俺の下腹部の熱も冷めやらぬうちに、「た」 から始まる滝沢乙葉がやってくる。
妹へのプレゼントのはずなのに、なんで全員のお願いを聞いているのだろう。
流されやすいというか、お人好しというか……って、自分で言うことではないけれど。
そんなことを思っていると、乙葉は恥ずかしそうに俯いて、小声で言う。
「今から十分間……千秋のこと、好きにしていいかな?」
……なんだ、ただの痴女か。
「ダメなわけないだろむしろ好きにしてくれいや好きにしろよろしくお願いします」
「……あんたって奴は……」
乙葉とその他のギャラリーの目が冷たい気がするが、俺には願ったり叶ったりな内容のお願いがやってきた。
しかし、審判がコイツなのは分かるのだが、他のギャラリーたちはこのお願いに対して文句は無いのだろうか。
……今なんか凄くハーレムっぽい事言った気がする!
ギャラリーたちを見ると、彼女たちは 「こいつエロい事考えてるな……」 というような蔑むようなニヤニヤしたような目で俺を見てきた。
……正解です。
乙葉が代表して言う。
「好きにするっていうのは、いつも抱き着いてるときには出来ない、色々な部分に抱き着きたいってことで……別にエッチなことじゃないからね?」
いや、普段の抱き着きから十分にエッチな事です。
それに、色々な部分って……!
「じゃあ……行くね……?」
乙葉が、まずは普通に抱き着いてくる。
身長差から、胸の少し上くらいに来る乙葉の頭を、しっかりと撫でてやる。
すると、上を向いて気持ち良さそうに目を細める乙葉がかわいい。
続いて身体を離した乙葉は、俺の後ろに回り込んでくる。
すると、背伸びをして俺の首に抱き着いてきた!……のはいいんだけど、身長差の問題で俺の首にぶら下がる形になっている。
「ちょ、待って、締まってる締まってる!」
苦しかった。
それから、踏み台を持ってきて、もう一度リベンジすることに。
乙葉は踏み台に上がり、俺と同じくらいの背の高さになると、先程と同じように、後ろから抱き着いてきた。
乙葉の吐息が首や鼻にかかり、こそばゆい。
それに、俺の息なんかがかかったら不快に思うかも知れないと、呼吸を我慢しているため、少し苦しい。
「……いつまでこの体勢でいるんだ?」
念のため聞いてみる。
すると、乙葉は嬉しそうな口調で。
「……ダーリンがこっち向くまでだよ♡ 」
ダーリンって……。
今までダーリンとかハニーとか言い合ってるバカップルを見ると、何がいいんだかと無性にイライラしたものだが、実際に言われてみると、ダーリンの破壊力はヤバかった。
きっと、女性もハニーと呼ばれたら同じような気持ちになるのかも知れないと、俺は乙葉にハニーと呼びかけてみたのだが……。
ギャラリーを含め、全員に大笑いされた。
いつか絶対全員犯してやる。
乙葉は宣言通り、俺が後ろを振り向かない限り、ずっと俺を後ろから抱きしめ続けるらしい。
最初に十分間と言ったのは嘘だったのか、既に結構な時間が経過している。
乙葉もただ抱きしめているだけでは飽きてきたのか、俺の首筋や耳の裏をぺろぺろと舐めたり、横から顔を覗き込んだりしてくる。
……俺も早く後ろを向けばいいのだが、これが楽しくてやめられない。
女の子に包まれるのって、めちゃくちゃ気持ちがいいのな。
しかし、ギャラリーを見ると、すごく不機嫌そうなみんなが。
……駄目だこれ。殺されるやつだ。
桜子は黙々とどす黒いオーラを振りまき続け、莉華は包装用のプチプチを一気に勢いよく潰している。
涼菜はといえば……なんかよく分からない踊りをしていた。
よく分からないが怒っているらしい。
俺は、仕方ないのでこの夢を終わらせるべく、後ろを向く。
すると、驚いた様子の乙葉の顔がすぐ近くにあり……。
首すじをぺろぺろと舐めていた乙葉と、俺の唇が触れあった。
乙葉は俺の唇をぺろぺろと舐めるのをやめ、舌先もそのままに、固まった。
ーーしばらく、沈黙が訪れる。
その沈黙を破ったのは、涼菜だった。
「お兄ちゃん! 誰の誕生日に犯罪やらかしてくれてるんですかっ!」
えっとぉ……マジですいませんでした。
隣では、顔を朱色に染めた乙葉が、涙を浮かべて内股で地面にへたりこんだのだった。
「赤ちゃん……できちゃう……」
いや、出来ないから。
……本当にすいませんでした。
続く