プリモベル   作:しらてぃあま

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読者の皆様、こんにちは こんばんは。

今回は漸くナザリックの方々が登場します。


時期を見計らって、長文or短文 的なアンケートの実施する予定です。




プロローグ:出会い

ユグドラシル内のヘルヘイムのグレンデラ沼地には、全十階層の広大なフィールドから成るナザリック地下大墳墓がある。

 

其処は42名の仲間であるプレイヤーと共に、時間もお金も労力も注ぎ込んで作り上げた、アインズ・ウール・ゴウンのギルド拠点となっている。

 

そのギルドの42名分の座席が並ぶ円卓の間では、豪奢な黒ローブに身を包んだ一体の骸骨と体中の節々に黒鱗を纏う竜人が座していた。

 

 

 

 

 

 

その異形の名は『ドラゴン』

 

個体差は様々であるが、どれも強靭な巨体を持ち有毒物の大半を無効化する

巨大な躯体が一歩大地を踏み込めば地は割れ大自然の暴風を巻き起こす

巨体でありながら、天空を力強く優雅に飛び舞い雲を裂き天候を操作する

天地を統べるその力は、生ある万象の王として君臨する資格を持つ

 

「こ……これにしよ…ひひ」

 

ドラゴンをみた私は自分でも分かってしまう位に、普段無表情な口元をニヤニヤと歪ませながらドラゴンを選択して細やかなキャラクタークリエイトを施していった。

 

所要時間およそ4時間――

 

「ん~~~!でっきたぁ!」

 

トイレに行きたい気持ちも抑え、自信の憧れなどを拘り抜いて注ぎ込み作り上げた第二の自分。

背丈は約180cmを超えており、鍛えられた筋肉に肌はリアルの自分と同じ褐色。

ちなみに身長がやけに高いのは自分がチb…小さいのを気にしているからだ。

フェルと仲良くなってからというもの、一向に伸びなくなった。

 

 いやほら、強くてカッコいい女性といえばやっぱり高身長ってのがいいじゃん?

 それに体が大きいとナニかと都合が良いし ……どう良いかはご想像に任せる

 

鎖骨辺りまで伸びる黒に近い赤色の髪は端々にクセ毛が表われ、女性らしい綺麗な髪形というよりは少し男勝りな雰囲気だ。

かつて資料で見た崇高な志を貫こうと生きた武将達の様に、甘さを微塵も感じさせないキレのある鋭い眼光と、未熟な心を容赦しない射抜く様な瞳。

"への字"の厳しげな口元も相まって全体的に覇王感がある。

それに加えて天地を統べるドラゴンらしく、耳元から口元に向けて長く伸びる岩を削って作った彫刻品のような質感の湾曲した鋭利な焦げ茶色の角に、両手足は体の中心部に複雑に辿り広がるように強靭な龍の黒鱗に覆われている躯体。

そして背後には、装美な模様が刻まれた大きな翼としなやかに伸びる頑丈そうな長尾。

 

「ちょっとゴテゴテしすぎか? ……まぁいいか」

 

初期装備を選択してキャラクター作成を決定する。

 

「よし」

 

渾身の力作に小さくガッツポーズをしつつ、キャラクターネームを思考する。

 

"メヘナ"

 

「フスーー……フスー……」

 

いち早く第二の自分を味わってみたい気持ちが駆けて、興奮のしすぎから過呼吸で若干酸欠気味になる。

というか既に少しクラクラしていた。

 

「おぇっ……」

 

パソコンが新世界を映し出すべく読み込むのを待機している時間がかなり長く感じる。

 

「ッ~~まだか?」

 

そして画面が暗転する、――いよいよだ。

 

 

「――お ぁ」

 

視点が切り替わった途端、もはや興奮を通り越して言葉にもならなかった。

 

 

透き通った綺麗な蒼色の水の世界が広がる湖や海。

 

そして水の世界と同じ様な美しい蒼空には、翼を大きくはためかせ自由に滑空する生物達。

 

潤った大地が碧に輝く膨大な量の植物を生い茂らせ、そこには捷やかな肉体を存分に動かして駆ける生物達。

 

自然と一体化した様な神秘的な造りの建造物の数々。

 

 

パクパクと口を半開きにしながら、ただただ唖然と眺めていた。

例え画面越しの現実ではない物だと分かっていたとしても、その幻想的光景に私はしばらく涙した。

 

そんな体験をした私は当然の様にユグドラシルの世界に没頭した。

もっと沢山の景色をみていった。

もっと沢山の生物をみていった。

もっと沢山の建物をみていった。

その日は時間も忘れてとにかく夢中で遊んで、気が付けば出勤時間10分前まで一睡もせずにぶっ通し状態になっていた。

幸い会社までの移動時間は徒歩で約5分も要らないので、身体能力に任せて全力疾走して余裕で間に合いはしたが、それからは会社に支障を出さない範囲で遊ぶようには気をつけている。

気をつけてはいるが、やはり広大すぎる世界、溢れる大自然、時折見かける謎の神秘的な建造物、様々なモンスターや動物達――

こんな素晴らしい物に魅せられては中々難しいもの。

 

来る日も来る日も、ユグドラシルというゲームを十分に楽しみ満足していた――。

 

 

しかし次第に雲行きが変わっていった。

 

「一般的と言われるゲームとしての楽しみ方ではないかもしれないけど、私はこれでいい、これがいいって思ってたけど……」

 

生きていくということには必ず壁が存在する。

またその壁の容は様々。

 

このゲームにも砕けて言ってしまえばレベルというシステムを始め、様々な強力なアイテムや装備品による『差』という壁がある。

自分にとってこの壁はゲームだからといって楽観視できる事ではなく、この差を埋めなければ自身のしたい楽しみ方、つまりはこのユグドラシルというゲームでの生活が非常に難しくなっていくのだと、ここ最近で強く痛感させられていた。

 

だがこうなってしまったのは自業自得であるとは思っている。

何せ、このユグドラシルにおいては極端に戦闘を嫌う為、『差』を埋める為の行為を殆ど行えていないのだ。

一番最初の場所と言われる村やダンジョン等の初期エリア、要はチュートリアルとして存在する土地周辺に滞在し続け、戦闘の必要のないクエストや付近の探索をするだけである。

その辺に生えている植物とか寝ている動物を何時間も眺めていたり、川に流れる大量の水に手を突っ込んで棒立ちしていたりとか、当たり前だがそんな事をしていれば他者との差は開き続けるばかり。

 

 ……私だって分かっているよ?

 「なんだそれ」ってなるのが大半だと自覚してる

 けどそれら全てが新鮮で心洗われるというか、救われていく感覚がするんだよね

 壁に直面していても、わざわざこんな素敵な世界で争い合いをしてまで自分のレベル上げとか、装備品を満たして差を埋めていこうとする感覚はどうしても好きになれない……

 だってさ、現実と似た醜い争い事をユグドラシルにまで再現する事になるんだよ?

 そんなの本当に馬鹿げてる

 

こんな風に思うのも〝PK〟というプレイヤーがプレイヤーを襲う行為が横行されており、そのPKをするプレイヤー層の9割近くが人間種である事実を知ってしまったのが大きな理由だった。

仮想世界にまで現実の絶望の悲劇を繰り返す所業には、見かけるたび出くわすたびに愚かものがと思ってしまう。

自分を卑下しゲラゲラと嘲笑いながら殺しにくる存在に、悲しい気持ちや何故か強い使命感の様なものを掻き立てられる感覚を味わっても、決して仕返しなんてせず出来るだけ他プレイヤーを避けていた。

 

しかしそんな私のユグドラシルライフは、どうやら壁ばかりでもなかった。

ある日何気なく閲覧していたユグドラシルの攻略サイトで気になる情報を入手した日から転機が訪れる。

 

それは『サーバーチャットシステムを利用して、どこでも転移魔法が込められたアイテムを他プレイヤーから買い取る事で、一切戦闘もする事なく別大陸にも行くことができる様になる』というもの。

 

「…知識は金なりとは正に……」

 

ここで言う〝あのクエスト〟とはこのチュートリアルのエリアに居る様々なモンスターを沢山狩り、ボスの討伐をして次のフィールドに行けるようにするクエストの事である。

これをクリアすると数多の未知を体験するというユグドラシルの醍醐味体験のスタートラインに初めて立つ事ができ、この引きこもり状態を打破する糸口になるのだがこれは色々な意味で嫌だったので何が何でも却下していた。

 

「やるべき事は分かってる……だがさすがにな…」

 

思いもよらない容で『壁』を打破できるチャンスのはずなのだが、当の私はずっと迷っていた。

 

まず手始めとして課金アイテムでサーバーチャットを使い、プレイヤーに向けてチャットを発信して相手にこちらへ直接来て貰うのだが、

 

「相場よりやや高値で要望……集まりはするだろうがリスクが高いな」

 

有名なゲームなだけに様々な人間がプレイしている。

善良な人間のプレイヤーも居れば悪質な人間のプレイヤーだって当然居る訳だ。

 

「色々不安なところはあるけど、フェルにももうちょっと頑張ってって言われたしなぁ」

 

【一番最初の村で転移魔法アイテムを相場より高値で買取ります】

簡易な情報がサーバーチャットに流れた。

 

「ふ~ぃ、これでいっか。なんとかなるでしょ」

 

数分と経たず個人間専用チャットにログが流れる。

 

【最初の村という事は初心者の方ですよね?】

「お、おおぉ。きたきた」

 

【相場より安く販売しますよ!】

「……うん?高値で買うって言ってんのに安くするとかどういうこと?」

 

【はい、そうですが。その前に】

【初心者の方が自分じゃ入手出来ないアイテムを買おうとするのを見ると何だか微笑ましくて、差し支えなければですがどうですか?】

 

