今は夜の8時過ぎ。
俺と妹は、自宅のリビングで、少しいつもより遅い夕食を摂っていた。
理由は、俺が後輩の執筆に付き合っていたからだったり、俺が後輩を家まで送って行ったからだったりするのだが。
今日の夕食は、瀬戸内レモンをベースとした、さっぱりとしたパスタだった。
妹は、俺の顔をちらちらと見ながら、もぐもぐと口を動かしている。
きちんと少量をフォークに巻き付けて、一口でお行儀よく口に運んではいるのだが、もぐもぐするので、子供っぽさが際立つ結果となっている。
……まとめると、愛らしいということだ。
妹がこちらをちらちらと窺っているのは分かっているため、一口食べて、「美味しいよ。いつもご飯作ってくれてありがとな」 と、褒めてやる。
すると、「えへへ〜」 と、くすぐったそうに笑いながら、くねくねとし出すのだった。
何でもないひととき。
これが、どれだけ幸せなことだろう。
あの人たちとも、同じ時間が共有できれば良かったのに……なんて。
昔話は今度にしておこう。
そうして、パスタを食べること暫し。
ピンポーンと、平和を壊すような機械音が部屋に轟いた。
いや、まあ、ただのインターフォンなんだけどな。
我が家に客人が来ることも少ないので、宅配便か何かだと思った俺は、ついいつもの癖で判子を手に持ち、玄関に向かった。
「少々お待ちくださ〜い」
本当に少々なのだが、いないと思われても困るので、一応声をかけておく。
……再配達させてしまうのも申し訳ないからな。
しかし、ドアを開けると、そこには誰もいなかった。
それどころか、誰かがいた形跡さえ無かった。
ピンポンダッシュかなにかだったのだろう。
最近は物騒である。
妹のところへ戻ると、妹が荷物は何だったのかと訊ねてくる。
俺は今あったことをそのまま話した。
すると妹は、
「ちょっと待っててください! 確認できますから!」
と言って、玄関に駆け出した。
走ったのが恥ずかしかったのか、急におしとやかに歩いて戻ってきた妹が手にしていたのは、白くて四角い機会だった。
これは、インターフォンと連動して、玄関の様子を撮影する機械らしい。
妹が再生ボタンを押すと、インターフォンが押された瞬間からの五秒間の記録が映像で流れる。
そこには、フード付きのパーカーを着た人物がしっかりと映っていた。
……明らかに不審者じゃないか。
「お、お兄ちゃんこれ! この人、何かうちにして来ないですよね!? 」
妹が怖がって震えている。
「大丈夫だ、安心しろ。俺がついてるよ」
妹の髪をもふもふと撫でてやると、妹は細い目をして、気持ちよさそうにしていた。
夕飯の片付けが終わると、俺達は二階にある別々の部屋に入った。
……中が繋がっていた。
「ま、また会いましたね、お兄ちゃん」
「お、おう。……そうだな」
訪れる沈黙。
静寂の時が流れ始める。
(き、気まずい……)
俺は気まずさに耐えきれず、イヤホンをして寝ることにした。
イヤホンを取り出そうと、学校用のリュックに手をかけた時だった。
妹が、俺に抱きついてきた。
例の如く、妹の小振りなおっぱいが、俺の背中に当たる。
それと同時、妹は言った。
「お兄ちゃん! お、お風呂に、一緒に入ってください!!」
何でだよ!!
風呂にまで、この気まずさを持ってけってか!?
「嫌だよ。また小説のネタにするのか?」
どうせそうだろうと聞いてみる。
しかし、返答はノーだった。
「さっきの、ピンポンダッシュの人が、悪い人で、襲ってきたらどうしよう……って」
ああ、なんだ。
そういう理由か。
なら、いい考えがあるじゃないか。
「それなら、お兄ちゃんが風呂の前にずっといてやる。風呂の窓に何かあったらすぐ言えよ? 」
「……うん」
涼菜は、すこし悲しそうに俯いて、頷いた。
続く。