Fate/Avenger Order   作:アウトサイド

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アヴェンジャージャンヌダルク・オルタの場合、あるいは仲間

 カルデアに存在するサーヴァント、つまりは反英霊たちにとってほとんど暗黙の了解となっているのが、お互いを干渉しあわないということだ。もとより、彼らがこのカルデアに所属している理由は、藤丸立花の存在があるゆえにだ。

 例えば、ヘシアン・ロボ。そもそもがなぜカルデアに席を置いているのかもわからない復讐者。人類すべてに憎悪を抱いているような彼は、唯一、立花の作った彼専用の食事をたしなむ程度で、普段は彼専用の部屋に座して動かない。

 あるいは、ゴルゴーン。ほとんど英霊という枠組みから外れている彼女も、交流できるのは唯一立花だけだ。ほかにも巌窟王、酒呑童子、殺生院キアラ……下手をすれば、ここいるメンツだけで人理焼却が再発するのではないかと思うような面々である。

 素面で返すなら、いや、お前らなんでいんの? というところだろう。

 しかしそれゆえに、彼らはお互いに対してさして興味も持たず、仮に交流があるとしてもそれはすべて立花を通している。だが、何事にも例外はあるように、交流を持つサーヴァントもいる。

 

「おい、リツカ。今晩は空けておけ。部屋に行く」

「あら、残念ね、冷血女。私が先約なの。あなたは一人で枕でも相手に盛っていなさい」

「お二人とも下品ですよ。リツカ、私の部屋を空けておくので来てくださいね?」

「あ、アハハハ」

 

 訂正。これでは交流でなく、喧嘩だ。しかし、これはもはやカルデアの風物詩として化しているのだから、仕方ない。というか、普段ならば、ここにマシュも加わってしまうのが、いつものセットだ。

 

「み、見つけましたよ! アルトリアさん、ジャンヌさん、メドゥーサさん! 先輩を返してください!」

「来たわね、ドスケベサーヴァント!」

「マシュマロサーヴァントです! あ、いや、違った。デミサーヴァントです!」

「ついに正体を現したな、ドスケベサーヴァント!」

「だからデミサーヴァントですって! って、それはいいから先輩をどこに連れて行こうとしているんですか!」

「少しレイシフトに用がありまして。ええ、もちろん素材集めですよ? ちょっと魔力を集めに」

「アウトです! 断じてアウトです!」

 

 どうやら、いつもの光景へと戻っていったようだ。さて、ではこれがいつもの光景と言われるほどに当たり前になったときの話をしよう。話は第二特異点攻略前へと戻る。我らがカルデアは、第二特異点攻略へと向けて、新たなサーヴァントを召喚しようという話になった。

 これは、そこで招かれた二人の反英霊の話。

 

 

 

 

 ――――――…………

 

 

 

 

「サーヴァント、アヴェンジャー。召喚に応じ、参上しました。……どうしました。その顔は。さ、契約書です」

「……物好きな人ですね。生贄がお望みでしたら、どうぞ自由に扱ってください」

「あっ、どうもご丁寧にありがとうございます。これ俺の名刺です。生贄……? あっ、ご飯ですね? 大丈夫ですよ。俺、コックなんで」

 

 これはなんという空間なのだろうか? 召喚されたのは、先の敵であったアヴェンジャージャンヌダルク・オルタ、そしてライダーメドゥーサ。そんな相手にさも当然のように名刺を渡し、食べたい料理を聞き出すマスター藤丸立花。

 ああほら、さしもの二人も困惑していた。

 

「おい、リツカ。貴様ふざけているのか?」

「そ、そうですよ、先輩! どうしてそんなに簡単に気安く――」

「どうして私のときには、怯えていたお前が、そこの魔女には普通の対応をしている!?」

「そこですか、アルトリアさん!? いや、確かにそうではありますけど……」

 

 そういえば、そうだ。アルトリアに怯えていたのは、特異点Fの際に敵として恐怖していたから。ならば、メドゥーサならまだしも、ジャンヌに恐怖を抱かないのは話がおかしい。あのジャンヌとこのジャンヌは別の存在ではあるが、間違いなく敵として存在していた少女の性質を持っているのは確かなのだから。

 

「ハッ、冷血女が吠えているわ。そんな人形みたいな顔しているから、マスターに怯えられるのではなくて?」

「よし、斬る」

「お、落ち着いてください、アルトリアさん! ダメです、ここで聖剣を抜くと周りに被害が出ます!」

 

 今にも切りかかりそうなアルトリアを抑えるマシュ。それを冷笑しているジャンヌ。メドゥーサは我関せずといった感じのまま傍観している。

 

「し、しかし先輩! 本当にどうしてジャンヌさんには怯えないんですか!? い、一応、この方も反英霊――っていうか、アルトリアさんもいい加減にしてださい!」

「え、えーっと、この人の食べ物の好みが可愛いというか……」

 

 立花がこぼした一言に、アルトリアはおろか、他の三人の動きも止まる。四人の女性から怪訝な目でジッと見つめられた立花は、戸惑いながらも言葉を続ける。

 

「ほ、ほら、ジャンヌダルク・オルタって一応、ジャンヌさんがベースだから食べ物の好みがフランスの牧歌的な田舎料理なのがギャップで可愛いというか……うん、正直可愛い」

 

