結んだまま戦えるね!すごく便利♪」

 

スゥ「見た目は普通の炎なんだけどなー。

  でも・・・思ってみたら今までもファルナの服は焼けてないしね。

  リボンだって燃えないのは当たり前なのかも。」

 

ファルナ「ふ、服が焼け・・・って!

   も~、何考えてるの!スゥのえっち!」

 

スゥ「え?

  ・・・あ!?

  違う、違うって!そんなつもりで言ったんじゃない!

  ファルナこそ何考えてるんだ!」

 

ファルナが顔を真っ赤にして胸を隠す格好でスゥを睨んだ。

 

ファルナ「・・・むぅ。

   スゥがずっとそんな事考えてたなんて、ちょっとショックだよ・・・」

 

スゥ「だ、だから違うって!理屈で考えたらそうだろ!?

  だいたい、『ずっと』じゃなくて『今ちょっと』だけ・・・」

 

ファルナ「『今ちょっと』は考えたの?」

 

スゥ「そりゃファルナがいきなり変な事を言うから・・・

  って、そうじゃなくて!」

 

ファルナ「(ジトーッ)」

 

スゥ「そんな目で見るな~!」

 

スゥは冷や汗を出してワタワタと、身振り手振りでファルナに弁解をしていた。

 

ファルナ「・・・ぷっ、あはははっ!

   冗談だよスゥ。分かってる♪

   森に入る前にオバケの事でからかわれたお返しだよ~。」

 

スゥ「じょ、冗談・・・?

  ファルナ、今のは本気で焦ったぞ!」

 

ファルナ「えへへ~♪お母さんとロゼちゃんが『スゥをからかうと楽しい』って言ってたのが、ちょっと分かった♪」

 

スゥ「~っ!

  母さん、いつの間にファルナにまでそんな事吹き込んでたんだろ・・・。今度マサラに帰ったら文句言わないと!」

 

ファルナ「お母さんとロゼちゃんとお風呂に入ってた時にみんなでスゥの話してたんだよ。

   その時にね。」

 

スゥ「そういえば・・・、寝る前にロゼにからかわれたのもその所為か!

  まったく、母さん俺がいないところで好き勝手に言ってたんだろうな・・・。」

 

ファルナ「えへへ、ごめんね、スゥ♪

   そろそろ行こうよ!のんびりしすぎてると遅くなっちゃうよ!」

 

スゥ「はいはい。本当にオバケが出る時間になっちゃうかもしれないしな。」

 

ファルナ「!!や、やっぱりオバケが出るの!?

   ねぇ、早く行こうよ!」

 

ファルナはスゥに脅かされるやいなや、彼の手を引っ張って早足で歩きはじめた。

いきなり引っ張られて、転びそうになりながらスゥがついて行く。

 

 

 

               [トキワの森 順路・憩いの広場]

 

トキワの森・憩いの広場。

この場所だけは木が少なく、周囲よりも比較的明るい。

トレーナーや観光客達がこの長い森での一休みに利用している。

 

スゥ「『ここは憩いのひろば トキワシティ・・・3km ニビシティ・・・3km 』

  だって。

  ちょうど森の真ん中まで来たんだ。

  ここは木漏れ日がたくさん射してて明るいね。」

 

ファルナ「ふぁ~、結構歩いたね!

   虫ポケモンとも戦ったし、疲れちゃった・・・。」

 

広場に入る前の看板を見て、スゥ達はこの場所で休憩することにした。

ここにたどり着くまでにヒロの他に2戦、虫ポケモン使いのトレーナーと勝負することになったのだが、

相手が虫属性しか使ってこなかった為、相性で有利なファルナの[ひのこ]ですべて快勝だった。

 

 

スゥ「おつかれさま、ファルナ。[ひのこ]いっぱい使ったから、大変だったろ?

  ここでご飯食べてしっかり休もう!」

 

ファルナ「ご飯~♪[アップルパイ]ずっと楽しみだったの!」

 

スゥ「やっぱりリンゴが大好きなんだな。」

 

ファルナ「モモンの実もおいしかったけど、やっぱりリンゴが一番好き!」

 

スゥ「あはは、じゃあ、楽しみにしてたご飯にしよっか。」

 

この休憩所でスゥ達は昼食を取ることにした。昼食はトキワシティを発つ時に予め用意していた物。

座るのに丁度良い高さの切り株や丸太、薄暗いトキワの森の割にはよく入ってくる木漏れ日にホッと一息つく二人。

 

横倒しの丸太に並んで座り、バッグを後ろに置いてご飯を食べ始めた。

 

辺りを見渡すと、虫取りの少年・少女達も同じように休憩を取っている。

彼らの連れている虫ポケモン達は木の葉を美味しそうに食べていた。

 

スゥ「ポケモンって、種族で食べるものが違うんだな。当然と言ったら当然かもしれないけど。

  ファルナみたいに何でも食べる子ばかりじゃないんだ。」

 

ファルナ「むぐむぐっ・・・

   ん~♪」

 

スゥ「ファルナ、おいしい?」

 

ファルナ「~♪

   んいひぃ♪」

 

ファルナはアップルパイを頬張りながら満面の笑みで相槌を打つ。

 

スゥ「その顔見てたら俺のおにぎりも美味しく感じるな。モグモグ

  ・・・さて。(ゴソゴソ)」

 

スゥは自分の分のおにぎりを片手で食べながら、丸太の後ろに置いたバッグの中から何かを探していた。

 

