ある日、俺が家に帰ると、妹がリビングのテーブルに突っ伏して、泣いていた。
俺の名前は、夏波昴。
こいつ、夏波莉華の兄貴だ。
年齢は莉華の一つ上で、高校二年生。
学業成績は、まあそこそこで、部活には入っていない。
特徴を挙げるとするならば、生徒会本部役員として、学校の中枢を担っていることくらいだろうか。
妹とは、昔から事あるごとに喧嘩していたことからもわかるように、仲がいいとはとても言えない。
しかし、今、妹がリビングで泣いている。
仲が悪いとはいえ、知り合いが。それも家族が、目の前で泣いているのだ。
慰めないという選択肢は、俺には無い。
「莉華、何泣いてんだ。邪魔だから泣くなら部屋に行って泣け」
……やっちまった。
いつも、こうだ。
妹を前にすると、思ってもないことが口を次いで出てしまう。
妹は哀しそうに頷くと、「ごめんね」 と、部屋に帰っていく。
これじゃ、駄目だ。
妹に、きちんと自分の気持ちを伝えなければ。
仲が悪かった? そんなの関係ない。
さっきと言ってることが違う? 知らないな。
俺は、今度こそ妹を慰めようと、妹に声をかける。
「莉華、何があったのかは知らないが、家族は……俺は。何があってもお前の味方だからな」
言えた。
今度こそ、妹に気の利いたことが言えたのでは無いだろうか。
妹はこちらを振り返ると、小さく呟いた。
「……バカ兄貴」
なんと。
今回も妹にとって悪いことを言ってしまったのだろうか。
女心はさっぱり分からないものだ。
しかし、莉華は最後振り向いた時に、少し笑ってみえた。
ただ、俺がそう感じただけかも知れないが、今回の事は、気に病まないことに、俺は決めたのだった。
私は、見てしまった。
きっと、見てはいけないものだったのに。
隠れる必要なんて、無かった。
でも、反射的に隠れてしまった。
先輩は、私の誘いを断ったのに。
私は、先輩とデートしたかったのに。
予定があるって、他の人とデートするためだったの?
しかも、あの人は、学校でも有名な笹原桜子先輩。
一年間の留学を終えて帰って来た、三つ上の先輩。
千秋先輩は、私より、彼女を選んだ。
「当たり前……だよね……」
私なんかより、笹原先輩の方が、綺麗だし、おっぱいも大きいし、勉強もできて、魅力的だ。
これは、当たり前のことなのに、私は涙を止めることが、どうしても出来ない。
「千秋先輩……」
私は、涙を拭いて、ノートパソコンの電源を入れる。
泣いていても、何も始まらない。
涙は止まらないが、前を向かなければいけない。
私は小説の続きを丁寧に、先輩の事を頭から追い出すかのように、綴り始めた。
小説の女の子は、小説の中の先輩に、愛してもらえるように。
幸せにしてもらえるように。
神さまに、お星さまに、願いを込めて。
続く。