まっしろレポートとふたつの炎   作:アリィ

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Report2-5 [進化]

[Report2-5 進化]

 

 

スゥ「おつかれさま。少し我慢してボールに入ってて。今からトキワまで行くからな!」

 

ファルナ「で、でもまたスゥが襲われたら・・・それにスゥ、ボロボロだよ?スゥもどこかに隠れて休んでよ。」

 

スゥ「さっきのファルナの炎見た後じゃあ誰も襲ってこないって。心配ないよ。

  歩くくらいだったら大丈夫だから。」

 

ファルナ「うん・・・。じゃあ、少し休んでおくね。もし襲われたらすぐに私を出してね。」

 

スゥ「わかった、その時は任せるよ。」

 

それから少しして・・・

 

?「あ、スゥお兄ちゃーん!」

 

スゥ「・・・?今、誰かに呼ばれた?」

 

スゥは辺りを見渡すが、誰もいない。

 

?「上だよ、上!」

 

スゥ「ん?」

 

スゥは言われるまま空を見上げた。そこには逆光でよく分からないが小さな人影のようなものが。

しかし眩しさに耐えられずに目を閉じてしまった。

 

スゥ「誰だよ?眩しくて分からないんだ!」

 

ファルナ「あ!スゥ、もしかして・・・。」

 

その人影がスゥの前に降りてくる。

 

?「もーっ、分かってよー。ツムジだよ!」

 

スゥ「あっ、ツムジ!もうケガは治ったのか?」

 

ツムジ「うん!お兄ちゃんのおかげですぐに治っちゃった!

   ポケモンは人間より早く傷が治るんだよ。

   ・・・今度は逆にお兄ちゃんがボロボロだけど、いったいどうしたの!?」

 

スゥ「あ、ああ。さっきコラッタ達にやられちゃって・・・。

  ファルナが全員追っ払ってくれたから助かったけどね。」

 

ツムジ「!!あの人達、お兄ちゃん達まで・・・!

   それで、ファルナお姉ちゃんは?どこにいるの?」

 

ファルナ「私はここだよー!」

 

ツムジ「え!?そのボールの中?」

 

スゥ「うーん、今は出てきても大丈夫かな。」

 

               ボンッ

 

ツムジ「わっ、ファルナお姉ちゃんがボールから出てきた!?」

 

スゥ「モンスターボールって言って、トレーナーがポケモンを捕まえるための道具だよ。

  ファルナ、疲れは取れた?」

 

ファルナ「うん。もう全然平気!それよりもスゥの方が心配だよ・・・

   休んでって言ってもずっと動いてるんだから。」

 

スゥ「まあ、トキワに着けば休めるだろ?早く安心出来る場所に行った方がいいと思って。」

 

ファルナ「うー・・・。無理しないでね。」

 

スゥ「ん。ありがとうね。

  それでツムジ、今日はどうしたんだい?」

 

ツムジ「あ、ええっとね・・・私のお父さんがお礼をしたいって!

   わたしも、お兄ちゃん達にちゃんとお礼できてないしね。」

 

スゥ「そんなに気を使わなくてもいいよ。

  元気になったら、それで良いからさ。」

 

ツムジ「ううん、ちゃんとお礼したいの。

   それにお父さんはここのポッポの群れのリーダーだから、

   恩は返さないと気が済まないんだって。

   ・・・あっ、お父さんも来たみたい!」

 

スゥ「・・・ん、あれの事かな・・・?誰か飛んできてる。」

 

と、スゥが言い終わる時にはその人影はスゥのすぐ側まで飛んできた。

 

スゥ「は、速っ・・・!」

 

ツムジ「お父さん、この人達がスゥお兄ちゃんとファルナお姉ちゃんだよ。」

 

ファルナ「この人がツムジちゃんのお父さんなんだ。おっきいー・・・」

 

ツムジの父「・・・貴方か。スゥという御方は。」

 

スゥ「あ…はい。俺がスゥです。こっちの子はヒトカゲのファルナっていいます。」

 

ファルナは軽くおじぎで挨拶をした。

 

トルネ「私はツムジの父親で『ピジョット』のトルネと申す。

  スゥ殿、ファルナ殿。弱っていたツムジを助けて頂いたご恩は忘れませぬ。

  ツムジから聞いておられるかもしれぬが、是非礼をさせて貰いたい。」

 

トルネと名乗る大男がスゥに深々と頭を下げる。

 

スゥ「お、大袈裟ですよ!

  あの、ちなみに『ピジョット』って・・・?