「なるほど?やたら押しが強いが……さほど強制感はない。これくらいなら案外大丈夫かな。ちょっと話して掘り下げてみて……ダメそうならお断りって事で」

 

【そうでしたか。一先ず商談させて下さい。すみませんが訳あって動けない状態ですので、移動費用はこちらで一部負担しますのでこちらに移動をお願いします。集合地点は――】

一通りの会話を終え、村のセーフハウスで待機している事を伝えてチャットウィンドウを閉じる。

 

「うーん……。チャットの感じは優し気だしそう問題はなさそうだけど、見えない相手っていうのがどうしても不安だわ」

 

他プレイヤーとの初コミュニケーションが上手く取れた事には素直に喜んでいたが、他人と関わりを持つという不安要素は拭い切れない。

モヤモヤと悩んでいると、頭上に"ニッコリアイコン"を浮かべた取引相手が到着した。

 

 

 

 

「――本当にありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます」

 

流れは随分順調だった。

今のところ私が心配していた様な問題事は何一つ起きていない。

むしろ順調すぎる。

実は取引相手から今回の転移魔法のアイテムをかなり格安の値段で販売して貰い、"余り物"という最低等級のポーションではあるが、3桁に及ぶ個数をただでサービスしてくれていた。

 

「ところでメヘナさんは、どうしてここで取引の募集を?そのレベル帯なら一つ先のフィールドの大都市にでも行けば、露天販売している人からででも難なく買えたと思うんですが」

 

このご尤もな質問に対しての返答は幾つか用意してあったが、先ほどからこの人と会話をしてる感じ非常に誠実そうな人柄だと伺えた。

バカ正直に話してみるのもいいかもしれないが、出会ったばかりの他人にいきなりアイテムの無償サービス何てどうにも信用しきれない。

かと言って変に作り話で説明したところで直ぐにボロは出るし何よりこのままでは話が進まない。

「仕方ないから」と自分に言い訳をしながら、この人から感じる誠実さを信じてみる事にした。

 

「戦闘が凄く嫌いなので、関所を通るクエストもクリアしていないんです」

「な、なるほど。訳ありとはそういう事ですか」

 

何の捻りもないド直球な応え方だったが、どうやらこれで良かったみたいだ。

 

「……今更ですが、こちらの勝手な都合なのにお手数おかけしてすみませんでした」

「え!いやいや、そんなに畏まらなくても。寧ろ、チュートリアルエリアでそれだけ長く遊べられているメヘナさんの感性に素直に感動しているくらいです。どれくらいここに居られてたのですか?」

「えと…あんまりハッキリとは覚えてないですが、たぶん1、2ヶ月くらいだと思います」

「おお、それは凄いですね。私だったら堪え性がないものですぐに飽きて移動してるでしょうが、」

 

本当にこの人は誠実な人の様だ。

相手を上手に気遣いながら、自然と別の話題に持っていくのは十分な教養ある人でないと出来ない業だと思う。

 やるじゃなぁいと褒めてやりたいところよ

 だってこのクエストの最高推奨レベルって10なんだよね。ボスだって私みたいなのでも数発叩いたら倒せるっていうのはなんとなく気がついてたし……

 そしてあなたの肩に乗ってる白いモフモフが気になってしょうがない

 

「その白いの……何ですか?」

「ん?」

「肩にいる可愛いのです…」

「あーこれはペットですね。自分の行動に反応して動いたり喋ったりしてくれる面白いアイテムですよ。あと冒険のサポートもしてくれる優れものです」

「なにそれ凄い!」

「え……?」

「……あ」

 

 アーーッ!ヤーメテェ!

 つい素で反応しちゃったけどそんな素で反応し返さないで!

 恥ずかしいいい!

 

「よ、良かったらこれが貰える獲得チケットも余りまくってるんですけど……要ります?」

「い、いや!さすがにもう頂けないですよ!それに何でこんなくれるんですか……初対面なのに」

「あぁ、すみません!いきなりこんなに無償サービス何てされたら変に思いますよね」

 

 う、うん。怪しいです

 そうやって私を油断させて良い様に扱うつもりなんでしょう!

 騙されたりなんてしない!

 

「景気が良いとか、ですかね?」

「まぁ確かに景気が悪い訳ではないですが、ただ単純に景気の羽振りに関係なくこちらとしても有難い商売相手となって欲しいという考えあっての行動だと、そう思って下さって構いません。ただ、気を悪くさせてしまったら申し訳ないです」

 

 そうきたか……

 確かに筋の通る話でもあるし悪気のある行為じゃないんだろうけどさ

 このままだと私が勝手にそんな事されたら困りますとでも言っているようなものじゃん!感じ悪すぎないかわたし……

 せっかく気を利かしてくれているのに、フォローを入れておかないと今後の為の確立された貴重な商売相手を逃してしまう事になる

 でも正直タダ程怖いモノはないがそのモフモフちゃんはめっちゃ欲しい

 いちいち自分に反応してくれるんでしょ?しかも喋るし

 最高だと思うの

 

「そんな事はないです!私の方こそポーションを頂いておいて不躾な発言でした、すみません……こういう取引が初めての試みだったのでつい」

「あいえ、気にしないで下さい」

 

 よ…よーし、ひとまず難は逃れたがまだ安心は出来ない

 この人の"気にしないで下さい"のセリフだとどちらの意味でなのか分かりにくい

 初心者の私としては勿論、こういう駆け引きが可能な真っ当な商売人を逃すなんて有り得ない

 あなたと今後ともご贔屓にして貰いたいという明確な意思を伝えておくべきよ!

 

「ありがとうございます。不束者ですが、今後もご贔屓にして頂ければ幸いです。差し支えなかったら、是非ともモフモフちゃんも頂きます……はい」

「そんなに改まらなくても、お望みとあらば差し上げます。何度も言いますが余り物ですしね。何にせよ、こちらこそぜひ宜しくお願いしたいですよ」

 

 な、なんか……さっきから調子狂う

その気さくな感じで"ニッコリアイコン"を浮かべてまで快諾してくれるとちょっと……

 ホントさっきの不躾発言と言い、密かな疑いの視線を向けている事と言い、真面目に申し訳なくなってくるじゃないのよ!アイコンもどうやって出すのよ!!

 

「私自身、あなたの様な真面目な人との縁作りが個人的に好きなのもあってついお節介を。あはは……商売人としては未熟者ですよね」

 

 あ、あぁ~~ぁ~心が痛いぃぃ!

 こやつ!

 悪魔であの無償サービスは個人的なお節介だから、商売とは関係ないモノだと?!

 私が真面目な性質の人間だから、こういう言葉や思いを無下に出来ないだろう?

 という自然な流れが出来上がったではないか

 すかさずフォローを!

 

「あ、あの!また私のお金が貯まったら取引のお願いをするかもしれませんがいいですか?当たり前ですが、今度はきちんと代金をお支払いします!色つけて!」

「いやいや、普通で良いですよ?何だか愉快な方ですね。反応が面白いです」

「どうも……。あ、そういえば――」

 

至れり尽せりな状態に自分から提案を持ちかけるという調子付いたことをしてしまったが、そんな図々しい態度にも即答で良い返事をしてくれる気前の良さや、吹き出しアイコンのやり方を丁寧に教えてくれたりと、既に初めの不安感など消えてしまっていた。

 

 ……私はチョロくない

 

「こうやってやるんですね!エ、エヘヘ…楽しい」

「それは良かったです。それとメヘナさん、フレンド登録でもしませんか?」

「フレンド登録?」

「はい、登録するとマップ場に分かりやすく表示されるのでお互い今後見つけやすいという利点もあって、何かと便利になりますよ。もしかしたらいずれパーティーを組んで遊ぶ、なんて事もあるかもしれませんし」

「な、なるほど!そ、それは良い…ですね。ぜひお願いします です!」

 

生まれて初めて他人から優しく接せられ続けたおかげで、自分だけドギマギしながら普段人前では出ないような嬉しい感情の声色が溢れ出ていた。

それも変な笑みが止まらない程に。

 

 ごめんなさい私が不審人物です

 

「では、私はそろそろ。新天地でも頑張ってください。また何処かでお会いしましょう」

「はい!また!お気をつけて~~!」

 

初めてのフレンドを見送り、相手の姿が見えなくなったのを確認し終えると、

 

「……~~~っやったぁぁぁ!さすがカルマ値+500!」

 

誰も居ない自室で両の握りこぶしを掲げ、大声で歓喜を露にした。

欲しかったアイテムが手に入った喜びよりも、初めて仲良くなったプレイヤーが出来たことが心から嬉しかった。

 

「やばい!なんかいつもと違う楽しいって感覚!」

 

プレイヤー感でのコミュニケーションを取る楽しみ方もあるんだと、心から実感した瞬間だった。

 

「ほーー……」

 

少しの間知恵熱でも起こしたかのように口元を緩ませ賢者タイム。

 

 ――ハッ!

