まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report2-8 [追い風]

Report2-9. [追い風]

 

     早朝

               [ポケモンセンター入口前]

 

ノン「んー、良い天気だな。」

 

アクア「朝はひんやりしてて気持ち良いですね。」

 

ノン「アクアが早起きなタイプで良かった。俺はこのぐらいの時間に起きるのが好きだからな。

  早起きは気分がいい。」

 

アクア「研究所の3人の中では一番早起きだったんですよ。

  大抵、次にファルナちゃん、ずっと遅れてロゼちゃんが起きてくるんです。」

 

ノン「ロゼ・・・ああ、そういえばあのフシギダネの事だったな。昨日スゥが言ってた。」

 

アクア「ロゼちゃんも素敵な名前をつけてもらって、大事にされてるようで安心しました。

  ロゼちゃんって結構寂しがり屋ですから。」

 

ノン「そうなのか。なら、時々は手紙でも書いてあげたら喜ぶんじゃないか?」

 

アクア「そうですね。近いうちに書いてあげたいです。」

 

アクア「さあ、それでは行きましょう、ノンさん。」

 

ノン「ああ。モンスターボールもすぐに使えるように準備したし、行くか!」

 

 

 

               [少し戻って、101番道路]

 

ノン「この辺りで探すか。」

 

アクア「またここに戻ってきましたね。」

 

ノン「スゥ達はたぶんトキワの森の方角へ行くだろうな。少し遅れは取るけど、今はこっちの用事が優先だ。

  あ!いたぞ。アクア、静かにな・・・」

 

 

               ガサガサ

 

ポッポ「よいしょっ・・・これでお父さんの分のモモンの実もあるかな。」

 

ノンの視界にいる一人のポッポは腕の羽に一杯のモモンの実を抱えていた。

実を集めるのに夢中でノン達には全く気付いていない様子だった。

 

               コロッ

 

ポッポ「あ、一つ落っこちちゃった。よいしょ。」

 

               コロッ

 

ポッポ「あ、今度はこっちが。よいしょ。」

 

               コロッ

 

ポッポ「も~っ!また落ちた!よいしょっ!」

 

               コロッ

 

ポッポ「~~~~!」

 

ノン「(何やってんだ、あのポッポ・・・)」

 

アクア「(おかげで全然気付かれてませんね。)」

 

ノン「チャンス・・・。当たれっ!」

 

               ヒュッ!

 

ノンは木の実に気を取られているポッポに向かってモンスターボールを投げた。

 

ポッポ「ふー、やれやれ・・・えっ?

   きゃっ!」

 

               ポカッ!

           コロコロコロコロコロコロ

 

ポッポ「あー、せっかく集めたのに~!いったい何?

   ・・・この玉が当たったの?

   あれ?この玉って確か・・・」

 

ノンの投げたボールはポッポ・・・・が抱えていた木の実に命中した。

 

アクア「意外に不器用なんですね、ノンさん。」

 

ノン「む・・・ほっとけ。」

 

ノン「これじゃ不意打ちは無理だな。

  行くぞ、アクア!」

 

アクア「はい!」

 

               ガサッ

 

ポッポ「!!

   ひっ、人間!」

 

ノン「アクア、[あわ]であのポッポを囲むんだ!」

 

アクア「了解です。」

 

アクアが投げた水の塊はポッポの頭上で[泡]に分かれ、そのポッポと取り囲むように宙に[泡]が浮いた。

 

ポッポ「に、逃げないと・・・!」バサッ

 

               パチンッ!

 

ポッポ「きゃっ!」

 

ポッポは飛び立って逃げようとしたが、宙に浮かんだ泡にぶつかって逃げられなかった。

 

ノン「今度は当たってくれよ。いけっ!」

 

               ヒュッ

 

ポッポ「(あ、あれに当たったらダメな気がする!

    でも、周りが[あわ]だらけだし・・・どうしよう!)」

 

 

?「ふんっ!」

             

            ゴオオオォォォッ!!

 

ノン「!?

  う、うわっ!!何だ、たつまき!?」

 

アクア「くぅっ・・・吹き飛ばされそうです・・・!」

 

突然巻き起こった大きな旋風がポッポの周りの泡とモンスターボールを全てまとめて巻き上げた。

 

ポッポ「お、お父さん!」

 

ピジョット「ふん・・・、全くこれだから目を離せんな。」

 

ノン「なっ、ピジョット!?よりによって・・・!」

 

ピジョット「ほう。『進化系』をご存知なのだな。」

 

アクア「ノンさん・・・この大きい人、強いんですか・・・?」

 

ノン「残念ながら、まず勝てそうにない。マズいな・・・」

 

ポッポ「お父さーん!」

 

ピジョット「ケガは無かったか?『ツムジ』。」

 

ツムジ「うん!大丈夫!」

 

ノン「・・・アクア、ボールに戻っておけ。」

 

アクア「えっ、どうしてですか?」

 

ノン「逃げる。ボールの中なら安全だから、入っておくんだ。」

 

アクア「それって・・・」

 

ノン「勝ち目が無いのにお前を出すわけにはいかない。俺がどうにか逃げ切る。」

 

アクア「だ、ダメです!もしもノンさんがさっきみたいな竜巻に飲み込まれたら、ケガじゃ済みません!」

 

トルネ「うむ。間違いなく、人間ならあの世行きだな。」

 

アクア「っ!」

 

ノン「大丈夫だ、逃げ切る!