  ツムジちゃんは『ポッポ』だって聞いてるから、お父さんも同じだと思ってたんですけど。」

 

トルネ「うむ?もしやスゥ殿はトレーナーとしての日は浅いのですかな?」

 

スゥ「浅いというか・・・、ついこの前にトレーナーになって、ファルナと旅を始めたばかりです。」

 

トルネ「成る程。それでは[進化]についても御存知無くても仕方あるまい。」

 

スゥ・ファルナ「[進化]?」

 

トルネ「左様。『ポッポ』より『ピジョン』。『ピジョン』より『ピジョット』と、我等ポッポ族は[進化]する。

  我等のみでは無く、他の多くの種族も進化する者がいると聞いておるな。」

 

ファルナ「[進化]って、つまり大きくなる、っていう事?」

  

トルネ「近いようではあるが、[進化]とは単純に"体格が変わる事、歳を取る事"ではなく、根本的な"種としての成長"なのだ。

  故に、若くとも種の最上位の進化を遂げる者もいるらしい。

  また、進化した者は例外無く、より高い知能と強い力を得る。」

 

ファルナ「『しゅ』?・・・うーん、よく分からない・・・」

  

トルネ「ふむ、確かに[進化]を目の当たりにしなければ分かりにくいかもしれぬな。

  私が[進化]について知っておるのはこの辺りだ。

  スゥ殿はお解り頂けたかな?。」

 

スゥ「えーっと、つまり『ピジョット』っていうのは『ポッポ』の進化系で、種族はツムジちゃんもトルネさんも変わらないって事?」

 

トルネ「その通り。ツムジもいずれ私のように進化して欲しいものだ。」

 

スゥ「ファルナも進化するかもしれないんですか?」

 

トルネ「ヒトカゲ達がどうであるか存ぜぬが、ファルナ殿を見た所、進化する可能性は大きいように思う。

  あくまで私の勘に過ぎないが。」

 

ファルナ「ホントっ!?ねぇ、スゥ!私が進化したら嬉しい?」

 

スゥ「もし進化するのなら、どんな姿になるのか楽しみかな!だからやっぱり嬉しいよ。

  あ、でも進化して凶暴になったりするのは嫌だなー。それなら今のままのファルナがいいや。」

 

ファルナ「えぅ・・・凶暴ってヒドいよ、スゥ。」

 

スゥ「あはは!冗談だよ。ファルナだったら進化しても優しいままだよ、絶対!」

 

ファルナ「・・・うん♪」

 

トルネ「ふむ・・・スゥ殿は『心』に重きを置いておられるのか。珍しいな。

  人間は『力』に惹かれる者が多いのだがな。

  トレーナーとしての日が浅いのにファルナ殿に信頼されておるのも納得できる。」

 

スゥ「いや、そんな大げさな物じゃないです。」

 

ファルナ「えへへ、スゥ。褒められてるんだから、素直に喜んだらいいのに♪」

 

スゥ「ファルナまで。だから、そんな大した物じゃないって。」

 

トルネ「さて、礼をさせて頂きたいのだが、御二人は何か望みはありますかな?」

 

スゥ「んー・・・そんな事急に言われても思いつかないな・・・」

 

トルネ「我が子を救って頂いたのだ。何でも言って下され。」

 

スゥ「んー、・・・えーと・・・

  ファルナ、何かある?」

 

ファルナ「私は、そうだねー・・・

   うーん・・・別に何も無いや。」

 

スゥ「そっか。

  ・・・あ。

  それじゃあ!」

 

トルネ「おお!決まりましたかな?」

 

ファルナ「スゥ、何をお願いするつもりなの?」

 

スゥ「トキワシティまで"飛んで"連れて行ってくれませんか?」

 

ファルナ「あっ!そうだね、私も乗せてもらいたい!」

 

トルネ「二人共、そんな事で宜しいのか?お安い御用だが。」

 

ファルナ「昨日、ツムジちゃんが空飛んでいるの見てて羨ましいなーって思ってたんです!」

 

トルネ「ふむ、成る程・・・。それでは、短いが空の旅を楽しんで貰おう。

スゥ殿は私に掴まっておられよ。

  ツムジ、お前はファルナ殿を乗せて差し上げなさい。」

 

ツムジ「うんっ!これで私もお礼できるし、喜んで!」

 

ファルナ「えっ、ツムジちゃん私より小さいのに大丈夫なの?」

 

ツムジ「だいじょうぶ!こう見えても空を飛ぶ力は強いからね♪」

 

ファルナ「そうなんだ! じゃあ、お願いツムジちゃん!」

 

