まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report2-6 [トキワシティ観光]

[Report2-6 トキワシティ観光]

 

マサラからの道中、コラッタ達に襲われ足止めを食らっていたスゥ達だが、

トルネとツムジに送り届けて貰えた事で意外に早く、昼過ぎにはトキワシティに着くことが出来た。

 

スゥ「ここがトキワシティか~!マサラと違ってたくさん建物があるなー!」

 

ファルナ「沢山人がいるよ!ポケモンと一緒に歩いてる人もいる!

   ねぇ、スゥ。これからどうするの?」

 

スゥ「そうだな、まずポケモンセンターを探そう。

  無料でポケモンを元気にしてくれるんだって。それとトレーナーが泊まれる所もあるらしい。

  そこで今日は泊まろう。

  部屋が取れた後で時間があったら町を見回ってみよっか。」

 

ファルナ「やったー!早くいろんな所に行ってみたい!」

 

スゥ「もう診てもらう必要なさそうなくらい元気そうだね。」

 

ファルナ「ツムジちゃんも言ってたでしょ?ポケモンは回復が早いって!」

 

スゥ「本当にその回復力は羨ましいな。

  そういえば、ノン達はもうトキワシティに着いてるのかな・・・?」

 

ファルナ「二人ともコラッタ達に襲われなかったか心配だね・・・。」

 

スゥ「まあノンなら大丈夫だろ、多分。

  もし着いてたらバッタリ会うかもね!」

 

それからスゥは町の人にポケモンセンターの位置を尋ねることにした。

 

スゥ「あ!あれだ、ポケモンセンター!

  赤と白の建物でよく目立つからすぐに分かるよ、と言われた通りだね。」

 

ファルナ「屋根の模様がモンスターボールだ!」

 

スゥ「わ、自動ドア!すごいなー、博士の研究所と同じだ!」

 

スゥ達は見るもの全部が珍しいように、見たものを一々口に出す。

自動ドアなんていう物はトキワシティの人々にとっては気に留める物ではないが、

田舎町から来たスゥにはそれすら"都市"を感じさせる要素であった。

 

スゥ「すみません。」

 

受付「こんにちは。どのようなご用件でしょうか?」

 

スゥ「ええっと、この子の体調を診てもらえませんか?

  一応、元気に見えるんですけどマサラタウンから歩いて来て、途中で野生のポケモンとも戦ったので。」

 

受付「あらあら、マサラからずっと歩いていらっしゃったんですか。それはお疲れ様でした。

   承りました。こちらの番号札で呼ばれるまで待合所でお待ちください。」

 

スゥ「はい!」

 

               [待合所]

 

ファルナ「スゥ、私はもう元気だから大丈夫なのに。」

 

スゥ「そう思うけどな、[火の粉]を使った後に倒れちゃっただろ?一応診てもらっておこうよ。」

 

ファルナ「んぅー・・・」

 

スゥ「あっ、ひょっとしてお医者さんが怖いとか?」

 

ファルナ「むぅっ、違うもん!」

 

スゥ「あははっ」

 

アナウンス「番号札7番でお待ちのスゥ様~、順番になりましたので103号室まで・・・」

 

スゥ「お、呼ばれたな。行こう、ファルナ。」

 

ファルナ「は~い・・・」

 

 

               [診察室]

 

スゥ「よろしくおねがいします。」

 

医者「今日はどうされましたか?」

 

スゥはファルナが[火の粉]を使った後に倒れたことを説明した。

 

医者「ふむ。新しい技を使うというのは、

   慣れない間はポケモンの精神力に大きな負担がかかります。

   まあ、今回は単純に動き疲れただけでしょうね。

   目立つ外傷は見られませんし、問題はないでしょう。」

 

スゥ「あのー、これからもファルナは火を使っても大丈夫なんですか?」

 

医者「慣れないうちはあまり多用しない方がいいと思います。

   炎や水、電気といった技はポケモンの『精神力』を使って繰り出していると言われているので・・・

   使える回数はファルナちゃんの精神力次第ですが。」

 