 

「よ、よーし!さっそくやってみなきゃだけど……。使うの躊躇うよ、消えちゃうんでしょコレ」

 

思い出となってしまったアイテムを使用してしまうことを惜しみながら、当初の目的を遂行する為に転移魔法のアイテムを使用した。

 

-セーフエリアでは使用できません-

 

「あ、村じゃ使えないってことかな?初めてだからよく分かんない」

 

システムメッセージの表記に習い、村のセーフエリアから外に出て再びアイテムを使用したが、同じ反応しか示さなかった。

 

「あっれー!やっぱりあの人に使い方を聞いておけばよかったかな。んー……」

 

先のフレンドに助けを求める事も考えたが気が引けた。

冷静になった今思えば、悪魔で自分とはただの商売相手としてフレンドになったのだ。相手の性格上から気さくに答えを教えてくれる事は十分ありえる話だが、それが要らぬ世話になるのは間違いない。

 

「これくらいは自分で何とかしないとね」

 

気持ちを切り替え、自分のゲーム知識が一般的プレイヤーより乏しいのは重々自覚している事もあり、再びユグドラシルプレイヤーが有志で設立した攻略情報サイトを参考に使用を試みたが、結果は何一つも進捗がなかった。

 

「だーー……。何がいけないんだろう?特に制限が有ったりするとは載せられてないし。ここに来てまたチュートリアル村の引きこもり弊害が出るなんて」

 

しばらくアイテムの使用に四苦八苦する最中、マップ画面に4人のプレイヤーが点在する情報が表示された。

 

「えぇ?タイミング悪いよ……一度中断。戻って考え直そう」

 

この状況において厄介事の種に成りかねない危険を侵せるはずもなく。

プレイヤーの点在地が遠くにある内に、何時もの如く人との関わりを避けるためセーフエリアへと移動を開始した。

 

「――え?」

 

しかし私の判断は遅すぎた。

マップを閉じて、画面が暗転するその極僅かな時間。

正に一瞬にしてエネミー対象と表示された4人のプレイヤーが自分を囲んでいた。

 

「うっそ……」

 

卑下ついた嘲笑い声を発しながら近づいてくるレベル100と表示されたプレイヤーが4人。最悪のタイミングと最悪の相手。

 

なぜ今になって?

なぜ私が?

 

様々な疑問が激しく浮かびあがる。

一番心当たりがあるのは、やはりサーバーチャットに呼びかけた取引募集のせいだ。

気付かない間に懸念していた要らぬプレイヤーの方も呼び寄せていたのだろう。

そうでなければ完全な初心者用のフィールドにレベル100のプレイヤーがわざわざ4人もピンポイントで自分の処へ来る理由が他にあるとは思えない。

 

PKをされるのは勿論嫌だが、思い出が詰まったアイテムを他人に奪われたりするのはもっと嫌だった。

普段遭遇するPKとは全く次元が違うこの状況に打開策が一切浮かばない。

逃走を図ったところでそれが可能なのか?

相手は圧倒的『差』のあるプレイヤー達だ。

自分より下のレベル帯のプレイヤーにだって簡単にやられてしまうのに、ただセーフエリアまで走って逃げる何てことが出来る可能性は皆無。

かと言ってレベル100のプレイヤーを4人もぶっ倒すなんて事は夢物語でしかない。完全な詰みの状態であった。

今まで数多くPKをされてきたが、カンストプレイヤーに出くわすのは初めてであり、どの様な手段を用いれば現状を打破出来るのか皆目検討もつかず、半ばパニック状態に陥っていた。

 

「こいつの反応マジうけるわ」

「異形種が…キモいんだよ」

「おもろ、動画撮っとこうぜ」

 

このアイテムだけは絶対に奪われたくない。

奪われるくらいなら自分でさっさと使って逃げてしまいたい。

しかしこれは何故か使えない。

 

「あぁもう!なんで!」

 

得体の知れない初めての感覚に目頭が歪み、耐え難い苦しみを紛らわせるように歯を食いしばった。

初めてユグドラシルで出来た人との友情の証。

初めて自分の命以外で守りたいと思える思い出。

それらが無残にも奪われ壊されると思うと、胸が締め付けられて堪らなく苦しくなった。

 

「皆さん、どうですか?」

「おっすー」

「おせーよ」

 

突如、この秩序の乱れた現場に不相応な声色で話掛けてくる人物が現れた。

気さくさと優しさを感じる聞き覚えのある声。

"エネミー対象"と表示されたもう1人のプレイヤーは、私を囲む4人のプレイヤーと談笑し始めていた。

 

「あなたは……」

「あ、メヘナさん。先ほどはどうも」

「……っ」

 

私は絶句した。

私の知る大事な思い出を作らせてくれた友達の声のトーンが、まるで別人だった。

よくPKをしてくるプレイヤーが放つ卑下付いた感じのモノと同じ。

 

「本当にあなたの反応は傑作でしたよ」

「どういう……」

「どうと言われても…困りましたね。最初に真面目な方との縁作りが好きだって言ったじゃないですか」

「意味が…分からないです」

「あぁ、すみません。付け加えるのを忘れていました。僕はそういうのを滅茶苦茶にするのが好きなんです」

「……なる…ほど」

 

私のところへいきなりこんな最低最悪な奴らが現れた理由が分かった気がした。

要らぬ欲を出して、人間と関わる選択をした時から間違っていた。

 

「勝手に信用していく様ときたら、過去最高です」

 

私は今までPKという直接的な行為をしてくるプレイヤーにしか出会っていない。

皮肉な話、出来る限り危険を避け続けてきた結果が裏目にでたのだ。

経験不足から成る考え方によって、もっと悪質な行為が有る事を知る事が出来なかった。

 

「ああぁぁ………」

 

今になって『過去』の記憶が鮮明に脳裏に浮かぶ。

結局自分は現実世界に其処ら中に存在する、自ら悲劇を作りに行く様な有象無象の人間の一人でしかなかった。

並みの人間より『人間観察能力』や『身体能力』に優れていても、見えない人間を相手にまんまとこの有様。

ずっと恐れていた現状の環境に溺れてしまうという事が現実になってしまった瞬間だった。

 

 ……人にどうこうと言えた身分じゃない

 私も愚かな人間の内の一人だね……これは当然の結果かな

 

そんな思考を巡らせ、その場にゆっくりと尻餅をついて力なく頭を地に向けて垂らした。

 

それが合図かの様に、ジワジワとなぶり殺すように弄ばれ始めた。

HP数値が無くなりかければ無償で貰ったポーションで無理やり回復をさせられ、また痛めつけられる。

ポーションが無くなるまで何度も繰り返された。

思い出であったはずのアイテムは全て彼らに利用され、初めて作ったお気に入りの装備も破壊された。

その時の私の反応を見て指差して笑う者、罵声を浴びせてくる者、滑稽な姿を録画し始める者――。

 

「うわ…こいつ泣いてるぜ」

「なんだこれ おもろ」

「いやぁさいこうだわぁ」

「あはは。彼女、いいでしょう。あの時も笑いを堪えるのが大変でした」

「どおりでいつもよりチャットが変だと思ったわ。草生えまくってたし」

 

時に、言葉というのは直接的な行為よりよっぽど人を傷つける事がある。

執拗に人の心を弄び傷つけるこれは、心の壁に容易く穴を開け容赦なく破壊していく残酷な行為だ。

真っ当な感性を持つ人間なら、トラウマを植え付けられてもう二度とゲームに関わろうとはしないだろう。

しかし自分にとってどんなに酷な苦しみを感じても、嫌なことから逃げられる最良の場所はこの仮想世界しかないと改めて思うだけだった。

私は現実世界がもっと酷な世界だと知っている。

 

「あ?なに見てんだお前」

「んだコイツ」

 

そうは思っていても、一切表に出した事はないつもりだがそれらを壊していく人々に対して想う事はある。

現実に叶うはずのない恐ろしく悍ましい思考だ。

本当はこんな感情を持つべきではないと自覚はしている。

 

 ……もし一つ――

 

「ぶっ殺してやろうか、あんたら」

「なんだコイツ!」

 

 この心情を消すことが出来るものがあるとしたら

 黒と灰色に染まった絶望の現実世界においても存在するかは分からないけど

 

「キモッ!」

 

 きっといつか、私の在り方を変えてしまう程の力を持った大きな希望となるそんざ――……ん?

 

「モンスター?!」

「やべっ モロにくらっちまった!」

「うるさいよ、こっちは腸が煮えくり返ってんのよ」

 

【ぶくぶく茶釜様にパーティー招待されました】

 

「大丈夫、大丈夫だから。もう大丈夫だからね」

「…あ……ぇ?」

 

一体今何が起こっているのか全く分からないが、目の前に居る卑猥な形をした桃色の粘体がどういうプレイヤーなのかだけは直感で理解できた。

根拠など一欠片もないが、こんな唐突に見ず知らずの赤の他人に対して投げかけられた言葉が、私のボロボロにされていた心の傷を癒してくれるのを感じてしまった。

心の底からの嘘偽りない真心の言葉……とても可愛らしい声だった。

 

 

 

 

状況は激化していた。

いきり立った卑猥なアレが、相手の攻撃を避ける、盾で弾く、防ぐ凄まじい攻防を見せていたが多数に無勢。

 

「ぬうぅ……」

 

しばらく経過した戦闘は徐々に押されてきているようだった。

その最中、粘体は私に投げかけた時の感じとは真逆の低音のあるドスの効いた声色で叫んだ。

 

「愚弟!命令、モモンガさんとたっちみーさんに救援呼んでこい」

「た、たっちみー?!」

「お、おい!このキモいのって……」

 

粘体は唸りながらも私を庇うように戦い続けてくれた。

打たれても打たれても決して私より後ろに退かず、本気で戦う者の姿だった。

その鮮烈な戦闘の光景に、初めてユグドラシルをプレイした時の感動とも違う、生命に満ち溢れた生物達や、神秘的な景色を作り出す山々と水の世界や幻想的な建造物を見た時の感動とも違う……幼少期に一度だけ体感した事がある、不思議で不気味な高揚感を感じ得ていた。

訳も分からず、自分も何かしなければいけないという気持ちに染まっていくこの感覚は、今この状況に何が必要なのかを考えさせた。

 

「見物とか…無理」

 

今更になってパーティー招待のメッセージを受けとり、初のパーティープレイに挑む。

 

「おっ?!」

 

