俺のエルフが、チート魔術師で美少女で、そして元男な件について。   作:主(ぬし)

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若い男女のすれ違いはベネ。片方がTSっ娘なら尚さらベネ。


その8 エルフとの仲違い

「アキリヤお姉ちゃん、ねえ、これ見て、これ!」

「わかった、わかったよ!引っ張るなってば!」

「アキリヤお姉ちゃんとっちゃダメ!私とお料理の練習するんだからぁ!」

 

 子どもたちとじゃれ合う人気者のアキリヤを少し離れたところの陰から眺める。陽の光を浴びる一点の曇りもない白い肌がキラキラと輝いている。まるで内側の魂そのものから神々しい光が漏れ出ているようだ。その光景がたまらなく眩しくて、俺は彼女から暗い目を背けて俯いた。

 

 それまでの宿を引き払って『残響』の拠点に仮の居を構えてから一週間ほど経った。鉄鋼竜狩りの準備のためだ。装備を整えたり、鉄鋼竜について情報を整理したり、前衛や後衛の役割分担と連携を確認したり、作戦を打ち合わせたり。決め手となるアキリヤの魔法についてはもっとも入念に確認された。アキリヤの魔法の威力を実際に目にしたジョーたちは一様に言葉を失っていた。この世界では弱いとされる攻撃魔法も、アキリヤに掛かれば拠点の石灰岩の壁に大穴を穿つ。「さらに強い魔法を打つことは出来るのかな?」と怖いもの見たさを滲ませて問うたジョーに、アキリヤはイタズラを思いついた少年の笑みで「場所を変えましょう」と返した。

 

「───もう少し詠唱に時間を貰えるなら威力をもっと上げられますよ。まだ魔力に余裕はありますし、試してみましょうか?」

「……いえ、もう結構です。十分ですわ。これ以上されると周辺の地形図を書き換えないといけなくなります」

 

 鉄面皮のララも呆然とそう返すことしか出来ず、さしものジョーも開いた口が塞がらなくなっていた。眼前の大地に巨大な地割れを刻んだのが、のほほんとした矮躯の美少女だということが信じられないようだった。

 

「鉄鋼竜は手強いから最悪も覚悟してたが、これは案外、お嬢ちゃんのおかげで楽勝かもな」

「あんまり期待値を上げないでくださいよぉ」

 

 ヒゲの目立つ年かさの冒険者に褒められ、アキリヤが満更でもなさそうに後ろ頭を掻いた。平和な世界からやってきたために人懐っこい性格のアキリヤは、拠点の連中に好意的に迎えられていた。最初は“黒衣のエルフ”という大層な噂のためにおっかなびっくり恐れ慄かれていたものの、寝食を共にするに連れてすっかり恐怖を抜かれ、まるで以前からの住人だったように拠点の面々と馴れ親しむようになっていた。黒魔術師の一件で落ち込み気味だった彼女には平和な日常は良い癒やしとなったようで、笑顔にも屈託の無さが戻っていた。

 

「な、なあ、カル。見てほしいものがあるんだけど───」

「悪い。また今度な」

「あ……」

 

 その頃、俺はアキリヤから意識的にも無意識的にも距離を置くようになっていった。アキリヤは俺の態度を不審に思ってか積極的に話しかけようとしてくるが、俺は敢えて歩速を早めると振り切るようにして拒絶した。そうすれば、少しずつ愛想を尽かして俺への依存が薄れると思ったからだ。彼女は“英雄”だという直感があった。輝かしい表舞台に歩み出ようとする彼女を引き止めるだけの価値は自分には無いと俺は思い込んでいた。

 アキリヤはこの世界に飛ばされてきただけで、何かの罪を背負っているわけじゃない。言葉や文化を知らないというハンデもなくなった今、彼女は自由だ。前の世界で培った豊かな知識を背景に、魔法の腕と威力は天井知らずに上がっていく。アキリヤが本気を出せば、安宿の屋根どころか城一つだって吹き飛ばせるに違いない。他の知識だって、この世界で身を立てるためにいくらでも役に立つに違いない。