スゥ「へぇー、『精神力』・・・」

 

医者「精神力と体力は直結してるので、しっかりファルナちゃんを労ってあげて下さい。

   パートナーの限界を察してあげる事もトレーナーの大事な役目ですよ。」

 

スゥ「は、はい。これからは気をつけます・・・」

 

スゥはファルナに無理をさせていたのだと思い、少しうなだれる。

 

ファルナ「スゥ、大丈夫だよ。

   もっとたくさん練習したらきっと、もっと何回も炎が使えるようになるよ。私頑張るから!」

 

医者「見た所、ファルナちゃんはスゥさんを信用してますし、バトルでのモチベーションも高い事でしょう。

   トレーナーの持つポケモンというのは、総じて野生よりも強いのですが、

   それは『トレーナーとの信頼』が『精神力』に大きく作用しているからなんです。

 

   ・・・とまあ、スゥさんは駆け出しのトレーナーさんの様なので長々と説明しましたが、診察は以上です。お大事に。

   これからの旅も気をつけて。」

 

スゥ「色々と教えてくれてありがとうございました!」

 

ファルナ「ありがとうございましたー!」

 

診察が終わり、ファルナはほっと胸を撫でおろした。

部屋から出て彼女はひとり言をつぶやいていた。

 

ファルナ「注射とかされなくてよかったー・・・」

 

スゥ「なんだファルナ、やっぱり怖かったんじゃないか。」

 

ファルナ「うぅ・・・スゥの意地悪。スゥだってお医者さんに診られる時は怖いでしょ?」

 

スゥ「ん・・・ま、まあ確かに。とりあえず何もなくて良かったな!」

 

ファルナ「うん!

   それじゃあ、早速遊びに行こっ!

・・・って言いたいんだけど、その前に体を洗いたいな!」

 

スゥ「俺もだよ。

  さっきの順番待ちの間に今晩の部屋も確保したし、

  早速お風呂を使わせてもらおう!」

 

ファルナ「うん!」

 

スゥ達はポケモンセンター宿泊設備の浴場でそれぞれ野宿で溜まった

汚れと疲れを洗い流した。

二人ともさっぱりとした様子で待合室で合流し、トキワの街へと繰り出した。

先に浴場から上がったスゥは、待合室でタウンマップを見つけ、

これからの度に必要な物資を調達するためにフレンドリーショップを目指して歩いていた。

 

スゥ「あ、あった。フレンドリーショップって書いてある!」

 

ファルナ「フレンドリーショップ?」

 

スゥ「トレーナーの使う道具が売ってるお店なんだって。これから必要になりそうな物を買っておかないとね。」

 

店員「いらっしゃいませー。」

 

スゥ「えーと、どんなのが売ってるんだろ。

  なになに、

  [きずぐすり]

  [どくけし]

  [まひなおし]

  [やけどなおし]

  [ねむけざまし]

  [モンスターボール]・・・

  

  モンスターボールは確か、博士からいくつか貰ってたから…

  今は要らないかな。

  で、きずぐすりと、他の薬は、と。

  ・・・すみません、きずぐすり3つ、どくけし・まひなおし・やけどなおし・ねむけざましを1つずつください。」

 

店員「ありがとうございます。お会計全部で2050円です。」

 

スゥ達は店の外に出て、またトキワシティ街路を歩き回りはじめた。

 

スゥ「うーん、結構お金使ったな。ポケモンの道具って高いんだなー・・・。」

 

ファルナ「『お金』ってなに?さっきスゥ何か出してたよね。あれのこと?」

 

スゥ「そう、さっき出したやつ。

  お金っていうのは、えーと・・・

  人間たちが何か欲しいものを買うときに交換するものだよ。

  普通の人は仕事で働いてお金を稼ぐんだけど、トレーナーだったらポケモンバトルで勝負に勝って、

  相手から賞金を貰うんだ。」

 