私が出した答えは、単純に参戦してしまう事だった。

それが逆に邪魔になったり足手まといの種に繋がってしまうだろう安直な考えかもしれないが、直感で敢えてそうする方が良いと思い至ってしまった。

というかとにかく体を動かしたくて仕方がなかった。

咄嗟に自身のスキルを大急ぎで探りだす。

 

ライト・ヒーリング/軽傷治癒

クイック・マーチ/足早

 

「こんな支援しか出来ませんが、微妙なアイテムなら沢山あります!」

「ありがと!っしゃぁまだいけるでぇー!」

「あいつ…!」

「さっさと殺れ!」

 

私が動いたことによってターゲットが自分に集中し、後衛から光の矢が放たれる。

これは予測していた。

相手の動きに合わせて行動に移ろうとしたが、

 

「はいプレゼント!」

 

粘体が私より先んじて、放たれた光の矢を触手の先に持つ小型の盾で相手にそのまま剛速で弾き返してしまった。

 

「ぶっ?!」

「雑魚はほっとけって!」

 

間髪入れず粘体はスキルを発動した。

 

タウント/脅威上昇

 

私に向けられていたターゲット表示が消える。

その代わり、粘体のステータスバーに敵のターゲットが表示された。

おそらく、強制的に敵全体を自身に集中させるものだろう。

 

「ふひひ、ざまーみろ!」

「クソ!」

「早く処理しねぇとやばいのが来るぞ…!」

 

共に戦ってくれる粘体の一連の動きを見て、何となくだがカウンターなどの相手の攻撃を利用した攻撃手段が最も有効打の様に思えた。

 

「……よし!」

 

私は日課のクエストで集めたアイテムをクラススキルで調合し粘体に使用する。

生命力持続回復のアイテムと、ダメージ反射の威力上昇効果が得られる物だが、アイテム等級が低すぎて果たして有効足り得るかどうかは不明だ。

 

「おぉ!いいねそれ!」

「は、ほひ!」

 

激しい攻防の中でありながら一言一句反応してくれる事に嬉しさを感じつつ、自分にもアイテムを使用して予備の装備を装着する。

お気に入りの装備は破壊されてしまったので、変わりにただの木製槍だ。

私が直接相手に介入出来るレベルの戦闘ではないが、やはり自らも戦わずにはいられなかった。

 

「少しでも、とにかく隙をつくれれば……良いな」

 

"こんなのに負けたくない"

そんな気持ちが膨らんで、今まで移動用にしか使ったことがなかった戦闘用の種族専用スキルを発動した。

 

???/次の攻撃の威力3倍・動作2倍・防御値マイナス80%

 

粘体に気を取られている集団に向けて、クリエイトに時間を掛けた自慢の龍の足で慣れた土地を力強く蹴り、粘体の背後に溶け込むようにして敵中のど真ん中に向けて捨て身の踏み込みを行った。

 

「うおっ!」

「は?!」

 

これはただ単に突っ込んでいる訳ではなく、一つの賭けだった。

先ほど粘体が自身にターゲットを向けさせるスキルを使用してからというもの、私に対しては一切攻撃を行わなくなったのが気にかかっていた。

レベル100とレベル25とでは圧倒的差があるのだし、少しくらい私が避けられない様な攻撃を仕掛けてさっさと潰そうとすればいいはずだ。

粘体にターゲットを強制的に向けさせる状態というのは、単に粘体の反撃を警戒して何もしてこないのか、もしくは文字通り強制化の効果によって私に攻撃が当てられないかのどちらかと予想した。

であればこれを確かめ、最大限利用する必要があった。

それも飛びっきりの大胆な方法で。

 

「バーカ!こっち向きなさいよ変態ども!えっと……このハゲ!あとデブ!」

「あぁ?!邪魔なんだよ!」

 

敵の後衛がスキルを発動し、私目掛けて極大の業火の塊が放たれた。

しかし攻撃は当たることなく突然霧散した。

 

「クソ!」

「そいつに打っても無駄打ちで意味がないですよ!先にあのキモいのを最優先でやるんです!」

 

どうやら考えは的中したようだ。

 

「ナイスー!メヘナさーん♪」

「ど、どうも!」

 

誤算があったとすれば私を騙したクソ野郎が焦っているのが見れて良い気味な事だ。

良い気味だが、あいつの言っていた事は正しい。

攻撃が通じないなら、通じるように私を守ってくれている粘体さんを先に始末すればいいだけだ。

そうすれば彼らはこの戦況を打破できてしまう。

 

「粘体さん、後どれくらい掛かりそうですか?」

 

そうさせない為には、私が加勢する少し前に粘体さんは誰かに助けを呼んでいた事を考慮しなくてはいけない。

彼らの反応からして、この不利を簡単に覆せてしまう強力なプレイヤーだと予想している。

危険な賭けに出てまで確かめたかったのも、その人たちが到着するまでの時間稼ぎが出来るかを判断する為であった。

こんなレベル25のちんちくりんが加勢してちょっかいを出したところで、至極僅かな間しか力になれないのが歯がゆいところだが。

 

「愚弟がもう同じフィールドには来てるから、もうすぐだと思う。だから安心して、大丈夫だから。絶対守るよ」

「は……はい」

 

 本当に何の根拠もないけど……この人の声は、心底安心する

 まだ行ける、まだ大丈夫だと勇気付けられる

 

「それなら、私でも頑張れそうです」

 

 来るまでの時間、たかがゲームだとしても命懸けで戦ったあの時みたいに思い切り集中しよう

 こんな奴らに絶対負けたくない

 昔みたいに、少しくらい痛い目に遭わせてやりたい

 私は幼少期から究極の負けず嫌いなんだ

 

 

 

 

メヘナは唐突に攻勢に出た。

敵の後衛に向かって土煙を巻き上げながら踏み込み、勢いと共に繰り出される槍を使った渾身の突きが放たれる。

咄嗟に敵の後衛がスキルを発動する。

 

「あらら、どうぞ自爆してください!」

 

そのスキルはカウンター。

 

この時のプレイヤーの行動は正しかった。

カウンターであれば攻撃として認識されない事を知っていた。

当初メヘナが発動してきたスキルは、ユグドラシルを長く遊び続けてきた彼にとって未だかつて一度も見ることが出来なかったモノであった。

それによる焦りで気が付けず、反応が遅れたが今は違う。

何の夢を見たのか、あろう事か圧倒的差のある自分に対して攻撃行為を行った。

二度もまんまと自分に騙された愚か者に制裁を加える最高のチャンスに、彼は完璧なタイミングでカウンタースキルを発動した。

 

しかし――彼、彼らもまた愚か者であった。

 

この[DMMO RPG ユグドラシル]というゲームには、人体の神経系に電子プラグを差込み、人間が持つ外界を感知する為の五感の内の触覚・嗅覚・味覚を除いた『能力』がキャラクターに投影される。

つまり、それ以外で"個人"が持ち合わせている能力も反映される事から、ゲームという造られた仮想空間上のキャラクターであっても一人一人に絶大な違いが出るケースが稀にある。

一番の違いをこのゲームで言うなれば『身体能力』に対する感性的能力だろう。

 

そして、メヘナ――小方希代がどういう『身体能力』を持った人間であるか。

 

彼女は幼少の身の頃から自分と大きな『差』を持つ存在に対して、身体能力と人間観察能力を活用して生死の極限世界を生き抜いてきた。

その世界の渦中において開花された力、幼少の身で大の大人数十人を容易に殺害出来てしまう能力がこのユグドラシルの仮想世界に表れた場合に、果たして一体どの様な事が起こるのかは誰一人も知らない。

 

「――メヘナさん!」

 

槍の先端が魔法で生み出された大型の盾に触れ、容赦なくカウンターが発動された。

 

その刹那、メヘナは槍を手放し身体を真横に瞬速で回転させ、踏み込みよって前進する勢いを完全に封殺した。

 

「――は?」

 

完璧なタイミングで発動したはずのカウンターは槍のみを吹き飛ばす容で終わり、盾は虚しくも大きく空を切った。

 

「え……うそ……なにそれ」

 

カウンターというのは相手の攻撃に合わせて寸分の狂いなく発動させる事で、自分のHPを減らすことなく相手に倍加した致命的ダメージを負わせる事ができる。

しかし失敗すればその代償として大きすぎる隙を相手に曝け出すハメになる。

カウンターのカウンター、これが起きてしまえば相手は最早ただの的である。

 

間髪の間もなくガラ空きになった正面側、顔面目掛けて強靭な龍の手が鷲掴み、視界を妨げた。

 

「ぶわっ!」

 

同時に、大地は天空からの極光に照らされた。

 

「う、上だ!」

「もう来てるぞ…!」

「愚弟おそい!」

 

空かさず粘体は一日に一度しか使えないとっておきのスキルを発動する。

 

メス・タウント/脅威最上昇+攻撃・防御・敏捷低下+スタン効果

 

こんな美味しい隙を粘体は確実に逃さない。

 

「あああ!どけやぁぁ!!」

 

視界を塞ぐ手を振り払おうとするが、粘体のスキル効果によって鈍速だ。

メヘナは掴んだ相手の頭部を起点に自分の体を天高く浮かせ容易く躱し、そのまま敵の前衛に降り立つと、肩を静かに揺らしながら近づいていった。

 

「んな、なんなんだよおまえ!」

 

メヘナは無言のまま拳を繰り出した。

 

「うあっ?!」

「ひぃっ…!」

 

これは直接的ダメージを与える事を目的とした攻撃ではなく、人間は未知の脅威を見た時、晒された時、本能的に自己防衛に働く作用を利用した只のブラフであった。

 

「な、何をしているんですか!逃げますよ!」

 

仲間の声に咄嗟に伏せてしまった顔を上げ、視界が捉えた光景は、

 

「あ…あぁ…」

 

蒼い空を後ろに赤いマントと大翼をなびかせるバードマンから放たれる極太の光線。

 

