さあ、楽しい楽しい食事の時間だ。
でも、メインディッシュにはまだ早いかな?
アヴェンジャージャンヌダルク・オルタの場合、あるいは姉気分
「ねぇ、ちょっとサーヴァントが増えすぎじゃないかしら?」
ジャンヌダルク・オルタは、マスターである藤丸立『花』の部屋でそう切り出した。そこには、ジャンヌダルク・オルタ以外にも彼の古参サーヴァントであるアルトリア・オルタとメドゥーサがいた。ちなみに、処女系ビッチな某後輩系サーヴァントはここにはいない。
アヴェンジャー・マシュは現在、純情系後輩なシールダー・マシュ、清姫やマリーとともに午後のお茶会の最中である。なお、本来ならそこには立花の姿があったはずのだが、“あの”ジャンヌダルク・オルタが割と真剣な表情をして相談があると言い、古参メンバーをマスターの部屋に集めたのだ。
そして、ジャンヌオルタのその言葉に激しい同意を示したのは、アルトリア・オルタだった。
「うむ、マスター、そもそもここは我らのカルデアだ。そのくせ、このカルデアの多くを闊歩しているのは、お前の妹、藤丸立『香』のサーヴァントたち……これは由々しき事態だと言わざるを得ないな。というかあれだ。白ならまだしも青だとか赤だとか、多すぎだろう私が」
「いや、アルトリアさん、それヒロインXさんのセリフだからね。キャラ取んないであげて」
「いえ、それを言うなら私もランサーだとか果てにはアヴェンジャーとかいるんですけど。というか、ランサーの私が彼女をマスターだというのはわかりますが、どうしてアヴェンジャーの私がリツカをマスターだと言っているので? 彼女、結局最終局面いませんでしたよね? むしろ、召喚されたの人理修復が終わってからですし」
「あー、あれね……皆がどんちゃん騒ぎしている中、この馬鹿が勢い余って召喚したのよね。どうしてかしら? 同じアヴェンジャークラスなせいか、彼女に関わる気は毛頭一切合切ないというのに、少しだけ親近感がわいてくるるんですよね……」
それ、あんたらが素直じゃないせいだろう。この場にいるものはそう思ったが、言ったところで認めないのがジャンヌオルタだということを知っている三人は、大人しくほほえましいものを見る目というか、可愛い馬鹿を見るような目で彼女を見ていた。
「まあともかく、私として腹立たしいのは、このカルデアにあの聖女様がいることです! というか、何かしらあの女!? どうしてお互い無視しあえばいいものを、わざわざ干渉してくるのかしら!? しかも姉面で! 姉面で!」
「そう重要なことでもないだろうに、わざわざ二回も言うな、魔女。というか、そのあたりの理由は大体想像がつくだろう? 大方、あっちの妹マスターの方に影響を受けているのだろう。あの女はポジティブというか、色々と私たちとは真逆の立ち位置だからな」
「彼女、生粋の英雄気質ですからねぇ……サーヴァントの一人や二人に変化をもたらしても不思議ではないでしょう」
まるで藤丸立香が人外のように話す三人だったが、そうはいいつつも彼女たちのマスターである藤丸立花も人外具合ではそれなりのものだろう。何せ、この場にいる彼女たちを含め、巌窟王や酒呑童子や茨木童子、ジャック・ザ・リッパーに果てはティアマトに変革をもたらしたのはほかならぬ彼である。
彼が彼女たちに与えたのは、主に料理。胃袋を掴んだのだ。ついでに、女性サーヴァントに関していえば
「いや、百歩、いいえ、永劫歩譲ったとしてもこの私に姉面はないでしょう!?」
「永劫歩譲るって、貴様どれだけ懐が広い……いや、むしろこの場合は狭いのか?」
「どっちでもいいわな。つーか、俺個人的にはジャンヌさんの方が姉な印象あるんだけど」
「はぁっ!? あんたまで何言ってんの!? 馬鹿なの? 死ぬの?」
どうやら、ジャンヌオルタはルーラー・ジャンヌに姉面をされていることが気に食わないらしい。しかし、そういうところが妹気質なことをこのサーヴァントは知らない。仮にあのルーラーがオルタに姉面をされたしてもほほえましい表情で見守るのだろう。
「……いいでしょう。そこまでいうのであれば、私がいかに姉であるのかをとことん教えてあげようじゃない!」
――――――…………
ここは食堂。主にサーヴァントたちがくつろいでいる憩いの場となっている場所だ。ここにいないサーヴァントと言えば、だいたい引きこもってるか修行しているかくらいだろう。ちなみに、立花の反英霊属性持ちのサーヴァントのほとんどは引きこもっている。
そして、そんな憩いの場に立花とルーラー・ジャンヌの姿があった。
「…………あの、お兄さんマスターさん。どうして私はここに呼ばれたんですか?」