 一方、俺は違う。がむしゃらに剣を振るうしか脳のない、腕っぷしだけの男に過ぎない。アキリヤとの実力差は開く一方だ。それに脱走兵ということも尾を引いている。軍隊からの脱走について、この王国の処罰は重い。先王を暗殺で排した現王は寛容さの欠片もなかった。時効などなく、脱走兵の故郷の家族も連座で処罰される。処刑されたあとに見せしめで死体を磔にするほどだ。故郷に家族などいないが、捕まってしまえば俺は間違いなく処刑される。アキリヤに注目が集まれば集まるほど、俺が軍隊に見つかる危険性は高くなる。そんな後ろ暗い枷を足に嵌めた俺がいつまでもくっついていては、アキリヤのせっかくの可能性の足を良くない方向に引っ張ってしまう。俺自身のアキリヤへの依存は薄れる気配すら無かったが、その度に“アキリヤを幸せにするためだ”と思い起こして無理やり執着を振り払おうと努力した。

 もちろん、アキリヤを抱くこともしなくなった。今にして振り返ってみれば、自分の意志で彼女と身体を重ねなかった最長記録はこの時期だろう。健全な思春期(いろぼけ)のガキにはそれが一番キツかったかもしれない。今考えてみれば、もったいないことをしたものだと後悔するばかりだ。

 

 彼女と交わらなかったせいかは定かではないが、俺はいつなんどきでも集中力を欠くようになった。いつもなら考えなくても避けられるゴブリンの棍棒に強かに打ち据えられたり、止まって見えるくらい慣れていたはずのオークの石剣を受けそこねるようになった。不可思議なまでの肉体の頑丈さのおかげでその程度のこと(・・・・・・・)はすべて軽症で済んだが、アキリヤに「お前最近おかしいぞ」と今にも泣きそうな顔で心配された。

 

「俺なんかより自分の心配してろ」

「“俺なんか”ってどういうことだよ?そんな言い方、今までしなかったのに」

「うるせえな。別にいいだろ。死にはしなかったんだから」

「そういう問題じゃ……おい、待てよ!逃げるな!」

 

 乱暴に会話を区切って俺はアキリヤから離れると、ジョーに視線を流す。ジョーは腕組みをして呆れ顔を返してきたものの、説教臭いことは言わずにただララに目配せをした。俺の“アキリヤを任せた”という意思を正確に汲み取ってくれたのだ。

 

「なんなんだよぉ……カル……」

 

 俺は、背後でララに慰められるアキリヤの気配に後ろ髪を引かれながら、ギルド近くの酒場に向かった。当時18歳の俺は酒を呑めるようになったのをいいことに、すっかりそちらに逃げるようになっていた。自棄酒というやつだ。いくら呑んでも酔い潰れることはないくらいには強く、その時はそれが疎ましいと思った。酔い潰れて全てを忘れてしまいたかった。

 自分の調子が悪いことは痛いほど自覚していた。実際、痛い思いもしていた。でも、どうしても集中出来なかった。命を張った戦いのなかでも、気が付いたらアキリヤのことを考えていた。子どもたちと無邪気に遊ぶ彼女の微笑みは女神のようだった。女たちに混じって料理を学び始めた彼女の一生懸命な横顔がたまらなく愛おしかった。彼女の手料理を食べられる男はどんなに幸運か。

 アキリヤの笑い顔、アキリヤの怒り顔、アキリヤの泣き顔。全てに心を奪われる。目を瞑るだけで、月の光を織り込んだような銀の長髪と鮮やかなカラメル色の瞳が瞼の裏に翻る。角度によっては黄金色に光るその双眸に喜びが溢れるとき、俺はかつて経験したことがない満ち足りた気分になれる。学のない俺でも、“美しい”という言葉は彼女のためにあるのだと理解できていた。他のすべてが曖昧でもそれだけは世界で唯一の真実だと理解できていた。彼女との思い出を頭から取り出して、余さず胸のなかに抱きしめたいくらいだった。どんな思考を巡らせるにも、自分のことはまったく意識になく、ただアキリヤにとって良い未来とは何かだけを悩んでいた。その未来像に、彼女に寄り添う自分の姿が見出だせないことに心を痛めていた。“英雄となったアキリヤ”は容易に想像できても、“彼女に相応しくなった自分”がまったく想像できなかった。グール以上猿未満は、そういった“悩む”ことに掛けては絶望的に不向きだった。

