池袋駅で乙葉と別れたあと、俺は軽く朝飯を摂ってから、電車を乗り換える。
昔家族で来たことのあるラーメン屋に行ってみたのだが、既に閉店していたため、ファストフードでの朝飯になってしまった。
食事に厳しい涼菜が聞いたら怒り出しそうなメニューだ。
しかし、男子高校生なんてそんなものだろう。
出かけた先でファストフードなんて、よくあるものだと思う。
電車を乗り換えると、俺は父さんの家の近くへと向かう。
軽食もある喫茶店があるというので、そこで待ち合わせをしているのだ。
軽食があるのならラーメンをがっつり食べなくて丁度よかったのかも知れない。
駅に着くと、俺は父さんにメールを送って、駅から喫茶店までの道のりを教えてもらう。
メールのとおりに進むと、店に植物が巻きついた、西洋風のお洒落な喫茶店があった。
そこに入ると、一番奥に腰掛けている人物が一人。
一年振りの、父親との再開だった。
「父さん、母さんがここのところ何日か、夜に俺のところに来てたのは知ってる?」
俺は、父さんがどこまで母さんの行動を把握しているのかを確認するため、聞く。
「まあな。夕方になると、夜には帰るって言って出て行くようになったから、そうだろうとは思ったよ」
少し楽しそうに、父さん。
「まあ、最近のあいつはお前達を見に行ってるからか、嬉しそうだったな。……一年前は、母さんが、すまなかった」
「いや、父さんは悪くないよ。それに、母さんも、悪くない。悪かったとしても、家族じゃないか。俺は、少しずつでも、前の関係に戻りたいと思ってる」
「……そうか。千秋、成長したな……」
父さんは、噛みしめるようにそう言うと、涼菜の誕生日パーティーに参加することを、約束してくれた。
東京からの帰り道、来た時と同じように電車に乗って帰っていると、電車の中でばったり知り合いに出くわした。
その知り合いとは、夏波莉華。
俺の後輩であり、涼菜のまだ知らないライバル。彼女とは、デートを断った日から、一度も顔を合わせていなかった。
「よお、莉華。電車の中で会うなんて、奇遇だな。これも、運命ってやつなのかな?」
何も考えてない俺は、軽く後輩に声をかけた。
それに対し莉華は。
「……っ。先輩っ? どうして私なんかに声をかけるんですか……」
ん? なんだか様子が変だぞ?
「なんだ莉華。俺のことが嫌いになったのか? 前はあんなに先輩先輩ってまとわりついて来たのに」
「まとわりついてませんっ! っていうか、私のことを嫌いになったのは、先輩の方じゃないんですか?」
莉華が、変なことを言っている。
「何を言ってるんだ? お前。俺はお前のこと好きだぜ? 愛していると言っても過言ではないぜ?」
「もう! 先輩ってば、なんなんですか! 私とのデートを断って笹原先輩とデートしておいて、どうしてそんな態度でいられるんですかぁっ!」
あっ、この娘誤解してるわ。
恐らく、先輩と俺が歩いている姿でも見たのだろう。
いやぁー。嫉妬されるって、嬉しいもんだねぇ。
「先輩! 嬉しいってなんですか嬉しいって!」
あ、声に出てた。
その後なんとか誤解を解き、真っ赤になって怒る莉華を説得したあと、家に帰る。
すると、涼菜と桜子が、誕生日パーティーの準備をしているところだった。
俺もそれを手伝おうとして、すぐに気付く。
あっ。俺、涼菜の誕生日プレゼント何も買ってねぇや。
妹と先輩には事情を話すことなく、ダッシュで家を飛び出る千秋なのであった。
続く。