Fate/Avenger Order   作:アウトサイド

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もはや、思考は放棄した。
ならば、この物語に常識は要らず。
むろん、理解する必要はない。
さらば、悲劇の世界。
ゆえに、語って砕けよ。
そして、幕は閉じられる。

終わり終わった終わる物語。


Fate/Avenger Orderの場合、あるいは終幕

「駄妹」

「何、愚兄」

 

 兄と妹が対峙する。互いのその瞳には、確かに敵対の意思が見て取れた。兄は静かに拳を握り、妹はそれを余裕の体で眺めている。

 

「俺はお前のことをすごい奴だ、大した奴だとは思っていた。だが、同時忘れていたよ。馬鹿なやつだっていう事実をな」

「それはこっちのセリフだよ、アニキ。あたしだって、アニキのことは認めていたさ。ああ、だって肉親で、同じ立場で、そんでもってあたしの愛した男なんだから」

 

 妹は兄に愛をささやく。うっとりと、しかし情熱的に。だが、その目に映る炎は愛情だけではない。怒りだ。まるで、英雄が理不尽を前に憤慨するように、愛を語る妹は()()()()()。だが、それを言わせるならば、兄も同様だった。

 

「俺もお前のことは好きだ。なんせ、血は繋がっている状態ではあるが、お互い転生者で、まして今やマスターとサーヴァントの関係だ。ぶっちゃけるなら、魔力供給くらいどんと来いくらいには思っている」

 

 おい、この兄妹、まさかの愛の告白し始めたぞ。周りのサーヴァントたち(主に女性サーヴァント)がザワめく中、兄妹は歩み始める。

 

「嬉しいよ、アニキ。あたしが死に続けた七百万回の冒険は、無駄じゃなかったんだね」

「悪かったな。曲がりなりにも兄貴なのに、お前にばかり地獄を見せて」

「別に大したことじゃないさ。ぶっちゃけ、型月の中でも藤丸立香は凡庸系に思えるけど、魔術王とか相手に啖呵を切るとかもはや人間じゃないと思ってるから」

 

 それは密かに自分のことを人外系ヒロインだと思っているということだろうか? 周りのサーヴァントたち(主に男性サーヴァント)が揃って額を抑えた。正直、英霊の中にはプレイボーイや一級フラグ建築士もいるが、彼女は決して靡かないし、恋愛対象にもならない。

 

 なんせ、兄を救うためだけに生き続け、死に続けた少女だ。英霊という立場に収まった今でも、彼女は進化し続けている。彼女が旅を続けていた中で、大英雄ヘラクレスと殴り合ったり、女王スカサハの修行に参加したり、賢王ギルガメッシュに講義を受けていたというのは、彼女のサーヴァントたちの中ではもはや伝説と化している。

 

 ああ、ちなみにメイヴからも何かしらの講義を受けていたらしいが、それはサーヴァントたちの間では触れてはいけない禁則事項と化している。具体的には、一度座に帰りかけた黒髭の犠牲によって……。

 

「でも、ありがとな。お前のおかげで俺はここまでこれた」

「ごめんね、一方的に任せることになっちゃって」

「構いやしないさ。というか、よく俺を信じられたな。俺の料理は最初、人間の域を出ていなかったはずなんだが」

 

 つまり、お前も自分の料理は人外のものだと? いや、わかるよ。だって、お前のサーヴァントたち、なんか聖杯使ったみたいに霊器が上がってるんだもん。妹のサーヴァントたち? 修行(物理)で同じくらい霊器上がっていますけど何か?

