放課後だからねー! 絶対よー! と、約束に念を押す先輩を背に、俺はホームルーム棟へと、歩を進めていた。
昼飯を食べていないからだろう。
長く感じるが、昼休みはそれなりの時間が余っていた。
すると、俺のズボンの右ポケットがぶるぶると震えた。
世にいうバイブレーションと言うやつだ。
いや、大人のおもちゃのことじゃないからな?
健全な俺がそんなものを持っている訳が無いじゃないか。
俺はぶるぶる震えた物体を取り出す。
メールが来ていた。
From 笹原桜子
件名:今日のこと
放課後、千秋くんの教室に迎えに行くからね! 絶対だからね!
いや、さっき言えよ。
さっきも言ってたけど。
放課後。
俺は笹原先輩と2人で、ファミレスに来ていた。
巨人4番ファミレス。
……ラミレスですなんでもない。
笹原先輩はドリンクバーで持ってきたオレンジジュースをストローで少しずつ飲んでおり。
俺はドリンクバーだけで居座るのも居心地が悪いので、申し訳程度にウインナーを注文し、時間をかけてゆっくりと食べていた。
いや、あれだよ。
思考回路が普通な諸君はそんな事が無いんだろうけど、俺みたいな小心者のオタクはだな、周囲の人がみんな俺の悪口を言っているような気がしてならないんだよ!
自意識過剰なのは自分でも分かっているのだが、こればかりは習性なので仕方がない。
先輩はちびちびと飲んでいたオレンジジュースを飲み終わると、お代わりを取りに行こうと立ち上がった。
いや、待てよ。
俺は帰ってきた先輩に尋ねる。
「……先輩。3つ聞いていいですか?」
「なに? 千秋くん」
「……なんでファミレスで2人なのに、俺達は向かい合わずに隣に座ってるんですか?」
「そんなの、千秋くんを出来るだけ傍に感じていたいからじゃない」
先輩は、それがさも当然であるかのようにさらりと答える。
「2つ目です。先輩はなんでさっき俺を教室に迎えに来るとき、いきなりクラスメイトの前で俺に抱きついたんですか?」
「そんなの、千秋くんを前にしたら我慢が効かなくなっちゃったからに決まってるじゃない」
……今この人決まってるじゃないって言い切ったぞ。
「先輩。自分で言うのも悲しいですが、俺はクラスでは地味で少し嫌われています。なるべく目立ちたくないので、今後ああいった行為はやめて下さい」
「あら、本当は私の胸があなたに当たっていて、気持ちよかった癖に。あら、私のカップ数を知りたそうな顔をしてるわね」
「してないです。胸は当たってて気持ちよかったですが。ついでに言うといい匂いがして、柔らかくて、公衆の面前でなければずっと抱きしめられていたかったですが」
「やっぱり知りたいのね。千秋くんのエッチ。私のカップ数は、Fカップよ。でも、意外とFカップって、国民には沢山いるらしいのよね」
「あんな化け物みたいなデカ乳がこの国に他にも沢山いるんですか。もうエロ大国ですね日本は。っていうか、何の話してんですか」
本題を忘れて先輩のおっぱいの話に気を取られてしまった。
……Fカップか。あれがFカップの柔らかさなのか! また味わいたいぞ!
シェフに伝えてくれ、美味であったと!
「気を取り直して、三つ目です。いつあんた相談とやらをするんだよ。何ずっとオレンジジュース飲んでんだよ」
「千秋くんと2人きりになったから、すこし恥ずかしくて……」
なんでそこで照れる。
これまでふざけて言ってた感じで気恥ずかしくならなかったのに、ここで恥ずかしがられたら少しかわいいと思っちゃうじゃないか。
ああ、この先輩はドSじゃなければ素直に可愛いんだけどなぁ。
おっぱいデカいし。
「で、結局相談ってなんなんですか」
「心して聞いてね」 と前置きをして、先輩が話し始める。
「昨日日本に帰ってきて、千秋くんの家を覗こうとしてたときの話なんだけど」
「おまわりさんこっちです」
普通に犯罪じゃないか。
ストーカーはこいつか。
「ちょっと待って千秋くん。続きがあるのよ」
なんと! と、先輩。
「千秋くんの家をストーカーしている人を見つけたのよ!」
いやアンタもだろ。
「鏡に映った自分でも見たんじゃないんですか?」
「ちっ、違うわよ! あれは本当にストーカーだったわ。黒いパーカーを着た人だったわね。私が近づいたら逃げていったけれど……」
いや、アンタも本当にストーカーだよ。
「その人、俺も見ました。実は俺、その事についてこんなものを拾ってたんです。……協力してくれますか?」
俺は、強力な協力者を味方につけた。
……笑うとこだぞここ。
続く