「うーん、なんだかよくわかんないんだけど、ジャンヌオルタが意固地になっているというか……あと、ジャンヌさん。お兄さんマスターさんって呼びづらいだろうから、もっとフランクな感じでいいよ」
「では、お兄さんでお願いしますね」
そっちを選ぶのか……いやまあ、彼女にとってのマスターと言えば、妹である立香のことになる。だが、だからと言ってお兄さん呼びはどうかと思う立花であった。
「なぁに、喜んでんのよ、馬鹿マスターさん」
「えぇっと、オルタ? その恰好は――?」
二人の前に現れたオルタは、エプロンを着けてお玉を片手に立っていた。あまりにも見慣れない姿に、ジャンヌは目を疑った。
「見たら分かるでしょ? 料理を振舞うのよ」
「誰が?」
「私が」
「誰に?」
「あなた方に決まっているでしょう?」
「…………あの、オルタ、宝具じゃ料理はできないんですよ? 黒こげになっちゃうんですよ?」
「普段、あんたが私をどういう目で見ているのかわかりました……いいでしょう! この、ジャンヌダルク・オルタが、本気を見せるときは今! 心して待っていなさい!」
意気揚々というか、自信満々にキッチンへと向かうオルタ。それをジャンヌは、不安そうな表情で見送ることとなった。
「あ、あの、お兄さん? 大丈夫なんですか?」
「え、何が?」
「いや、何がって……彼女に料理なんて――――」
「できるけど、あいつ」
「――――――――え?」
驚愕の事実。いまだに理解しえない情報ワードに、ジャンヌは硬直した。逆に立花と言えば、そんな反応を見せたジャンヌのことを不思議そうに見ていた。
「ほ、本当なんですか?」
ジャンヌ、震え声である。
「えっ、いやいや! ジャンヌさんも料理くらい作れるでしょ?」
「…………」
ジャンヌは、そっと目を逸らした。その行動は言葉以上に物を言った。
「いや、作れないことはないんです……でも、マスターの元だとエミヤさんとか、ブーディカさんなどがいて、その、作る必要がなくて……正直、今は人に振舞えるほどのものが作れるかというと……」
「えっと、うちのオルタは俺が直伝してるんだけど……」
発端は、彼の女性サーヴァントたちの『太りたくない!』という声がきっかけである。立花の作る料理は、もはや神秘の域にまで達し、英霊すらも霊器ごと大きくする。そのため、食べれば食べるほどに体重は増加するのだ。しかし、魔力を発散させることで問題は解決していたのだが、とうとう需要と供給のバランスがおかしくなってい来たのだった。
つまり、おいしいので食べるけど、だんだん発散が追いつかない。
理由? 立花のごはんを食べ続けるからだよ。
そこで、彼女たちが思いついたのが、自分たちで作ろうということだった。
そもそも食わなければ解決する? 一目見るだけそのサーヴァントの心身の状態を、食欲に関するものから察するマスターが一緒にいるのにか? 食べたいときに、食べたいものをさっと作ってくれるレベルのクッキングマスターのもとでは、それは無理な話だった。
というか、そもそも食の楽しさを知ってしまった今では、すでに遅かった。
しかし、ここでいくつか問題が発生する。
「飯を作れだと? 私は食べること専門だ」
「うちもやねぇ……ていうか、鬼であるうちには、そんな器用なこと期待せんといてや」
「言っておくが、オレにも期待をするな」
「同意だな。そもそも、私は外に出たくはない」
初めから作る気がないもの。
「キャハハッ、おかーさん! これ楽しいよー!」
「ウゥッ……でき……ない」
「Aa……」
致命的なレベルで料理に不向きなもの。
結局、彼のサーヴァントで料理を習い始めたのは、マシュ、オルガ、メドゥーサ、そしてジャンヌオルタだった。おかげで、立花自身も料理を教えるという楽しさも知ることができた。
その結果、
「はい、できたわよ」
「――――おい、しいです」
ジャンヌは、立花の料理が神がかっているというは知っていた。事実、女神系サーヴァントや王様系サーヴァントですら、彼の料理にはうなるものがある。しかし、これは――――この料理が自分の側面が作ったものだと言うのか……。
この日、ジャンヌオルタは一日中全力の姉面を晒し、それをどこか悔しそうな顔で見つめるジャンヌという、極めて珍しい姿が見られたという。
しかし、その後、ジャンヌ本人に加え、エミヤや頼光も加わった料理ガチ勢の参戦により、藤丸立花の料理教室は大きな賑わいを見せ、先輩であるジャンヌオルタも教える立ち位置になって、開催されることとなったのは、ちょっとしたスパイスだろう。
「こんな、こんなはずでは……」
加えて言うと、立花陣営のサーヴァントは、マシュを除き、ほぼコミュ障である。
なぜだか、まったくもって関係のないカルデア唯一の風紀委員の巌窟王が苦労を被ったのは、もはや言うまでもない。