 肝心の鉄鋼竜狩りでもそれは証明された。今までで一番の最悪な結果として。

 

 

 

「“ドラゴン殺し”、前に出過ぎだ!フォローしきれないぞ!」

「うるせえ!誰が助けてくれっつった!!」

「まったく、分からず屋め!アキリヤ殿の魔法がもう少しで練り上がる!タイミングを誤るんじゃないぞ!」

 

 ジョーの警告を無視した俺は鉄鋼竜の懐に向かって飛び込んだ。見上げれば、弱点の首がはるか高い。まるで小山だ。人の頭ほどもある鉄鋼竜の目玉がグルリと眼孔でうごめいて俺の視線と交差する。「この首が欲しければかかってこい」という強者の意思を感じた。背筋を流れる多量の冷や汗を知覚しながら、俺は神経をジリジリと灼く戦慄に奥歯を噛み締めた。握りしめた新品の大剣がまるで弱っちい木の枝のように思えた。

 

 何の因果か、鉄鋼竜はわずか2回目の探索で発見できた。「こんなことは初めてだ。エルフ殿に幸運を呼んでもらったかな」と『残響』の精鋭を率いるジョーがニヤリと笑みを浮かべたが、笑顔は目元にまで届いていなかった。俺とアキリヤはおろか、百戦錬磨の冒険者たちも全身に緊張を漲らせていた。

 

「アキリヤ殿、“エルフの寵愛”をよろしく頼みますぜ」

「寵愛ってのはよくわかんないですけど、魔法なら任せてください!ここいら一帯事吹っ飛ばしてやりますよ!」

「おいおい、それじゃあ牙も鱗も手に入らないじゃないか」

「あっ、そうだった」

 

 戦いの前の恐怖に全身を強張らせながらも、アキリヤはあえて笑顔を見せて胸を叩く。健気な様子に勇気づけられた壮年の精鋭たちが緊張をほぐされてわずかに微笑む。保護欲求の滲む目は自分の娘を見ているようだ。『残響』の連中は、冒険者だというのに何故かどいつもこいつも学があって、規律が身についていて、信心深かった。そしてアキリヤに“エルフの寵愛”とやらを求めていた。エルフは神の血を引く最後の種族だから、その寵愛を受ける者には神の加護があるという。そんなものただの迷信だと、経験上、神の存在を信じられない俺はすっぱりと噂を切り捨てた。

 

「なあに、アキリヤ殿の魔法の威力は信用しているさ。各自、肝に銘じておけ。我々はあくまで時間稼ぎと囮だ。アキリヤ殿から意識を逸らし、射程内に誘き寄せることに専念しろ」

 

 「おう!」と押し殺した声で精鋭たちが頷く。その台詞は俺に対しての念押しの意味が含まれているに違いなかった。アキリヤの心配げな視線を頬に感じたが、意固地になった俺は全てを無視してむすっと押し黙っていた。

 茂みに身を隠す俺たちのことを知ってか知らずか、森の木々をバキバキと音を立ててなぎ倒しながら鉄鋼竜が威風堂々と闊歩する。竜種における最強の一角、鉄鋼竜(アイアンドラゴン)。名前の示す通り、その表皮(ウロコ)はまるで鎧のように分厚い。狩ることができればウロコはもちろん、膨大な体重を支える強靭な肉も骨も有用だ。しかし、特に引く手あまたとなるのはその牙だ。何度も焼入れした鋼より遥かに硬いとされるその牙で剣を造れば、岩のような盾すら布のように難なく切り裂く強力無比なものになるという。しかも今回、俺たちが巡り会えたのは、おそらく齢にして100年以上は生きている強者中の強者の鉄鋼竜だった。コイツの牙から造られる剣は世界最強となることは疑いようもない。

