人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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書き溜め無くなると本当に更新遅い...申し訳ない...

毎日少しずつ書いてはいるんですが如何せん筆が遅いので......(´・ω・`)

エタらないように頑張ります。




人間性のDestruction

 

 

高く蹴り上げた相手を追いかけ、街灯の僅かな段差に指を掛け、懸垂の要領で自らの肉体を持ち上げた後に街灯を蹴り飛ばし、更に高度を稼ぐ。

 

「――セイッハアアアアアアッ!!!!」

 

そのまま相手の頭上にまでやってきた俺は、重力に誘われるまま地面へ向かい落下していく中で少し体勢を変え――踵落としを力の限り叩き込んだ。

 

「うッ......く......ぁ......」

 

相手の鳩尾目掛けて叩き落とした踵落としは、思った以上に効果的だったようで......踵落としを受けた女――タロット過激派の一人で『7-聖杯』を担当する人物だ――は苦しいのか、息が詰まったのか。

 

理由は不明だが、顔を苦痛に歪め、口から胃液らしき物や唾液、血液がやや混じり合ったような吐瀉物を噴出させながら、自らが溢れさせた物で呼吸を阻害しないようにする動きを見せた。

 

女は落下中でありながら、反射神経。人間の生存本能が呼吸を行いたいが故に、顎を大きく上げ、背中を反らし......後頭部は最も地面に近い位置まで下がったのが見える。

 

苦悶、痛み、激痛。そんなモノを堪えようとする女の表情を見て――特に何とも思わなかった。

 

――とりあえず、追撃をしておくか。

 

そう考えた俺は、すぐに踵落としを中断し、膝を曲げながら空中で宙返りをする。

 

身体の回転が終わり――両足が揃う前に、突出した左足で女の顎を掠める様に蹴り飛ばす。

 

「――こッ」

 

狙い通りに放たれた蹴りは、女の顎先を掠め、脳を揺らした。

 

一瞬で焦点の合わなくなった目を見て、戦闘能力は奪っただろう、追撃は必要ないと俺は判断した。

 

だが、街灯の奥に、もう一人のタロット過激派の男が見えた。

 

丁度いい、戦闘力を奪ったこの女は最早動かないし追撃の必要も無い。

 

だがまだ動ける敵がいる。この女を使えば奴の動きを鈍らせるか、行動に制限を掛ける事が出来るはずだ。

 

そうと決まればすぐに行動へ移す。

 

宙返りを無理矢理筋肉を硬直させることで急停止させ、右腕で女の足を掴み、男目掛け振り投げる。

 

「――は!?」

 

男は俺のした行動に一瞬動きが止まり、避けるか受け止めるか逡巡したのだろう、少しの焦りと、目が俺と女を交互に見ているのが見えた。

 

が、それも一瞬。

 

 

男は腰をやや下げ、衝撃に備える体勢を取って女を受け止める準備をしたようだ。

 

――それが、決定的なミスだ。

 

「違う昭利(しょうり)!それは私の能力が造った幻!」

 

「え」

 

昭利と呼ばれた男の動揺を確認するよりも早く、瞬間的に能力を発動した俺は着地すると同時に駆け出しつつ抜刀し――背後に回り込み、背中合わせの状況を作った直後に刀を逆手に持ち替え男の腹へ突き刺した。

 

加速を解かず、そのまま声を上げた女の本体を目で探し、木箱が積まれて出来た物陰から焦った様子で男に警告を発した人物――先程空中で蹴り飛ばした女と瓜二つの存在を捉えた。

 

刀を男から引き抜かず、そのままにして女へ駆け寄る。

 

女はまだ、接近した俺に気付いていない。

 

声を張り上げる為に見せた本体の首を掴んで、反応を見るまでも無く木箱に叩きつけ、XVRを引き抜き太腿に押し付けて1発だけ速射。

 

微動だにせず弾丸がバレルを潜り、銃口から吐き出されるのを待つ。

 

足を撃っただけでは機動力を奪えない。

 

もう1つ拘束手段が必要だ。

 

そう考え、何かないかと周囲を見回し――女が腰に付けていたナイフに目が行った。

 

これを使おう。銃口から弾丸が飛び出していき、女の太腿へめり込んでいくのを尻目にナイフ引き抜き、手元で半回転させ逆手持ちに切り替え女の右手を抉り、止まらず更に進み、コンクリートの壁へ直接ナイフを突き立て、縫うように栓をした。

 

――抜かれるか?

