昼休み。
俺は、委員会の後輩である莉華に呼び出され、図書準備室へと向かっていた。
ちなみに図書準備室とは、図書委員がいる図書館の受付カウンターの横に構えられた、図書委員専用の部屋である。
「なにこれ、超ドキドキするんだけど」
いつもは莉華が四階に来て、それで、一緒に弁当を食べたりする。
……ヘタレな俺が行くことはほぼない。
……歯舞。
しかし、今日は違った。
わざわざ呼び出すということは、何らかの人前では済ませられない用があるのだろう。
なんだろう。
分からないけど、何にしてもドキドキする。
こうやって約束して会うのは初めてだからだろうか?
いや、間違いなく期待してる自分がいる。
だってこれ、普通に考えたら告白じゃね?
昼休みに人気のない所に呼び出されてるんだぜ?
俺は昨日ベッドの中で乳を当てる妹にキュンときたばっかりなのだが、やはりあれは妹。
恋愛対象にしてはいけない相手にきまっている。
だったら、いいじゃないか。
妹が俺に持ってる気持ちなんて、取材したいってことだけかもしれない。
多分あいつ俺のこと好きだけど。
1人の男として。
そんな風に、俺が想像力を沸騰させて歩いていると、やがて図書準備室に到着した。
……いよいよだ。
お父さん、お母さん、妹よ!
俺は今日、リア充になりますっ!!
うっひょ〜い!
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。
図書準備室は教室棟と別の棟にあるため、辺りは静まり返っている。
俺の唾を飲み込む音が響く。
その瞬間、俺はドアを勢いよく引いた!!
…………。
……………………押すタイプのドアだった。
気を取り直して、平静を装ってドアを開け放つ。
そこには、いつも通り、ゆるふわな雰囲気を醸し出す後輩の姿があった。
ツーテールの髪がゆらりと揺れ、かわいらしい。うん。かわいい。
彼女として、申し分ない相手であるぞよ莉華姫!
俺は自分が莉華をねめ回すような視線を送っていたことに気付き、『うわっ俺キモッ』と思って改めた。
しかし彼女は気づいていないのか、はたまた気づいていないふりをしているのか、嫌な顔一つせずに言った。
「先輩に、読んでほしい文があるんです」
おおっと。
ここは敢えてデジタル化の進んだ現代で、手紙で告白とは!
さすが図書委員。清楚さが伺えて好感度良好ですな。
「この文なんですが、画面のここを見てください」
そういった莉華は、スマートフォンを俺に渡し、何やら見るように言ってくる。
……雲行きが怪しくなってきたぞ?
ぬか喜びだった気がする!!
ねぇ!ぬか喜びだった気がするんですけど!!
俺は半分、いや、6分の5くらい落ち込みながら、スマートフォンの画面を除いた。
すると、そこにはWeb小説があるではないか。
「読んでみてください!」と、莉華が頭を下げる。
鼻をくすぐる、莉華のツーテールの髪の匂いが心地良い。ムラムラしてくる。
「超かわいい後輩の頼みなら読まないわけにはいかないな!」
後輩は、「もう……。先輩ってば……」と、下を向いて、なにやらごにょごにょ呟いている。
読んでみると、それは、涼菜の小説だった。
……もしかして、俺と妹かモデルだって、気づいたっていうのか!?
嫌な汗が出て来る。
普段この小説に書いてあることをやっている訳ではないが、誤解されたら大変だ。
実の妹に手を出す変態野郎のレッテルが貼られてしまう。
しかしそれは杞憂だったらしく、読み終わる頃に後輩は言った。
「この小説、とっても素晴らしいと思いませんか! 私も、こういったキュンキュンする作品を書いてみたいと思ったんです!」
……なんと。
妹の小説にインスパイアされた小説家が、ここに誕生したのであった。
続く