 それがあれば俺はもっと強くなれる。もっと強くなれば……脱走兵であることも跳ね除けられるくらい強くなれれば、もしかしたら俺だって、アキリヤとずっと───

 

 

 

「カル!!真上!!」

 

 

 

 アキリヤの切羽詰まった声に、俺は一気に現実に引き戻された。また集中を途切れさせてしまった。ほんの一秒だ。正真正銘の命をかけた戦いの最中ではあまりに長すぎる放心だ。視界の上端から唸りを上げて鉄鋼竜の尾が振り下ろされようとしていた。「真上」というアキリヤの警告に、鞭打たれたように両腕が勝手に跳ね上がった。脳で考えるより先に脊髄反射で鋼の大剣を防御に回す。次の瞬間、全身をズンと貫いた衝撃を俺は一生忘れることはない。両足が地面にめり込み、筋肉の筋がブチブチと音を立てて何本も破断し、噛み締め過ぎた奥歯がビスケットのように欠けるほどの衝撃だった。

 

「……くそッ!」

 

 その程度のダメージ(・・・・・・・・・)よりも問題だったのは、大剣が粉々に大破したことだった。『残響』お抱えの優秀な刀鍛冶が丹精込めて造った新品の大剣が、まるで薄っぺらいガラス細工のようにバラバラになって(みぞれ)のように降り注ぐ。得物をなくし、徒手空拳(がけっぷち)に追い詰められた俺を鉄鋼竜がギロリと睥睨する。歪められた口端から鋭い牙が覗く。「未熟者め」という侮蔑の意思が垣間見えた。

 

「“ドラゴン殺し”、逃げろ!魔法が来るぞ!」

「いけません、殿下!手遅れです!もう止められません!」

「離せ、ララ!主君の命がきけぬのか!あれほどの若武者をむざむざ失うなど───」

「貴方様を失ってはこの王国の未来が───」

 

 後方で、助けに駆けつけようとしてくれているジョーとそれを羽交い締めにして必死に制止するララの押し問答がかすかに聴こえた。命の危機に限界点まで張り詰めた神経が頭蓋を耳鳴りでいっぱいにして、俺はそれどころではなかった。耳鳴りの隙間に「逃げて」というアキリヤの悲鳴が響く。アキリヤの魔法は最終段階まで練り上げると解放するまで止めることは出来ない。レンサ(・・・)反応が継続するリンカイ(・・・・)状態となるのだそうだ。後頭部の髪を灼く恐るべき熱量をうなじで感じながら、俺は心のなかで「自分にお似合いの終わり方だ」と自嘲気味に呟いた。たまたまエルフ(アキリヤ)を助け、運良く今まで死ぬことなく共に過ごせた。どこかで早々に死ぬはずだった田舎者の兵士が、絶世の美少女と巡り合う望外の幸運に恵まれた。その代償はいつか訪れるという予感がしていた。ついに溜まりに溜まったツケを払うことになっただけだ。

 

「───!!!」

 

 だが、簡単に諦めるような潔い性格はしていなかった。勝利を確信して高いところから見下してくる鉄鋼竜への反発心が勝った。生への渇望ではなく単純な怒りに任せて拳を握ると、そのままグンと風を切って思い切り振りかぶった。自分が何を叫んだのかは覚えていない。意味のあるものではなかったろう。蛮声というやつだ。自分を中心として世界全体に波紋が広がった気がした。後で聞いたところによると、俺の雄叫びはまさに“竜”のそれであったそうだ。

 迫りくるアキリヤの魔法の火球に驚いたのか、それとも俺の雄叫びに気圧されたのか、鉄鋼竜の動きがビクリと恐怖を孕んで一秒だけ止まった。その隙を俺は見逃さなかった。ほんの一秒だ。正真正銘の命をかけた戦いの最中ではあまりに長すぎる放心だ。俺の破れかぶれの拳が鉄鋼竜の胸部に深々とめり込むのと、魔法の火球がドラゴンに直撃するのはまったく同時だった。

