計画の名前のセンス無いな・・・・。
―俺の師匠が無差別大量殺人犯なのか?
俺の目の前にいる男は、確かに暗い雰囲気を持った人物だが、殺人を起こすような人には思えない。
『カザド=イーザクだ。・・・って、ジンたん聞いてるか。』
「あ、あぁ。」
衝撃的なことだったので、カイとの会話の事を忘れていた。
『お前の師匠だとしても、犯罪者を野放しにする訳にはいかない。どうにかして確保しろ。』
「どうにかしろって・・・・。」
俺は、アスカとの戦闘で少し疲れている。このまま、師匠を捕まえる方法は、話し合いくらいしかない。
可能性は極めて低いけど、やってみるしかないだろ。
「カザド=イーザク。」
「・・・・!?お前、師匠の正体を知っているのか!!」
アスカが鬼気迫る声で俺に飛び掛かろうとした。
「アスカ、やめろ。」
その弟子の行動を師匠は止める。
「でも、師匠!このままじゃ・・・・!」
「もう、いいんだ。」
その声は、とても重々しかった。
茂みから、一人の男が出てきた。
「話、聞かせてもらったぜ。警備隊を呼んでおいた。・・・弟子たちに最後の言葉を残しといてやれ。」
そう言ったグレンが、空気を読んだのか、ルミアを連れて去っていった。
「師匠。俺は貴方が殺人をするような人とは思えない。・・・何故、殺人犯に?」
俺は師匠に疑問を投げかける。
「・・・昔、俺はお前くらいの年齢の時、人殺しに溺れていた。ただひたすら人を殺し続けていた。
俺はもう人では無かったのかもしれない。ある日、そんな自分が怖くなったんだ。人の命を奪うことに何も感情を抱かない自分が。・・・そんな時にお前を見つけた。小さくて、親もいないお前が必死に生きようとする姿を見て、俺はお前を生き抜くために必要なことを教えこんだ。短い時間だったから、きつい試練を与えた俺を、お前は恨んでいるかもしれない。・・・別にそれでも構わない。お前がこうして生き残っていて良かったよ。」
師匠の事を知ることが出来て良かった。何も知らないまま人生を終えなくて、良かった。
「ありがとうございました。師匠。」
そう言って俺は師匠に向けて、深々と頭を下げた。
師匠は俺に近づき、小さく耳打ちしてきた。
「・・・お前の正体の手がかりになるかもしれないことを、一つ言っておく。」
―俺の、正体。
ずっと、気になっていたことだ。今まで何も手がかりが無かったわけだから、とてもいい機会だ。
「お前が彷徨っていた場所は―
”幻想計画”が行われていた、実験所の近くだ。」
師匠はあの後、警備隊に連行された。アスカは何も犯罪を起こしていないので、連行されることは無かった。
―俺は”幻想計画”の被験者なのか・・・?
俺はあの後、カイに頼んで、”幻想計画”について調べて貰った。
その計画は、《魔術師の理想を作り上げよう》という、スローガンを掲げたプロジェクトらしい。
一見、大きな計画に見えるが、あまり有名な計画ではなく、一部の魔術師しか携わっていなかったらしい。
だが、とても有能な魔術師が集まったらしく、計画は”途中”までは順調だったらしい。
計画の内容は、一人の人間に、全ての魔法を”作る”ことが出来る能力と、全ての魔法を”殺す”ことが出来る能力を
使えるようにしようとしたらしい。全ての魔法を”作り”、”殺せる”のは、魔術師の理想だったのだろう。
だが、有能な魔術師が集まっても、そんな無茶苦茶な能力、簡単に作れるわけもなく、失敗してしまったらしい。
俺には、全ての魔法を”殺せる”能力がある。この計画に関わっていることは間違いないだろう。この計画に失敗した結果、片方の能力しか手に入らなかったのだろう。
―そのことを知った瞬間、俺はゾッとした。
俺は昔、実験で体をいじられていたんだ。記憶には無いけど、その時に受けた痛みのようなものが身体中を駆け巡った。
「ジンくん。大丈夫?」
ルミアが俺の顔を下から覗いてきた。
「あ、あぁ。大丈夫だ。」
「何かあった?」
こんなことをルミアに知られるわけにはいかない。何とかして誤魔化さないと。
「いや、師匠が殺人犯っていうのは衝撃的だったから・・・。」
「そっか・・・。」
何とか誤魔化せたみたいだ。
”幻想計画”。少し調べてみるか。
暗い部屋に一人の男がモニターを眺めていた。
男はモニターを見ながら、歯軋りをしている。
「もう、”計画”の存在に気付いてしまったのか、”兄さん”。」
男は”左手”を突き出し、白いローブを作り出す。
「少し速いけど、やるしかないか。」
そう言って彼は、モニターの電源を消し、重々しい扉を開ける。
そして、彼は呟いた。
「さぁ、”一つ”になろう。”ジンくん”。」
話は次で最終章です。
もうちょっとで終わりますよ!