 

「あー、それね。うーん、身もふたもない話だけどさ。あたしやアニキが異常なのって転生者だからなんだよね。もちろん、チート特典はないよ。だけど、あたしたちにとってこの世界(FGO)は創作物。世界には上下関係があるんだ。創作物はあくまで現実があるからこそ生まれる。魂の根幹が、あたしたちは一つ上なのさ。それこそ、神様(クリエイター)登場人物(キャラクター)くらいにはね」

 

 転生者としてスポットが当たった。その時点で、この世界の人間とは一線を画す存在なのだと妹は語る。なるほど、それなら納得はできなくとも、理解は及ぶ。特に妹の精神性の強さは、彼女が二次創作の転生者である兄に対し、三次創作としての転生者であるがゆえ、魂のレベルが二段階上なのだろう。

 

「でもさ、それとこれとは別だよな、アニキ」

「ああ、俺もこいつは譲れないなぁ」

 

 そして、兄と妹は向き合う。

 

 お互い、拳を握り、そして――――。

 

「「なんで」」

 

 一歩。

 

「「なんで、お前(アニキ)は」」

 

 振りかぶり。

 

「ゲーティア(ティアマト)をサーヴァントにしてんだよぉぉぉっ!?」

 

 互いの隣にいる美少女と美少年を指さした。

 

「いやいや、おかしいって絶対! なんで人王ゲーティアがショタになってんの? さっきの最終決戦の間に何があったんだよ!? ていうか、その子なんで涙目でお前にしがみついてんだよ!?」

「それはこっちのセリフだぁぁっ! なんでティアマトマッマがアニキのサーヴァントになってんだよ!? しかも何!? なんで腕組み敷いて懐いてんの!?」

「死なない存在だって言うから、料理食わせたら、生まれ変わったんだよ!」

「残数無量大数くらいありそうだから、殴り続けて英霊に堕ちるまで霊器削りまくったんだよ!」

 

「「言ってる意味が分かんねぇんだよ!?」」

 

 おい、お互いに自分の胸に手を当ててみなさい。それでも同じことが言えるなら、殴ってでも目を覚まさせてやろう。安心しろ、霊器を上げまくったサーヴァントたちなら余裕で――――え、そしたら料理作んない? あ、拳鳴らさないでください。

 

「てめぇ、美少年ならショタギルとか、アストルフォとか、アレキサンダーとかいるじゃねぇか!? こっちは姉属性はいても母属性無しなんだぞ!? 頼光さんとブーディカさんとか、シコリティ高すぎんだろ!?」

「ふざけるな!? アニキなんて、持ってる鯖ほぼ高レアじゃないか! 一週目からほぼ、あたしなんて、マシュオンリーだったんだぞ!?」

「え、そっちにもマシュいんの?」

「もちろん、こっちのマシュもあたしの可愛い後輩――――そっちのマシュが髪の毛染めてカラコンしてるぅぅ!? 何それ、イメチェン!? マシュ、不良になっちゃったの!?」

「あ、私は今シールダーではなく、アヴェンジャーですので……」

 

 そして、サーヴァントとしてのクラスが違うため、色違いのマシュ二人が並んでいる状態である。

 

「なんだよ、それ!? あと、所長を捕まえたときにも思ったけど、なんで所長がシールダーとしての適性持ってんのさ!? あたしんとこの所長、スキル使って強引にデミサーヴァントにしたら、キャスタークラスで猫耳つけた変態的な衣装のサキュバスみたいになってんだぞ!? メロメロ甘風とか撃てんだからな!? お前、英霊じゃなくて露出狂だろってな!? 実際、英霊の真名が仙狸(せんり)だしな!?」

「ちょっと、それはあんたが、霊衣をこれで確定させたせいでしょうが!? なんで、あたしだけ霊器上がるたびに、服の露出が異常なのよ!? ちょっと、そっちのあたしの服交換しなさいよ!」

「嫌よ! ちょっ、こっちによらないでよ、変態!」

 

 艶やかな黒髪で和装の女性、しかも猫耳。しかし、その露出度と言ったら、間違いなく変態である。しかし、そこにはむしろ初心さが見え隠れしており――控えめに言って下半身に刺激的である。男性陣への視線が厳しくなったので、眺めるのはここまでにしよう。

