涼菜の誕生日パーティーが終わって、何日かが経ったある日のこと。
浜松鈴奈宛に、一枚の封筒が届いた。
「涼菜ぁー。お前のペンネーム宛になんか郵便が来てるぞー」
呼んでみると、二階から不思議そうに首をかしげる涼菜が降りて来た。
そして、封筒を手に取る。
「なんでしょう?」
本人にも心当たりがないらしい。
差出人の名前を見ると、ワープロの文字で『メイリオ文庫 編集部』と書かれていた。
メイリオ文庫とは、大手のライトノベルレーベルである。
「お、お前っ、新人賞に応募してたのか!』
新人賞の結果発表だと思い、俺は満面の笑みを浮かべて涼菜の方を向く。
しかし、涼菜は。
「いえ……心当たりがありません。著作権侵害とかの申し立てだと困ります……。参考にさせていただいた小説などはいくつもあるので」
不安の色を浮かべていた。
俺はなだめるように「じゃあ一緒に開封しようぜ」なんて言ってみる。
すると、なぜか涼菜は嬉しそうな顔をした。
……なぜそこで顔を赤らめる。
リビングに移動して、封筒を真ん中に置いて座る。
……いやなぜ横に並んで座る。
向かい合って座るのが普通じゃないのか。
まあ、兄妹なんだからこういうのも普通なのだろうか。
「お、お兄ちゃんが封を開けてくださいね……」
不安そう……かと思えば嬉しそうに妹が言う。
そして、俺にハサミを取ってくれた。
ちゃんと刃の部分を掴んでる。
さすが我が妹。
「偉いぞー、よしよし。涼菜はいい子だなー」
隣にいる涼菜の艶やかな髪を撫でてやる。
すると、涼菜はきょとんと不思議そうな顔で「突然どうしたんですか?」なんて言いながらも、子犬のように気持ちよさそうに目を細めた。
「よし、開けるぞ……」
緊張が高まる。
入っていたのは、A4サイズの書類だった。
そこに書いてあったのは、想像していたものとは全く違う事柄だった。
内容をまとめると、涼菜のウェブ小説を読んだ編集部のお偉いさんが、涼菜の小説を本にしたいとのこと。
「お兄ちゃん……どうしましょう」
「どうするって、涼菜はどうしたいんだ?」
「私は……出版したいです。もっともっと色んな人に、私がお兄ちゃんとらぶらぶする話を読んで欲しいです!」
「お、おう。そうか……」
勘違いしないで欲しい。
涼菜の気持ちじゃなくて、小説のタイトルだからな!
「じゃあ編集部のメールアドレスに、後日伺いますってメール入れとくな」
「はい! お兄ちゃんも付いて来てくれるんですよね?」
「もちろんだ。中学生一人で行かせるわけにはいかないし、出版社ってものにも興味があるからな」
「お兄ちゃんと初デート……です」
最後になにか言ったような気がしたが、聞こえなかった。
それにしても、すごい。
面白いとは思っていたが、ウェブ上で掲載されている素人でも、本物の作家になれることがあるのか。
なんであれ、妹の活躍を誇らしく思う千秋なのだった。
続く