スゥ「ちゃんと書いとかないと、またノンのヤツに怒られるからね。」

 

取り出したのはポケモン図鑑。

この間まですっかりデータを取る事を忘れていたスゥは、

早くもノンに大きな差をつけられて、やっと対抗意識が出てきたようだ。

 

図鑑には、これまでに見つけたポケモンの写真が自動的に記録されていた。

それぞれのポケモンに対して『外観』や『行動パターン等の特徴』を書き込む欄があり、スゥは分かった範囲で書き記そうとする。

 

スゥ「フシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメ、コラッタにポッポ、ピジョット、ビードル・・・あとキャタピー・・・と。」

 

ファルナ「もぐもぐ・・・コクン。美味しかった♪

   あ、図鑑だ!今から書くのー?」

 

ファルナはアップルパイを食べ終わり、指に残った甘さを名残惜しそうに舐めながら図鑑を覗き込んだ。

 

スゥ「うん。書ける事はまだ少ないけどね。書きやすい所から書いていくよ。

  今日まで見つけたポケモンについてはもう書いてあるから、あとはビードルとキャタピーについて書かないとな。」

 

ファルナ「私はどんなふうに書いたの~?スゥ、見せて♪

   

   ・・・あ、私の写真!

   やっぱり髪の炎の事を書いてるんだね。えーと・・・

   『戦闘時には髪に炎を纏い、その炎を投げて敵を攻撃する。また、鋭い爪でひっかくことも出来る。』

   へ~、なんだか図鑑っぽい!」

 

 

???「(ソーッ)

   ・・・

      (ササッ)」

 

そんな時、何者かがスゥのバッグに近づいていた。

バッグを丸太の後ろに置いたせいでスゥは死角で起こっていることに気付いていない。

気配に敏感なファルナも、図鑑に気を取られて気が付いていなかった。

 

スゥ「ありがとな。

  『っぽい』じゃなくて、図鑑だからね。苦手だけどそれなりに書かないと。

  ファルナがそう言ってくれるからやる気出てきた!」

 

ファルナ「頑張れ~、スゥ♪」

 

スゥ「ん!

  ビードルは・・・『頭に生えた角から[どくばり]を射出し、敵を襲う。毒は速効性で、相手の体を麻痺させる。』」

 

ファルナ「うんうん。もうあの[どくばり]は受けたくないよ。」

 

???「(ゴソゴソ)」

 

スゥ「ビードルについてはこんなもんかな。

  キャタピーは・・・

  『頭に触角を持つ。毒は持っておらず、粘性のある糸を触角から出して相手の動きを鈍らせる。木の葉を主な食料としている。』

  ・・・と。」

 

???「(ゴソゴソ・・・)」

 

ファルナ「キャタピーのあの糸、ダメージは全然無かったけれどネバネバしててちょっと気持ち悪かった・・・」

 

スゥ「キャタピーは[ひのこ]で一発だったけど、バトルが終わった後に糸を取るの大変だったね。」

 

ファルナ「結局[ひのこ]で糸を燃やしてキレイになったからいいけどね♪」

 

???「・・・!~♪

  (ヒョイヒョイヒョイ)」

 

 

スゥ「よし!今日見つけたポケモンはこれだけだな。おしまいっ!(パタン)

  さて。おにぎりあと3つ有ったね。

  ファルナ、1つあげ・・・」

 

???「(ゴソゴソゴソ)

   ~♪」

  

スゥ「る・・・

  ・・・!!?」

 

???「

      あ。」

 

 

スゥは図鑑をバッグにしまい、残りのおにぎりを取り出そうと後ろを振り向いた。

 

その時にようやく、知らないポケモンの男の子がバッグを漁っている事に気が付いた。

泥棒はスゥ達に気付かれた事に驚き、長い耳を逆立て目を丸くしていた。

 

ファルナ「!!

   だ、誰?この子・・・

   あっ、おにぎり!」

 

スゥ「あーっ!3つとも全部取ってる!こら、返せ!」

 

???「やーだよっ♪」(ピョンッ)

 

            ゲシッ

 

スゥ「あでっ!」

 

???「おまけにコレももーらい!」

 

スゥ「あっ!図鑑!こら、それだけはダメだ!」

 

???「えー、返して欲しい?

   だったらここまでおーいで♪べーっ!」

 

そのポケモンは小さな体で身軽に、スゥの頭を踏み台にして前に飛び出た。

 

前髪がくしゃっとした黄色い毛、同じく黄色く長い耳を顔の横で垂らし、赤いほっぺた、

雷のような大きな尻尾を持ったポケモン。

黄色い服のポケットにおにぎりをぎゅうぎゅうに詰めている。

それだけでなく、困った事にポケモン図鑑まで盗られてしまった。

 

その全身黄色いポケモンがスゥに舌を出して挑発している。

怖いもの知らずなのか、スゥ達に見つかっても余裕をかまして挑発しているようだ。

 

???「ばいばーい♪」(ピョンピョン)

 

ファルナ「図鑑取られちゃった!大変!!」

 

スゥ「あっ!逃げた!

  追っかけよう、ファルナ!」

 

ファルナ「おっけー!」

 

黄色いポケモンは森の奥へ逃げていった。

仕方なくスゥ達は『順路』から逸れて、そのドロボウを追いかけていった。

 

 

【挿絵表示】

 

 


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