それから数十分後。
ファミレスから先輩と歩いてきた俺たちは、俺の家に着いた。
その道中は、先輩の留学中の話を聞いたり、俺と妹の一年間について話したり。
とても楽しい時間を共有させてもらった。
ひとつその中で訝しく思ったのは、先輩が俺と妹の生活についての殆どを把握していた事なのだが。
先輩にはドSのお姉さんなのかストーカーの変態なのか、どっちのキャラなのかをいい加減決めて貫いてほしい。
……まあ、こういう中途半端な属性が、いかにも先輩らしいのだが。
キャラが中途半端といえば、後輩に関してもそうだ。最初に紹介したときはゆるふわな雰囲気とか言ったが、最近は委員長キャラ的なところが目立っている。
相変わらずドジっ娘は変わっていないが、真面目なところが全面に出てしまっていて……これはこれでアリだな。
真面目なやつが実はドジっ娘で、ミスを恥じらうとか、最高の萌えじゃないか。
えーと。
ここはどこだっけ?
「千秋くん。ねぇ千秋くん。いつになったら鍵を開けてくれるのかしら。急に電池が切れたみたいに動かなくなって」
……先輩の声で思い出した。
ここ、我が家だ。
先輩に先ほど自分から言い出したように家の鍵を開け、家の中に入るよう促す。
すると、いつものように元気な足音がリビングから聞こえてきて……。
「お兄ちゃんっ! おかえりな……さる!?」
飛び出してきた妹が目を見開いて固まった。
おかえりなさるて。
「お、お兄ちゃんがお姉ちゃんになりました!?」
んな訳あるか。
後輩のドジっ娘が感染ったのか。
「涼菜ちゃん、久しぶりね。……私はずっと見てたから久しぶりじゃないのだけれど」
今さらりと怖い事言ったなこの人。
「あっ。その大きなおっぱいは、桜子ちゃんですね!? 帰ってきてたんですか!!」
嬉しそうに妹が言う。
乳で覚えるなよ。
物心ついた時からこの人のことは知ってるだろうに。
「ってことでな。今日は先輩のところに遊びに行くぞ!」
「よっ、お兄ちゃん! レッツゴーです!」
……こうして。
俺たち3人は、先輩の家へと出発した。
先輩の家までは、割と近く、歩いて5分くらいの隣の町に住んでいる。
乙葉の家はうちの三軒となりだから殆ど遊ぶ時はうちの近くか俺か乙葉の家だったが、先輩の家に遊びに行くこともあったので、懐かしい。
中学の時も何回かお邪魔したが、本当に久しぶりな気がする。
ふと横を見ると、5月の気候に合わせた、半薄着くらいの服装の2人。
……胸元の膨らみの差が虚しいところである。
すると、俺の視線に気づいた誰かさんが一言。
「……最低ですね」
ごめんなさいマジすいません。
胸囲なんて比べるもんじゃないですよねそうですよね。
妹の小振りな、おちょこくらいの乳と先輩の脅威の胸囲を比べちゃ分が悪いよな。
あ、今の笑うとこ……マジ反省してます。
涼菜は自分の胸に両手を当て、「私だって成長すれば……」と、小さい声で呟いている。
あ、難聴でもラノベ主人公じゃない俺はしっかりと全部聴きとってるぜ。
微笑ましい妹だ。かわいいなぁ。
そうこうしていると、5分程度の道のりなので、直ぐに彼女の家に着いた。
先輩の家に着いた俺たちは、先輩のお母さんの大歓迎を受け、夕飯をご馳走になっていた。
先輩のお母さんお手製の、作るのがめんどくさい家庭料理TOP5には必ず入る、揚げ物を味わっていると、先輩が唐突に言った。
「その千秋くんが使っているお箸は、私がいつも留学先で使っていた私のお箸よ」
ゲホゲホ。
俺はそれを聞いて盛大に噴き出した。
「やっぱり向こうの料理も箸で食べた方が楽だったのよ」 と、気にせずに続けている。
この人、一回涙目にしてやらないと気が済まないんですけど。
「……チッ」
妹が舌打ちしてすごい顔してるんですけど。
嫉妬してるんですけど。
可愛いんですけど、やめて欲しいんですけど。
そんな賑やかな夕食が終わって、早速部屋に行って本題に入ろうとした時。
インターホンが鳴った。
ストーカーに敏感になっている妹が一瞬ビクっとしたが、先輩は普通に返事をして姿のわからない来客を迎えに出る。
ドアを開けた、そこに居たのは……。
俺の幼馴染にして、俺と身体を重ね合わせることに快感を覚える痴女、滝沢乙葉だった。
いやまあ、抱きつくって意味だけど。
ショートカットの綺麗に切りそろえた髪が彼女の清潔さを表していて、凄く綺麗だ。
生徒会の仕事でもしてから来たのだろう。
彼女は子の時間でも、制服にカーディガンのままだった。夕飯もまだ食べていないのだろう。
「えっ!? なんで千秋がここにいるの!」
「こっちのセリフだよ……。俺はまあ、ちょっと先輩に相談したい事があってな」
「あたしは桜子が久しぶりに帰ってきたから話でもしたいなーって」
よし、都合がいい。
先輩とストーカーについて話している間、涼菜の相手をしていて貰おう。
こうして、俺たちのストーカー対策会議は始まるのであった。
続く