「外すなよ愚弟!」

「全部は無理っす!」

「えー……」

 

降り注いだ光線は敵数人に振り注ぎ、プレイヤーを霧散させた――。

 

 

先ほどまで激しかった戦場に静寂が訪れ、地に降りたバードマンが辺りを警戒していた。

 

「あんくらい当てろよ、ねぇ。逃げられてんじゃん」

「す、すんません!」

「愚弟よ、謝って済むならたっちさんは要らんで?」

「勘弁してください…。てかあの人誰?」

「――……後で言う」

「……うい」

 

粘体の濁した返答にバードマンはそれ以上詮索しなかった。

こういう妙な間のある返答をする時は決まってかなり不機嫌な時だからだ。

ゲーム以外でも勿論のこと、このバードマンは常日頃からぶくぶく茶釜の弟として姉の言動というもの見てきており、ゲームというフィルター越しであっても喋り方一つで姉の不機嫌な理由も把握できる。

そして姉がこれから地べたに大の字でぶっ倒れている見知らぬプレイヤーに何をするのかも。

 

「いってら。俺はあの二人に連絡いれとくわ」

「りょーかい、んじゃね」

 

姉は弟に軽く触手を振りながら、メヘナへ労わりの言葉を投げかける。

 

「おつかれ、補助とか良かったよ!ありがとね~」

「………」

 

メヘナは言葉を発しなかった。

何故なのかは大いに理解できる。

彼女がどういうタイプの人間で、その心身に何が起きたのかを大方知っているからだ。

 

「大丈夫?」

「………」

 

周囲の静寂さから僅かに聞こえたすすり泣く声に、ぶくぶく茶釜は己を責めていた。

 

「…無理はしないでね」

 

メヘナがあそこまで精神的に追い詰められたのは自分のせいでもあると自覚しているからだった。

 

「……ぁえと…あ、あり………ありが「待って、メヘナさん」…え?」

 

だからこそ、その言葉を言われてしまう前に伝えなければならない。

自分が彼女にした事と、彼女の心を救うための言葉を。

 

「あのさ、あたしね。あなたに謝る事があるんだ」

 

 

 

 

あの取引相手に裏切られた時の事を思い出すと喉の奥に力が入るだけで、何も言葉が出なかった。

真横で優しく声を掛けてくれる粘体さんの存在が居たたまれなくて堪らない。

助けてくれた恩人――ぶくぶく茶釜さんが自分を気遣ってくれているのは分かっている。恩人相手に寝そべったまま何も言わないのはモラルに欠けている事も重々承知だ。

 

ぶくぶく茶釜さんと自分との関係性はどうであれ、助けてくれた事に間違いはないし、偶々自分の運が良くなくて、質の悪い人間に巡りあっただけなのかもしれない。

人とコミュニケーションを取る事の楽しさがあるのも分かっているつもりだ。

 

「ぁえと…」

 

『大丈夫、大丈夫だから。もう大丈夫だからね』

だからあの時の言葉は凄く嬉しかったし、しっかりと覚えている。

ぶくぶく茶釜さんが自分を助けてくれた事、今の状況を見ればあれは嘘でもなんでもないのだ。

 

「あ、あり………」

 

もう結果がどう転んでも構わなかった。

この言葉だけでも伝えたい。

 

 ……頑張れ私

 

「待ってメヘナさん」

「え?」

「あのさ、あたしね。あなたに謝る事があるんだ」

「……はい?!」

 

 ガバッ! みたいな効果音が聞こえてきそうな物凄い勢いで体を起こしてしまった

 ちょっと恥ずかしい。

 まさか謝まられるとは微塵も思わなかったんです!

 

「何で謝るんですか!」

「あのね、実は――」

 

かなり急で驚いたが、それからぶくぶく茶釜さんは解りやすく補足も付け加えながら話てくれた。

まず、私が取引をサーバーチャットで発言した時から物珍しさに何気なく見に来ていたらしい。

物珍しさと言われてどういう事か訪ねてみれば、ごく一般的に転移魔法のアイテムというのは頻繁に使用する機会がある消耗品な事から、チュートリアルさえ終わってしまえば何処に行こうが何処に居ようが幾らでも入手出来てしまう品物らしい。

つまり、普通に考えれば当然チュートリアル何て終わらせているはずのレベル25の私が、わざわざ課金アイテムでサーバーチャットを使ってまでチュートリアルの初期エリアで転移魔法のアイテムを買いたいという取引募集をするのは不自然な話だったのだ。

物珍しいと言われれば聞こえは良いが、私がやっていた事は誰が見てもただの怪しい商売でしかなかった。

 

そして実際に見に来てみれば、カルマ値-500のプレイヤーと取引をしていたのを発見し、

"訳が分からないよ"状態に陥ってしばらく監視していたという。

私がプレイヤーの情報を見た際にカルマ値は+500だったと説明したが、あれは偽装なのだと教えてくれた。

カルマ値を偽装しているプレイヤーとレベル25なのに初期エリアで悠々と取引をする二人。

確かにこれは訳が分からないよ状態だ。

 

さらには1人で現れたのにパーティーを組んでいる事も偽装しており、辺りを調べてみれば潜伏中のカルマ値-500のプレイヤーを4人も発見したのだと。

そこで初めてあの状態の意味を理解し始め、すぐに警告なりと手助けを出したかったが、事が起きてもいない段階で動いて難癖を付けられると厄介であったからだというのも納得できた。

 

ではいざ事が起きてからはどうだったのか。

それはぶくぶく茶釜さんが加入するギルドが有名処である事から、あまり軽率な行動が出来ない状態であったのと、5対2という状況で安全に助けられるかの見込みがかなり低く、共倒れになるという最悪の事態を危惧して結果的にはそのまま暫く眺めていただけだったのだという。

 

「――本当にごめんなさい」

「い、いえそんな全然!不利な状況に身を投じて、今こうやって助けて貰った私が居ます!ぶくぶく茶釜さんには何も悪いことなんてないです!」

 

 色々と事情を聞いた上でハッキリと言うが、これは嘘偽りなど全くない私の本心だ

 なぜかって?

 もし自分がぶくぶく茶釜さんの立場ならどうだ?

 私ならPKをされているプレイヤーを見かけた時、関わりたくないという気持ちで逃げていただろう。今までだってずっとそうしてきた

 もしぶくぶく茶釜さんの話に嘘があったとしても、助けて貰ったという事実がある限り私が怒りや悲しみを感じるなんて以ての外だね

 それにぶくぶく茶釜さんには感謝の気持ちは勿論のこと、尊敬の念すらある

 この話だって、わざわざ自分から切り出して話さなければ私には分からなかった事だし

 

突然妙な例え話をさせて貰うが、自分を善人だと思っている人間程偽善者になっている事に気がついていないケースが多々ある。

言うなれば、誰かの為にと思っていても自然と自分の非や不利益を受け入れず行動しているという事……私もその人間の一人だ。

 

かといってそれが悪いと言いたい訳ではないのだが、ただ私がこの人の事を本当の意味での善人だから尊敬している。

 

「あなたの事はなにも悪いだなんて思いません。だから、謝らないで下さい」

 

 そんな意味を込めてぶくぶく茶釜さんの謝罪をお断りしてやった。当然だね

 こういう仁義に厚そうな方が私みたいなのに気を遣わせるなんてさせたら、この人が損しちゃうよ

 

「そっか…。何かアレだね、こういう話しをしといて言うのもなんだけどメヘナさんってすぐ騙されたりするタイプ?」

「え゛っ……」

 

 真面目な話をしていたかと思えば、唐突に心の傷を鈍器で抉られた気分にされました

 別にそれで不快にはならないけど……ドストレートすぎて何か新たな扉を開きそうデス

 

「あいや、深い意味はないんだけどさ。人が良いって言えば聞こえが良いかもだけど……こう、うん」

「は…はぁ……」

「そういえばさっきの戦い凄かったね!全然初心者のレベル25の動きとは思えないくらいカッコよかったよ~!」

 

私が言うのも何だが、ぶくぶく茶釜さんは少し変わり者だと思った。

自分のキャラクターの見た目を卑猥なアレみたいなのにしてるのもそうだが、裏表がない人物というべきか。接しているだけで少しずつ気持ちが軽くなっていく所や、ゲームのキャラクターなのにコロコロと変化する雰囲気が伝わってきて、簡単に喜怒哀楽が分かる部分に不思議な包容力を感じられる。

 

「あ、あるぇは……ぶっ、ぶくぶく茶釜さんを見ていたら体を動かしたくなったというか」

「ふ~ん、なるほど?メヘナさんってけっこー脳筋なの?あとぶくぶく茶釜っていうと長いから茶釜ちゃんでいいよっ」

「で、では茶釜ちゃ……さん。その、のーきん?とは?」

「んっと、戦いが好きで好きでしかたねぇ!オラわくわくすっぞ!みたいな感じ?」

「ぶふ」

「笑ってんじゃねーぞ愚弟」

「ハイ。でも確かにメヘナさんの動きはヤバかったなぁ。サブアカウントとか?」

「いえ……そんな…全然。鳥人間さんもご冗談を…アハハ」

「と、鳥人間だと……」

「謙遜しなくていいのに~。メヘナちゃんリアルで何か武術的なのやってそう」

「や、ややややってませんよ?!普通の会社員で家では引きこもりでゲームばかりしてます!はい!絶対に!」

「え~~……うそーん」

 

そして先ほどから不意に核心を突いてくる様な発言に変な汗が止まらない。全く悪意を感じないから全く予測が点かなくて焦る焦る。

これについては決して迂闊に教える事は出来ない内情だ。

私はこのゲームには独特なシステムの影響が色濃く出る場合があるのは、幾度ものPKに遭遇した事から薄々気がついていた。

あの圧倒的差のある5人組PKプレイヤーに大立ち回り出来たのもそのお陰だと思っている。勿論、茶釜さんの存在があっての結果だが。

だが私はあんな行動を封印してユグドラシルライフを満喫したいのだ。極力身バレする危険は避けたい。

すぐに別の話題に移した。

 

「そういえば、鳥人間さんのお名前をまだお伺いしていませんでした。あなたも助けてくれたのにすみません」

「せめてカッコよくバードマンと呼んでくださいよ……。なんかそれだとアホっぽいんで!」

「イイじゃん別に、アホなんだし。それよりメヘナちゃんって何歳?趣味は?」

「ひでぇ……」

 

 何だろう、ぶくぶく茶釜さんが私とバードマンさんとで話すときの温度差が極端に激しくて可哀想な気がする……でも何故だか微笑ましい感じ

 

「えっと……それは」

「色々知りたい!気になる!私生活とか好きな下着の色とか」

「し、下着ですか!」

 

 ちょっと訂正しよう!

