日付変わらず、今は帰りのホームルーム中。
昼休みに、後輩に読まされた妹の小説のせいで昼食をとれなかった俺は、とてもひもじい思いをして、午後の授業を乗り切ったところだ。
帰りに公園にでも行って弁当食って帰るか。
そう思ってた矢先、俺の右腿に振動が伝わった。
後輩からのメールだった。
帰りのホームルーム中は比較的何をしてても問題ない我が校では、基本的に携帯を弄っていても注意されることは無い。
内容は、『放課後、お時間ありますか?』とのものだった。
いや落ち着け俺。
さっきも期待して、結局ぬか喜びに終わったではないか。
平常心を保とうとしつつ、緊張が周囲に丸分かりなくらい興奮しながら、帰りのホームルームが終わるのを待つのであった。
とても長く感じたホームルームが終わり、放課後。
俺は呼び出された図書準備室に行ったのだが、まだ後輩は来ていなかった。
……余計に緊張してきた。
しばらくすると、後輩が軽くノックをしてから、部屋に入ってくる。
あらやだ。入ってくる姿が小動物みたいでかわいいんですけど。
彼女は俺の目をちらっと見てから、向かい側の椅子にちょこんと腰掛けた。
「で、何の用なんだ? 勉強を教えて欲しいとか?」
どうせ、またぬか喜びに終わるのだから、当たり障りのない会話を試みる。
すると、緊張の面持ちで、莉華が言った。
「あのぅ…小説を書くって言ったじゃないですか……」
「うん。言ってたな」
「それで、今から書くので、先輩にそばに居て欲しくて……。ダメですか?」
そんなことを上目遣いで聞いてくる。
かわいい女の子に傍にいて欲しいと言われて断わる理由はもちろんないのだが、即答するのもアレなので、一応理由を尋ねてみる。
すると、後輩からは驚愕の理由が語られた!
「小説の主人公、先輩がモデルなんです……/////」
莉華ータス、お前もか。
驚いて、皇帝みたいになってしまった。
「じ、じゃあ、書きますね……」
そう言って、後輩は丁寧にノートパソコンを開き、文字を打ち始める。
普段から紙の本に慣れ親しんでいる彼女は、キーボードを打つ指は拙いものの、その指は止まることを知らず、どんどんと行を変えている。
そんな彼女の時折楽しそうに見せる笑顔を見ていると、それだけで気持ちが満たされていく。
……腹は満たされない。
俺を主人公にして、俺のことを考えて書いて、その時に見せた笑顔。
それは、紛れもなく、俺だけが見られる、とびきりの笑顔だった。
しばらくすると、後輩は可愛らしく伸びをして、俺の方にパソコンの画面を向けた。
そこには、莉華による、莉華だけの世界が広がっていた。
さあ、読ませてもらおうじゃないか。
俺とヒロイン達とのイチャラブコメディをな!
続く