 

これで十分だと思うが、念には念を入れておこう。

 

掌底をナイフの柄に当て、更にコンクリートへ食い込ませる。

 

女の制圧は終わった。

 

次は男だ、と頭の中で優先目標を切り替えながら刀を突き刺したまま放置していた男の元へ歩いていく。

 

男は、まだ自分がどういう状況に置かれているか理解できていないらしい。

 

それもそうだ。常人には理解できない加速の中で起きた出来事は、現実時間にしてみればコンマ1秒にも満たないだろうから。

 

刀を掴み、加速を解除する。

 

ガウン!

 

「ぁ......?」

 

「――! ...!?~~~ッ!!!ッあ゛ぁ゛、あ゛あ゛あ゛!!!」

 

男が、自らの体......背中側から生えている異物を認知したのだろう。

 

ゆっくりと、首だけで後ろを見ようとしているのが突き刺した刀から伝わる筋肉の振動で分かる。

 

「......はや、すぎる......」

 

男は膝を震わせ、今にも崩れ落ちそうになっているが、天を向いた刀の刃がそれを許さない。

 

否、このまま男が崩れ落ちれば骨に当たるまでは臓物や肉を引き裂くことだろう。

 

それが分かっているからこそ、男も楽に膝を折れない。

 

「昭利!」

 

宇津木(うづき)っち!」

 

「2人を助けろ!」

 

一瞬のうちに2名を無力化・拘束したことで相手側の作戦が根本的に瓦解したのか、隠れていたらしい他のメンバーが飛び出してきた。

 

......煩わしいが、彼らは1対1で戦いを挑む事を止め、代わりに数を揃えて襲い掛かる方針に切り替えたらしい。

 

確かに、これだけの能力者と同時に戦ったことはないし、足止めをされている間に何か小細工でもされれば俺は不利になる。

 

好きなだけ、俺を好きなように、自由に操れるだろう。

 

だが、その根本的な数の有利という物を崩してやればどうだ。

 

結果がこれだ。俺の眼前に広がる、俺の作りだした結果だ。

 

女は完全に戦力外。男は茫然自失、かつ腹部からの出血が目立つ。これでは戦えない。

 

奇襲を掛ける予定だった連中も余す事なく俺の前に出てしまっている。

 

街路樹だと思っていた木が大きく裂け、中から女が1人。

 

物陰に身を潜めていた男が1人。同じ場所から女がもう1人。

 

これで全部だろうか。

 

――存外に、少ないな。

 

「昭利を、離しなさいッ!」

 

怒りに満ちた声を張り上げ、木から飛び出てきた女が両の掌を俺に見せつける様にしつつ、首を絞めるコースを描きながら接近してくる。

 

刀を抜くか。そうして、安全マージンを確保......いや、違う。

 

刀を引き抜こうかとやや力を籠め、捻りを加えようとしたところで思考が待ったを掛けた。

 

コイツらは能力者だ。能力者である以上、自分の能力に......他人とは違う個性に、絶対の自信を持っているはずだ。

 

だというのにこの女は、なぜ両手を俺に向けたまま突っ込んでくる?

 

――身に纏っている?概念系?

