Fate/Avenger Order   作:アウトサイド

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飲めや騒げや歌えや踊れ。
ここは地獄か? そうだ、ここが地獄だ。


アサシン酒吞童子の場合、あるいは花見

「おかあさん、すごくおいしいよ!」

「汝、汝! この食べ物はなんというのだ?」

「ああ、これは柿ピーって言ってね……」

「あははっ、なんや楽しいわぁ」

「……ウ゛ゥ」

「ハッハッハッ、こいつぁゴールデンだぜ!」

 

 ああ、なんという光景だろうか。立花たちは、新たに発見した特異点を探しに日本の京都へとレイシフトをしたはずだった――――のだが…………。

 

「うむ、花見を肴に酒盛りというのも粋だな」

「あら、冷血女に粋なんてものが理解できたのかしら?」

「言ってろ、さすがにこの席で喧嘩する気はない」

「まあ、それには同意ね」

 

 桜の下、カルデアのメンバー。そして、新しくカルデアメンバーにやってきたジャック・ザ・リッパーとフランケンシュタインも加え、そこに現地で出会った坂田金時、酒呑童子、茨木童子たちとともに酒を飲んでいる。むろん、マスターである藤丸立花も参加している。

 と言っても、今回はジャックや茨木の相手をしているため、念のために酒は飲んでいない。

 

「それでですね、先輩が所長と私を抱きしめてくれて――――」

「あの、マシュ? その話はすでに四回目ですよ?」

「おい、誰だこの娘に酒を勧めたのは!? 明らかに目が座ってるぞ!」

 

 訂正。真に相手をするべきなのは、この場にいる全員であったか……。別段、英霊ということもあり、その多くが酒にはある程度の耐性を持っている。しかし、どうやらマシュは酒に強くなかったようで、頬を薄く紅に染めてメドゥーサと巌窟王に絡んでいた。

 

「うぅ……せんぱぁい、めどぅーささんがいぢめるぅ。私の先輩の話をきいてくれませぇん……」

「いや、だからあなたが話しかけているのが私で、あなたが寄りかかっているのも私なんですが!? 巌窟王!? 何を逃げようとしているんですか! 逃がさない、逃がしませんとも!」

「くっ、離せ! どうしてオレがこんなアホな飲み会に付き合わねばならない!」

「まぁまぁ、そこの色っぽいおにぃさんもそういいなはんなや。今回の件、ぜぇんぶこのマスターさんのおかげなんやろ?」

「だからと言って、特異点修正前の桜が散るのがもったいないから、酒でも飲もうとか言う神経が理解できんのだ!」

 

 それを聞いて立花はアハハと苦笑をする。その提案を上げたのが自分だったからだ。この花見には新しく入ったジャックとフランとの親交も兼ねているのだが、実情としてこの桜を前に花見もせずに散らせるのがもったいないと感じたのも事実である。

 

「いやぁ、それにしてもあんさんが作る料理は格別おすなぁ……これ食べたくてうちを解放した茨木の気持ちもわかるわぁ」

「であろう、酒吞! こやつの料理を前にして戦うなど、料理に埃を被せるようなもの! 吾の目と鼻に狂いはないのだ! アッハッハッハッハッハッ!」

「…………まあ、ええやろ。調子づくんが茨木やし」

 

 変に調子づいて失敗するのも茨木だけどね……なんて、第一印象より彼女の性格を察していた立花は、そんなことを思う。最近、料理の好みから派生して第一印象で性格すら当てられるようになってきた立花。むろん、料理関係に比べれば精度は下がるが、なかなかに人外に近づいている。

 

「というか、リツカのやつ、ついに料理のみで特異点を解決したな……」

「いや、これは特例でしょーが。こんなことが続いたら私たちがお役御免になります」

「だが、曲がりなりにも願望機を使っていた茨木のやつを料理だけでここまで大人しくしたってのは、まさしく大将らしいゴールデンなやり方だぜ?」

 

 立花がやったことは簡単だった。茨木童子が待ち構えていた門の前で、彼女を目にした料理人としての直感により、カルデアから持ってきた料理だけではなく、その場でできる料理を作り上げ、彼女を大人しくさせた。その流れで酒吞童子を起こし、そしてこの宴会である。

 今回、サーヴァントたちの活躍と言えば、酔っぱらった京人を相手にしただけで、特に語ることはない。それを不満に思うかどうかは当人たち次第だが、少なくとも立花は何事もなく解決ができてよかったと思っている。

 

「しかし、うまい! うまいぞ!」

「うん、おいしいね!」

「言っとくけど、こいつの料理はサーヴァントだろうが、問答無用で霊器を幸せ太りさせるからね」

「いや、というか、聖剣で成長が止まった私にすら干渉するとかどういうわけだ。しかも、魔力を使えば変換されて消費されるんだぞ、この謎エネルギー。もはや、私にはわけがわからん…………あれ、料理ってなんだっけ?」

「ひゅぅ……そいつぁ、まるでドーピングだな」

「人の料理を変な薬と一緒にしないでほしいなぁ……」

 

 だがまあ、金時の言いたい気持ちもわからないではない。もはや、立花の料理は一種の魔術礼装のような役割すらはたしている。というのも、料理を食べ終わったサーヴァントたちの調子がいいのだ。気の持ちようと言われたらそれまでなのだが、歴戦の英雄たちの言葉なので、決して冗談ではないのだろう。