ファルナ「へぇー。じゃあ、お金がないと欲しいものが買えないんだね。」

 

スゥ「そういう事。これからはバトルで勝ってお金を集めないとね。」

 

ファルナ「まかせてよっ!たくさん勝ってたくさんお金集めよっ♪

   ・・・あ、そうしたら私も何か買って欲しいなー・・・。」

 

スゥ「もちろん。何か欲しいものがあったら言ってよ。」

 

ファルナ「うんっ!」

 

必要な買い物が終わり、フレンドリーショップを後にするスゥ達。

それからは特に予定の無かった彼らは、日が暮れるまで

トキワシティ観光を楽しむことにした。

街というにふさわしく、トレーナー用品の店だけではなく

様々な外食店、雑貨屋、スーパー等が立ち並んでいる。

その中、ファルナは服屋のショーウィンドウを見て足を止めた。

 

スゥ「どうしたの?ファルナ。何か見つけたかい?」

 

ファルナ「・・・ねえ、スゥ。このお人形さんが着てる服可愛いね。」

 

スゥ「うん?」

 

そこには子供の背丈でフリルの付いた赤いワンピース、

そして長いカツラには薄い桃色のリボンを結んだマネキンが立っていた。

 

スゥ「あ、本当だな。この服いくらするんだろう。

  えーと・・・?さっ、30000!?」

 

スゥはウィンドウ越しにマネキンの足元にある値札を確かめた。

子供用の服とはいえ、それなりに高級な部類の服のようだ。

値札を見たスゥは少し驚いた後、残念そうな顔でファルナに答える。

 

スゥ「ごめんファルナ。これは買ってあげられないや。

  お金をほとんど全部使っちゃう。」

 

ファルナ「う、ううん!そんなにお金がいるなら無理だよね。

   ねぇ、あの髪飾りもやっぱり高いのかな?」

 

スゥ「えーと、あのリボンの事だよな?

  あれの値段書いてるかな。

  ・・・うーん、見つからないな。」

 

店員「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」

 

スゥ達が店先のウィンドウに興味を示しているのを見つけた店員が応対してきた。

 

スゥ「あ、いや。このマネキンの着けてるリボンの値段って

  いくらですか?」

 

店員「はい。そちらでしたら、3000円で販売しております。」

 

スゥ「い、意外に高いんだ・・・

  でも、買えないことはないな。

  ファルナ、このリボン欲しいのか?」

 

ファルナ「あ、えーと…」

 

ファルナはスゥに気を使うように言葉を濁した。

しかし少し未練があるのか、じっとリボンを見つめている。

その様子を見て、店員はスゥに提案した。

 

店員「ちょうどこれから棚卸しの時期なんです。

   もし、こちらの展示品で宜しければ半額の1500円でどうですか?」

 

スゥ「え、1500円ですか!?」

 

店員「ふふっ。折角来て頂いたので。

   是非そちらの可愛いお嬢さんにプレゼントしてあげて下さい。」

 

スゥ「ファルナ、このリボン買おうか!」

 

ファルナ「いいの?やったーっ!」

 

ファルナは余程このリボンを気に入っていたようだ。

買ってもらえる事になり両手を上げて喜んでいた。

 

店員「はいっ、お買い上げありがとうございました♪ 早速着けてみますか?」

 

スゥ「ファルナ、どうする?」

 

ファルナ「着けてみたい♪」

 

店員はファルナの長い髪を首の後ろで一本に束ねて結んでやった。

 

店員「ふふ、よくお似合いですよ。」

 

ファルナ「ねぇねぇ、どう?スゥ。

   スゥみたいに後ろ髪結んでもらったよ~♪」

 

ファルナはその場でくるっと一回りして、

髪を結えたのがスゥから見えやすいように振り返りながら彼を見る。

それを見たスゥは、払ったお金の見返りを十分以上に感じていた。

 

スゥ「よく似合ってる!