  戻っておけアクア。」

 

               ボンッ

 

アクア「ノンさん!」

 

ノン「(さて、トキワまで逃げ切れるかな・・・?)」

 

               ダッ

 

ノンはアクアをボールに入れ、その場から逃げ出した。

 

トルネ「・・・

  (あの若者、少し試してみるか・・・?)」

 

トルネ「ツムジ、私に掴まりなさい。」

 

ツムジ「え、どうするの?お父さん。」

 

トルネ「追う。」

 

ツムジ「ええっ!?もういいでしょ?

   お父さんが助けてくれたから、もう大丈夫だよ!あの人も逃げていったし。」

 

トルネ「いいから掴まっておれ。」

 

ツムジ「は、はい・・・」ギュッ

 

トルネ「ふんっ」ダッ

            

               ビュウッ!

 

トルネはノンを追って飛び立った。

強烈なスピードで飛ぶトルネに、ノンはすぐに追いつかれてしまった。

 

ノン「くっ・・・やっぱり追いかけて来たか!」

 

               ブオオォッ

 

ノン「うわっ!」

 

トルネがノンの上空を飛び去るだけで強い風が吹き、ノンの足を止める。

 

               ビュオオッ

 

ノン「っ!」フワッ

 

               ドサッ!!

 

ノン「くうっ!!」

 

アクア「ノンさん!」

 

トルネが起こした風でノンの体は浮き上がり、地面に落とされた。

 

ツムジ「!!お父さん、もういいよ!どうしちゃったの!?」

 

トルネ「・・・」

 

トルネ「はっ!」

 

               ゴオオオォォッ!

 

ノン「・・・チッ!」

 

トルネはノンを中心に、大きな竜巻を巻き起こした。

その竜巻の中心が徐々に小さくなっていく。

 

ノン「まいったな…

  ピジョット相手じゃ逃げられる訳無かったか…」

 

アクア「ノンさん!!私がどうにかします!出してください!」

 

アクアがボールの中から訴える。

 

ノン「いや、お前でもこれはどうしようもない。そのままボールに入ってろ。」

 

アクア「嫌です!ノンさんを見殺しにできません!!」

 

トルネ「・・・」

 

ツムジ「お父さん!

   こんな竜巻に巻き込んだら、あの人死んじゃうよ!!

   こんなのやりすぎだよ!」

 

トルネ「さて、度胸を見せて頂こうか!」

 

いよいよノンが動ける場所が無いほどに竜巻の中心は狭くなっていた。

 

               フワッ

 

ノン「!!

  うわあああぁっ!!」

 

アクア「ノンさん!!」

 

ノンの体が竜巻に飲み込まれ、空高く吹き飛ばされてしまった。

地面は遥か下方。落ちた衝撃で生きている人間はまず居ないだろう。

 

ノン「・・・!」グッ

 

正に手も足も出ない状況に、ノンは目を閉じて覚悟をした

・・・が、いつまで経っても体が落下する感覚が来ない。

 

ノン「あ、あれ・・・?」

 

ノンの体は竜巻で上空に支えられていた。

それをトルネが捕まえ、地面までゆっくり下ろしてやった。

 

               ストッ

 

ノン「・・・どういうつもりだ?」

 

ツムジ「・・・お父さん?」

 

トルネ「お主は大したものだ。」

 

ノン・アクア「・・・

    ・・・は?」

 

ノンとアクアは、トルネの態度に呆気に取られた。

このポケモンはポッポを捕まえようとした自分を退治しようとしていたのではないのか。

助けられた理由が全く理解できないでいた。

 

トルネ「若者、名前はなんと言う?」

 

ノン「・・・ノンだ。」

 

トルネ「ノン殿か。御主なら、ツムジを任せても良さそうだ。」

 

ノン・アクア・ツムジ「「「え?」」」

 

トルネ「ノン殿、最後の最後まで連れのポケモンを出さなかったな。

  我が身を省みず、守ったのであろう?」

 

ノン「試してたのか…」

 

トルネ「私の娘を預けるのに信用に足る人間かをな。」

 

ノン「まったく、手荒いな。本当に殺されるかと思った。」

 

トルネ「少しやりすぎたかもしれぬが、どうか許されよ。」

 

ツムジ「あ、あの?お父さん?」

 

急に話に巻き込まれ、薄々状況を理解しはじめたツムジが口を開いた。

 

トルネ「ツムジ。この前の件以来、旅が羨ましいのであろう?」

 

ツムジ「えっ!?