 変な質問があった!

 あ、でもこの質問のシチュエーションちょっと憧れてた

 なんかガールズトー……ガールズって言える年齢ではないけど女の子同士の会話みたいだからね

 そしてこの質問には是非ともこう答えたい

 私の好きな日本の古い時代の下着、そう"アレ"だ!!!!

 

「"湯文字(ゆもじ)"なので、緋色ですかね」

「ぶっふぉっ!?!」

「え?湯文字って何。紐パン?てか何で愚弟は吹いてんの?」

「オレハノーコメントデス」

「あ、あれ?ご存知ないですか?」

「知らないなぁ。でも緋色って聞くとオバハンのパンツみたい」

「オバハン!?何てことを!かの有名な戦国時代でも着けられていた下着ですよ!」

「へー……クサs…じゃない、すごそー…」

 

 あ、これ全然興味持ってくれてない

 オバサンのパンツみたいとか、臭そうとか……か、悲しい

 理想の女子トークが木っ端微塵だよ!

 

「い、今のは全部冗談ですので……」

「そうそうメヘナちゃん」

 

 わぁ凄い全然聞いてくれてない!!

 

【ぶくぶく茶釜様からフレンド招待が送られました】

「これ、よろしく!」

「あ……」

「ダメかな…?」

 

一瞬、あの時の嫌な事が頭に浮かんで空白の時間が流れた。

でもそれは至極僅かな時間だ。

あなたのそんな悲しそうな声は聞きたくない。

 

「いえ」

 

【フレンド登録を受理しました】

「宜しくお願いします、茶釜ちゃん」

「こちらこそよろしくね!メーちゃん!」

「あの時は助けてくれてありがとう」

「どういたしまして♪」

 

一連の他愛ない話とやり取りに華を咲かせた中で、どんどん茶釜ちゃんに惹かれていった。

優しさも感じる反面、毒っ気も有りながら悪気を感じない2面性だとか。

簡単に言えば茶釜ちゃんの事が好きになっていた。

信じる信じないは別として、もっとこの人の事を知りたい、仲良くなりたいと思えていた。

素直な心持ちで楽しむことが出来るこの時間を与えてくれるこの人は、私にとって生涯で初めて出会うであろうくらいの魅力的な存在かもしれない。

 

「あのぉ~姉貴よ、そろそろセーフハウスには移動しようぜ。20分は長すぎる」

 

どうやら本当にしばらく話し込んでいたらしい。

夢中になってもう一人の私を助けてくれた……えーっと、バードマンさんの存在が頭から抜けていた。

 

【モモンガ様がパーティーに参加しました】

【たっち・みー様がパーティーに参加しました】

 

失礼な事を考えていると、緩む私の心に喝を入れるかの様に新たな二人のプレイヤーが駆けつけてきた。

 

「いた!茶釜さん!」

 

豪勢なローブに身を包み、漆黒のオーラを纏う巨大な躯体の骸骨と

 

「たっちさん周囲の確認を!」

 

背後に表示される"正義降臨"の文字と肩に掛かる真紅のマントが特徴的な白銀鎧の聖騎士だった。

 

「もう済ませました」

「デスヨネー」

 

 

 

 

「なるほど…そんな事があったんですか。何にせよ無事でよかったですよ。でも、次からは気をつけてください。特に茶釜さん」

 

私達は最寄りのセーフゾーンに集い、5人揃った所で改めて自己紹介を行い、事情説明は茶釜ちゃんがしてくれた。

この如何にも歴戦の猛者感のある二人のプレイヤーは、『アインズ・ウール・ゴウン』というユグドラシルでは超有名なギルドのギルドマスターであるモモンガさんと、そのギルドメンバーである たっち・みーさんだ。

 

「へ~い…でもメーちゃんが…」

「いや姉貴の言いたいことは分かるけど、さすがにモモンガさんとたっちみーさんも一緒にって言われた時は何事かと思って急遽でお願いして来てくれたんだからな?」

「露天取引中にペロロンチーノさんから怒涛の助けてチャットが来た時は驚きましたよね」

「私はモモンガさんの慌て方にも驚きましたがね…」

「取引って…ご多忙の中なのに!ご、ご迷惑をおかけしましス!すみまん!……あ」

 

 す、すみまん?!

 すみまんってなんだろううぅぅアァァァ!

 

このアインズ・ウール・ゴウンというギルドの事はユグドラシルの攻略サイトの至る部分で見た事があった。

余りの書き込みの量に嫌でもこの名前が端々に出てくる程だ。

有名ギルドと言ってもただ規模がデカいとか大所帯っていう意味合いの有名ではなく、普通とは全く異質で次元の違う有名ギルドなのだ。

詳細は省くが、一言で纏めるなら『やべぇ奴ら』だ。

 

そして私以外の4人がそのギルドメンバーであったという事と二重にも迷惑をかけてしまった事への罪悪感も手伝い、私はかなり緊張して常時挙動不審だった。

 

「アー ゴホンッ……それにしても何て悪質なプレイヤーだ。恐らくはここ最近耳に聞く性質(たち)の悪いプレイヤーの仕業だろう。…許せないな」

 

白銀鎧の聖騎士、たっち・みーさんが怒気を込めて呟く。

然りげ無くフォローを入れてくれるたっち・みーさんからは紳士オーラが滲み出ていた。

 

 ふぅ…素敵、でも奥さんいるんですって

 

「えぇ、そうですね。ここら一帯は新規向けのフィールドなのに、わざわざ出向いてまでそんな事を……なんて奴らだ」

 

一方こちらに逐わす魔王様は先ほどからかなりご立腹のご様子。

非常に恐ろし気な雰囲気ではあるが、カッコいいの方が先に発つ感じだった。

 

 素敵、あらやだ独身ですって

 

「まぁまぁ落ち着いてモモンガお兄ちゃん☆」

「頑張ります。――ちょっとだけ」

「うんうん。冷静に穏便にね~」

「じゃあ冷静に穏便に話し合いでもしときます」

「あ、いいすねそれ」

 

こっそり茶釜ちゃんが教えてくれたが、アインズ・ウール・ゴウンは悪名高くてPKも平気でするギルドではあるけど、あいつらみたいな最低な事はしないんだとか。

モモンガさんは過去に私と似た嫌な経験をした事もあって、大義なき非人道的な行為を原則厳禁としているらしい。

但し、ギルドメンバーに手を出したプレイヤーには問答無用で全力を以て叩き潰す事がモットーのようだ。

後日とある骨と鳥のプレイヤーの手によって、とある5人組の人間種族が消息不明になっても

"気にしないでね"って念を押されて言われたのがちょっと怖かった。

 

「本当に皆さんありがとうございます。助けてくれた上に壊された装備品まで直してくれて……」

「気にしないでください。私たちは修理に必要な素材を渡しただけですし。それに、これは大事なギルドメンバーを守ってくれたお礼です」

「キャー!大事な人だなんて…モモンガお兄ちゃんから告白されちゃった☆どうしよ~メーちゃん?」

「えぇ…?」

「してませんし違います」

「はい」

「アハハ…」

 

モモンガさんの茶釜ちゃんの悪ノリを軽くあしらう姿と言動を見ていると凄く打ち砕けた感じの仲の良さというか、何だか少しヤキモチしてしまった。

 

「――フム」

 

そんな私の心情を読み取ってなのかは分からないが、モモンガさんは私をジッと見つめていた。

 

「な、何か…?」

「あぁ、すみません。少し気になる事がありまして、もしかしたら皆も思っている事だとは思うのですが」

「モモンガさんも相変わらずですね。でもそれは私も気になっていましたし、是非とも知りたいところです」

「そんなにですか」

 

少しだけ考えてみたが、こんな有名人達が気になる事が何なのかは予想が付かない。

レベル25のへっぽこが気に掛けさせる事なんてないと思うのだが、何の気なくお尋ねしてみる事にした。

 

「ん~…なんでしょう?」

「それはメヘナさんの……あいや、止めておきましょうか。下手するとゲームだけの話で収まりそうにありませんからね」

 

 ……あ、終わった

 

「さすがモモンガさん、あたしもそうするべきだと思うよ。メーちゃんもそれが良いでしょ?」

「あびゃ…ぶえ…へへ」

「メ、メーちゃん?」

「メヘナさん?」

 

レベル25のへっぽこが一体何をしたのか。

改めて気がつかされ、焦りすぎて思考が崩壊した。

 

「あぶぶぶぶぶ」

「助けてモモンガお兄ちゃん!メーちゃんがバグった!」

「え、えぇ!?助けてって……た、助けてたっちさんんん!!」

「これは……オホンッ。メヘナさん自身言われて気がついてしまって動揺しているパターンでしょう」

「……!」

「あ、止まった」

 