 

違う。

 

――きっと、コイツは。

 

体感時間にして数秒間だけの加速を発動させる。

 

そして、その間に身の周りの情報を入手し――整理した。

 

女の能力は、触れることで発動するタイプ。

 

女が飛び出してきたあの木は、割れたのでも裂けたのでもない。

 

おそらく、本物の街路樹だったのだろう。

 

それを......無理矢理、腐食させ飛び出して来た。

 

スローモーションの視界が捉えた、木の幹から滴り落ちた粘性の高い物質。

 

割れたのではなくまるで風化し、侵され、削られ、抉られた様にも見える傷口。

 

女が、絶対の自信を持って突き出してくる両腕。

 

間違いなく、この両腕が、女の武器だ。

 

危険性が最も高いと判断出来る為、やや離れた位置にいる男女よりも先に無力化しておきたい。

 

――腕を掴んで止めるか?

 

否。何処までが有効範囲か判断不可能。腕に触れるのは危険である。

 

――ならば、身体を蹴り飛ばして距離を取るか?

 

否。相手の反応速度や能力の浸透・浸食時間が未知数である。肉体を駆使した対処は悪手である。

 

――XVR。

 

距離を取りつつ1発。撃て。

 

加速を終えた後、刀の柄から手を離し、バックステップを2歩踏みつつXVRを構え、狂乱する女の手に照準を合わせ一発撃つ。

 

肩まで響く衝撃を感じながら、様子を見た。

 

放たれた弾丸は、予想通りに女の掌に当たったように見える。

 

が――

 

銃口から溢れ出た硝煙が俺の眼前から完全に晴れ、結果が見えた。

 

そこにあったものは、女の掌で腐食し、液状化してずるりと落ちていく弾丸だった物だけ。

 

「――ふ、ふ、ふふふ。効かない、わ......そんなモノ......!」

 

ニタリ。

 

口元を謎の痙攣を引き起こしながら、大きく三日月を描くような笑みを浮かべる女の目は、癖の強い前髪に蔽い隠されていて見辛いが、ギラギラと輝いている様に見えた。

 

「オマエを殺してッ!昭利を!助けるゥッ!ぁああああああああう!!!」

 

笑みを掻き消し、暴れ回る子供の様に両手を振り回し、男と俺の距離を開けたがっている女の動きを見つつ、回避を続ける。

 

腐食能力を掌に集め、液状化させ散布させることは可能だろうか。出来るのならば脅威レベルはこの場に居る誰によりも高くなる。

 

運動エネルギーが発生する前に腐りきってしまうのだ。なんだそのチートは、と思う。

 

一人で勝手に思い込むのは危険だが、兎にも角にも有効範囲を確認したい。

 

ON/OFFが出来るかどうかも確認しなければ。

 

――試してみるか。

 

「――ッ!?」

 

わざと足を縺れさせ、体勢をギリギリ立て直しが出来る状態にまで崩し――焦った表情を見せる。

 

「!」

 

女はそれを好機と捉えたのだろう、姿勢を低くして、犬のように飛び込んできた。

 

「――」

 

縺れた足のまま、倒れ込む。その勢いを利用して脚を大きく振り上げ、伸ばしきれていない両腕のガードを無視して思い切り女の顎を蹴り上げる。

 

顎ばかり狙うのにも理由がある。意識を奪えさえすれば、それだけで相手は無力化出来るのだ。ならばそうするべきだろう。

 

それに、顎を狙う位置からほんの少し奥へ脚を突き出せば簡単に喉を潰せる。

 

非常に合理的な頭部への攻撃だと言える。

 

顎先を大きく蹴り上げられた女は、地に付けていた四肢が浮き――俺の上に乗りかかるような状態へ修正しながら落ちてくる。

 

蹴り上げた反動で、完全に地面に背中を預けてしまった俺を狙う両腕が近付いてくる。

 

「これでッ!終わりィイイッ!」

 

勝ち誇ったような笑みを浮かべ、落下してくる女。

 

確かに、これで終わりだ。

 

地面は溶けてなかった。と言う事はON/OFFは自由に出来るのだろう。

 

有効範囲は、掌のみ。

 

検証は終わった。

 

ならば後は。

 

「――何!?」

 

――対処するだけだ。

 

XVRを左手で構え、肘を地面に押し付けて1度だけ撃つ。

 

「効かないと――」

 

「知ってる」

 

