「……読ませてもらった」
放課後の教室にて。
後輩が書いた、俺が主人公の小説を読み終えて、俺は一息ついた。
後輩が、「どうでしたか?」 と、ワクワクした表情で俺に評価を述べるよう促す。
……ノベルについて述べる。なんつって。
まあ下らないダジャレは置いておいて。
……置いておいてってのはダジャレでも何でもない。
正直に言うと、妹の小説程ではないが、とても面白かった。
しかし、この小説には、何かが足りない。
俺がいつも読んでるラノベやらウェブ小説をやらで出てくる、何らかの要素が欠如しているのである。
それも、致命的な何かが……。
「面白く、無かったですか?」
後輩が、上目遣いで、少し悲しい表情をしながら見つめてくる。
「いや、面白かった」
俺は率直な感想を述べる。
……ノベルの感想を述べ(ry
後輩は目をキラキラさせて、「本当ですかっ!?」と、喜びを顕にしている。
しかし、俺は続けた。
「だけど、これだと足りないものがある」
「何ですか?」 と、不安そうな後輩。
良心は痛むが、これはちゃんと莉華を思ってのことだ。
「なぁ、莉華。お前、今何色のパンツ履いてんの?」
言い終わったが早いか、俺は頬に強烈な平手打ちを食らった。
「な、なな、なんで私のぱ、パンツがそこで出てくるんですかっ!?」
……だって、お前の小説に足りないの、エロ要素なんだもん。
ラブコメ書くなら絶対必要だし。
そう、自分を正当化しようと、誰に向けてでもない言い訳を考え始める俺。
「こ、これ、言わなくちゃ進みませんか…?」
「ああ」
赤面して心底恥ずかしそうにしている後輩に、即答する。
「ち、ちょっと確認するから! 待っていやがれです!」
怒りと羞恥からか、語尾がおかしくなりながらも、パンツの色を教えてくれるそうだ。
……チョロすぎるだろ。
将来が心配になってくる。
しばらくすると、後ろを向いていた後輩が、「水色ですッ! これで満足ですか変態ッ!」 と、ご褒美のような罵り方をしてくる。
かわいい。
「ブラジャーは何色だ?」
言い終わったが早いか、今度は後輩の利き手じゃない方の手で平手打ちを食らう。
利き手じゃないから加減が分からないらしく、恐ろしい威力を誇った。
「ばっ、馬鹿なんじゃないですか!? 殺されたいんですか先輩!!」
自らの身体を抱きながら、性犯罪者を見るような侮蔑の目で俺を見てくる。
……Mに生まれてよかった。
そのまま踏んでくれないかなぁ。
「なな、な、何を言ってるんですか! 本当に殺しますよ!?」
あっ、声に出てた。
その後、粘った俺は後輩のブラが、パンツとセットの水色だということを知ったりして、評価に戻った。
「……と、そんな訳で。お前の小説には、エロ要素が足りない。あと、そろそろ俺の頭に後ろから肘を振り下ろすのはやめて頂きたい」
「ダメです。理由は分かりましたが、納得はしてません。頭の形が変わるまでずっと振り下ろし続けるです」
……Mでもこういうのは全く興奮もあったもんじゃない。
それから、帰り道。
すっかり外も暗くなったので、後輩を送っていくことになった。
他愛も無い話をしながら歩き、後輩の家の前まで着く。
すると莉華はこちらを振り返り、「今日はありがとうございました!」 と、太陽のような笑顔を浮かべた。
うん。
きっと俺はこのために生まれてきたんだろう。
それから、後輩の家から二駅電車に乗って家に帰り、玄関を開けると、2階から奇声が聞こえてきた。
奇声が聞こえると同時、ドダドダドダッと階段を物凄い勢いで降りる音。
……妹が涙目で怒りながら降りてきた。
「お兄ちゃん! これを見てください!!」
妹はタブレット端末の画面を俺の方に向ける。
と、そこには、先程読んだ後輩の小説があった。
「この小説、私の小説の主人公にそっくりで、それで、私の閲覧数に迫ってきてるんです!」
フゥ〜! と、唸り声がうるさい。
っていうか、そりゃあ主人公が似ていても仕方が無い。
モデルが同じなんだから。
そんなことを思いながら、妹を宥めて、部屋に向かった。
そこで、俺は思い出す。
部屋が繋がっていることを。
「……今日も一緒に寝るのか……」
俺には、帰ってもプライベート空間が無いらしかった。
続く。