  大事にしてくれよ、ファルナ。」

 

ファルナ「えへへ♪ありがとう!

   絶対に大事にする!」

 

店員「ありがとうございましたー。」

 

ファルナは上機嫌でスゥと店を後にした。

店員も満足気な様子で彼らを見送っていた。

その後は食品店で適当な夕飯を買い、ポケモンセンターへと戻る頃には

すっかり日も沈み、街に明かりが灯っていた。

 

 

  [ポケモンセンター トレーナー宿泊部屋]

 

スゥ達は確保していたポケモンセンターの宿泊部屋で寝る準備をしていた。

スゥがベッドに寝転がっている隣で、ファルナは嬉しそうな表情を浮かべながら

丁寧にリボンを折りたたんでいる。

 

ファルナ「ねぇ、スゥ。

   今日はありがとう。」

 

スゥ「いや、こっちこそありがとうね。

  やっぱりマサラみたいな田舎と違ってトキワシティは色々あったね。

  見るものが沢山あって面白かった~!」

 

ファルナ「うん!街に来るまでにコラッタ達に襲われて大変だったけど…

   リボンをスゥから貰って、そんな事どうでも良くなっちゃった!」

 

スゥ「俺もファルナが嬉しそうにしてるとそう思えるよ。

  ところで、結局ノンとは会わなかったね。」

 

ファルナ「うーん、広い街だし偶然会うのは無理なのかな?

   アクアちゃんは元気にしてるかな。」

 

スゥ「どうしてるか気になるね。

  …あっ!トレーナーがいそうな場所に行けば会えるかも。」

 

ファルナ「えっ、どこに行くの?」

 

スゥ「ポケモンジムだよ。タウンマップに書いてたんだ。

  また明日行こう。

  ・・・それにしても、もう炎が使えるようになっちゃったな。

  昨日までずっと怖がってたのに、早速今日使えるようになるとは流石に思ってなかったよ。」

 

ファルナ「私もだよ。

   でもね、やっぱりまだ火は怖いな…。

   使った時は夢中で、怖いって思う余裕が無かったけれど。」

 

スゥ「そうなのか。だけど、火の粉を使ってるファルナは格好良かった!」

 

ファルナ「えへへ、ありがと♪

   それとね、不思議なんだけど

   あの炎は私は触っても熱くなかったの。」

 

スゥ「コラッタ達がみんな熱がってたのに?

  不思議だな…。

  そうだ!明日はバトルの練習しようか!

  この街のトレーナーと戦ってみよう!」

 

ファルナ「そうだね!いつでも炎が使えないとスゥを守ってあげられないし!」

 

スゥ「俺ももっと上手く指示が出せようにならないとな。

  そうと決まれば、明日に備えて今日はもう寝よう。

  おやすみ、ファルナ。

  今日もおつかれさま。助けられたよ。」

 

ファルナ「スゥもしっかり休んでね。

   ・・・コラッタ達から私をかばってくれたの、嬉しかったよ。

   でも、もう無理はしないで。スゥが襲われてるのを見てるのは辛いよ・・・。」

 

スゥ「んー…。考えとくね。」

 

ファルナ「えぅ…絶対だよ!」

 

スゥ「うん、絶対。」

 

ポケモン相手に立ち向かうという無理はしないで欲しいというファルナの願い。

スゥはしっかりと聞いてるのか、そうでないのか…約束はしたものの、

また同じ状況になれば、彼はきっと同じ行動をするのだろうとファルナは思っていた。

だからこそ、そんな状況に陥らないよう、力を付けなければ…

ファルナがそんな事を考えているうちにスゥの寝息が聞こえてきた。

 

彼の頬を指でつつくが、早くも深い眠りに入っているようで反応がない。

寝顔を見ながら、ファルナは密かに思う。

 

ファルナ「スゥ…スゥが思ってるよりもポケモンと人間って力が違うんだよ。

   これからたくさん私を鍛えてね。

   スゥを守れるように、私が強くなるからね。」

 

 


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