遠征学習二日目
二日目は山奥にある場所に行く。リィエルさんの様子が少しおかしい。俺はグレンに聞いてみた。
「リィエルさんと何かあったのか?」
「あ、あぁ。俺が変なこと言ったからちょっと不安定なんだ・・・。」
グレンのことだ、何を言ったのかはなんとなくわかる。まぁ、リィエルさんだ。あまり心配しなくても大丈夫だろう。リィエルさんも俺と同じルミアの護衛だ。仕事を放棄することは無いだろ。
「ジンくん。」
そんなことを考えていると、トーマが話しかけてきた。
「どした?」
「君に格闘技を教えて貰いたいんだけどいいかな?」
ぶっちゃけ言って、俺は少しトーマが苦手だ。イケメンっていうところから気にくわないが、俺の”右手”がトーマの”左手”を触れた時に感じた違和感から、俺は彼に苦手意識を持っている。まぁ、断る理由はないし、彼の事を探るために教えるか。
「いいぜ。また、自由時間でいいか?」
「うん!よろしくね。」
「おう!」
この爽やかな笑顔も苦手だ。
自由時間
「初めに、また手合わせをしてもらっていいかな?」
「ん?まぁ、いいけど。」
「君に見てもらいたい技があってね。」
彼がにやりと笑う。何だろう。
「じゃ、いくよ。」
すると、彼は自分の足を上手く利用し、かなり速いスピードで俺に接近してきた。
―俺の真似か。
そして、俺の腕と胸ぐらを掴もうとするが、スピードが微妙なので、俺は後ろに下がる。
「あぁー!惜しかったなぁ。」
多分、就寝時間などを上手く利用して練習したのだろう。一日でこのスピードは冗談抜きですごいと思う。音速まではいかないが、そこそこの速さはあると思う。
「かなりいい線いってると思うぞ。」
「あはは。ありがとう。教えて貰いたいのはこの技なんだ。」
「なるほどな。」
「コツとかあるの?」
「コツかわからないけど・・・。」
俺は彼の元に高速移動をする。
「まず、この技の大切な所は、足の裏を上手く利用すること、そして相手の懐すれすれで停止すること。この二つを抑える必要がある。」
「なるほど。」
「ちょっと、この二つを意識してやってみて。」
「わかった。」
俺は後ろに下がる。そして、彼は俺に向かって高速移動する。さっきは俺の懐よりちょっと離れた位置に停止していたが、今回はかなりすれすれで止まれている。
「うん。結構いい感じだぞ。」
「やった!でも、ジンくんみたいに速く移動できないや。」
正直、この技のスピードを付ける練習法としては、たくさん練習することぐらいしかないからなぁ。
「というか、ジンくんはどうやってこの技を身に着けたの?」
「師匠に教えて貰った。」
「へぇー。師匠ってどんな人だったの?」
「うーん。無口で、あまり笑わない人だったかな。」
師匠は俺を拾い、特務分室で生き残るために様々な格闘術を教えてくれた。もちろん名前なんて知らない。昔は彼の事を恨んでいた。まぁ、修行がとてつもなくきつかったらな。
今は俺が生き抜くために必要なことを教えてくれた、優しい人だと思える。まぁ、師匠は俺に教えるだけのことを教えて、どこかに行ってしまったから名前も知らない。
まぁ、優しい人だったってことだけは覚えてる。
「ジンくんにも師匠っていたんだね。」
「そうじゃなきゃ、こんなに強くなってねぇよ。」
「・・・本当にそれだけかな?」
背筋がゾクッとした。こいつ、俺の事について、色々知ってる気がする。ルミアの護衛どころじゃねぇな・・・。自分の身に危険を感じる・・・。
「この技以外で僕にも出来そうな技ってある?」
「・・・あ、あぁ。あるぞ。」
「じゃあ、教えてよ!」
「お、おう。」
そう言って、俺たちは辺りが暗くなるまで練習した。
入浴後
「いやぁ、ジンくんは強いねぇ。一本も取れなかったよ。」
「お前、格闘メインじゃねぇんだから、格闘勉強しても意味ねぇだろ。」
「格闘は好きだからねぇ。」
趣味って奴か。
―ガタン。
上の女子の部屋からな変な物音が聞こえる。
俺達は2人で立ち止まる。
嫌な予感がする・・・。
「ねぇ。今変な音しなかった?」
「あ、あぁ。」
俺は急いで盗聴器のスイッチを付ける。だが、砂嵐の音しか聞こえない。
―まさか!?
俺はトーマと顔を見合わせ急いで、ルミアの部屋へ向かう。
俺はドアを思いっきり開ける。
すると、窓が全開で、部屋は血だらけだった。
―しまった・・・。完全に気を抜いていた・・・。
白猫が腰を抜かしたのか、座り込んでいる。
「システィーナさん。何が起こったのか聞いてもいいかい?」
トーマが冷静に白猫に問う。
「・・・ルミアがリィエルに連れてかれた。グレン先生が、殺された。」
グレンが・・・殺された?
「グレンは!グレンは!今どこにいる!!!!」
俺は白猫肩を掴み揺さぶりながら叫ぶ。
「し、知らないわよ。」
「ジンくん!落ち着いて!」
トーマが俺の肩を掴んでなだめる。
「わ、悪い。冷静じゃなかった・・・。ごめんな。白猫。」
「だ、大丈夫よ。」
俺は深呼吸し、考える。ルミアの位置はカイに聞けば一発でわかる。だが、相手はリィエルさんだ。さらに、リィエルさんを支配できるぐらい強い力を持った人がいる。ぶっちゃけ言って、グレンなしのこのメンバーじゃ、勝算はない。どうすればいいんだ・・・。
「失礼する。」
俺が考えていると、窓から、血だらけのグレンを背負ったアルベルトさんが入ってきた。
「だ、誰・・・?」
白猫が酷く警戒する。そりゃそうだ。あんなことがあった後に、知らない人に会うなんて、怖すぎる。
「白猫。大丈夫だ。俺の知り合いだから。」
「そ、そうなの?」
「この人、多分大丈夫だと思うよ。」
トーマがフォローしてくれた。こいつ適応力高いな。
「グレンは軽く死にかけている。ただの治癒術じゃ効かん。」
「そんな・・・!!」
白猫が非常にショックを受けている。
「大丈夫だ。・・・フィーベル。お前の魔力を借りる。」
「・・・は、はい!」
すると、アルベルトさんは準備に入る。
俺は、ルミアの所へ向かう準備をする。
「・・・行くのか?」
アルベルトさんが聞いてくる。
「・・・はい。」
「無茶だけはするな。」
「善処します。」
そう言って、俺は急いで自分の部屋に向かい、通信機を取り出し、カイに状況を説明した。
「了解だぜ!ジンたん!ルミアたんの位置はすぐに送る。エリカを急いで向かわせるぜ。」
エリカがいるならまだ勝算はある。俺は特務分室時代の黒いローブを着て、ルミアの元へ向かおうとした。
「ジンくん。僕も行くよ。」
トーマが話しかけてきた。
「命の保証はないぞ?」
「・・・大丈夫だよ。」
そして、彼は左手を差し出し、白いローブと剣と銃を”作り”出した。
「・・・それは?」
「錬金術の応用的なものだよ。装備一式が揃えられるんだ。」
「よし、じゃあ、行くか!!」
―錬金術で布って作れるのか?
ジンくんは師匠がいたんですねぇー。登場させるかは検討中です・・・。