俺が妹とらぶらぶする話。   作:雨宮照

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妹への誕生日プレゼント(乙葉、桜子編)

 

食器を片付け終わり、全員でパーティーゲームをやったあと、ついにプレゼントを渡す時間が来た。

 

まず始めに渡すのは、乙葉。

妹はといえば、他のメンバーがプレゼントを取りにカバンへ向かうのを見て、先程からソワソワとしている。

落ち着きのない無邪気な期待の態度が、いつものしっかりした妹とのギャップもあり、とても可愛らしい。

しかし、俺は内心可愛らしいとか言っている場合ではなかった。

乙葉の耳打ちによって、その場しのぎのプレゼントを思いついたはいいものの、それで本当に満足して貰えるか、さっぱり見当がつかない。

 

乙葉がにこやかに涼菜に近付き、小さめの箱を静かに渡す。

にこっと微笑むと、乙葉は「開けてみて」 と、涼菜に開封を促した。

綺麗に包装された箱の中に入っていたのは、お洒落な手帳と、これまたお洒落なボールペンだった。

それを見た涼菜が「うわぁ……」 と感嘆の声を上げる。

すると、嬉しそうに乙葉が説明を始めた。

 

「千秋は知らないだろうけど、このボールペンって、今女子中学生の間ですっごい流行してるんだよ! この上についてるハートの飾りとか、銀色のお洒落なデザインとか」

 

言い終えると、興奮を抑えきれずにボールペンを眺めていた涼菜が、なにかに気付いて声を上げる。

 

「あっ、このボールペン、私の名前が彫ってあります!」

 

「そうなんだよぉぉ!」

 

それを待っていたとばかりに乙葉の説明に力が入る。

 

「そのボールペンは名前が入れられるようになっててね。世界に一つだけの、自分だけのボールペンが作れるのさ!」

 

女子中学生の流行は、雑誌などを読まない涼菜も知っているらしく、宝物にすると言って、目をキラキラさせてボールペンをそっと胸に抱く。

 

乙葉のやつ、電車での制服の着こなしもそうだが、相当なお洒落通だな。

俺だったら同じ文房具でも、寿司の消しゴムとか買ってた気がする。

……うん。流石にそれはないわ。

 

また、その後の乙葉の説明によると、手帳を選んだ理由は、これから大人になっていく女子中学生の涼菜に、手帳できちんとスケジュールを管理できる大人になって欲しいと思ったからだそうだ。

妹のことをきちんと想っての贈り物に、兄の俺も、とても嬉しく思う。

 

続いて、かなり重そうな箱を事前に千秋の家に郵送していた桜子が、前に出る。

大きな箱に入ったそれをテーブルに重たそうに置くと、頬をかいて先輩が言う。

 

「メイク道具とかも女子中学生だといいかなって思ったんだけど、涼菜ちゃんには私のお世話になったものを贈ろうと思ってね」

 

言いながら、大きな箱の包装を解いていく桜子。

大きな箱の中から出てきたのは、水色の大きな箱……と思ったら、十冊を超える本だった。

それら一冊一冊が厚く、読み応えがありそうだ。

それを不思議そうに見る涼菜に、桜子が説明する。

 

「この本は、実は小学生向けの小説なんだけど、私が六年生のときに一番好きだった本なの。この本が無かったら、私は今みたいに、本を沢山読む私では無かったかも知れないわね」

 

なるほど、涼菜がページを開くと、小学生でも読めるような大きな字が、ふりがな付きで並んでいる。

その本のタイトルは、「少女パイレーツ」。

少女の新人海賊が、たくさんの出会いと冒険を通して、一人前の海賊になるというファンタジーらしい。

挿絵には非常にかわいい主人公の海賊の女の子と、金髪の美しい船長のお姉さん、あごひげが特徴的な、仲間の船乗りの絵が書いてある。

そのどれもが楽しそうに描かれていて、見るものを引きつける魅力が、十二分にあった。

 

涼菜はパラパラと何度もぺーじをめくっていて、早く読みたそうにうずうずとしているようだった。

 

先輩が、エピソードを語る。

 

「私は、小学生のとき、この大きなおっぱいのせいでいじめられていたの。それで、いつも一人でいたわ。でも、ある日図書室に行って、表紙の絵に釣られてこの本を手に取ったの。……そしたら、世界が変わったわ。私は、この本に救われたの。」

 

どこか遠くを見ながら、続ける。

 

「この本には、特別有益なことが書いてある訳でもないし、壮大なストーリーが描かれているわけでもない。それでも、私にとっては、孤独から救ってくれた、一番の宝物なの」

 

「……それを、私が貰って、いいの?」

 

「……いいのよ。私はもう読む年齢じゃないし、何度も読み返しているから、内容も頭に入ってる。それに、この本だって、次の誰かに読んでもらった方が、嬉しいはずよ」

 

先輩は、優しく微笑むと、最終巻の十二巻を手に取って、その最後のページを涼菜に見せた。

 

「涼菜がここまで読んだときに、また他の誰かに譲ってあげてちょうだい。そしたら、その話を、私にも聞かせてね」

 

先輩が持っている最後のページは、主人公の少女海賊が海鳥と一緒に飛んでいくシーンである。

俺は何故かその挿絵だけで、感動した。

それは、先輩のエピソードに感動したのか、絵に感動したのか自分でも分からない。

だけど、妹が読み終えた後は自分も読ませて貰うことに、今決めた。

……挿絵の女の子が可愛かったし。

 

 

続く。

 


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