言葉を返しながら身体を右回りで捻り、地面を転がって相手の着地地点から逃れ、転がったままの勢いを利用して飛び起きる。

 

すぐ傍に何か無いか、と探ってみる......と背中に刀を刺し込まれ、俺が柄から手を放した事で自由になった男が地面に膝をついて荒い呼吸を繰り返しているのが見えた。

 

「昭利ィ!後ろ!」

 

腐食女が、叫び声を上げながらバカの一つ覚えのように腕を前に突き出して迫ってくる。

 

それしか攻撃方法がないのだろうか。呆れてしまうな。

 

だが、丁度いい所に居てくれて助かった。

 

コイツを使うか。

 

昭利と呼ばれている男の服の襟を掴み、キンジが修学旅行・Ⅰでやったような――キャスリングターンを、俺個人で、相手の同意も無しに強制的に行う。

 

まぁそんな風に言えば聞こえはいいが――要は肉壁を、俺の前に突き出しただけだ。

 

女も勢いを止められていないようだし――いい具合に刺さってくれるだろう。

 

「――」

 

「あ――」

 

女も、男も。

 

能力を理解しあっているからだろう。

 

絶望からか、想像したからか。

 

一瞬、息を呑むような音と、ポツリと零れた吐息のような声が、やけに耳に残った。

 

次の瞬間。

 

――グジュリ。

 

と、瑞々しい、水分を多く含んだ個体か何かを抉るような音と、男の絶叫が木霊し、女の認識不良から起きる現実逃避が交差した。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!あ、ああ!!!!うわああああああぁあああああ!!!!!」

 

「――え?あ......?え、え......あぇ?.......しょー...り?」

 

これで呆然自失と、錯乱状態の敵が出来上がった。

 

対能力者用の手錠を取り出し、錯乱した男の両腕に掛けながら、腐食攻撃を受けた部分を見ようと傷口を視診する。

 

「――っ......」

 

臭い。

 

途轍もない、腐敗臭がする。

 

腐った豚肉の匂いを嗅いだことがあるだろうか。生暖かい空気から出てくる途轍もない酸っぱさと、言い表せないエグみが鼻腔を貫き、それらが一瞬にして不快感を生み出し、胃が吐き気を訴え胃液が逆流する感覚に襲われるのだ。

 

俺は今、その匂いを嗅いでいる。

 

人間からも、このたんぱく質が腐った匂いがするのだ。

 

貫かれた部位は、右肺の辺りだろうか。余り深くは貫通していないようだが、肌や筋肉の一部は溶け落ち、骨が見え隠れしている。

 

貫かれた中心部からやや離れた周囲の肉も同様に、少しずつではあるが腐食が進んでいるのが伺える。

 

重力に引かれ、腐り果てその場に留まる事のできなくなった死滅した肉の塊がボトリと地面に落ちていき――弾けては腐臭を一層周囲に撒き散らす。

 

あまり嗅いでいたくもない。

 

男をそのままに、刀を引き抜いて振り返り、呆然とした女に手錠を掛け、地面に組み伏せさせた。

 

女は一切抵抗せず――その顔を涙で濡らし続けていた。

 

これで、更に2人。

 

残った2人は、この場で起きた惨劇を目の当たりにし、完全に硬直してしまっていた。

 

「どうする?俺はこの4人を何とかしてやるべきだと思うんだが......戦うか?――それとも」

 

――お前達も、まだ戦うか?

 

敢えて口で語る事をせず、左手にXVRを握り、引き金に指を掛け――刀を構える。

 

残された男女のうち――男が、最初に両手を上げ降伏の意思を示し、女もそれに続いた。

 

「......いや、私たちは、直接的な攻撃は出来ない。これ以上は、戦えない。降伏します」

 

「――懸命な、判断だ」

 

俺はその一言で、刀を降ろした。

 

 

 

 

その後、車両科の後輩に連絡し護送車1台と救急車2台を手配してもらい――この戦闘は完全に終局を迎えた。

 

今回の襲撃者は、『6-棒』万丈昭利。能力は勝負が成立する場合、必ず辛勝するという概念系の能力者を筆頭に、合計5名がやってきた。昭利は今回最も被害を受けた人間だろう。

