結局あの後、俺はギャラリー達全員に一発ずつ殴られたのだが、そんなものはご褒美である。
それに……乙葉とキスができたのだから。
俺にとってはファーストキス……ではないな。
乙葉にとっても……ファーストキスじゃない。
だって俺たちは、小さい頃に何度もキスをしている。
幼馴染である俺と乙葉は、かつて結婚を約束し、結婚式の練習としてよくキスをしたものだ。
もちろん高校生になってからのキスとは全く意味も変わっていくのだが。
しかも、俺が唇を乙葉にぺろぺろされるという、キスなのかもよくわからない感じなのだが。
乙葉と付き合ったら、あのぷるぷるとしていて、しかし厚いわけではないきれいな唇を自分のものにできるのか……。
そんなことを考えていると、顔が熱くなっていくのがわかった。
しかし、そんな妄想は、インターフォンの音によって掻き消された。
この、涼菜の誕生日という日に訪ねてきた人物。そして、次は涼菜へのプレゼントをする番だというベストタイミングで現れた人物。
それは……俺と涼菜の両親だった。
俺は一度インターフォンの画像を確認すると、涼菜を呼ぶ。
「おーい涼菜。お前の客だぞ〜」
「えっ……誰でしょう。私に来客なんて……」
普通なら友達とかいろいろ心当たりがあるだろうに、それが無いのか不思議そうに玄関へ向かう涼菜。
ドアを開けた途端、涼菜はドアノブを持ったまま動かなくなった。
「ただいま、涼菜」
と、親父。
「お、お父さん……! それに……」
「お誕生日おめでとう。涼菜」
目に涙をためて、母さん。
「二人とも……どうして……?」
「俺が二人に来てくれるように言ったんだ。今週で二人と本格的に会えなくなってから一年だしな」
「私への……プレゼント……?」
「そうだよ。涼菜、今まで……ごめんな」
「……ううん。……ありがとう、お兄ちゃん」
それだけ言うと、涼菜はうつむいて何かを噛み殺すような表情を浮かべた後、母さんに抱きつき、静かに泣き始めた。
母さんと二人で抱き合って、しばらくの間、母さんの謝罪を目を瞑って聞いていた。
それから俺は、ストーカーの正体についてなど、今日に至った経緯を説明した。
それを涼菜は、夢でも見ているかのように呆然と、涙を流しながら聞いていた。
「これが俺の、本当の涼菜へのプレゼントだったんだが……涼菜のお願いは何だったんだ?」
感動の両親との再開も終え、ソファーで団欒していた中、俺がふと妹に問いかけた。
すると涼菜は。
「秘密ですよー。えへへ、でも、新しいお願いを一つ聞いてくれますか?」
なんかすごい可愛くなってた!
なんだこの喋り方!
敬語は崩していないながらも、謎の萌えを覚えるぞ妹よ。
俺は彼氏にでもなった気分で。
「もちろんだ。何でも言ってくれ」 と肯定の意を表す。
すると涼菜は満面の笑みを浮かべて。
「これからも、同棲生活。続けてくださいね?」
と、笑いかけるのであった。
続く