 

「ていうか、なんでお前、このメンツ揃えて負けたの?」

「あたしが英霊になったのは、最近だよ! シャドーヘラクレス殴り殺したのだって、最近だ! それまではひたすら地道な特訓続きだわ! スキル使えるようになるまで、仲良くなっても負けて終わりだったわ! グランドマスターのスキルが発現してセーブとロードのできると知って号泣したけどな!」

「それで宝具じゃねぇのかよ……」

「アニキの料理だって宝具じゃねぇだろ? そもそも、あたしの宝具である『神の振るった賽はこの手に(デウスエクスマキナ)』は主人公としてしか発動できないんだよ」

 

 ちなみに、妹の宝具は英霊としての宝具ではなく、転生者としての宝具であり、彼女が登録されている座もこの世界のものより高次のものである。

 そのため、その効果というのが――――。

 

「霊器の格をちょっと爆上げして冠位クラスと同等くらいになるんだ。ちなみに、この世界で使うと死ぬ」

「何それ、ワケワカメ」

 

 ちなみにもっとわけがわからない兄妹のサーヴァントたちは、すでに理解を放棄している。本来なら、そんな宝具、世界から存在ごと抹消されそうなものだが、魂はより高次元の世界のものであるため、せいぜいこの世界は主人公縛りをするしかなかったのだ。

 

「じゃあ、なんで今回は勝てたんだよ」

()()()()()()、ただ負けなかっただけさ。負け続ける運命の中、あたしたちは初めて負けなかった。伏線がないのが伏線なんだ。だから、アニキも転生者であることを最後まで隠してたんでしょ? あたしたちは、神の視点(読者)を騙くらかすくらいじゃないと、不意をつけなかった。例えば、あたしが最初から参加して、この子が本気を出していたら確実に負けていた。しかも、負けてやり直しがきくのは今回の主人公役であるお兄ちゃんだけ。一手目から間違えたら、その先も負け続けるんだ。だから、あたしは物語に対して急な存在として、最後の番狂わせとして参加するしかなかったんだ」

「で、その結果がそれか」

 

 人王ゲーティア・リリィとでもいうべきか。精神性も幼く、妹に何を語られたのかは知らないが、懐いている様子だった。いまだに涙目ではあるものの、妹にべったりである。

 

「そ、ゲーティアも死なず、人理を修復する。一見勝ちのように見えるけど、これはただ爆弾を抱えただけ。それこそ、今度は下手したら寝首を掻かれそうなほどのね。実際、魔神柱が何体かこの空間から逃げたっぽい。もしかしたら人理焼却の再燃だね」

 

 そういった妹は、ゲーティアの金の髪をなでる。人王はまんざらでもない様子でそれを受け入れた。

 

「つまり、俺たちの役目はこいつらがビーストとして復活しないために、なんとかするってことか?」

「さあねー、今後のことについては全くと言っていいほど考えてないんだよねー。一応、システムとカルデアは存在するから英霊たちのこともあるし――――」

 

「「ま、なんとかなるでしょ」」

 

 さしもの英霊たちもこの意見には笑った。兄も妹も同じように笑った。

 

「そういや、アニキ、弁当は?」

「もってきてはいるけど、ここで食うのはなぁ……カルデアで食おうぜ」

「おう!」

 

 こうして、兄妹の長い旅路は終わった。

 

 さあ、お腹が減った。

 ご飯を食おう。なぁに、ちょっと作る量が増えただけさ。

 いつもと同じ、愛情込めた料理を作って、酒を飲み交そう。




その結果、現存する女性サーヴァントたち(一部別性)との大恋愛という調理場に立たされることになった藤丸立花であったが、それもまたおいしい物語なのだろう。

「では、その極上の味、いつか食してみたいものですね、ふふっ」

どこか遠くで、淫靡な女の声が聞こえた気がした。

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