   ・・・どうして分かるの・・・?」

 

トルネ「ふふ、親ならばその位の事は分かる。

  どうだ?ノン殿とならば、旅に出る事を許してやるのだが。」

 

ツムジ「えっ!いいの!?」

 

ノン「ツムジ、だよな?」

 

ツムジ「は、はい!」

 

               ボンッ

 

ノン「この子が今の俺のパートナーで、ゼニガメのアクアだ。

  俺はポケモン図鑑を完成させるため、

  それとポケモンリーグを制覇するためにこれから全国を旅する。

  その為の二人目のポケモンを探していたんだけど、ツムジさえ良ければ、俺達と行かないか?」

 

アクア「私も歓迎します。ツムジちゃん!」

 

ツムジ「・・・あ・・・

   あの、・・・わたしも、ついて行っていいの?」

 

ノン「もちろん。」

 

ツムジ「・・・あはっ♪

   あの!わたし、ポッポのツムジ!これからよろしくおねがいします!」

 

ノン「よろしくな!ツムジ。俺はノンだ。」

 

アクア「ゼニガメのアクアです。よろしくおねがいしますね、ツムジちゃん。」

 

ツムジ「うん!よろしく、アクアお姉ちゃん!」

 

アクア「私が『お姉ちゃん』ですか。

   ちょっと恥ずかしいですね。」

 

こうして快く、アクア一人きりだったノンのパーティーに

二人目の仲間としてツムジが迎え入れられた。

 

 

トルネ「話がついたようですな。

  ・・・ノン殿、アクア殿、ツムジをどうか宜しく。」

 

ノン「わかりました。えーと・・・」

 

トルネ「私の名はトルネ。ピジョットのトルネと申す。」

 

ノン「任されました、トルネさん。」

 

ノン「それじゃあ、ツムジ。トルネさんの目の前でするのも気が引けるようなんだが・・・

  まずはモンスターボールで一度捕まってくれるか?」

 

ツムジ「アクアお姉ちゃんも入ってるやつだよね?

   わかった、怖いけどいいよ!」

 

ノン「じゃあ、少し失礼。」

 

               ボンッ

 

ノンはツムジの頭にモンスターボールを軽く当てた。

ツムジの体が赤い光のシルエットとなりモンスターボールに収納され、トレーナーのポケモンである証明、トレーナーIDが記録された。

 

ノン「・・・これでOK。出てきな。」

 

               ボンッ

 

ツムジ「あれ?もう終わったんだ。」

 

ノン「抵抗が無ければこんなに呆気ない作業なんだな…

  これからよろしくな、ツムジ!」

 

ツムジ「はいっ!」

 

トルネ「道中気をつけるのだぞ、ツムジ。

   次に会う時、しかと成長した姿を見せてくれ。」

 

ツムジ「うん!行ってきます、お父さん!」

 

 

ツムジを新たに仲間に加え、ノン達は再びトキワシティへと向かっていった。

 

               

               [101番道路 トキワシティ前]

 

ノン「さて、戻ってきたな。昼の3時か・・・。

  あいつはもう大分先に進んだかな・・・?」

 

アクア「今からトキワの先に進むと今日は確実に野宿ですよね・・・?

  どうしますかノンさん?」

 

ノン「そうだな。

  だけど、明日出直すにしては時間がずいぶん余っている。やっぱり先に進もう。

  あまりあいつに差を付けられたくもないしな。」

 

アクア「わかりました。それじゃあ、いきましょう。」

 

ツムジ「ねぇノンお兄ちゃん、『あいつ』って誰?」

 

ノン「ん?ああ、『あいつ』っていうのは・・・わぷっ」

 

アクア「きゃっ」

 

ツムジ「んぅーっ!」

 

               ビュウゥゥッ・・・!

 

ノン達に一吹き、強い風が吹いた。

 

 

ノン「今の風は強かったな・・・」

 

アクア「今日はずっと風が穏やかなのに、珍しいですね。」

 

ノン「・・・

  ああ、なるほど。」

 

アクア・ツムジ「『なるほど』?」

 

ノン「ツムジ、今の『追い風』、しっかり受けとめたか?」

 

ツムジ「え?受けとめるって・・・?

   ・・・あ。」

 

アクア「・・・  

  なるほど、『追い風』ですか!」

 

ツムジ「お父さん・・・

   いってきます!」

 

トルネ「頼みましたぞ、ノン殿、アクア殿。」

 

 


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