私は"はいそうです"とばかりに黙って激しく頷いて答えた。

 

「お、おぉ」

「安心して下さいメヘナさん。質問しといて何ですが、答えたくなかったら答えなければいいだけですから」

「うんうん。それにメーちゃんの事情はもうあたしらから聞くことはしないよ」

「はい……すみません。そうして頂けると助かります」

「メヘナさんってお茶目っつうか、面白い人だよな。ウブい」

「愚弟の癖に分かってるじゃないか。褒めてつかわす」

「クソ……上から目線が腹立つ…」

 

アインズ・ウール・ゴウンの皆さんはとても親切な方達ばかりだ。

茶釜ちゃん然り、モモンガさんもたっちみーさんもペロロンチーノさんも、少し会話した限りでは全く嫌な印象を受けない。

とても攻略サイトの掲示板に散々な酷い様子の書き込みをされている張本人達とは思えなかった。

恐らく、悪名高い理由なんかもアインズ・ウール・ゴウンのモットーなどから生じる因果から逆恨みを買っているだけだろうと思った。

 

「ねね、モモンガさん。市場に行ってたんなら今からナザリックに帰るんだよね?」

「そうですね。仕入れたアイテムの実験をしたいので」

「それならメーちゃんも一緒に連れて行っちゃダメ?」

「わ、私もですか!?」

「またえらく唐突ですね…」

 

 私もそう思う

 相変わらず茶釜ちゃんは唐突に話を振ってきたりする

 でもそういう突拍子もないところが好き

 何かまるで私を無条件で信用してくれているからだって錯覚させられるんだもん

 

「話聞いて分かってくれてるとは思うんだけど、メーちゃんって未知なる新発見みたいなのが好きなんだよ。それで友達としても個人的にも色々体験させてあげたいんだぁ。だからぁ~モモンガお兄ちゃぁん、おねが~い♪」

 

 錯覚なんかじゃなかった?

 あぁ、茶釜ちゃんってば……天然の女たらしね

 猫撫で声で頼むところもあざと可愛いし…ハァ、ホント好き

 気持ち悪くても自重しませんよ!

 

「ふむ……まぁそういう事なら良しとします。でも事前に言っておきますが見るだけですよ?茶釜さんの狙いは別にあると見てますので」

「チ……勘の良い骸骨は嫌いだよ。塩まくぞ」

「やっぱりですか…あと塩は撒かないでください」

「狙い?」

「姉貴は遠まわしにメヘナさんをギルドに入れてって頼んでるって事ですよ」

「ギルドって…茶釜ちゃんが私を!?」

「当たり前でしょー。ギルドの皆とも合わせて一緒に遊びたいのさぁ」

「あ、ありがとうだけど……」

「もしかして嫌だった?」

「違うよ!ただ私が入っても絶対力になれないし……あいやその、貢献的な意味での話ですけど。何にせよ急に加入するっていうのは色々と問題が出るんじゃないかと心配なんです」

 

狂喜乱舞しそうな程嬉しいが、それでも私が加入した事が切っ掛けでギルドマスターのモモンガさんを困らせてしまう様な事は受け入れられない。

何かしらの団体を管理する役職の存在というのは個人の主張や意向を素直に認める事が出来ない立場にあるもの。

複数の意思が交差する団体環境で無闇にそれをすれば当然個人同士の意思が衝突し、均衡が崩れてしまう可能性が非常に高い。

もしそうなってしまえば、アインズ・ウール・ゴウンがこれまで築き上げた大事な思い出や縁の繋がりを私を推薦した茶釜ちゃんのせいで破壊した――何て話になりかねない。

きっとモモンガさんはギルドメンバーの事を大事に思うからこそ、茶釜ちゃんの意向を汲んであげたい自分の気持ちと、ギルドマスターとしての役割とで葛藤して渋い反応をしているのだろう。

 

「ぬぅぅ……」

「ごめんなさい、茶釜ちゃん。せっかく申し出してくれたのに」

「ぐすん。良いんだよ…。素直に諦めるよ。ぐすんぐすん」

「あぁぁ…泣かないで茶釜ちゃん!一緒に遊ぶことだけなら出来るんだよ?」

 

そう、同じギルドに入れなくても、自分の事そっちのけにでもして茶釜ちゃんと遊ぶ時間を最優先で作る様にすればいいのだ。

その為にも頑張って強くなって、まともに一緒に遊べられる様にしていかないといけない訳だが、私がいつまでも嫌な事から逃げてばかりではそれは実現出来ない。

ここまで来たら、覚悟を決めなければならないだろう。

 

「私頑張って強くなるから!ね!」

「まぁまぁ二人とも、その判断は早計ですよ」

 

しかし私の覚悟とは逆に、たっちみーさんの見解は違っているようだった。

 

「早計…と言いますと?」

「肝心なのはギルドメンバーにメヘナさんが加入する事の重要性を掲示して、しっかり納得させる事が出来ればいいんです」

「なるほど?」

「そうでしょう?モモンガさん」

「仰る通りです。たっちみーさんがそう言うって事は何か策が?」

「勿論。ではまず、メヘナさんに今から私が全部ゲームに関連する事で幾つか質問等をします。当たり前ですがリアル事情とは一切関係ありません。聞いても大丈夫ですか?」

「は、はい!」

「ありがとうございます。ちなみに返答するしないも自由ですが、メヘナさんがどれだけ答えられるかによって茶釜さんの願いが叶うかどうかに大きく影響します。それも頭に入れておいて下さい」

「分かりました。そういう事なら任せてください!」

「嬉しい返事ですね。ではまず一つ目、メヘナさんが今回のPKプレイヤー相手に使ったスキルは種族専用スキルでしたね?」

「はい、そうです」

「そのスキルを発動した時、相手はどんな反応をしていましたか?」

「えっと……うーん…たぶん、驚いていた…?様な気がします」

「驚いていた、ですか。次に二つ目、種族名について教えてくれますか?」

「あれ?私のステータスとかってもう皆さんにはお見せしたと思うんですが」

「確かに見せてもらいました。ですがある一点の情報だけ見れなかったんですよ」

「ん、ん……?見せたのに見れなかった?」

「あー、そっか。たっちみーさん、メーちゃんは完全な初心者さんだと思って説明してあげて」

「もしかして茶釜ちゃん…私ってここでもチュートリアル村の引きこもり弊害が?」

「うん。バッコリと!」

「ハァァ…すみません、たっちみーさん」

「いえ、こちらこそ失礼しました。そういう事なら一旦モモンガさんにお任せしてしまいますかな。説明上手ですし」

「デスヨネ、分かってましたよ……。えーそれではこのゲームのシステム面から説明しましょうか」

「お願いします!」

 

曰く、基本的に同じギルド所属やパーティーメンバー以外のキャラクター情報は、スキルやアイテム等を使う事で初めて詳細まで知る事が出来るシステムとされており、もし別の手段で知ろうとする場合は直接本人から教えて貰うか、或いは他に知っている人から聞かないと分からないものらしい。

だがそうだと分かったところで新たに不明な点が出てきた。

私は既にここに居る皆にキャラクター情報については教えている。

それなのに分からないと言うのは不可思議である。

 

「――つまり、改めてたっちみーさんが私の種族名について聞いた理由は、その種族に原因があるんですね?」

「まさしくそうです。少し前の話に遡りますが、私達がメヘナさんの事について気になる事がある、と言っていましたよね」

「はい」

「あれは基本システムに伴なっていない現象が発生していると思ったからです。メヘナさんが行ったあの大立ち回りな事が可能なのはこのゲームの開発スタッフとか運営だとかのそっちの人であるか、もしくはこのゲーム特有のゲームシステムを無視するかの様な、急に出てくる特別な何かを持っている人なんですよ。所謂ゲームバランスブレイカーですね」

「…その何かって……」

「あ、ここでいう特別な何かっていうのは身バレ云々の話じゃないですよ」

「そそうです…よね!」

 

このモモンガさんの言い草から、暗に私がその事について焦ってたのはお見通しだったと分かってしまった。

同時にこの人達の親切な配慮と優しさが感じられて、凄く暖かい気持ちになれるギルドはそうそう無いのではと思えた。

変に包み隠す様な事をしなくても、ここならば皆寛大に受け入れてくれるのではないかという期待が膨らんでくるのだ。

茶釜ちゃんの気持ちに答えたいのも一番だが、個人的にもこのアインズ・ウール・ゴウンに入ってみたい気持ちが強く芽生え始めていた。

 

「よーし…!それじゃあとりあえずは情報を全部言って伝えるようにした方がいいですかね!」

「嬉しい進言ですが、ここだと都合が悪いのでそれはナザリックに帰ってからしましょう。ギルドメンバーの説得もこれだけネタがあれば後で大丈夫だと思います」

「っしゃぁ!さすがモモンガあんちゃんやでぇ!」

「なんで関西弁なんだ。てか方針は分かったんだけどさ、たっちさん質問の続きいいんすか?」

「問題なしですよ。モモンガさんの口ぶりだと私のやらんとしていた事は察しているでしょうから」

「そりゃあんな質問の仕方してたら誰でも分かっちゃいますよ。ハッハッハ」

「とか言ってるけど結構前から分かってたっしょ。これだからムッツリわ」

「やかましいですよペロロンチーノ君」

「私もペロロンチーノさんと同意見です」

「くっ………メ、メヘナさん。仲間がプレイヤーから攻撃を受けています。助けてくれますか?」

「へっ!?」

 

トントン拍子に話が進み呆けてしまっていたが、この言葉にはドキリと心臓が大きく高鳴った。

 

「PK…ということですよね」

「えっ?まぁ…メンタル的な意味で言えば……そうですね」

「もちろん、助け……あ…」

 