 沈黙が下りた。

 具体的には、こいつ何を言っているんだといわんばかりの白い視線が、立花には投げかけられた。まさか、人間の食べ物の好みで異性を可愛いと判断するとは……いや、それ自体はギャップ萌えとしておかしな話ではないのだが、それ以上にこの男の目に反英霊であるジャンヌダルク・オルタが愛でる対象と映っている神経が理解できない。

 

「……ねぇ、この男、馬鹿なの?」

「せ、先輩は馬鹿じゃありませんよ! ただちょっとその……感性がズレているというか……」

「おかしな奴だとは思っていたが……いや、ある意味らしいと言えばらしいか」

「あ、うん、この反応は予想していたよ」

 

 もはや呆れられることに耐性を持っているのか、立花は苦笑するように頭をかいた。そこで、メドゥーサが自分に視線を向けているのに気が付いた。

 

「どうしたの、メドゥーサさん?」

「いえ、彼女の食の好みを把握しているということは……」

「? ああ、そういえば、メドゥーサさんの好みが日本の家庭料理なのは、聖杯戦争の記憶の残り香だったり――」

「あまり、人の思い出に干渉するのはよくないですよ?」

 

 立花ののど元に鎖につながれた杭のようなものを突き付ける。アルトリアとマシュは、一気に警戒態勢に入るが、立花は怯えも恐怖も出さず、堂々としていた。その光景には、ジャンヌやメドゥーサでさえ、意外に思っていた。反英霊とはいえ、人間の本質を見抜けないほどではない。

 二人は、この男が凡人だと思っていた。戦いにおいて何の役にも立たない臆病な人間だと。

 しかし、目の前にいる男は、メドゥーサより浴びせられる害意に動揺すらしない。

 

「うん、わかってる。俺がメドゥーサさんの思い出に勝てるかはわからない。でも、俺も料理人としてメドゥーサさんを料理で満足させるさ」

「あなたは……」

「じゃ、まずはご飯にしよう。多少親交を深めてからでも、レイシフトするのはまだ間に合うからね。マシュ、手伝って」

「わかりました」

 

 そう言って立花はマシュを連れて歩いて行った。残されたのは、立花に召喚されたサーヴァントだけである。ジャンヌは、立花の歩いて行った方向を見つめながら、アルトリアに訊ねる。

 

「あれ、どういう精神構造してんの? 普通じゃないわよ、あの男」

「まあ、おおよそお前の考えている通りであろうよ。リツカはもともとマスターには不向きな性格の持ち主だ。戦闘に役立つような魔術を使えるわけでもないし、誰かの上に立てるほどの器量があるわけでもない。ただ、料理に関するとあいつは途端に我を出す」

「料理……なにか特別な思い出でも?」

「いや、話を聞く限り、きっかけもそれ以降も極めて普通の理由だった。このカルデアには、ダヴィンチがいる。万能の天才である奴曰く、リツカは一つのことを究めることに向いているらしい。それがたまたま料理だったというだけだと」

「何それ? ああ、そういう平和とかいう奴を謳歌していたってことね。虫唾が走るわ」

 

 おそらく、立花が一つの道を究めるものは、なんでもよかったはずだ。スポーツでも、文学でも、音楽でも……そして、時代によっては殺しの技術だとしても。それが料理に向いているというのは、おそらくそれだけ幸せな平和な時間を過ごしていたということだ。

 ジャンヌは、竜の魔女はそれを想像してイラ立った。

 

「おい、どこにいく?」

「決まってるでしょ。あの男の料理とやらを食べてやるのよ。そうしてこう言うのです。心底不愉快な味だって、ね。そうしたら彼、いったいどんな顔をするのかしらね?」

 

 そうしてジャンヌダルク・オルタは、きわめて魔女らしいあくどい笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 ――――――…………

 

 

 

 

「…………………………おいしい、じゃない」

 

 わずか二口目。まさしく即堕ち二コマのような鮮やかな展開で、ジャンヌはそう感想を口にした。

 

「え、なにこれ? だって、たかがジャガイモをふかしただけですよね、これ? なによ、その上にバターを乗せただけじゃない。なのに、なんでこんなにおいしいの?」

「温度や蒸気の量を調節したんだよ。よかったー、気に入ってくれた? ほかにもココットやマリネもあるよ」

「………………食べます」

 

 ジャンヌダルク・オルタ、食欲に完敗す。

 

「本当においしいです。味付けも、私好みのものになっています…………それはいいですが、セイバー? いくらなんでも食べ方に品がないといいますか……」

「うるはい、ごくっ。私は今、食べるのに忙しい話しかけるな」

「あ、あはは。アルトリアさんは、先輩をジャンヌさんに取られて拗ねてるみたいです」

「いやあの、あなたのそれ醤油じゃなくてソースですよ? あと、手が震えていますし」

 

 こんなことで人理修復は本当に大丈夫なのか、どことなく不安を覚えたメドゥーサは、改めて自分のマスターである立花を眺める。

 いたって普通の人間だ。そんな人間がアヴェンジャークラスであるジャンヌを目の前に、微笑んでいる。そしてそれを見るマシュとアルトリアは、少女らしい外見のまま、頬を膨らませていた。

 

(本当、大丈夫なのでしょうか……)

 

 そんな彼女が、藤丸立花という人間を知るのは、第二特異点攻略での話になる。


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