 

2人目の襲撃者は『7-聖杯』宇津木理恵。能力は実体のある幻影の作成。仲間との連携が取れず、かえって混乱を引き起こした。

 

3人目の襲撃者は『10-剣』佐々木実穂。能力は触れた物を急速に腐敗させる。最も危険度の高い相手だった。能力への慢心と認識不足が目立った。

 

4人目は『3-硬貨』大塚拓海。能力は洗脳。作戦として万丈、宇津木、佐々木の3名で俺を戦闘不能に追い込んだ後に情報を引き出し、情報を引き出し終わった後に手駒に加える積りだったようだ。

 

5人目『女王-聖杯』二ノ丸彩夏。能力は嘘を見抜く。大塚と共に俺を先頭不能に追い込んだ後に正確な情報を引き出す積りだったらしい。

 

 

 

全員を護送車や救急車に押し込んでいる時に、大塚からこのような言葉を投げかけられた。

 

「――君も同じ人間なら......なぜ、あんな真似ができる......?」

 

「あんな真似だと?」

 

「......いくら敵対していたとはいえ......あんな、簡単に、盾にするなんて......」

 

「――確かに、少し良心が痛んだ......」

 

「......そう、か」

 

「だが、敵対者に掛ける情けは持ち合わせていない」

 

「......は?」

 

「俺は、俺の成すべきと思った事をするだけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大塚は、その発言をした男の顔を、目を見た。

 

やや陽が落ち、夜が訪れるまでの僅かな黄昏が、冴島という男の顔を照らしていた。

 

典型的な日本人らしい、真っ黒な髪と、黒い瞳。

 

光に照らされて、やや焦げた茶色気味に見えるその目の奥。

 

そこに、かつて大塚が『21-世界』を暗示するお方と会合した時に見た、深淵を感じた。

 

目的の為に手段を選ばず、自らが悪と定めた物を粛清する存在。

 

この冴島という男の生い立ちや、性格。

 

今まで成してきた事の全てを予め調べ、聞いていた大塚は耳を疑い、己が直に見た冴島隼人と書類上の冴島隼人という存在の乖離を強く実感した。

 

書類での冴島はたとえ、敵対者であれど争いが終われば許し、厚生を促し、ある種の満足感を得て、それで終わっていた筈の存在だ。

 

しかし、今目の前に居る冴島は違う。残虐性と暴力性が二重螺旋の渦を巻き起こした破壊の塊が人間に成りすましたような物。目的の為にあらゆる物を利用し、押し潰し、良心の呵責さえ目的の為に抑え込む。

 

「――お前は、誰だ」

 

恐怖心が、自らの平常心を食いつぶしてしまう前に、聞いておきたかった。

 

「――何?」

 

感情の起伏が極めて薄い、どうでもいいと謂わんばかりの平坦な声、いや、音が帰ってくる。

 

「お前は、何だと聞いている」

 

大塚の質問に、冴島は東京の夜空に見えだした星々を眺め――

 

「俺は、人間だ」

 

能面のような顔で、大塚を見て、静かな音を発した。

 

 

 

 

 

「違う、お前は――」

 

 

 

大塚は、冴島がそうであることを否定したかった。

 

 

「......お前は――――異形の化け物だ」

 

 

それは、大塚が苦し紛れに放った負け惜しみともとれる発言。

 

 

 

しかし、今の冴島隼人という存在を的確に表していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイレンを鳴らして走り去っていく護送車を尻目に、隼人は一息吐いて、空を見上げる。

 

「――異形の化け物」

 

大塚という男に言われた言葉が、脳内で響く。

 

「それも、いいかもな」

 

自分の正義を成す為であれば、どのような姿でも構わない。為せるのであれば、成すだけなのだから。

 

東京でも滅多に見れない、満天の星々を見る隼人の目が、極彩色の輝きを僅かに放つ。

 

しかしその輝きは、誰の目にも留まることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 


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