 

 

 

「このバカ!大バカ!お前なんかグール以下だ!なに考えてんだよ!死ぬところだったんだぞ!!」

 

 

 『残響』の連中は黙して口を挟まない。しかし、非難の目が全身に突き刺さる。だが、俺の胸を殴りつけながら涙を浮かべて怒鳴りつけてくるアキリヤの視線の方が何千倍も痛かった。

 結論から言えば、俺は死ななかった。アキリヤが無理やり火球の軌道をズラしてくれたことで助かったのだ。俺のすぐ背後には、胴体に人の背丈ほどもある鋸歯状の穴を穿たれて絶命する鉄鋼竜が四肢を投げ出して寝そべっていた。『残響』の専門メンバーが家ほどもある巨体をよじ登って検分している。犠牲者ゼロ、見事な討伐大成功だ。とは言え、傍目から見ていた人間にはかなり際どかったらしく、俺が死ななかったのは奇跡以外の何物でもなかったらしい。鉄鋼竜の血飛沫を頭から浴びて冷却されていなければ、今頃は全身大ヤケドで丸焦げになっていたそうだ。アキリヤが罵声激しく俺を責め立てるのはまったくもって理にかなっていた。全員の足を引っ張った。俺は本当に大馬鹿だった。プロフェッショナルたちのなかで自分だけがお荷物になっているという疎外感が背筋を這い登ってきて、途端に自分はここにいるべきではないという劣等感へと変貌を遂げた。胸元へと視線を下ろせば、アキリヤがぐっと食い入るように俺を見ていた。その目に失望の色が浮かんでいるように見えた。自分がこの世で最低の男だと思わされる双眸を直視できず、俺は顔を俯けてアキリヤから目を逸らした。

 

「なあ、本当にどうしたんだよ?お前、最近おかしいって。こんな戦いの最中に油断するようなことなかったじゃんか。何があったんだよ?なんで俺を避けるんだよ?俺たちの仲だろ、せめて理由くらい───」

「“俺たちの仲”っての、もう終わりにしないか」

「───え?」

 

 俺の服を掴むアキリヤの指が凍りついたように動きを止めた。場の雰囲気すら凍りついたような冷たさを耳輪に覚えながら、俺は整理しきれないままの自分の感情を吐き出した。

 

「俺たちは相応しくない。わかるだろ。俺がいなくてもお前はやっていける。俺なんかいらないじゃないか」

「な、なんだよ。どうしたんだよ。悪い冗談はよせよ。今までずっと一緒にやってきたじゃん。あ、もしかしてアレか?魔法で吹っ飛ばしかけたから怒ってるのか?ははは、ガキ臭いなぁ。それだったら謝るからさ、だからそんな……」

 

 声が震え、語尾がか細くなっていく。悲しませたいわけじゃないのに。幸せにしてやりたいのに。だというのに、俺はアキリヤの顔を曇らせてばかりだ。それもこれも、俺なんかが一緒にいるからだ。俺なんかが。

 

「もう、ここで、お別れだ」

 

 呆然として言葉を失ったアキリヤを無理やり引き剥がすと、俺は逃げ出すようにして───いや、実際、逃げ出した。好きな女に醜態を晒し続けるくらいなら女の前から逃げ出すほうが何倍もマシだと勘違いしていた俺は、全身に残る激痛を無視してその場を後にした。

 

 

 

「───拳の一撃が───」

「───心臓を貫いて───」

「───本当の致命傷は───」

 

 

 

 遥か後方へと流れていく鉄鋼竜の遺骸から断片的な声がかすかに聴こえたが、もはや俺の鼓膜より内側には入らなかった。俺は、生きる意味を自ら放棄した。




Pixivでビンゴ脳さんのTS漫画を読んだ。どうしてこの人がもっと評価されていないのかわからない。最高だ。

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