 …………ここ最近では、対反英霊の鎮静効果があるのではないかと疑っているものもいるが、それはまたべつの話だろう。

 

「……アァ!」

「ん、フランもおいしいかい? よかったぁ!」

 

 料理に関していえば、フランの言葉さえわかるようになってきている。いや、これに関しては出会った当初より料理が絡まなくても察していた節はあったのでなんとも言えないが。

 

「ほらほら、ジャックもそんなに慌てなくてもいいから。口拭くよー」

「んぅん、ありがと、おかあさん!」

 

 ジャックでさえこの様子だ。当初、その在り方ゆえにカルデア内で警戒されていたジャックだったが、デザート一つで手なずけていた。

 

「それにしても珍しいわね。あんたにしてはゆっくり食べているじゃない」

「私は食べるのは好きだが、酒も飲める。今は酒がメインになっているだけだ」

「いや、あんたは何がメインでもがっつくでしょうが……」

「それはリツカの料理がうまいのが悪い。というか、もはやうまいとかおいしいとかの次元ではないぞ、これは。さっきは冗談で言ったが、本当に変な薬が入っていないだろうな」

 

 ほう、このサーヴァントめは今おかしなことを言ったな。人が丹精込めて作り、愛情を注いだ料理を愚弄したか? よろしい、ならば戦争だ。

 

「………………アルトリア、今晩のごはん半分ね」

「えいやちょ待て悪い冗談だいや冗談ですらないマスターを疑うなど言語道断本当にすまなかっただから許せいや許してくださいお願いします」

「……さすがに引くわー」

 

 ちょっと本気で涙目になって立花の背中に縋りついている姿は、情けなさを通り越して呆れすら浮かんでくる。というか、立花の提案したご飯半分という判断もかなり譲歩しているはずなのに、この必死さである。さすがのジャンヌもこの女に関わりたくないというように、顔を引きつらせていた。

 

「そういえば、酒吞童子さん」

「なんや? ああ、それと酒吞って呼び捨てでええよぉ。あんさんなら、まあそれくらいはな」

「ん、じゃあさ、酒吞――――完全に無視してたけど、そろそろ金時に物理的に絡むのやめたげて……」

「…………なあ、大将、それはもっと早くに言うべきじゃねぇか? ほら、お前もいい加減どけよ」

「あぁん、いけずやなぁ……せっかく飲んどった酒が零れてまうやろ?」

 

 酒吞童子は、金時に淫靡に見えるレベルで体を絡ませて座っていた。正直、それでは食べずらいだろうし、飲みずらいはずだ。ああ、それ以上の他意はないとも。決してこれ以上は本気で目の毒になりかねないのと、大の男である金時のグラサン越しの目が死に始めたからとかそういうんではない。

 そうさ、坂田金時が異性に対し、そんな純朴な少年のようなメンタルをしているはずがないのだ。童貞である立花すらこのアルトリアの胸部装甲が当たっても顔を赤らめる程度で、ものすごくドキドキして、なんかこうお酒を飲んで血色がよくなったように見えるアルトリアの色気に当てられているとかそんなことはない。

 

「なぁー、リツカー、さっきの言葉は冗談なのだろう?」

「あ、うん、冗談だからそろそろ背中から離れてもらえると」

「ちょっと、あんた何デレデレしてんのよ?」

「ウァー」

 

 ちなみに今の状態は、幼子であるジャックを胡坐をかいた足の上に座らせ、背中には涙目のアルトリアが抱き着き、右手にはそんなアルトリアに対抗してくっつき始めたジャンヌがいて、左手にはもっと構ってと言いたげなフランがいる。

 

 あれ、なにこの状況。楽園かな?

 

「……? おかあさん、お尻になにか当たってるよ?」

 

 訂正、地獄でした。あっ、ヤバい背後にいるアルトリアと右手にいるジャンヌの攻勢が変わった。あからさまに体をこすりつけてなんかこう、色々とヤバい。あの、ジャックちゃん? お尻に違和感があるにしてもその、こすりつけるのはいけないよ? フラン、よくもわかってないのに真似するのはアカン。

 

「ふふっ、どうしたリツカ? 息が荒いぞ?」

「そうねー、いったいどうしてそんなに顔を赤くしてるのかしら?」

「ひぅぅぅ……」

 

 アルトリアとジャンヌが分かっていないふりをして、耳を甘噛みし、背後から胸を押し当てる。

 

「あらぁ? あそこもお盛んやね。ほなら、うちらも」

「ちょぉおっ!? 大将ちょっと助け――」

 

 酒吞童子が面白がって、金時相手に攻勢を復活させる。

 

「ふふっ、せんぱぁい、ここですか? ここがいいんですか?」

「ちょっ、んっ、くぅっ、マシュ!? あなたなんでこんなにうまいんですか!?」

 

 マシュとメドゥーサが百合百合な絡みをしている。

 

 そのすべてに翻弄される者どもを見て、完全に部外者と化した巌窟王は一人こう思う。

 

「だから、オレは嫌だと言ったんだ……お前らが酒を飲むと碌なことにならないはずがないだろうに」

「「「わかったから、さっさと助けてー!」」」

 

 帰ったらコーヒーを飲もう。そんなことを思いながら巌窟王は、桜の下で馬鹿どもの救出を開始した。しかし、修復を終えたあとのカルデアに酒吞童子が召喚され、再び頭を悩ませる巌窟王の姿が見られたとか……。




とりあえず、保護者を代表してダヴィンチちゃんにみんなして怒られました。

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