自分が今まで行ってきた事が脳裏に過ぎり、言い淀んでしまった。

何の躊躇もなく、己が意思で自ら身を投げ打ってでも助けに入れるのかと考えた時、どうにも今の自己保身優先な自分の考え方では、それは余りにも安直で無責任な返答になると感じた。

参戦したあの時も、助けたいとか守りたいという考えからではなく、不思議な高揚感からただ闇雲に力になりたいという自己心から来るものだった。

こんな偽善者の塊の私が自分以外の人の為の力になんて成れる訳がないと思ったのだ。

 

「ど…どうしました?」

「………」

 

先程からこの話の流れを汲むに、もしかしたら本当に私はアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーとなるかもしれない。

これは非常に嬉しい事だ。

しかしだ、しかしそうなった時にこのままでは茶釜ちゃんどころか仲間を一人も守れないし大切にだって当然出来ない。

そんな事が在っていい訳がないとは思うが、私には仲間を守るというのが具体的にどういう事なのか知らない上、その術も現状持ち合わせていない。

 

「……それについてはすぐに答えられないです」

 

だったらどうするべきなのか。

こんな私にも出来ることと言えば何か。

 

「ちょあの、メヘナさん?」

「仲間を守る術もその方法も知らないから、今は答えられないんです」

 

きっとこれだと思う。

至極簡単で至極難しい事。

 

「なので!しっかり勉強して、沢山強くなってから答えます!」

 

仲間の為に力に成れる存在に自分を変えればいいのではないだろうか。

 

「「「………」」」

 

しかし必死に絞り出した答えに誰も反応してくれず、静寂が訪れる。

 

「あっ……」

 

そして察した。これは失態を犯した可能性があると。

私の発言は捉え方によっては"それまでは助けられません、知りません"と言っているとも受け取れる。

深く考えすぎかもしれないが、あの件から自分の人間観察能力に自信を失っていた私は、一先ず謝罪するべきだと判断した。

 

「ごめんなさい。失言でしたか?」

「メーちゃん、謝ることとか何もないよ?アレはモモンガさんのただの悪ノリみたいなものだったんだからさ」

「悪ノリ…そうなんですか?」

「そうだよ~。皆ちょっとビックリして黙っちゃっただけだから、もっと気軽な感じで大丈夫!」

「モモンガさんも他意があった訳ではありませんからね」

「ギルドメンバーの癖が強すぎて、メヘナさんの反応の新鮮味につい俺も妙なテンションに」

「良い意味で、改めてメヘナさんが面白い人だってのを再認識したくらいっすよね」

「そういうのを聞いて安心しました……」

「さて、話は一旦これくらいにして、もう移動しましょうか」

「はい!」

「んだね~」

 

やはり私の人間観察能力は機能していないらしい。

命の危険が脅かされる事が随分少なくなった現在の環境に馴染んできているおかげで、昔に比べてその能力の有効度は低くなっているのもあるだろうが、

仮想世界上の人間―― ゲームのキャラクター相手には、より活かされる機会が少ないようだ。

これが良い事なのか悪い事なのかは一概に言えないが、アインズ・ウール・ゴウンの人達を前にはあまり関係ないのかもしれない。

私の中でギルドに加入したいという気持ちが、一層強い意思で目標と生っていく。

 

「モモンガさん、一つお伺いしたいのですが」

「ん?なんでしょう?」

「ナザリックというとアインズウールゴウンの皆さんのお家ですよね?」

「ええ。正確にはナザリック地下大墳墓です」

「おおおぉぉ……!」

「メーちゃんなんか嬉しそうだね?」

「はい!そりゃもう大いに!」

 

そして同時にこんな素晴らしいギルドメンバー達が作り上げたギルドホームなるモノに俄然興味が沸いていた。

そこに今から行けるのだと思うと興奮して堪らなかった。

 

「くぅ~!ナザリック地下大墳墓!名の通り地下に広大に作られていて、ユグドラシルにとってまさに伝説的場所なんですよね?!至高の41人と言われる精鋭プレイヤー達が作り上げた魔王の城!そんじょそこらのフィールドや建造物なんかより、めちゃくちゃ見てみたいのは当たり前でふぃる!」

「なんか恥ずい」

「それどこで聞いたの……」

「魔王の城…あながち間違いではないですね」

「……ほぅ…」

 

興奮して少し噛んでしまったが、かの件の恩もあるし度々迷惑をかけてしまった事もある。

この後に待ち受けるギルドメンバーへの説得という展開については深く考えず、そこで自分のありのままを曝け出した上で納得して貰う様にするのも良いかもしれないと、流れに身を任せてしまう事にした。

 

「ククク……」

「うーわ、これ絶対スイッチ入ったよな」

「あーらら…メーちゃん押しちゃったね?」

「私は何だかメヘナさんの無鉄砲さが眩しく見えるよ」

「…?どういう事です?」

「ふはははは…!クハアハハハ!」

「ヒッ!?」

 

 え、ちょなんですのォ!?

 ほ、骨が!近づく……

 

「メーちゃんって結構運がない星の人なのかな。微笑ましいけど」

「壊れるモモンガさん久々にみたなぁ」

「彼は……疲れてるんだよ」

 

 笑いながら骨が近づいてくるううぅぅ!

 

「メヘナさん!!」

「…ち、ちか…い……」

「存分に見ていって下さい!ウチのギルドホームに入場するには異形種限定の社会人である事が条件でして、そこのところメヘナさんは見た目的には竜人に近いですが種族表記は異形種の者なので大丈夫です。私もギルドマスターとして歓迎できますし、良いですよね?ね?いいよねェ!?」

「わ、私に向かってそんな同意を求められても!ちゃ、茶釜ちゃん助け……」

「ん~……あ、そだ」

 

モモンガさんの豹変ぶりと皆の様子から察するに、どうやら私はモモンガさんがぶっ壊れる起爆装置に触れてしまったようだった。

勿論そんなぶっ壊れのモモンガさんを元に戻す方法は知らないので、私の愛人である茶釜ちゃん(※自称)に助太刀を求めたのだが、

 

【あ・き・ら・め・ろ】

 

無慈悲な一言と、無駄に可愛いアイコンが添えられたチャットが個人間専用チャットに送られてきたのだった。

 

「そんなーーぁ!?」

 

流れに身を任せた結果、私はそのままモモンガさんに気押しされるがまま"ゲート"とかいう暗黒世界に引きずらて行くのだった――。

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓を(引きずられながら)見学した数日後、

私は正式にアインズ・ウール・ゴウンに加入する事となった。

 

愛人の茶釜ちゃん(※公認)が自ら進んで強い推薦をしてくれていた事もあるが、実際にギルドメンバーさん達と関わってみて心底笑い合える事もあったり、私が今まで行けなかった未開の地にも何度も一緒に行ってくれたりと――

本当に楽しいと思える出来事を沢山通して、

茶釜ちゃん・モモンガさん・たっちさん・ベロロンさん以外の人たちにも寛大に受け入れて貰った事で実現したのだと思っている。

 

あと加入してからたっちさんに聞いた話だが、モモンガさん曰く私が持つとある種族と、その種族スキルが大きな決め手となったらしい。

なんでも、世界のアイテムがどうとか。一つしかないんだったかな?

加入出来た喜びでハッキリ覚えてない。

 

ギルドに加入してからというもの、私一人では今まで決して味わえなかった仲間達との冒険は最高の時間となったいたのさ!

 

 

 

いや……なっていた

 

 

 

――そんな最高の仲間たちと共に沢山の冒険をしていた。

楽しくて、楽しくてしかたがなかった。

毎日が輝いていた。

厳しい仕事も現実世界の絶望も、茶釜ちゃんともリアルでも遊んだり出来る仲となったていたし、大切な仲間たちが居れば全く気にならなくなっていた。

 

 

 

 

 

現実の世界に絶望し、目を逸らすように始めた

 

 DMMO RPG ユグドラシルオンライン

 

 

素晴らしい世界観に圧倒されながら、一時期は没頭して遊びまくった

 

そんな中で、心の荒んだ人間たちによって、また絶望を味わった

 

だが救われた、アインズ・ウール・ゴウンによって

 

心から親友と呼べる存在もできた

 

愉快で個性豊富な、楽しい大事な仲間もできた

 

もはやそのゲームは、人生の軸……私の心の拠り所になった

 

所謂、世間でいうところのゲーム廃人と言われるくらいに

 

 

 

 

だけど…また絶望を味わうこととなってしまった

 

現実世界の絶望から、心の荒んだ人間たちの手によって

 

 

 

楽しかった…本当に楽しかった……

 

 

 

もう二度と一緒に他愛もないような話に花を咲かせて、皆と笑い合えることもできなくなった

 

もう二度と一緒に冒険をして、皆と思い出を共有することもできなくなった

 

もう二度と皆の為に力になることができなくなった

 

もう二度と私を一番大事にしてくれた茶釜ちゃんと遊ぶこともできなくなった

 

 

 

 

 これだから……  私の心の奥底にあ る想いが

 

 黒く、悍ましいモノが  消えない

 

 もし許され るな ら

 

 

 この手で 世界を 均衡 を 悪あ る 人間

 

 

 …………

 

 

 ………

 

 

 ……

 

 

 

 

 

1人の哀れな人間はボロボロにされた血濡れの体を引きずり、

大粒の血の混じる涙を流しながら

 

 

茶釜ちゃん、モモンガさん、ごめんなさい

もう二度と、一緒に遊ぶことができなくなった

襲われて…死にかけてて……でも一言だけでも伝えたくて……

今まで、本当にありがとう

 

さようなら

 

 

 

大事な親友と、大事な仲間たちから一生の別れを告げ

 

この世界での命に終わりを迎えた

 

 

 


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