トルネ「さて、スゥ殿。行き先はトキワシティでしたな。此処からならすぐに着く。準備はよろしいか。」

 

スゥ「よいしょっ、これでいいんですか?」

 

トルネ「うむ。くれぐれも飛んでいる間はしっかりつかまって下され。

  まあ、もし疲れて手を離してしまっても安心されよ。

  スゥ殿が地面に落ちるまでには助けられる自信はある。」

 

スゥ「あ、安心なのか不安なのか微妙ですねえ・・・」

 

トルネ「ワハハハっ!冗談だ。普通に掴まっていたら問題ない!」

 

スゥ「あ、あはははは・・・」

 

ファルナ「んしょ。ツムジちゃん、大丈夫?重くない?」

 

ツムジ「だいじょうぶだよ。スゥお兄ちゃんは大きいからちょっと難しいけど、ファルナお姉ちゃんなら平気。」

 

ファルナ「よかったー。じゃあ、お願いね。ツムジちゃん!」

 

トルネとツムジは二人がしっかりと掴まっているのを確かめたら、地面を蹴って高く飛び上がった。

 

トルネ「ふんっ!」

 

               ブワッ!!

 

ツムジ「よいしょっ!」

 

               バサッ!

 

 

スゥ「う、うわぁぁぁっ!!!すごい!空を飛んでる!!」

 

ファルナ「ツムジちゃんすごいっ!高ーい!

   地面があんなに下にある!」

 

ツムジ「元気ならこんなものだよ!

   ほら、ファルナお姉ちゃん。向こうに見えるのがトキワシティで、その向こうの森が・・・」

 

スゥもファルナも、初めての空に心を躍らせていた。

空から下に広がる景色を見下ろすと、進む先には目的地であるトキワシティだけでなく、

そこから向こうには森、町、山脈が見えた。

旅立った故郷、マサラタウンは空から見下ろすと改めて他の町よりも人里離れた場所に位置しているのがわかった。

 

 

トルネ「スゥ殿、あの手前に見える町がトキワですぞ。」

 

スゥ「本当にあっという間だ!まだちょっとしか経ってないのに!」

 

トルネ「今はスゥ殿を乗せてる為、それでもあまり速くは飛んでおりませんぞ。私一人でなら1分と掛からぬ。」

 

スゥ「へぇぇ・・・」

 

 

               [数分後]

 

トルネ「さあ、着きましたぞ。」

 

               バサッ

 

スゥ「ありがとうございました、トルネさん。満足しました!」

 

ファルナ「すっごく楽しかったよ!ありがとうね、ツムジちゃん!」

 

ツムジ「どういたしまして!二人とも、また近くに来る事があったら会いに来てね!」

 

トルネ「うむ。私も歓迎しよう。次はもっとしっかりとしたもてなしをしよう。」

 

スゥ「またいつか会いに来ます。トルネさん、ツムジ、今日はありがとう。

  コラッタに襲われて時間食っちゃったけど、その分を取り返せました!」

 

トルネ「そう言って貰えると、乗せて送った甲斐が有ったというものだ。

  それでは、暫しの別れを。スゥ殿、ファルナ殿、良い旅を。」

 

ツムジ「スゥお兄ちゃん、ファルナお姉ちゃん、また会おうね!」

 

スゥ「ん、またいつか!元気でな、ツムジ!トルネさん!」

 

ファルナ「ばいばーい!」

 

スゥ達はツムジ達に別れを告げ、トキワシティへと足を運んだ。

 

 

 

ツムジ「・・・はぁ・・・」

 

トルネ「どうした?ツムジ。」

 

ツムジ「あ、ううん。何でもないよ、お父さん。」

 

トルネ「そうか。」

 

ツムジ「(旅・・・かぁ・・・いいなー・・・)」

 

ツムジ「ところでお父さん。コラッタ達は?」

 

トルネ「・・・今度ばかりは、子供とはいえ懲らしめなければなるまい。

  自分の子供を襲われて黙ってはおれん。」

 

ツムジ「みんなで仲良くいられたらいいのにね・・・。わたし、コラッタ達とも仲良くしたいよ。」

 

トルネ「ふむ・・・」

 

 

 

 

それからガブ達コラッタはどうなったのか・・・

 

性懲りもなく揃って悪巧みをしている彼らの所へ、大きな翼を持った大男がやって来た。

その大男はガブ達をまとめて竜巻で吹き飛ばし、彼らを夜になるまでみっちり説教した。

それ以来コラッタ達は二度と悪さする事は無くなり、モモンの実もみんなで仲良く分け合うようになったそうだ。

 

 


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